「よし、エミルス。今なら行けるか?」
「あぁ」
リムルが『水操作』で生み出した水溜りに触れて、『鏡像者』のスキルでポータルを生み出す。相変わらずスライムぐらいの大きさしか作れないため、一時的にスライムになってからポータルをくぐり、ヴェルドラが封印されていた洞窟の奥までワープする。というかここは、ヴェルドラが『無限牢獄』で捕まっていた場所の近くらしい。らしいというのは、俺も具体的にワープ先を把握出来ていないからだ。
何故この洞窟に来たか? 理由は一つ、新しいスキルの確認と調整である。一応、この
そもそもどうやって洞窟に飛ばされた?
自然に転移するわけでもないし召喚者か?
だとしたらこの身体は用意されたものなのか?
新しくスキルを手に入れているということは、世界を渡っている証拠でもある。俺が仮に首謀者と言っている奴が、何らかの目的のためにこの世界に召喚したという可能性があるが……。
まぁ、答えの出ない問いは一旦放っておいて、俺とリムルで荒らされまくった洞窟は草一つすら生えていない質素な場所へと変わっていた。ヴェルドラの魔素の影響も、少しずつ薄くなり始めている。とはいえ竜種から漏れた魔素がすんなり消えるわけでもない。まだまだ利用価値はあるだろう。
「久しぶりにここへ来たな。アイツを喰ってから色々な事があったせいで懐かしく感じるよ」
「お前がトラブルメーカーなせいだろ」
「色々知ってるくせにまともに教えてくれないのが悪いんだからな」
「まだ根に持ってるのか、しつこいのは嫌われるぞ」
「うっさい!」
そんなことより、新しいユニークスキル『変質者』の確認だ。リムルは早速『大賢者』と協力して能力の把握に努めている。いやいや何勝手に進めようとしてんだ、『捕食者』と『大賢者』は
「んで、これはどういうスキルなんだよ」
「おっと、そうか。『変質者』は主に統合と分離を司るスキルだ。色んなスキルを統合したり、組み合わせたスキルを分離したりできるらしい。あと、『擬態』だったら身体の一部を組み合わせたりもいけるとか」
ま、これ全部『大賢者』先生の入れ知恵なんだけどね。とリムルは余計な一言を付け加える。つまり、『魔血変換』と『血液操作』を統合して新しいスキルを作れたり出来そうだな。もしかしたら、ユニークスキルに進化しそうだし。
よし、『魔血変換』と『血液操作』を統合しろ。
……
…………
………………何も起こらねぇじゃねぇか。
薄々気づいていたが、やはり『鏡像者』がコピーした劣化版ユニークスキルのようでスキルの統合と分離はできないようだ。何のための『変質者』だよ。
悶々とする俺の横で、着々とスキルの統合を進めているらしくリムルは『黒炎』なるエクストラスキルを手に入れていた。俺の身体が溶けそうなほどの熱気を放っていた。
「あぁ、エミルス。そっちはどうだ? 何か獲得できたか」
「出来てねぇからお前を一回殺したくなった」
「わ、悪かったって! 姿の統合もダメだったのか?」
「……まだ試してない。リムル、蝙蝠になれ」
「蝙蝠? 何するんだよ」
リムルが渋々といった様子で蝙蝠に『擬態』した後、『鏡像者』でその姿をコピーする。この際だから、狼もトカゲもイフリートも全部映させてもらった。手数は多いに越したことはない。
肝心の結果だが、姿の統合は出来た。なるほど、リムルが空を飛ぶ手段は『変質者』から来ていたらしい。俺が生まれた時は無意識に使っていたから理屈を知れて良かったと素直に思うことが出来た。試しに、人間と蝙蝠の姿を統合すると悪魔に似た翼が背中から生えた。
『鏡像者』と『変質者』の合わせ技で、『万能変化』のスキルを再現したといってもいい。そのため、生えた翼も生まれ持った身体の一部として馴染んでいる。翼を動かして風を起こすと、身体が簡単に宙に浮いた。
「……へぇ、こいつは悪くない」
空を飛ぶ感覚は久しぶりだ。狭い洞窟の中では縦横無尽に駆け回ることは出来ないが、それでも充分すぎる。これなら更に戦略が深まるだろう。しかし、俺の『変質者』がただの
ぶつからないように避けながら空中を動いていると、関心したようにリムルが声を掛けてくる。
「翼生えたばっかなのに、よくそんな器用に飛べるな」
「適応能力がお前より高いからな」
「ああ言えばこう言う……」
綺麗に着地して、翼を仕舞うと軽く身なりを整える。リムルが珍しく難しそうに唸っている。気味が悪いので後ずさりすると、ふと何かを思いついたかのようにこちらへ顔を向けた。
「今『大賢者』に聞いてみたんだけどさ、エミルスを一旦捕食して俺の体内に入れた後解析すればお前のスキルを進化させることが出来るかもっt」
「絶対嫌だ」
「ってまたそれか、俺は善意で提案してやっているってのに」
「ありがた迷惑だ。お前の胃袋に入るなんて死んでもごめんだ」
正直に言うが、リムルの存在を許してやる気にはなっている。だが、心の底から湧いて出る嫌悪感というのは中々に拭えない。それこそ生まれ持った呪いと同じだ。コイツの胃袋に入ってしまえば、俺という存在が否定されたようなもんだろ。まぁ、目の前の何も知らないコイツは理解できないだろう。
とにかく、リムルの胃袋に入るのはお断りだ。コイツと自分から関わろうとするのは必要に迫られた時だけだな。
「はぁ……お前の意志は固そうだし、分かったよ」
追及するのを諦め、リムルは溜息を吐いて頷いた。まるで子供のわがままを聞いているような態度に一瞬殺意が漏れ出るも、そういえば前の世界でもリムルはこうだったなと気づき抑えた。バカは世界が変わっても治らない。
「ちなみに、俺が作った仮面がちゃんと抗魔の力を持っているか試してみてくれないか?」
リムルが腰に着けていた抗魔の仮面のレプリカを指差して問いかける。
本番でつけてみたら外側だけ似せて作られた偽物でした。っていうことも考えられるのか。……ある意味、俺に似合っているかもな。
抗魔の仮面を手に取り、顔に着けてみる。息苦しさを感じることは無い。元から仮面と一体化していたように馴染んでいる。着けただけじゃ違和感がねぇな。いや、むしろ違和感が無いことがすごいのか。
「お~! 妖気が完全に消えてるぞ、成功だ!」
「そうか」
仮面を外してこちらに向ける。シズが使っていたものと大差ない。リムルと一緒の仮面ってのも癪だし、ちょっと色を変更してみるか。
――『大賢者』、仮面の色を反転させろ
《了》
簡単なお願いならやってくれる俺の『大賢者』が、俺の魔素を操って仮面を包み込み色を反転させる。俺は俺なりにシズの形見を大切にしてやるつもりだ、だから一番最初に俺の好みに合わせておいた。レプリカだし問題ないだろ。
あっちはあっちでオリジナルの抗魔の仮面を着けたリムルが脳内の先生と色々やっているようだ。
その時だった。
《リムル様! エミルス殿!》
ランガからの突然の『思念伝達』。その声色から察するに緊急事態のようだ。
「エミルス! ポータルを頼む!」
「だから指図するなっての」
言われずともやってやるよ。
仮面を腰に着け直し、洞窟の湖に行きと同じポータルを設置する。二回目だから、魔素の使用量は少量で済んだ。
俺達は一気に村の出入り口までワープすると、リムルは駆け足で走りだす。
いきなり実戦とは、だがそれも面白れぇ。早速翼を広げ、『魔力感知』でランガの魔力を確認しながら一気に目的地へ飛ぶ。
その時、攻撃をなんとか避けながらも防戦一方のゴブタを視界に捉えた。あのままじゃ多分斬られるぞ。ゴブタに刃が届く直前に血の糸を腕に纏わりつかせ、無理やり後ろに転ばせる。その刃がゴブタの胸を引き裂くことはなかった。
転ばせた痛みで呻くゴブタを後ろに引きずって前に立つ。
「よう、間一髪だったな」
「エミルスさん! 来てくれたんすね」
ゴブタに目線を向けた瞬間、後ろから殺気が走る。血で剣を形作ると、敵の短剣を振り向きざまに受け止めた。ここでようやく顔を視認する。ハクロウ……いや、名無しの爺さんだな。
続いて空いている片手で追撃しようとすると、爺さんが鍔迫り合いを止め一歩後ろへ下がる。
会話をする暇もない。
後ろからリムルの足音が聞こえてくる。どうやら追いついたらしい。
更に前方ではランガが二体の敵と乱闘中。木陰にいる敵のサポートのせいで、攻めあぐねている。リグルはもう一体の敵と戦っているようだが、ゴブタと同じく防戦一方だ。
後の狼とゴブリンは地面に倒れ、すでに戦闘から離脱している。
「ランガ、リグル!」
リムルが二人を呼ぶと、隙を見て戦闘から離れこちらに戻ってくる。ランガはまだ戦えそうだが、リグルはすでに満身創痍だ。
「リムル様、申し訳ありません……」
「我が主、我がいながらこのような失態を」
「安心しろ、後は俺とエミルスがなんとかする」
リムルがリグルとゴブタを回復させている間に、状況を整理する。まぁ、先の戦いで理解したがコイツらは
「仲間達はあの桃色の者に魔法で眠らされているようです」
「中々やっかいだな……」
一旦停戦状態だが、一触即発の雰囲気だ。俺が魔力を練ろうとすると、リムルに無言で止められる。平和主義のリムルは、まずは話合いから入るようだ。
「おい、お前ら。事情は知らんが、うちのヤツらが失礼したな。話し合いに応じる気はあるか?」
返答はなく、ただ睨みつけるばかり。
すると、
「仮面の魔人どもよ、お前達の目的は分かっている!」
「あぁ?」
「おい、ちょっと待ってくれ。何か勘違いしてないか?」
「ふん、貴様らの言葉など聞く耳を持たん。すべてその仮面が物語っている」
仮面、仮面か……何か忘れているような気がするが。思い出せないということは重要な事ではないのだろう。
「邪悪なる豚どもの仲間め!」
「どういたしますか?」
ランガが問いかけてくる。リムルが返答する前に俺が前に出る。
「おい、エミルス」
「安心しろ、殺しはしない」
「そうじゃなくて……」
狼もイフリートも戦闘はお預けだったからな。試したいスキルが色々あってうずうずしてるんだよ。それに、コイツらの目的は俺とリムルのようだし売られた喧嘩を俺が買っても問題ないだろ? あぁ、久々に腕が鳴る。
情け深い俺が、お前達の怒りを受け止めてやるよ。
「お前達の理想がどれほどのものか確かめてやる」