転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

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16話 揺れる思い

 一夜が明け、俺とリムルのテントに大鬼族(オーガ)の元統領が訪れた。ちなみに、俺は人間の姿だがリムルはスライムの姿である。立ち会うつもりはなかったが、宴会に紛れてリムルの話し合いから逃げた俺は、現在『粘鋼糸』によって足元を拘束されていて動けない。

 

 何気なく言ったが俺とリムルはシェアテントだ。もちろん反対したが、リムルが同じスライムだし利害関係者(ステークホルダー)なら一緒にいといた方がいいだろ? という根拠を提示してきたので、残念だがシェアテントの案を呑み込むしかなかった。国が大きくなったら専用の家を真っ先に要望したい。

 

 話が逸れた。結局大鬼族(オーガ)の生き残りどもはリムルの配下になることを誓った。一応、豚頭族(オーク)の首魁を討ち滅ぼすまでという期間を設けていたが。リムルに対して深くお辞儀すると、今度は俺に向かって頭を下げる。

 

「エミルス様、一時的ではありますがよろしくお願い致します」

「……勘違いしているようだから言っておく。俺に忠義は必要ない、示すのは利用価値だけだ」

 

 そう言い捨ててやれば、ベニマルは瞠目した後こくりと頷いた。物分かりが良くて助かる。

 現在俺の中で利用価値が高いのは、ソウエイとクロベエだな。情報戦において奴を手駒にしておけば、充分な活躍が期待できる。クロベエは主に強化の面だ。後、次点でハクロウといったとこか。まぁ、奴らは基本的にリムルの配下だから、俺の私用で動かすことは難しいかもしれないが。

 

 リムルが何か言いたげな表情をこちらに向けていたが、視線を逸らしてやると溜息を吐いて大鬼族(オーガ)の元統領に向き合った。そして、人間に擬態すると大鬼族(オーガ)を受け入れることを宣言し、恐らく名を与えるために皆を集めるよう伝えた。

 

 テントからベニマルがいなくなると、リムルは俺の目の前にやってくる。

 

「何が不満だ?」

「エミルス。お前が利害関係者(ステークホルダー)という契約を結んだ時、どういう契約をしたか覚えているか?」

「……あぁ、確か騙されやすいリムルを俺が騙されないように見届ける。後、力を貸すということもか」

「そう、代わりに俺がお前が探している人まで辿り着く力を持ってるから必要な時に協力するという契約だ」

 

 リムルに纏めてもらうと、突発で考えた割には理に適っているな。ただ、すでにリムルの力は認めたくないが俺を超えている。元々成長が見込めないスキルだ。必死に鍛錬しても新しいスキルを覚えることができるリムルとは成長速度が違う。だから、力を貸すという条件は消えたも当然だ。

 

 ……正直、忘れてたな。わざわざ掘り返すということは、何か不満点でもあるのか。

 いや、よく考えればこの契約もそろそろ破棄していいな。コイツはここまでくればどうにでもなるだろうし、人間の姿を手に入れた以上リムルの傍にいる理由はほとんどない。

 リムルは緊張した面で、大きく息を吸って俺の顔を真っすぐ見つめた。

 

「昨日のアレは、契約違反だろ」

「はぁ?」

「俺がピンチの時にお前が助けるっていう契約なのに、お前が自分から飛び込んでいってどうするんだよ」

「何言って……」

 

 言い返そうとした時に、今まで戦闘があった時のリムルの指示を思い出した。あくまで俺は保険的な立ち回りが多いと感じていたのは、もしかしてコイツが契約を遵守していたからということなのか。そして、リムルからしてみれば俺は保険という立場を超えて勝手に動き回っていることに怒っている。

 特に、今回はリムルの出番を掠め取ったようなものだからな。俺の力試しという私情で自分から作った契約を無視しているように見えたということらしい。

 

「別に、俺が勝手にやったことだろ。例え契約違反だとしても、お前に損は無いはずだ」

 

 勝てる戦いだと合理的に判断して、尚且つ全員倒して終わっている。俺もオーガどもも後遺症が残るほどの怪我はしていなかったし、リムルに都合の悪いことは何も起きていない。むしろ、勝手に戦いを終わらせてやった分感謝してほしいぐらいだ。

 リムルは俺の言い分に不満があるようで、僅かに顔を歪ませたが何かが吹っ切れたように言い返してきた。

 

「俺は……損とか損じゃないとか関係なく、お前が心配だっただけだ。俺に相談もせずに、勝手に飛び出していきやがって」

「……は? 何故お前に相談する必要がある?」

「だって、俺達は協力者だろ。なんであんな無茶な事するんだよ!」

 

 あぁ、そうか。お前はあの戦いを見ても、まだ俺の事を下に見ているのか。

 腹の底から湧き上がってくる怒りに身を任せ、言葉を投げ捨てた。

 

「お前に心配される筋合いはない!」

 

 リムルを殴ろうとして、足が拘束されていて動けないことを今更思い出す。

 俺がどうやっても斬れないその糸は、リムルとの差を見せつけられているようで惨めな気持ちになる。少なくとも、前の世界では俺とお前は対等だったはずなのに。

 関係性と能力が変わり立場も思いも何もかも違うこの世界で、俺は見下ろされることに対する屈辱を味わった。それは、前の世界で味わった屈辱とはまた違う。

 結局のところ、俺はどこにいてもリムルに――――オリジナルに見下されてしまうのか。

 

「エミルス、お前」

 

 言葉を失って、ただじっと見つめるばかりのリムル。

 ……あぁ、俺はまだ。呑み込めていないのか。

 劣等感も、屈辱も、まだ乗り越えられていない。目の前にいるリムルとアイツは別人だというのに。俺は何を意気地になっているんだろう。

 俺はシンシヤの父様だ。家に帰らねぇと。まだコイツから情報を集めてすらいないんだ。今はまだ完全に別行動をとるべきじゃない。

 

「悪かったよ……次からは気を付ける」

「……ごめん。俺も言いすぎた」

 

 目の前の存在から目を逸らしたくてテントの外を見ると、オーガ達が待機しているのが見えた。入るに入れない雰囲気だったのが分かっていたのだろう。ソファに座り、リムルにオーガが来ていることを伝えると、リムルはパチンッと頬を叩いて気持ちを切り替えた。

 

 オーガをテントの中に招き入れる。リグルドと俺を立会人として、リムルはオーガ達全員に配下になった証として名を与えることを宣言した。

 上位種族である大鬼族(オーガ)、それも六人全員に一気に名を与えるなど自殺行為に等しいが、それが出来るのはやはり暴風竜ヴェルドラが胃袋に入っているからだろう。

 リムルのノリの軽さ的に自覚していなさそうだから、これ以上文句を言われるのも互いにとって時間の無駄だろうし忠告しておく。

 

「名付けが終わったら、低位活動状態(スリープモード)になるけどいいのか?」

「え、六人だけなのに?」

大鬼族(オーガ)は上位種族だぞ。使う魔素量もそれに合わせて増えるに決まってるだろうが」

 

 俺の言葉にオーガどももこくりと頷く。本当に自覚していなかったらしい。

 リムルは僅かに悩んだ後、俺に目を合わせて言い放つ。

 

「じゃあ、その間はエミルスに任せるよ」

「はぁ?」

「契約に則って、俺がピンチの時は力を貸してくれるんだろ?」

 

 爽やかな笑みを浮かべてとんでもないことを言い出しやがった。

 それは戦闘の時にしか適応するつもりはなかったんだが……いや、俺が戦闘のみなんて言ってないのが悪いのか? 屁理屈だと思うんだがな。

 言い返せないことを肯定とみなして、勝手にリムルは名付けを始めた。

 

 そして、名前を付け終わった頃にはスライムの姿に戻って物言わぬ物体と化してしまっていた。

 俺を縛っていた糸も勝手に解れた。

 

「リムル様!」

 

 慌てて声を掛けたのはシュナだ。他のヤツも眠るリムルをじっと見つめている。

 また面倒な事を頼まれてしまったと思いつつ、俺がスライムになったリムルを持ち上げてオーガを見渡す。上位種族だけあって、すぐに眠るわけではないようだがじきに進化が始まるだろう。

 

「自分達のテントに行ってリムルの願い通り進化してこい。リグルド、コイツらを案内しろ」

「はっ!」

「リムル様は大丈夫なのですか?」

 

 ベニマルが声を掛けてきたので軽くあしらう。

 

「前にも同じような事があったんだ。さっさと行け、ベニマル」

「……はっ」

 

 オーガどもは進化するためにテントから去っていった。

 残されたのは俺と低位活動状態(スリープモード)のリムルだけ。

 

「……自分でも分かってんだ、ワガママ言ってるのは俺だって」

 

 歩み寄ろうとしてるのは本物(おまえ)で、中途半端に拒絶しているのは偽物(おれ)だ。

 ここでは、目を背けようとしていたものを受け止めなきゃ生きていけない。薄っぺらい俺にはその覚悟ができていない。

 上に立つことが、その責任の重さが、この世界は現実だから。

 

 この関係が、薄っぺらい俺にはちょうどいい。

 

 

 

 

「リムル様、そしてエミルス殿。無事に進化を果たしました」

 

 大鬼族(オーガ)から鬼人族(キジン)へと進化した六名が、翌朝俺とリムルのところにやってきた。猛々しいオーラを放っていたが、少し落ち着いて人間に近い姿へと変わっている。ただし、内部にある魔素量は格段に増えているようだ。

 まぁ、名付けた本人はまだ夢の中にいるようでいくらつねっても反応はない。

 

「あぁ、おめでとう。今のお前達六人なら、俺が勝てるか怪しいかもな」

「ご謙遜を、日頃から鍛錬を積んでいた俺達を傷一つなく圧倒したのは貴殿でしょう」

「そうか? 今なら油断も隙も無く戦えるだろ、なぁハクロウ」

「ほほほ、手厳しいですな」

 

 男性陣と軽く対話した後、シオンとシュナがそっと近づいてくる。

 一体なんだ? そう思っていると、シオンがおずおずと俺に声を掛けてきた。

 

「その、厚かましいお願いだとは思いますが、どうかリムル様を抱えさせていただけないでしょうか?」

 

 は? っと思ったがすぐに納得した。

 そういえばシオンってリムルの第一秘書だなんだと俺を一番敵対視していた存在だったな。リムル愛が強いのもコイツだった。二番目はディアブロだったはず。

 まぁ俺もコイツを抱える理由が無いのでさっさと差し出した。

 

「構わねぇよ、むしろ本望だろ」

「ありがとうございます!」

 

 ちょっと力みすぎてプルプルしているが大丈夫だろう。シュナもリムルを抱えたいのだろうか、そう思ってそっちを見ると何やら両腕を此方に伸ばしていることに気づく。

 

「エミルス殿は私が持ちます!」

「え、いや」

「エミルス殿には個人的に感謝しております。あの時私を解放してくださらなかったら、どうなっていたか……」

 

 そういえばそんなこともあったな、確かにあの時シュナを解放していなかったらそのままベニマルとリムルのバトルが続行していた可能性があるのか。そうなるとベニマルが再起不能になっていたかもな。兄上がそうなってしまうのは嫌だっただろう。

 ……とはいえ、エレンの再来じゃねぇか。

 

「俺は遠慮する、スライムの身体は当分戻るつもりはない」

「そう、ですか」

 

 分かりやすくしょげるシュナ。何故か勝ち誇るシオン。いや、お前は低位活動状態(スリープモード)のリムルを好き勝手やっているだろうが。

 シオンが勝ち誇った笑みを浮かべたことに、僅かに心が乱れた。前の世界で一番俺の事を敵対視していたからこそ俺も負けられない意地がある。シオンにいい思いをさせるだけってのもつまらないしな。

 

「……分かったよ」

 

 『鏡像者』を用いてスライムの姿に戻ると、シュナの腕の中に飛び込んだ。慌ててキャッチしたシュナは、嬉しそうに笑みを浮かべた後スライムの表面を撫で始める。結局こうなってしまうのか……でも、シオンだけにいい思いをさせてやるのは嫌だったしいいか。

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