転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

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18話 閑話 ソウエイの観察&シオンの受難

 

 リムル様から蒼影(ソウエイ)の名を賜り、数日が経過した。

 俺はリムル様の恩義に報いるため、斥候を名乗り上げ町周辺の警戒網を張る大役をこなしている。リムル様から授かった『分身体』と『影移動』、そして『思念伝達』の力はこの大役を務めるのに適している。その行動を認めてくださったのか、”隠密”という職務を与えてくださったのだ。信頼して頂いていることに、感謝しかない。

 ただ、直接命を狙おうとしたエミルス殿に関しては、未だに対話の機会が無い。リムル様と同等の地位を得られているのにも関わらず、忠義を尽くすなという御言葉には何かお考えがあるのだろう。

 

「ソウエイ、何か考え事か?」

 

 ベニマルが話しかけてくる。

 紅丸(ベニマル)という名も、リムル様から与えられた名前であり、俺達大鬼族(オーガ)は全員名を与えられ鬼人族(キジン)という上位種族に進化している。ライバル関係であったベニマルも、今ではリムルから軍事を任せられる存在として職務に励んでいる。

 

「エミルス殿のことだ」

「……あの方か。確かに、シュナも言っていたな」

 

 俺達はエミルス殿に忠義を尽くせない。しかし、暴走を止めてくださった恩義を感じている。シュナやクロベエ、そしてハクロウは各々が出来る技術を持ってエミルス殿に恩を返していたが、戦いにしか能が無い俺達にとって恩を返すやり方に検討がつかないのだ。それは、この場にいないシオンも同じ事を思っているだろう。

 ベニマルがおもむろに立ちあがる。

 

「ま、それこそ、戦いを持って恩を返すしかないってことだ」

「……そうだな」

 

 この町を守り、脅威を打ち払うこと。これが俺達にできる最大限の忠義である。

 ベニマルが軍事の相談のために出掛けたので、俺も自分の仕事に戻ろうと扉を開ける。

 しかし、そこに待っていたのは予想外の人物だった。

 

「普通に家で待っていればよかったな」

「エミルス殿……!」

 

 反射的に膝をつくと、エミルス殿は不満げな顔を隠しもせず立ちあがるよう促した。しかし、見下ろすなど出来ないので顔を上げるだけに留めると、溜息を吐いてこちらを見つめた。

 

「エミルス殿、本日はどういったご用件で」

「お前に頼みたい事がある」

 

 まさか、恩を返せるときがこんなにも早く来るとは思わなかった。向けられている期待に、自然と緊張が高まる。

 

「どんな事でも、全力を尽くします」

 

 俺の返事にエミルス殿は笑みを浮かべる。

 

「……俺に、『影移動』と『分身体』を教えてくれ」

 

 戦闘でも、視察でもなく指導。その予想外の命令に、俺は思わず目を見開いてしまった。そもそも、エミルス殿がそのスキルを覚えていないことに驚きを隠せなかった。あの実力で、まだ成長を求められるとは。その熱意に驚かされるばかりだ。

 表面上は冷静に答える。

 

「と、言いますと」

「あの甘いスライムについていくばかりじゃ、情報収集がおざなりになるかもしれねぇからな。お前に頼むのも手かもしれねぇが、それじゃ強くなれないし」

 

 あぁ、エミルス殿はなんと思慮深いお方なのか。リムル様の隙を埋めるように、そして悟られないように動いていらっしゃる。その精神は、俺も見習わなくてはならないものだ。

 この方は、どこまで強くなられるおつもりなのか。それは俺如きでは計り知れないものだろう。しかし、その一助となれるのであれば光栄な事だ。リムル様の代わりとして教えられるのかどうか分からないが、俺にできることは何でもしよう。

 

「分かりました。俺では力不足かもしれませんが、エミルス殿のお役に立ってみせます」

「堅苦しいっての……いや、多分お前は治らないんだろうけど」

 

 言うなれば、エミルス殿はリムル様の影として動いているように感じている。その役割を背負うのは、楽ではない。だからこそ、あの時の戦いで見せた笑みは純粋な歓喜が混じっていたのだと。影から解き放たれたあの時のエミルス殿は、リムル様の何かではなく強者として相対していたのだ。ならば、俺はその影を忘れられるように動こう。

 

「善処し……善処する」

「はは、似合わねぇな」

 

 エミルス殿は笑ってくださった。これでいいのだろう。

 

 

 もう一人の『影移動』の使い手として、ランガを紹介してくださった。俺を見て僅かに睨みをきかせていたが、エミルス殿が宥めるとすぐに表情が柔らかくなった。俺達はまだまだ、番人に認められていないようだ。行動で示さなければならない。

 

「ランガも、俺に『影移動』を教えてくれ」

「はい! とはいえ、エミルス殿はすでに影から我を召喚できるのであればすぐに習得できるかと」

「そうか?」

「はい。『影移動』は影を認識し、同化するような感覚を身につければ習得できます」

「認識はできているから、後は同化するイメージってことか」

 

 やはり、俺などいなくてもエミルス殿はすぐに上達なされた。エミルス殿は自身のユニークスキルで物体を通してワープする術を会得していたらしく、その物体を影に変えて認識すれば1時間経たずに『影移動』を会得なされた。

 俺の影やランガの影を自由に動き回り、その感触に満足そうに頷いた。

 

「さすがです、エミルス殿」

「『影移動』はなんとなくできると思ってたけど、問題は『分身体』なんだよな……」

「はい、俺も上手く説明はできませんが、なるべく分かりやすいようお伝えします」

 

 ランガは種族の『全にして個』という考え方を、俺は『分身体』を使用した時の感触を事細かに教えた。ただ、どうにもしっくりこないらしく頭を抱えて悩んでいる様子だった。

 

「これは、リムル様に教えを乞うほうが……」

「アイツに教わるのは絶対に嫌だ」

 

 『分身体』については、また後日となった。

 エミルス殿ならば、『分身体』も俺以上に使いこなせるようになるだろう。正直、エミルス殿に仕事を取られないか些か恐怖を覚えるほどだ。だが、主の成長が喜ばしく思うのは部下として当然の事だ。

 これ以降、俺はより一層仕事に対しての意義を感じるようになった。

 

 

 

 

 私は紫苑(シオン)。リムル様の第一秘書として、職務を全うする日々を過ごしています。

 もちろん、エミルス殿にも恩を感じているのでお世話をしたいと思うのですが、何故か名を賜ってからというもの話す機会が極端に減った気がします。

 

 そう、エミルス殿。私はエミルス殿を羨ましく思う日々が続いているのです。

 第一秘書として、いつもリムル様のお傍で世話係を任されているはずの私が自由気ままなエミルス殿に負けていると感じることがあります。

 

 第一秘書になってから、私はリムル様を運んで各地を赴く大役を任されています。四六時中リムル様とご一緒できる立場なんて、とても光栄な仕事です。

 ですが、その平穏はあっという間に崩れ去ってしまったのです。それはシュナの仕立屋工房に行った時のことでした。

 扉を開けるとエミルス殿が目の前に立っており、何やら不気味な笑顔を浮かべていました。

 

「どうしたんだ、なんか顔が怖いぞ……」

「リムル、ちょうどいい所に来たな」

 

 エミルス殿の服装は、見事なカジュアルコーデになっていました。

 

「お前も道連れだ……!」

「うぎゃああ!!!」

「リムル様!」

 

 なんと、私の手からあっさりリムル様を連れ去ってしまったのです。あのシュナでさえも渡すことがなかった私が、エミルス殿に二度目の敗北を渡してしまった。結果、エミルス殿を通してシュナに手渡されたリムル様は着せ替え人形になってしまいました。

 呆然とする私に、シュナが笑みをこちらに向けてきたのです。つまり、これは宣戦布告。エミルス殿とシュナVSリムル様と私という因縁が、今ここに始まったということです。

 

 売られた喧嘩は買うほかありません。

 

 エミルス殿の魔の手からリムル様を救うために、私の仁義なき戦いが繰り広げられることになったのです。

 しかし、今もなお敗北し続けているのが現状です。エミルス殿は『影移動』を身に着けたようで、神出鬼没。いつの間にか執務室からリムル様がいなくなるのです。そして、そのままお着替え人形へ……阻止する暇もなく、涙を流す日々。もしかしたら、私よりエミルス殿の方が秘書に向いているのかもしれません。ですが、これは負けられない戦い。

 

 エミルス殿に私をリムル様の第一秘書と認めてもらえるように、努力せねばなりません。

 

「なのでエミルス殿、もう一度お手合わせを!」

「はぁ、なんでこうなるんだ……」

 

 リムル様とシュナの立ち合いの元、私はエミルス殿に決闘を申し込みました。リムル様の第一秘書になるならば、エミルス殿に勝てるような強い秘書を目指すべきだと判断したからです。リムル様は快く承認してくださりました。

 今の私には、クロベエが作ってくれた新しい武器もあります。その名も剛力丸。私は剛力丸と一緒に、エミルス殿を超えてみせます。

 

「分かった、条件がある。お前が勝ったら第一秘書として認める。その代わり、俺が勝ったら俺の言う事を一つ聞いてもらおう」

「分かりました」

 

 条件など出されずとも、お願いは聞きますが。それでも、エミルス殿から第一秘書として認めると言ってくださるのであれば、この戦い負けるわけにはいきません。忠義を尽くすなという命令に従い、エミルス。私は貴方を超えてみせます。

 

「はぁ!」

 

 剛力丸は私の身体によくなじむようで、振り回されるような感覚はありません。むしろ、長年付き添ってきた相棒のように戦い方がなんとなく分かる。大振りはエミルスに簡単に避けられる。ならば、大振りの後に追撃を入れるのです。

 

「おいおい、コイツむちゃくちゃだな……」

 

 エクストラスキル『剛力』と『身体強化』を賜ったおかげです。これによって素早い動きを大太刀でもできるようになっています。

 間一髪で避けられてしまいましたが、ここで手を止めるわけにはいきません。大太刀は隙が大きいからこそその隙を狙われやすい。私のありあまる体力で、攻撃を止めるという選択肢はないのです。

 エミルスに攻撃を与える暇なく更に追撃を入れ続けると、やがて避ける隙が無くなり血の刃で剛力丸を受け止める。しかし、あまりの重さに地面がめり込むほどの衝撃がエミルスを襲う。

 

「ぐっ」

「そこです!」

 

 剛力丸を手放し魔法弾でエミルスを攻撃しようとした瞬間、エミルスはスライムの姿に変化しました。

 

「もういい、降参!」

 

 エミルスが叫んだ瞬間、私の身体から力が自然と抜けて地面にへたり込む。一歩も動くことが出来ずに倒れてしまいました。勝ったとは思えません、エミルスにはまだまだ余裕があったように思えたのですから。これは温情と言わざるを得ません。

 倒れた私に、リムル様は近づいて手を差し伸べてくださいました。私を引っ張り上げてこう言うのです。

 

「さすが、俺の秘書だな!」

 

 その言葉だけで、私は救われたような気がしました。スライム姿のエミルスも、私に近づいてきてこう言ってくださいました。

 

「認めてやる、これからもお前はリムルの秘書だ。せいぜい頑張れよ」

「……はい!」

「後、エミルスでいい。お前はその方が似合うからな」

 

 認めてくださるどころか、私にエミルスと呼び捨てにする権利も与えてくださったのです。これ以上ない誉に、私はこれからもリムル様の第一秘書として頑張っていこうと思えたのでした。

 

 その後、私はエミルスとリムル様に手料理を振舞おうと考えたのですが、「お前はリムルの秘書だから俺の分はいい!」と強く断られてしまいました。リムル様の秘書であろうと、私はエミルスに仕えている事には変わりないというのに。

 いつか、食べてくださる事を目標にしつつまずリムル様に手料理を振舞おうと考えたのですが、失敗してしまってベニマルに許可を得ないとお出しできないようになってしまいました。

 

 その時、食事処に設置された鏡からエミルスが出てきてこうおっしゃったのです。

 

「お前はリムルの第一秘書でいいからな……」




※ちなみにリムルから逃げ出すこともある
ステータス
 名前:エミルス=アゲンスト
 種族:スライム
 加護:逆風の紋章
 称号:"魔物達の試験官"
 魔法:なし
 技能:ユニークスキル『鏡像者』
    (『大賢者』『捕食者』『変質者』)
    スライム固有スキル『溶解,吸収,自己再生』
    エクストラスキル『魔血変換』
    エクストラスキル『魔力感知』
    エクストラスキル『血液操作』
    エクストラスキル『影移動』
    スキル『威圧』『念話』『思念伝達』
 耐性:熱変動耐性ex
    物理攻撃耐性
    痛覚無効,熱攻撃無効
    電流耐性
    麻痺耐性
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