01話 暗中模索
……
……ん、
ここは……どこだ?
目を開けようとしたはずだが、感覚がない。完全な暗闇で目を開けたかどうかすら分からない。こうして思考し始めたということは、意識は目覚めたはずなんだが……どうなっている?
リムルに理想を託した後、俺はそのままシンシアの夢の中で消えたはず。いや、そういえば意識が薄れる直前に頭の中で喚くやつがいたな。そいつの仕業か?
途中からぼんやりして記憶が曖昧だ。なんだ、初期化とかなんか言ってやがったな。クソ、俺の身体を勝手に弄って消えやがって。次見つけたら塵にしてやる。
足元はどこかおぼつかねぇし、身体が寝てるのか起きてるのかすらわからねぇのは不便だな。
『魔力感知』は……ある。俺が前使ってたやつより使いにくい上に効果範囲も数メートルであきらかにしょぼくなってやがるが、これで視界は確保できるだろう。
『魔力感知』を意識して使用すれば、暗闇だった視界が途端に情報を伝えてくる。四方を岩で囲まれ、ところどころに虹彩を放つ石が生えていた。洞窟っぽいが、この石の仄かな光源がなきゃ真っ暗闇だろうな。観察していると、俺のすぐ横に風が吹き抜ける音と、冷たい感触。視覚が認識したことにより、鈍くなっていた聴覚と触覚も戻ってきた。自然にできた洞窟のようだが、それにしてはあまりにも魔素が濃い。
身体を動かそうと手足に力を込めたが、そこで手足が無い事に気づいた。そもそも顔すらねぇ。『魔力感知』の視点を俺の身体に合わせて確認する。
粘土のように柔らかく、適度な弾力性を保つこの身体。
薄桜色のそれはまさに、最弱のモンスターと謳われしスライムの身体的特徴が一致した。してしまった。脳内で壁にガンガンと頭を打ち付ける。この精神的屈辱を耐え忍ぶために。
ふざけんなふざけんなふざけんな!!!
戻せ!! 俺をシンシヤのところに戻さねぇと殺すぞ!!!
心の中で何度も呪い殺そうとしたが、念じても返ってくるのは虚無。首謀者は俺が苦しんでいる様子を見るのが大好きなようだなぁ、いい趣味してやがる。
クソッ、塵にしてやるだけじゃすまさねぇ。苦痛に悶え苦しむ様を眺めながら死よりも辛い絶望を味合わせてやるからな。この俺を、こんな屈辱的な姿にさせやがって……。
俺が持っていたスキルはほとんど使えなくなっている。初期化というのはどうも本当らしく、スキルどころか身体の成長具合とかもレベル1の状態だ。今の俺はシンシヤのパンチ一つで魂ごと消し飛ぶ。まさにRPG序盤の雑魚スライムということだ。
だが、全部のスキルが使えないというわけではない。色々試した結果、血を操ることは可能だった。試しにそこの大岩に使ってみたが、真っ二つだ。我ながら見事な断面だったと思う。
血はどこで手に入れたのかって? 俺の魔力だ。
魔力を血に変換することは出来なかったはずだが、できた。首謀者が憐れみを感じて与えてくれたのかもしれない。ありがたいことだ、いつかこの技で
とはいえ、むやみやたらに魔力を消費する訳にはいかない。この洞窟の中は魔素だらけで枯渇の心配はないが、魔素の正体が分からない以上調子に乗るのは危険だ。
そもそも、ここはどこなんだ? 首謀者は魂だけだった俺をわざわざこの洞窟に転移させたってのか。一体何のために。
……今考えても仕方ねぇか。
辺りには石と草しかねぇし移動するか。
ぽよんぽよん。ぽよんぽよん。
スライムの身体に慣れてないせいで、どうも不格好だ。歩くスピードは遅いし、動く度に軽い音が響く。人の姿になれないのはこうも不便なのか、感じたことなかったな。「失ってから気づくんじゃ遅いからな」とオリジナルが説教じみたアドバイスをシンシヤに言っていたが、こういうことか?
「キシャアアア!!!」
あれは……嵐蛇か。強いけど、俺の敵じゃないな。
ちょうどいい実験体が欲しかったんだ。そっちがその気なら遠慮なく殺してやるよ。
スライムだからって油断してるお前が悪いんだ。逃げたら見逃してやったかもしれねぇのに。あぁでも、今ものすごくイラついてるんだ。八つ当たりする相手が欲しくてたまらなかったんだよ!!
魔力を眼前に集め、それを全て血に変換する。
赤黒い球が輝き破裂する。欠片は散弾となって全方位から大蛇を貫いた。
逃げる隙もなく、嵐蛇はか細い叫びを上げた後地面に倒れ伏す。俺の身体の何倍もデカい魔物があっけなく死んだ。あぁ、これだから狩りは面白い。
貫いた部分からは嵐蛇の血が地面に染み出していく。もったいない、血は俺のスキルに使える。そういえば、スライムの固有スキルに吸収があったはずだ。
身体を大きく伸ばし、嵐蛇を包み込む。腹の中で嵐蛇の死体を溶かしていくと、満たされたような感覚があった。どうやらこの体内に、血液を溜めるタンクが存在するらしい。もっと早く気づくべきだったな。
だが、嵐蛇のスキルを自分のものにするという荒業は使えなかった。残念だ。強くなるという目的では最強のスキルだったんだが。
血液タンクの存在を確認してから、面白いことに気づいた。
魔力を血に変換するだけじゃなくて、血を魔力に変換することも出来る。
俺の中で魔物の価値は格段に上がった。殺して血を奪うほど、俺はどんどん強くなる。
魔素が濃い洞窟の中に、うじゃうじゃと強い魔物がいるってんなら存分に搾り取らせていただこうじゃないか。
嵐蛇より大きな蜘蛛がいた。
天井で動き回るせいで当てずらかったし、しかも糸で反撃を喰らった。
前の俺なら余裕で躱せたはずなのに、スライムの身体はどうも動かしにくい。鋼のように固い糸がスライムの身体を貫いた。人間なら胸と呼称される部分が、鈍い痛みを訴えてくる。そうか、『痛覚無効』も消えているのか。
腹の底から沸々と怒りが湧き上がり、蜘蛛を視界の中心に捉えた。
「俺の身体に傷をつけやがったな? 虫けら」
血液を操り複数の追尾弾が標的を狙う。追尾弾の一つが蜘蛛の頭を吹き飛ばし、天井から蜘蛛の身体が落ちてきた。
貫かれた部分が徐々に再生していくが、その時間が惜しい。
ちょうどいい。実験だ。蜘蛛の身体を素早く溶かして血液タンクに溜める。10%は溜まったようだ。1%の血液をタンクから取り出して、魔力として体内に取り込む。そうすると、自己再生のスピードが目に見えて早まった。2分で修復は完了した。
回復にも攻撃にも使える万能型だな。血液を固くすることも出来るようだから、防御にも使える。前の俺の威力には程遠いが、利便性は高まったな。
さらにトカゲ、羽、ムカデとか色々いたがどれも俺の相手じゃない。
途中から歩くのが面倒くさくなってわざと死体を放っておいて集めようとした。最初のうちは複数体の魔物を同時に片づけられて便利だったが、感づかれたのか寄ってこなくなった。このまま適当にぶらついているだけじゃ、一生洞窟暮らしでジエンドだ。
結構動き回ったってのに、魔物と草と石と水以外何もありゃしねぇ。
なら……そろそろいこう。この大量の魔素を生み出した洞窟の主のところに。流れをたどっていけばすぐ辿りつけるだろう。
今一度目的を整理する。まずは首謀者を殺すために強くなる。ここに来るまでの俺、いや。それ以上に強くなって締め上げてやる。
それが終わったら、シンシヤのところに帰る。これでいい。洞窟の主に勝てるかどうかは分からねぇが、それは様子見て判断するしかねぇな。臨機応変で行くしかない。
ステータス
名前:エミルス
種族:スライム
称号:なし
魔法:なし
技能:ユニークスキル『鏡像者』
スライム固有スキル『溶解,吸収,自己再生』
エクストラスキル『魔血変換』
エクストラスキル『魔力感知』
エクストラスキル『血液操作』
耐性:無