転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

20 / 37
19話 お調子者のトカゲ

 食事処にやってきたらまさかゴブタが毒殺されていたとは、骨は拾っておいてやろう。主犯格のシオンは戸惑いの表情を浮かべている。

 こうなるから絶対にシオンとは関わりたくなかったんだ。何故か第一秘書になるために俺を超えるだの言ってきてそっちから突っ掛かってくるとは思わなかったが。俺の呼び方が様付けになったシュナとは対照的にシオンは呼び捨てになった。まぁむしろそっちの方が違和感がない。前の世界で俺は部外者だしな。

 

「エミルス、これは……」

「お前が本当にリムルの秘書でよかったよ」

 

 俺を兼ねていたらコレの餌食になるところだったからな。『大賢者』もまともに動かせない中で、コレを回避する手段を思いつけそうもない。一度、シュナから「私がエミルス様の秘書をしてもよろしいでしょうか?」と頼まれたことがあったが、アイツは仕事がある上に俺に付けられたら動き辛いので遠慮しておいた。

 

 てか本当に動かねぇなゴブタ。もうリムル達どっかいっちまったぞ。仕方ねぇな、俺が貴重な回復薬をお前に使ってやるよ。

 取り出した回復薬を投げつけてやると、みるみるうちに顔色が良くなり死の淵から蘇ったゴブタがゼーハーと過呼吸を繰り返す。

 

「と、遠くでリムル様が手を振っていたっす……」

「なんだ、生きていたのか」

「ヒドイっす! 本当に危なかったっすからね!」

 

 ハクロウのところで修行しているせいか、中々しぶとくなってきたな。

 こういうところがあるから弄りがいがある。誰も本人に教える気はなさそうだが。

 

 ふとテーブルを見ると、放置されたシオンの手料理があった。何故か怨霊が憑りついているような呻き声が聞こえてくる謎の料理。もしかすると、敵を撃退した時に役に立つかもしれねぇ。『捕食者』で胃袋に収める。直接味を味わっていないのに吐き気を催しそうになった。

 ゴブタもそれを見ていたらしく、先程の感触を思い出して吐きそうになっていた。

 

「うぇ、よくそれ収納できるっすね」

「もしかしたら、回復薬とか魔鉱塊がシオンの手料理で染まってる可能性もあるが……まぁそれはそれで面白いかもな」

「ひぃ!」

 

 しかし、食事処に来たのに変なものを見てしまった。

 

「口直しにご飯でも食うか?」

「あ、ありがたいっす……まじエミルスさんが最高っすよ」

 

 こういう時だけ調子がいい。ゴブタと飯を食った後、俺は試作品の結果を報告するために鍛冶場に戻った。だがそこに偶然、クロベエとカイジンの鍛冶談義に付き合わされているリムルと鉢合わせた。

 

「なんでここにいんだよ」

「俺も軽く話したら帰ろうと思ってたんだけどな」

 

 俺の来訪に気づいたようで、一旦話を終わらせてクロベエが俺に声を掛けてきた。

 

「あ、エミルス殿! 試作品は上手くいっただべか?」

「まぁな」

「試作品? 一体何のことだよ」

「いつか話してやるよ」

 

 リムルが不思議そうにしていると、鍛冶場にリグルドがやってきた。話を聞けば、蜥蜴人族(リザードマン)の使者が訪ねてきただとか。リザードマンと言えばお調子者のアイツ……の前に、トリシューラを思い出すな。

 ガビルの理想であり、水渦槍(ボルテクススピア)と一体化して進化した龍戈族(トリシューラ)。アイツはイジスの鏡像体の中で、特筆して強かった。まぁ、コクヨウやヒュウガもそうだが。アイツも元気にしているだろうか。

 

「じゃあ、早速いくぞ。エミルスも行くか?」

「……あぁ」

 

 この世界にシンシヤもイジスもいない。

 俺が辿り着いた答えはこれだった。

 

「これからどうするか……」

 

 俺はリムルが強くなるのを待つしか出来ないのか? そんなことはないだろう。むしろ、タイムパラドックスを気にしなくていいならもっとやりようがあるはずだ。例えば……

 鍛冶場を出てから、俺は頭の中で何度も考えを巡らせる。いつの間にか隣に鬼人族達がいたが、それを気にする余裕はなく町の入口に着くまで長い時間が流れたように感じた。

 

 

 

「我が輩は、蜥蜴人族(リザードマン)のガビルである! お前等も配下に加えてやろう、光栄に思うがよい!」

 

 ガビルの声で潜っていた意識が浮上する。目線を上げると、ガビルの部下が懸命にヤツを持ち上げてガビルの素晴らしさをアピールしようと必死になっている。元々素性を知っている俺でさえ、さすがに引いた。

 盛り上がるリザードマン達とは正反対に、こちらはものの見事に冷めきっていた。シオンが怒りのあまりにスライムのリムルをひしゃげそうになっていた。

 ここから更に説明が入るとめんどくさいので、俺が介入して手短に終わらせる。

 

「一々長ったらしいから言ってやるけど、ようは豚頭族(オーク)の脅威から守ってやるから配下になれって事だろ?」

「む、お前は誰だ」

「俺らそういうの間に合ってるからさっさと帰ってくれ」

「ちょ、エミルス?」

 

 なんだよ、どうせ断るつもりだったんだろ。

 ガビルは自分の出鼻を挫かれたのが気に入らなかったのか、何かといちゃもんを付け始めた。

 

「貴様が牙狼族を飼い慣らした者か?」

「……いや」

「ならば、余計な口出しをせずに引っこむがよい。我が輩はそいつと話がしたいのだからな」

 

 コイツ殺していい?

 俺がそう思った瞬間ベニマルもそう思ったらしく、リムルに殺していいか爽やかな笑顔で問いかけた。思わず了承してしまったリムルも慌てて訂正したが、ようはそのくらいウザい存在だ。わざわざ妖気を引っこめてやったのが悪いのか、いやそれぐらいで判断を間違うコイツが悪いな。

 

「牙狼族を飼い慣らしたというか、仲間にしたのは俺なんですけど」

「スライムが? 冗談を言うでない」

 

 鼻で笑ったなコイツ。

 

(リムル様、エミルス殿。ここは我が)

「おう、頼む」

「半殺しにしていいぞ」

 

 牙狼族をご所望だったので、ランガを影から呼び出した。

 元の大きさになったランガはリザードマンの数倍はデカい。それに合わせて『威圧』を放ってやれば、ガビルの部下達は動揺を隠せなくなったようだ。

 ガビルは物怖じせず応対しているようだが、スライムをバカにしているせいで次々と部下達の地雷を踏み倒している。こりゃ殺されるのは時間の問題だな。惜しい存在だった。

 

 そこにちょうどいいタイミングでゴブタがやってきたので、もれなくガビルの対戦相手として選びだされた。まぁ、トカゲ程度に倒れるように指導してやってないからいけるだろ。リムルが報酬と罰ゲームも提示してやれば、ゴブタのやる気は膨れ上がる。

 

 決着はあっという間だった。『影移動』を使いこなしたゴブタの前に、なすすべもなくガビルは倒されてしまったようだ。しかし、俺でも咄嗟に使いこなせない『影移動』をあそこまで使えるとは、素直に褒めてやろう。

 ランガやリグルド、鬼人達もゴブタを褒めている中俺も声を掛けた。

 

「よくやった」

「エミルスさんに褒められたっす!」

 

 そこまで喜ぶか? 

 リムルがゴブタにお褒めの言葉を送っている間に、ノビたガビルに近づく。先程のゴブタの衝撃で身動き一つとれないガビルの部下達は、俺に気を遣う余裕もなさそうだ。こりゃ都合がいい。

 俺はガビルの口を無理やり開けると、胃袋から例のアレを取り出した。もちろん器ごとである。ご飯は残さず食べないといけないしな。

 

「お、おいエミルス」

 

 リムルが止める暇もなく、そのままガビルの口の中に放り込んだ。全てを理解したベニマル、ハクロウ、リムル、そしてゴブタが反射的に目を逸らす。当の本人はきょとんとしていた。リグルドはなんとなく理解して手を合わせていた。

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

 気絶から目を覚ましたガビルが吐き出さないように口を閉ざし、暴れる身体を取り押さえる。ガビルの緑色の身体が進化した後のガビルの色とそっくりになった。何故か目も白くなったようだが。もしかしたらゴブタみたいに『毒耐性』が手に入るかもしれないな。俺の善意だ、受け取るといい。

 

 このまま死んでしまったら元も子もないので、回復薬をぶっかけておきつつガビルの部下達に声を掛ける。

 

「今回の話は交渉決裂だ、協力してほしいってんなら考えておいてやる。さっさとコイツを連れて帰るんだな」

 

 ガビルの身体の色は戻ったが、白目は剥いたままの情けない隊長を部下達がせっせと運んで捨て台詞を吐きながら退散していった。

 シオンが俺に声を掛けてくる。

 

「先程は何をしていたのですか?」

「身体に効く薬を食わせてやっただけだよ、なぁ?」

 

 周りのやつらに同調を求むと、高速で顔を振って同意した。

 シオンは何が起こったのか理解していなかったようだ。危ない危ない。下手したら俺が犠牲になっちまうからな、気を付けねぇと。

 

 ……さて、一段落ついたようだし、そろそろ情報をを探るとするか。

 

 ソウエイとランガの協力を得てついに会得した『分身体』。まさか数日かかるとは思わなかったが、スキルを無事習得しただけでお釣りが返ってくる。リムル達の届く範囲から離れることなく情報を収集できるという点が最高だ。といっても一キロまでしか俺の意思で動かせない上にそれ以上離れると単純な命令しか聞かないようになる。しかも、複数体作れるソウエイとは違って一人だけだ。

 

 だが、それでも充分。

 本体はリムル達の今後の方針を決める会議に参加する準備をしておいて、『分身体』の方で豚頭族(オーク)を一匹生け捕りにして情報を取り出せればいいんだが。そう思って『分身体』に意識を捜索し、進軍中のオークの居場所を突き止めた。高い崖の上から眺めると、隣の川よりも広い面積を覆うオークどもに背筋が冷えるような感覚がする。多すぎて最早虫だな。虫の中でも下位に位置するレベル。

 

 俺の隣に気配が現れ、おもむろに振り返るとソウエイが静かに佇んでいた。僅かな空気の乱れに気が付かなかったら、コイツの到来に気づかなかったかもしれない。やはり末恐ろしいな、ソウエイ。

 

「エミルス殿」

「やっぱ様子を見に来たか」

「はい、エミルス殿は何故こちらに」

「魔王の手先の情報が知りたくてな、一匹捕まえて吐かせたい」

「俺がご用意しましょうか?」

「じゃあ頼む、気づかれるとめんどくさいからな」

「はっ」

 

 俺がやってもよかったが、隠密に関してはソウエイの技術に勝るものはないだろう。リムルから賜ったソウエイの糸は、俺の血の糸と比べて敵を捕縛し罠にかける方へと進化しているようだ。まさしく、蜘蛛の巣にひっかかった虫のように。

 大群に一匹から選ばれた不運なオークは、一瞬のうちに絡めとられ姿を消す。不自然に空いた隙間にオークどもは気づく様子もなく自然と隙間を埋めていく。コイツら、本当に仲間の事を緊急時の餌程度にしか思っていないようだ。

 

 オークどもに万が一バレないように森の中に移動する。選ばれてしまった憐れなオークは糸によって木に括り付けられている。仲間に気づかせる為に声を出そうとしたが、ソウエイが指を軽く曲げると口を無理やり閉ざした。

 

 パチンッと指を鳴らし、血液で周りを覆う。これで邪魔者が入ることはない。

 

「さて、お前に聞きたい事がある。お前達のバックにいる魔王の名前を教えろ」

「グ……」

「エミルス殿を待たせるな、豚」

 

 ソウエイの糸が僅かに緩まり、微かに声を出せるようになったオークは身体を無理やり動かして暴れ出そうとする。しかし、動けば動くほど自らの贅肉がそぎ落とされて血が滴り落ちていく。

 

「まぁ、お前のような一兵が魔王の名を教えられるはずもないだろう。これには期待していない。だが、豚頭帝(オークロード)に名を与えたやつの名前ぐらいは言えるだろ?」

「グ、ハハ、我らに蹂躙されるだけの餌どもが何を言っている?」

「……口を慎めよ、家畜以下。お前の命は俺が持っているんだ。生きるか死ぬか選べ」

「お前も、お前の主もすぐに我らの餌に」

 

 無駄な言葉を続けようとした豚の喉元を掻き切る。

 ……時間を無意味に過ごしてしまった。まぁ、豚頭帝(オークロード)がいることが分かっただけで成果は充分だろう。

 

 無臭の血液で死体を覆い隠すと、ソウエイに振り向き合図を送る。もうこの場所に長居は不要だ。さっさと本体のところに帰って作戦会議の方に集中しねぇと。

 『分身体』を解除しようとしたその時だった。

 

「お待ちください」

 

 凛とした声が後ろから響き、俺とソウエイを留める。

 緑色の光が植物を生み出し、その中から女が顔を出した。

 

「森の管理者たる樹妖精(ドライアド)が一体何の用だ」

「あら、ご存知でしたか。初めまして、魔物を試す者よ。わたくしはトレイニーと申します」

「試す者……? 意味が分からん二つ名だな」

 

 ドライアドと聞いて、ソウエイは珍しく動揺が顔に出ている。俺としては今更だとは思うがな。異常の塊であるリムル=テンペストをここまで放置していたのは警戒していたからだろうが。

 トレイニーは深くお辞儀した後、俺達を一瞥した。

 

「突然ですみませんが、魔物を統べる者に取り次いでいただけないでしょうか?」

 

 この称号、一体いつ獲得したんだよ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。