俺が『分身体』で情報を集めている間に、リムルは配下達に命令して主要な者達を招集していた。鬼人族の六人、カイジン、ゴブリン・キングのリグルド、ゴブリン・ロードの四人。そして窓から覗き見るゴブタ達数名。
そして、俺とリムルを合わせて十数名で
席はいらないと言ったはずだが、強制的にリムルの横に座らされた。
ソウエイが情報を伝える。木の板を合わせて炭で描いただけの簡素な地図では、詳細な情報が分からないが無いよりはましだ。
現在、二十万の
「
リムルの問いかけに、配下達が口々に予測を立てる。会議がつまらなさすぎて机に肘をついて傍観していたが、停滞しそうな雰囲気だったので『分身体』で得た情報を伝える。
「少なくとも、
「ほんとか! てかなんで知ってるんだよ」
「裏の情報網でちょっとな、ソウエイ」
「はい、確かにオークロードは存在するようです」
俺とソウエイがオークロードの存在を提示すると、周りの配下達の緊張感も高まったらしい。オークロードは
知能が低いオークが
「バックにいるかもしれない魔王の情報も掴めたらいいんだけどな。オーガの里にも来たっていうゲルミュッドとかいう魔族が何か怪しいけど……」
「ゲルミュッド?」
「そうか、エミルスは知らないのか。リグルのお兄さんに名を与えたり、オーガの里にもやってきた仮面をつけた魔族だよ」
「まぁ、俺らは当時あまりにも胡散臭すぎて突っぱねましたが」
リムルの説明に、ベニマルが追記する。魔族ゲルミュッド、俺がいないところで色々情報が集まっていたらしい。たく、情報を共有することを忘れるなよ。二度手間じゃねぇか。
森の色々なところで名前を与えてるっていうならオークロードもそいつの仕業の可能性が高い。しかも、こういう姑息な奴は表に出ずに静観するタイプだ。『分身体』で探してたら埒が明かない。
ここで、
「リムルの許可が降りたから、さっさと来い」
「ありがとうございます」
「トレイニーと言ったか、会議の後個人的に話したいことがある」
「……かしこまりました」
トレイニーが会議の方へ行くと同時に、『分身体』を解除する。分散していた意識が集合する感覚は練習したと言えど乗り物で酔ったみたいに気持ち悪い。吐き気をなんとか堪えながら、地図として利用した木の板を媒介に現れるドライアドの姿を目視する。鬼人族達が俺とリムルを庇うように前に立つので見えづらい。
「魔物を統べる者、魔物を試す者、およびその従者たる皆様。突然の訪問相すみません、わたくしは
「俺はリムル=テンペストです」
「……エミルスだ」
そういえば、さっきは自己紹介をしていなかったな。名前を教えると、柔らかい笑みを称えながらこちらを見つめてくる。なるほど、あくまで見定める目的もありそうだ。
「えっと……トレイニーさん。一体なんのご用向きで」
「本日はお願いがあってまかり越しました」
「お願い?」
リムルが怪訝そうに言葉を反芻する。トレイニーは臆することもなく、リムルを真っすぐ見つめる。
「エミルス、魔物を試す者。そしてリムル=テンペスト、魔物を統べる者よ。あなた達に……
森の管理者が直々に俺とリムルに依頼してきた。先程よりも大きなどよめきが起こる。トレイニーが机の上から地面へと降りると、ベニマルが前に出て質問を投げかける。
「なぜこの町に来た? ゴブリンよりも強い種族はいるだろう」
「
「言われてるぞエミルス」
「あ?」
「ふふ、仲がよろしいのですね」
どこがだよ。このドライアドは目がおかしいんじゃないか?
「オークロードが私達の集落を狙った場合、
「う~ん」
なるほど、合理的な理由だな。この町にも関係が無い話とは言えない。鬼人達のサポートの約束はしているからな。とはいえ、積極的にオークロードの討伐をするにしてもリムルが動かなきゃ意味が無い。リムルはドライアドの依頼を一旦保留にして、会議を続けることにした。
トレイニーは了承して会議の場にさも当たり前のように着席した。シュナがソウエイに問いかける。
「ソウエイ、わたくしたちの里を調査してきましたか?」
「……はい、やはり死体はひとつもありませんでした」
食料のため、力を手に入れるため、オーガの死体を食い散らかしたオークは上位種族と同等の力を会得している。珍しく、リムルと俺の見解は一致している。
「オークどもの目的は、
「なら、ここも安全じゃない。ここには
……それに、リムルを喰えばヴェルドラの竜の因子も手に入ったも当然だ。まぁ、オークどもが気づいてるとは思えないが。リムルの目の前に置かれたチップスを手に取り、口に含む。ふむ、片手間で食べるものとしては百点満点だな。俺の言葉に、ベニマルが反論する。
「一番食いつきそうなのは、最強のスライム達だと思いますがね」
「まぁな」
「ん?」
トレイニーが紅茶を机に置く。
「オークロード誕生のきっかけとして、魔人の存在を確認しています。あなた方の言うゲルミュッドと関係しているかもしれません」
森で起きたことは大抵把握しているということは、リムルとシズの約束も森の騒動の裏に渦巻く陰謀も把握しているということだ。情報に関して、俺はトレイニーと交渉しなければならない。リムルよりも優位に立ちたいのであればなおさらだ。
食えないやつだな。
「リムル=テンペスト様、そしてエミルス様」
トレイニーが席から立ちあがるのに合わせてリムルも立ちあがる。俺も立ちあがるか悩んだが、ここはコイツらに合わせて渋々立ちあがることにした。
「改めて、
ヴェルドラの事まで把握してるのか? ドライアドの目は誤魔化せないってわけか。こりゃ不用意に受けるような依頼じゃねぇか、もっと慎重に検討しねぇと……
「当然です、リムル様とエミルスが組めば向かうところ敵なしですので!」
「はい、お二人ならば森の混乱を収めてくれることでしょう」
は? おいちょっと待て。
シオンがリムルに、シュナが俺に抱きついてきて色々好き勝手なことを言い始めた。トレイニーもこれ幸いと乗っかって安心したように言葉を続ける。断れなくなりやがった、しかも配下達の勝手な言動で。お前達が主の代わりに勝手に引き受けてどうするんだよ!
俺が発言に対して反論しようとした瞬間に、リムルがスライムの姿に変化して慌ててシオンに受け止められる。
「わかったよ、オークロードの件は俺達が引き受ける。みんなもそのつもりでいてくれ」
「もちろんです、リムル様!」
配下達が口々に意志表明している中、俺は吐き出されることのなかった文句をリムルに対して『思念伝達』でぶつけることにした。
(勝手に俺も参加させてんじゃねぇよボケ!)
(仕方ないだろ、諦めて俺に協力することだな!)
(負けたら遠慮なく見捨てるからな)
(はいはい)
とはいえ、戦力差を見る限り負けることはほとんどないと思うが、警戒するに越したことはない。それに、ゲルミュッドとその裏にいる魔王にリムル達に気づかれないようにコンタクトを図りたいところだ。やはり『分身体』を習得していてよかったと心から思う。
「こうなると、
あぁ、あの話にならなかったクソトカゲか。かなり調子に乗っていたから、俺がリザードマンの首領になってやるとかで内乱を起こしかねない雰囲気だった。敵にそそのかされたりでもしたら面倒な事になりそうだ。ソウエイの分身体によれば、アイツの配下になったゴブリンどもがリザードマンの本陣に合流してないらしいし。
リムルの不安要素を解消するため、ソウエイが直接首領に話をつけてくるらしい。ソウエイなら大丈夫だろう。むしろやりすぎないか心配になるぐらいだが。
会議の話し合いは、
俺も、やるべきことをやらないといけない。トレイニーに合図を送り、小屋から移動して森の中に移動する。警戒しつつも、トレイニーは俺との一対一に応じてくれたようだ。
「エミルス様、ご用件はなんでしょうか?」
「騒動の裏に潜む魔人のことだ。今回、俺はリムル達の行動とは別にアイツらと接触するつもりでいる。ゲルミュッド、そしてその裏にいる魔王に俺という火種を教えてやるつもりだ」
ヤツの配下になるのはごめんだが、協力関係にならなってやってもいい。情報を得るために互いに利用し合う関係にならな。
作戦を軽く伝えると、トレイニーは驚嘆の目をこちらに向けてくる。
「この作戦は、リムル様にはお伝えしているんですの?」
「いいや、敵を騙すにはまず味方からって言うだろ」
そう、これは長い長い作戦になる。リムル側で情報を集めるだけじゃ偏っちまう。他の魔王と接触しなきゃ、得られない情報だって当然あるだろう。こういう陰から隠れてコソコソ見ている魔王ってのは、俺の記憶じゃ一人しか思い当たらねぇ。
アイツと話すには、こっちも裏側に回り込むしかない。癪だがな。
「お前は俺と思念をつなぎ、ゲルミュッド、もしくはそれに近しい魔人が出てきた時に連絡してきてほしい。俺は『影移動』で、お前のところに移動する」
「それは、私が貴方を信用するという前提でしか出来ない作戦じゃありませんか?」
「そうだな、無理な相談かもしれねぇ。リムルならまだしも、俺なんて素性が知れないだろうし」
だが、俺はやらなきゃならねぇ。例えこの森の魔物全員を敵に回そうと、シンシヤのところへ戻らないといけない。娘の成長を見守れないってのは、父親として生まれた俺の存在意義が無いのと同義だからだ。
契約でも脅しでも使って、トレイニーをこちらの作戦に乗らせないといけない。何せ、森の情報網で行ったらトレイニーの方が断然上だからな。言わずに独断専行で挑むというの手もあるが、リムルに察知されれば何て言われるか分からないし。
「……作戦を話したことが、俺なりの誠意だと思っている。納得できないだろうが、俺はどうしてもそうしなきゃならねぇ理由があるんだよ」
トレイニーの目をじっと見つめる。相変わらず見定めるその目は冷たい。話してしまった手前こうなると手伝えないとしても黙ってもらう必要があるから下手すりゃ戦うしかないだろうが、そうなると色々面倒な事になる。できる限り避けたいところだが……
トレイニーは暫く沈黙していたが、やがて溜息を吐いて警戒を解いた。
「分かりました、森に手を出さないのであれば作戦に協力しましょう」
「あぁ、約束する。じゃあ作戦の詳細を今から教えるから頭に叩き込んでくれ」
俺はトレイニーに作戦内容を伝えた。あまり納得はしていない様子だったが、ひとまず了承の意を示した。
さて、俺はあまり面倒な事は嫌いだ。この二枚舌、手短に終わらせるべくさっさと動くとしよう。
ステータス
名前:エミルス=アゲンスト
種族:スライム
加護:逆風の紋章
称号:"魔物達の試験官"
魔法:なし
技能:ユニークスキル『鏡像者』
(『大賢者』『捕食者』『変質者』)
スライム固有スキル『溶解,吸収,自己再生』
エクストラスキル『魔血変換』
エクストラスキル『魔力感知』
エクストラスキル『血液操作』
エクストラスキル『分身体』
エクストラスキル『影移動』
スキル『威圧』『念話』『思念伝達』
耐性:熱変動耐性ex
物理攻撃耐性
痛覚無効,熱攻撃無効
電流耐性
麻痺耐性