転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

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24話 ジュラの森大同盟

 ユニークスキル『暴食者(グラトニー)』、大罪系スキルの進化前の姿。リムルが獲得したと同時に、俺にも『暴食者』が付与された。どうやら、先の戦いで『鏡像者』を使用したことにより自動的に『暴食者』を模倣していたようだ。とはいえ、新たに増えたのは腐食のみである。受容と供給があっても意味が無いだろうとは思うが。

 疑問だったのは、リムルが完全版の『暴食者』を獲得したことによって俺の『鏡像者』や『血液操作』を受容の権能によって獲得されるかと思ったが、そういう事は無かった。『鏡像者』による繋がりは、あくまで他のスキルの影響が及ばないものらしい。こちらとしては好都合だ。

 リムルが表で戦後の後処理をしている間に、俺は樹人族(トレント)の集落にやってきている。トレイニーの妹達であるトライアとドリスに案内され、隠居中のトレイニーのところへ訪ねた。驚いたのだが、隠居中のトレイニーは変装を学ぶべくヘアアレンジに勤しんでいたらしく今日はポニーテールで出迎えてくれた。いや、髪型を変える前にせめて色を変えろよ。

 

「妹達から状況を伺っております。オークロード……いえ、オークディザスターを討伐してくださり、本当にありがとうございます」

「礼なら俺じゃなくてリムルに言うんだな。いや、言えねぇのか」

「ふふ、エミルス様は冗談がお好きなようで」

 

 トレイニーは笑みを浮かべる。隠居中なのに元気そうだ。心配する必要もなかったな。

 壁によりかかって溜息をつくと、トライアの方を見る。

 

「で、トレイニーがいない間はトライアが代表代理として動くということでいいか?」

「えぇ、そうです」

「私に務まるか分かりませんが、全力を尽くします」

「事の発端は俺だし、巻き込んじまった代わりに色々サポートしてやるよ」

「トライア、不安な時は私のところに戻ってきていつでも相談してくださいね」

 

 作戦に協力した報酬で持ってきたポテチを食べながら、トレイニーはトライアに声を掛ける。トライアは不安げな様子だが、深く呼吸すると覚悟を決めた顔をこちらに向ける。

 改めて言うが、トレイニーが生きていることを知るのは俺とトレントの集落にいる奴ら。そしてリムルだけだ。心配する必要は無いと思うが、ヤツが口走らないことを願うばかりである。

 

「エミルス様、1つお聞きしたいのですが」

 

 トレイニーが俺に問う。

 

「なんだ」

「貴方の胃袋の中には何がありますか?」

「……魔鉱塊とフルポーション、あとは微々たるものしかないはずだが」

「それらとは別に、妙な気配を感じていたのですけれど」

 

 妙な気配、思い当たる節があるのはシズの血くらいだが気配を感じるようなものだろうか。妙な気配を探そうにも、俺が俺の胃袋の中に入れるわけじゃねぇし『大賢者』は解析しても結果を報告しないからな……今のところは放置するしかない。リムルに解析してもらう案は脳内から弾き飛ばした。

 トレイニーは反応に困った俺を見透かしたのか、柔らかく微笑みそれ以上追及することはなかった。

 

 

 

 

 

 魔王ゲルド討伐の翌日、戦争に参加したそれぞれの種族の代表がリザードマンの住処に集まった。俺も出席しろとリムルから直属の命令があったので、トレントの集落からそのままトライアと一緒に出席した。リムルや鬼人達は大層驚き、特にリムルとシオンはどういうことかと問い詰めてきた。個人的に彼女等と縁があっただけだ、と突っぱねる。

 トレイニーさんは先の戦いで密かに魔人と接触し、深手を負って現在休養中のため代理としてトライアが出席したという名目だ。リムルが何か言いたげだったが、大人しくスライムの姿になりシオンの膝の上で会議が開かれるのを待っていた。

 参加する種族は、ホブゴブリン・黒嵐星狼(テンペストスターウルフ)(というよりもランガと言った方が正しいだろう)・鬼人族・蜥蜴人族(リザードマン)豚頭族(オーク)樹人族(トレント)樹妖精(ドライアド)

 そして俺とリムルのスライムだ。

 戦争責任を負わされるであろう生き残りのオークども。あれだけ駆逐してもまだ15万いるというのだから驚きだ。ただ、オークの自治地域による飢饉での深刻な食糧問題は解決されておらず、『飢餓者』の影響を受けていない今のオークならば飢え死にする者が続出するだろう。さて、リムルはどうするというのか。

 

「では、議長リムル=テンペスト。お願いします」

 

 トライアの鶴の一声によって、全員の視線はリムルに集中する。困惑気味のリムルが言ったのは、理屈などない自らの本音だ。オークに罪を問わない。オークの全員の罪はリムルが喰らったから文句は俺に言え、とのことだ。なんとも漢気に溢れた回答である。ただ、戦争責任を負わせたとしてもオークの命を無駄に減らすだけだしな。問題が解決できるのなら、その判断は妥当であると言えよう。

 そもそも魔物の唯一不変のルールである「弱肉強食」がある。リムルの言葉に反論できるものはほとんどいないだろう。リザードマンの首領が問いかける。

 

「オークをどうなさるのですか? 生き残った彼ら全てを受け入れるおつもりですか」

「夢物語のように聞こえるかもしれないが、皆で協力できればと考えている」

 

 その問いに対して、リムルはジュラの大森林の資源の共有を求めた。それぞれの地域で食料を集め、その対価としてオークは労働力を捧げる。ジュラの大森林の同盟というわけだ。それが出来るのであれば、確かに問題は解決できるかもしれない。未来を知っている俺からしてみれば、この流れからリムルの旗印の元で多種族共生国家が誕生したのだろう。

 この場にいる代表達はリムルの理想に共鳴したようだが、懸念点がある。ジュラの森全域がリムル達の支配下になるなら、それはこの場にいない種族にも話を通さねばならないだろう。それに、魔物達による多種族共生国家。このことが知られれば人間達がなんて言うか分かったもんじゃねぇな。……まぁ、いずれ人間どものゴタゴタに巻き込まれるのは確定事項。静観するか、それともリムル側の勝ち馬に乗るか考えないといけない。

 クレイマンも動くだろうし。色々物思いに耽っていると、隣にいたトライアが立ちあがって高らかに声を上げた。

 

「森の管理者代理として、私トライアが宣誓します。リムル様をジュラの大森林の新たなる盟主として認め、盟主リムル様の名の下にジュラの森大同盟は成立いたしました」

 

 よし、一先ず面倒事はリムルに任せて俺は今後の行動を考えねぇと。

 これで会議は終了するかと思われたが、突然リムルが人間の姿になり困惑する俺の肩に手を置いて高らかに宣言した。

 

「コホン、えー……エミルスを副盟主と任命する。俺の監視役兼緊急の代理として俺と同等の地位を持っているからその認識で、みんなこれからよろしく頼む!」

「はっ!」

 

 ……あ? 俺が困惑している間に、息の揃った声が空洞内に響く。同盟に参加した代表達は全員膝をついて忠誠の意を誓った。

 聞いてない、そんなもの聞いてねぇよ! 副盟主だぁ? 今まで役割で縛り付けようとしなかったくせになんでいきなりここまで押し上げられてんだよ!

 今すぐ横であくどい笑みを浮かべているそいつを殴りたいが、公共の場であるためぐっと堪えてこの地獄の時間が過ぎるのを待つ。ほんと、後で覚えておけよクソスライム。

 俺の怒りがひとしれず増していく中、会議は滞りなく終了した。ドライアド達が乾魔実という食糧問題を解決できる果実を貯め込んでいたのと、ランガがテンペストスターウルフに進化して種族全体の素早さが上がったことによりスムーズに輸送が可能になったことで、危惧していた食料問題があっという間に解決した。

 問題は、15万のオークどもの名付けである。名付けの権限を持っているのはリムルなので全てを任せることにした。

 

「そんなことないから! お前も好きに名付けていいんだぞ、俺の魔素をごっそり持っていったから充分名付けはできるだろ」

「チッ、気づいていたか。でも俺はお前みたいにほいほいと名付けはしねぇよ」

 

 この世界で配下増やしたって元の世界に持ち越せるわけでもねぇし。

 配下を増やすことに力を注ぐなら情報を探した方がいいな。という本音は置いておいて、のらりくらりとリムルの追撃を躱すことに成功した。シオンに引きずられていくリムルを見送って俺は数日ぶりの町へ帰還することにした。

 

 

 誰にも悟られないように『影移動』を使って裏口から帰ってきたはずなのに、当然の如くシュナが待ち構えていた。自分のユニークスキルで位置を把握でもしていたのだろうか。戦いやら策謀やらで疲れた俺は、とりあえず一人になりたかった。そういえば、頼んでおいた俺だけのテントはできてるのか?

 

「エミルス様! お帰りなさい」

「あぁ、テントはできたか? 疲れたから一人にさせてくれ」

「できてますよ、こちらへどうぞ」

 

 シュナに案内されたのは、俺の要望通り町の隅に置かれたテントだ。中に入って見ると、一通りの家具は揃っているようで住み心地も悪くない。ここならある程度誰にも邪魔されることはなさそうだ。ベッドに横たわるとその心地よさに存在しないはずの眠気が襲ってきた。このまま、元の世界に帰れたりしないだろうか。

 俺は自ら意識を手放して、睡眠というものを味わう事にした。

 

 

 

 

「エミルスよ、もし私達が本物になったとして、その先は何をするつもりなんだ?」

「あ?」

 

 クレイマンの偽物である解脱者(モークシャン)が俺に問いかける。これは夢と呼ばれるものだろう。

 なら、これはいつの会話だ? モークシャンがいるなら、俺が生まれた前の世界での出来事だろう。

 俺の意識とは別に、夢の中の「俺」は雄弁に語った。

 

「本物になったなら、俺の理想を徹底的に叶えるだけだ。俺が作った理想の町で家族と一緒に暮らす」

「それは、本物も抱いているものと似ているな」

「今の時点では、俺はアイツの偽物だからな。だから、慈悲深い俺がアイツの分の理想も喰らい尽くしてより強い俺が本物になるんだよ」

「あぁ、俺もそうだ。やはり君とは相性がいいな」

 

 それ以上の会話はやめた。まずは本物に成り代わらないと話は始まらないからだ。

 だが、今になって考えてみれば、鏡の中の世界で本物になったとしてこの先の未来がどうなっていくのか考えもしなかった。もしかしたら、それが鏡像体の意識の限界なのかもしれない。

 この世界を見たシンシヤが何を思うかなんて、俺には考えられなかったんだ。だから、否定された。俺の存在が自由なアイツを縛っていた。当たり前の事。

 

 もし、今の俺をシンシヤが見たらどう思うのだろうか。

 まだ父親として認めてくれるだろうか。

 

 

 

 

 身体に重石を置かれたような息苦しさを感じて、意識が浮上する。

 

「ン……」

 

 懐かしい夢を見た気がする。夢というのは記憶の整理らしいが、俺の記憶は少なすぎて整理するものでもないだろうに。どのくらい寝ていたんだ。体感的には一日も寝ていない気がする。目を開けて自分の下半身を見ようとすると、ゴブタの頭が見えた。大きな寝息が聞こえてくる。

 またハクロウのところからサボってきたのだろうか、起き上がろうとしたとき左手に妙な違和感を覚えてそちらを見る。俺の左手に手を重ねたまま寝息を立てるシュナがいた。穏やかな表情で眠るそいつをたたき起こすわけにもいかず、実質縛られた状態のまま時が流れるのを待つしかなかった。

 さっきから視界の端でテントの隙間から覗き込んでる鬼人どもがウザいので、睨みをきかせてやると各々気配を消したり仕事に戻ったりしていなくなった。お腹の重みがなくなったと思えば、ゴブタが消えている。ハクロウがどうやら連れて行ったようだ。そういえば、時間を聞くのを忘れていたことを思い出す。

 ソウエイに『思念伝達』を送る。

 

(ソウエイ、俺が眠ってから何日経過した?)

(二日ほどでございます)

 

 ……軽く低位活動状態(スリープモード)に陥っていたようだ。体感というものは当てにならない。

 ちなみに、オークの名付けはまだ終わっていないらしい。ハハ、まじかよ。




エミルスのユニークスキル権能まとめ

『鏡像者』……鏡面転移:鏡面になった物質から物質へと転移する。ただし自分が触れたことがある物質のみ。
       実像模倣:対象者のユニークスキルと耐性と姿を模倣する。ただしスキル全ての効果の模倣は不可。
       実像同化:対象者と魔素を共有し、魔素を送ったり吸い上げたりできる。強化することも可能。
       ????:?????

『大賢者』……並列演算・森羅万象・解析鑑定(ただし問には答えられない)
『暴食者』……捕食・胃袋・腐食
『変質者』……統合(姿のみ)・分離
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