転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

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32話 テンペストの王

「朧・地天轟雷!」

 

 既視感があるガゼル・ドワルゴの技を見事に見切ってみせたリムルが勝者となった。というか、俺達がハクロウにボコボコにされた技じゃねぇか。ガゼル王が小さい頃お世話になった剣鬼ってのがハクロウだったらしい。俺もまだ見切れてないのによくやるもんだ。本番に強い性質なのは実に羨ましい。

 新設された中央の建物は俺達の執務室や会議室があるほか、賓客をもてなす為に部屋があった。一同は饗すことになり、その場所へ移動することになった。リムル好みの和装で、俺には馴染みがない文化に戸惑いつつもリムルの隣に配置されて酒と食事を嗜むことになった。配下達は酒に酔い潰れ、日が落ちきった頃には宴のような騒ぎになっていた。リムルと対峙していた時の王の姿はなりを潜め、飄々とした姿を曝け出している。むしろアッチが素か? ハクロウとの数百年振りの談義を楽しんでいるようだ。

 アルコールを分解して酔わないようにしていた俺達は、隙を見計らってガゼル王の前に座り挨拶を交わした。

 

「悪い、紹介するのが遅れた。ジュラの森大同盟副盟主のエミルスだ、俺の補佐役を担当してる」

「どーも」

「ほう、リムルと同じく唯ならぬ者だとは思っていたがやはりか」

「お褒めに預かり光栄ですってな」

 

 酒を注いでやれば、気を良くしたガゼル王がぐびっと喉を鳴らす。目的を聞けば、やはりオークロードを倒した魔物達を調査しに来たらしい。王様直々とは、かなり警戒されていたようだ。

 

「して、リムルよ」

 

 先程の朗らかな表情が一気に引き締まり、王としてリムルに問いかける。緊張した面持ちでリムルが返事をすれば、ガゼル王は一拍置いて問いかけた。

 

「俺と盟約を結ぶつもりはあるか?」

「……!」

「お前がもしもこの広大な森をすべて掌中にできたならば、我が国をも上回る富と力を手に入れる事が出来よう。そのときに、後ろ盾となる国があれば便利だぞ?」

 

 ジュラの大森林は、面積が広い分多様な国と密接している。町を超えて国が出来ようとしているこの時にドワルゴン王国の後ろ盾がつくなど渡りに船だ。ただ、魔物の国を認めるメリットが思いつかねぇ。まぁコイツが魔王になることを知っている俺としては、未来を読めているなら盟約を結んでおく方が吉だと分かる。さすがにガゼル王もそこまで読んではないだろうが、発展途上のこの町を見て勝算はあると見込んだのだろう。

 リムルが悩んだ末に、結論を出す。

 

「断る理由はないな。喜んで受けたいと思う」

 

 互いに条件を見合わせ、再度改めて盟約を結ぶことを了承した。相互不可侵とか、ドワーフの保護とか、技術提供……例え条件を提示してなくてもリムルが勝手にやるであろう妥当なものだった。ドワルゴン王国が魔物の国として認めてくれるという破格のメリットに比べれば安いものだ。一応、副盟主の俺にも了承するべきか否かを問われ、こくりと頷いておいた。他の配下達は全てリムルとエミルスに一任すると返答があった。最終的な判断はリムルであるものの、俺にも決定権があるのは些かおかしいだろう。

 そういって前に抗議したら、誰よりもリムル様のことを分かっているはずだからと遠慮された。魔物に年功序列とか無いはずだが、やはり配下どもは頭がおかしい。

 

「で、お前たちの国の名前はなんというのだ?」

 

 リムルの動きが止まる。コイツ考えてなかったな? 助けを求めるように目線だけが俺の方へ向けられるが、顔を横に振って無視を決め込んだ。配下達もこくりと頷く。事の発端はお前が多種族共生国家とか作れたら面白そうとか言ったのが原因だからな。言葉の責任は自分で取るべきだろう。ヴェルドラを腹の内に収めているお前以外にこの森の国王を務められるやつはいないだろうよ。

 リムルが悩むこと数分。

 

「ジュラ・テンペスト連邦国だ」

 

 魔国連邦(テンペスト)の名がここに誕生した。リグルドの案により、町の名前は中央都市リムルに決定した。何故か配下達は俺の名前も入れようとしていたが、町の名前に入れられるとかどんな拷問だよ。丁重にお断りさせていただいた。「俺の意見は無視かよ!」とリムルが騒いでいたが。      

 ……そういえば、俺のファミリーネームをこいつらに言ったことあったっけ。まぁ、別にどうでもいい。存在しないアゲンストの名前が世に出ることはないだろう。

 ガゼル王とリムルが握手を交わし、拍手が鳴り響く。

 

 魔国連邦(テンペスト)。俺がかつて滅ぼそうとした国の誕生を、この眼で見届けてしまったのである。

 

 

 

 宴はお開きになり、各々の住処へ戻っていく。夜が更けてきたところで俺もさっさと自分のテントに帰るかと移動しようとした。

 

「待て」

 

 ガゼル王が俺を止める。部屋と部屋を繋ぐ廊下であり、俺とガゼル王二人だけの空間だ。邪魔者はいない。故に、本音で語り合うことも出来よう。しかし、ここにいるのは本物の王と、偽物の王である。

 

「俺はリムルの本性を剣で見抜いたが、貴様はどうだ?」

 

 片手間で酒を嗜みながら、凍て付く瞳をこちらに向けてくる。『威圧』の上位互換である『英雄覇気』が俺に対して発動していることに気づいた。とはいえ、『魔王覇気』を知っている故にその技は効かない。意に介さない様子を見たガゼル王は、興味深そうに問いかけてきた。

 

「貴様の本性はなんだ? 見た目は似通っていても、歪な性質を持っていることは分かっているぞ」

 

 ガゼル王の問いは最もだろう。リムルと同等の権力を有しているのに突っ掛かってくる気配が無かったから拍子抜けするところだった。

 

「お望みなら剣で試してみてもいい。だが、剣と言っても俺は刀・双剣・ナイフと色々あるんだ。ガゼル王がお望みのもので相対するか?」

「ふん、その言葉で大体察しがついた。貴様は自らの道を決めあぐねている道化だ、宴会の最中も常に観察を怠らなかったのが証拠である」

 

 酒や食事にうつつを抜かす暇があるなら少しでも情報を取った方がいいと思うのは合理的なはずだ。人の常識で見れば、普通は仲間と一緒に談笑するものなんだろう。仲間であるはずなのに、その一挙手一投足を見て最適解の行動を取る。それ自体が異様である。ガゼル王はそう言いたいらしい。仲間と談笑するなんてこと、やったことがない。俺は生まれた時から王としてそこにいたからな。

 ただ道化とまで言われるとは思わなかったが。

 

「自分の事は理解しているつもりだ。俺は俺なりにテンペストに貢献しようと思っている」

「……なるほど、貴様はあやつ以上の腑抜けだ。上に立つ者としての覚悟が無い」

「俺はアイツらの上に立ったつもりはねぇよ。アイツらの主はただ一人――リムル=テンペストだけだ」

 

 鏡国連合(マッドシティ)が無くなった時点で、俺の王としての立場は消えた。俺はもう二度と王になることはない。なるつもりもない。

 俺の家族はシンシヤだけだ。もう二度と、増えることも無いだろう。

 俺の言葉をどう捉えたのか知らないが、ガゼル王の顔は険しくなり見定めるような視線に射抜かれる。睨み返してやれば、わざとらしく顔を振って哀憐の表情を浮かべた。

 

「なら、貴様は魔国連邦(テンペスト)という国のために何が出来る?」

「さぁな、強いて言えば影武者とかじゃねぇか」

 

 煽るように軽々しく口にしてやれば、ガゼル王はそれ以上追求してこなかった。

 

「今の貴様には、何を言っても聞かんのだろうな。剣を交えることすら無意味だ」

 

 静かな溜息が零れ、ガゼル王が立ちあがる。俺の傍を通り抜けようとした時、俺だけに届かせる微かな言葉が鼓膜に響いた。

 

「だが、エミルスよ。意志があろうとなかろうとお前はリムルと共にこのテンペストの住民の命を預かる立場となったのだ。それを努々忘れるな」

 

 その自覚を持てるようになった時、貴様の剣を見てやろう。そう言い残してガゼル王が退出する。後に残されたのは、かつて王だった偽物だけだ。

 ガゼル王、やけに俺だけ突っかかってきやがった。俺の存在がどうやら気に食わないらしい。

 もし、この説教じみた時間も首謀者が思い描いていた通りの道筋(シナリオ)だとしたら、首謀者は随分な悪趣味だ。

 

 虫唾が走るような戯言だが、そう思わないとやってられない。俺は父親としてシンシヤを見守る使命がある。だから早くシンシヤの所に帰らないといけない。呑気にお仲間ごっことかやってる場合じゃねぇんだよ。

 でも、元の世界に帰れるような高度な魔法や技術を探すためには王に近い立場で秘匿された情報を暴くか、情報網を広げて色んなヤツから聞き出すしかない。近道はリムルの近くにあるのは変わらないのだから、ここでグダグダ言い返さない方が良かったのだろう。意地というはどうにも厄介な感情だ。

 

 結局、結局俺はまだ首謀者の盤面の上にいる。今のところは導かれた通りに進むだけの歩兵(ボーン)に過ぎない。

 思わずため息をついた後、思考を整理しつつスライムの姿に戻る。

 

 ――お前の目的のために無条件で手を貸すし、お前のピンチを助けたいって思う。

 

 不意にヤツの言葉が想起する。前の世界で死闘を繰り広げたアイツとは違って、宴会で食べた果物のように甘ったるい。シンシヤが桃なら、リムルはブルーベリーだろうか。

 胸焼けしそうなのに、不快感は無かったのが最悪だ。

 

「何も知らねぇバカスライムのくせに、そういうところが嫌いなんだよ」

 

 

 

 とある客室の一角にて。ガゼル王とその側近は会議を開いていた。議題は2つ、「テンペストとエミルス」だ。ガゼル王とリムルの勢いで決まった盟約を、改めて突き詰めていく必要があった。テンペストの未来を決めるための判断材料として、エミルスを考慮しなければならない。

 ガゼル・ドワルゴのユニークスキル『独裁者(ウエニタツモノ)』は読心の権能を持つ。表層意識から深層意識まで読み取ることで交渉に対して優位を取れたり、戦闘に置いても流れを読むことが出来る優秀なスキルである。実際、リムル=テンペストの時もこのユニークスキルで思考を読み取り、邪念があるかどうか判断することができた。

 だが、ガゼル王のユニークスキルはエミルスに対して行使することが出来なかったのだ。これは前代未聞の事である。例え強者であろうと、表層意識ならば読み取れる。エミルスに対してユニークスキルスキルを使用した時、空気を通り抜けたように、何も無かったのだ。対象が存在しない。つまり、エミルスには心が無いのである。ガゼル王が伝えた時、側近達はざわついたが彼の王は冷静に呟いた。

 

「そう判断するのは時期尚早、何か別の要因があるのやもしれぬ。尤も、現状アレは放っておいても問題無かろう」

 

 心を読み取らずとも、顔の動きや仕草などから簡単に分かった。エミルスはわざと自身に敵意を持たせるように誘導している。自己矛盾を抱えた存在に対して不安視する声は少なくない。やはり早計だったのでは、と苦言を呈する側近に対してガゼル王は即座に否定した。

 

「無論、対応は考えてある。だが、今は一先ず静観であろうな」

 

 エミルスに無理やり接触すれば、それこそリムルの怒りを買ってしまう可能性もあるのだから。王はそれ以降沈黙を貫いた。

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