転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

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33話 トカゲの尻尾

 武装国家ドワルゴンの同盟が成立した。ガゼル王が帰った後、俺達は話し合いの末に正式な役割を決めた。リムルは盟主ではなく国王。そして俺は副盟主ではなく、摂政という立場を担うことになった。リムルが何らかの理由で国から離れた時は、俺が指揮を取らなければいけない。ある程度の話は聞いておくが、リムルの問いに生返事で返しておいた。こういうのは復活したヴェルドラにでも任せれば……いや、アイツはダメだな。

 ともかく、現状維持を続けるしかなかった。

 

 そこから二日後、間を空けずにあの豪快なガゼル王は舞い戻ってきた。どうやら大層リムルが気に入ったらしい。ガゼル王の配下達が茶色の布に包まれた何かを地面に放り投げると、気絶したオッサンの顔が見えた。

 

「ベスターじゃねぇか!」

 

 カイジンとリムルが驚いている。そういえば、帰ってきてから愚痴ってたな、オッサンに絡まれたとかなんとか。興味が無さ過ぎて右から左へ流していたが、コイツのことを言っていたのか。あの時はスライムだったし、舐められてもおかしくはなかっただろうから特に気にしていなかった。

 

「有能なこいつを遊ばせておくのはもったいないのでな。とはいえ、俺に仕えるのを許すわけにもいかん。好きに使え」

 

 早速技術提供をしてくれるとは、気前がいいな。ベスタ―と呼ばれたその男は、状況が読み込めていないようだったがガゼル王の叱責で胸を打たれたようで強い誓いを口にしていた。

 

「リムル殿、カイジン殿。許されるならここで働かせてもらえないだろうか」

「リムルの旦那、エミルスの旦那。何かあったら俺が責任を取ります。ここは俺を信じて、こいつを許してやってください」

「カイジン殿……」

 

 情に厚いとはこのことを言うんだろう。コイツの自己顕示欲に巻き込まれて面倒な事になったってのに、カイジンは全てを許すつもりのようだ。ドワーフの仕事人気質はこういうところでも発揮されるらしい。

 

「カイジンがそれでいいなら俺も文句は無いよ。な、エミルス」

「あぁ、好きなだけ働けよ」

 

 唐突に俺に振ってくるんじゃねぇよ、こういうのは当事者同士で解決するべきだろ。

 

「ベスター、よろしくな」

「はは、不肖ながら精一杯努めさせていただきます」

 

 ベスターが頭を下げると、ガゼル王はこくりと頷いた。俺を一瞬だけ一瞥した後で、猛々しく別れの挨拶を放ち、天馬(ペガサス)に乗って空へ羽ばたいていった。周りから自然と拍手が鳴り響く。で、俺の横で呑気に拍手するこのトカゲはなんなんだよ。

 

「おい」

「ひっ! え、エミルス殿……」

 

 なんだ、やけに怖がられているようだ。俺に声を掛けられただけで数メートル後ろに下がったぞ。何やら小声で「エミルス殿は怒らせるとまずいっすよ」「な、なんと申し上げたら……」と相談し合っているようだ。リムルが呆れながら俺に近づいてくる。

 

「すっかり怖がられてるな」

「何もやってねぇよ」

「お前アレをしたの忘れてるのか……?」

 

 アレってなんだよ、意味が分かんねぇな。まぁそんなことはどうでもいい、ガビルがここに来たってことは仲間になってくれるってところか。リムルもコホン、とわざとらしく呟きガビルに対して問いかける。

 

「何やってんだ? お前」

「あっ……いや、はっはっ! このガビル、リムル殿とエミルス殿のお力になりたくはせ参じましたぞ」

 

 お調子者なのは相変わらずのようだ。配下達がガビルを賑やかすのも助長させてしまっている気がする。シオンが冷静に斬ろうとしていたのを見て、ガビルが慌てて訂正した。予想通り、配下に加えて頂きたいと膝をつき首を垂れた。ガビルの妹と部下達は、勘当された兄とは違って見聞を広めるために送り出されたようだ。

 しれっと混ざり込んでいる辺り、蜥蜴人族(リザードマン)は紛れる才能があるのかもしれないなどとくだらないことを考えつつ、あまりにも憐れだと思ったリムルが配下に加えることを許していた。

 

 さて、名無しの魔物が増えたからには名付けの時間だ。当然の如く名付けを拒否し、全てリムルに押し付けた。半ば諦めているらしく今回は食い下がらなかった。ガビルの妹と従者達、そしてガビルの従者達を順番に名付けていった。羨ましそうに目をキラキラさせるガビルを見て、リムルが呆れたように呟く。

 

「羨ましそうにするなよ。お前にはガビルという立派な名前があるだろ」

 

 俺が止める暇もなく、コイツは名前を上書きしていった。憐れなのは無知であるお前の方だ。当然ゴッソリ魔素をもっていかれてしまい、人の姿を保てなくなってスライムになり低位活動状態(スリープモード)に陥った。仕方ないので『鏡像者』で魔素をギリギリ復活できる程度にまで分けてやると、淀んだ青色からいつもの水色に戻った。

 輝くガビルを横目にアホスライムを掴み上げて、睨みつける。

 

「テメェ、王様なった矢先にとんだヘマしてんじゃねぇよ」

「悪い悪い、まさか名前って上書きできるとは知らなくて……」

「……今回のは事故だったから許すが、次低位活動状態(スリープモード)になったら助けねぇからな」

 

 伸びたスライムをシオンに投げると、嬉しそうにキャッチした。それから数日後、名付けられた蜥蜴人族(リザードマン)どもは龍人族(ドラゴニュート)という種族に進化したようだ。見た目の変化がかなり大きいが、これは本人達の欲望の差から生まれたものだろう。ガビルの妹である蒼華(ソーカ)含む元親衛隊達は、ソウエイの下へ預けられた。人間らしい見た目に変化し、元々トカゲだとは到底思えない。

 

「後、ソウエイにはエミルスの監視を頼んでおいた。今後、独断で勝手に町を抜け出されたら困るからな」

「摂政に監視なんているのか?」

「王様に監視(シュナ)がいるんだから、お前にもつけるべきだろ」

 

 この感じでよくもまぁ国が作れたものだ。内心呟きながら、俺達はガビルの様子を見に行く。

 ガビル達とベスターはヴェルドラがいた洞窟でヒポクテ草の栽培、そしてポーションの研究だ。龍人族(ドラゴニュート)に進化してスキルも手に入れたようだし、洞窟の魔物達に遅れを取ることはないだろう。

 

「ガビル君。育成状況はどうかね?」

「おお! お二方、よくぞ聞いてくださいました。順調ですぞ、我が輩の努力の結晶をご覧ください」

 

 といって、ガビルは植木鉢を差し出した。雑草だった。

 スライムリムルの渾身の体当たりを食らわされた。コイツ、この洞窟内で雑草を育てられるとはある意味才能じゃないか? 無駄な才能だが。

 ベスターは特製の研究室を用意してもらい、ヒポクテ草を用いた回復薬を誠意製作中。俺達が作る完全回復薬(フルポーション)と同等のものを作れるようになったら、生産も容易になるだろう。

 

 もう1つ、ベスターが来たことによって新たな技術が浸透した。<刻印魔法>である。普通は魔法陣かなんかを使うらしいが、ヴェルドラのおかげで魔鋼の元となる魔鉱石が豊富にとれるので、直接魔鋼に魔法を封じ込めて使う荒業をしている。おかげで明かりをつけたり、転移魔法を町に配置することが可能になった。俺は『魔力感知』があるし、鏡さえあればどこにでもワープできるので必要ないが、今後町として色々な種族が訪れるのならあるにこしたことはない。

 

 

 

 

 ジュラ・テンペスト連邦国ができてから、様々な来客が庇護を求めて訪れた。行商人の犬頭族(コボルト)、農耕を営む小人族(ハーフリング)、川沿いに棲む魚人族(マーマン)など、一気に多種族共生国家らしくなってきた。中でも一番印象的だったのが二体の蟲型魔獣(インセクト)だ。

 Bランクの弧刃虎(ブレードタイガー)を二体で撃破していたようで、初めて見た時は大層驚いた。身体を半分近く失っていたがリムルが自身の細胞を分けて甲斐甲斐しくお世話してやり無事に元気を取り戻した。黒茶の殻で覆われた方をゼギオン、黄色の飛んでる方をアピトと名付けてリムルの配下(ペット)になっていた。トレントの森近くの花畑で蜜集めに勤しんでいるようで、時折トレイニーの様子を見に行く度顔を合わせるようになった。

 

 トレイニーと言えば、俺が町から出ている間に擬態を覚えたようで漸く外出できるようになったらしい。おかげで皆の前に顔を出せるようになったらしいが、トライアの成長ぶりに喜んで今は補佐として見守っているだけに留まっている。

 俺が町に帰ってきた時、リムルから「トレイニーさんの様子を見に行ってやれよ?」と土産のポテチを俺に押し付けられた時はさすがに驚いた。せっつかれて顔を出したとき、トレイニーは拗ねに拗ねまくって土産のポテトチップスだけではなく俺の分まで根こそぎ奪い取っていった。『暴食者』を持っている可能性が浮上した。

 その時、トレイニーはテンペストに店を構えていたらしく酒場「スナック樹羅」の永久無料券を頂いた。ようは定期的に遊びに来いと言っているのだ。

 

 というわけで、俺は今日スナック樹羅に来ている。前回から一ヵ月経過しての来店だが、トレイニーは目の前で噓泣きを続けている。

 

「エミルス様はひどいですわね、私をここまで放置するなんて……」

「一ヵ月は別に普通だろ」

「私としては週に1回でも構いませんよ」

「摂政はそこまで暇じゃねぇよ」

 

 グビッと一口で酒を煽る。雰囲気でしかないが、一度だけなら酔いというものを体験してみてもいいかもしれない。客は俺以外いないと思っていたが、何故かアピトとゼギオンも俺の隣で酒を嗜んでいる。トレイニーが言うには、蜜液を使用した特製蜂蜜酒(ミード)を試しに飲ませてみたら気に入ってくれたらしい。スナック樹羅の常連客になったようだ。

 

「……エミルス様」

 

 突然、ゼギオンが俺に話しかけてくる。蜂蜜酒(ミード)を飲んで上機嫌なアピトとは別に一言も喋らないゆえに、いきなり話しかけられると身構えちまう。顔を見て分かったが、コイツは俺と同じ赤い瞳を持っている。

 

「俺は、強くなりたい」

「それで?」

「指導をお願いしたい」

 

 既視感があると思ったら、この流れはランガとゴブタの時と一緒じゃないか。なんでリムルやハクロウじゃなくて俺なんだ、話しかけやすい雰囲気でもあるのかよ。とはいえ、コイツは中々に強い。ランガやゴブタも成長しているとは思うが、正直このゼギオンとかいう奴は才能の原石だ。俺の勘がそう言っている、磨けば磨く程強くなる。それこそ、前の世界で対峙したディアブロと同等かもしれないくらいに。

 蟲型魔獣(インセクト)の修行なんてどうやればいいのか分からないが、育ててみたい。

 

「俺がたまに指導してるやつに、ランガとゴブタがいる。そいつらと一緒でいいって言うなら見てやってもいい」

「……感謝する」

 

 ゼギオンは重そうな身体で僅かに首を下げた。アピトは自分の事のように喜んでぐるぐると俺の周りを飛んでいる。トレイニーも何故か嬉しそうだ。

 

「そうだ、その指導が終わったら皆で遊びに来てくださいませんか? ご褒美の食事も用意しておきますよ」

「ゴブタは喜びそうだが、いいのかよ?」

「えぇ、妹たちの補佐が仕事ですし時間は充分作れます。事前に教えていただけたのなら貸し切りにしますよ」

 

 トレイニーの言葉に反応したのはアピトだ。

 

「それなら、私も修行を見守ってていいですか? 私一匹だけで仕事をするわけにもいきませんから」

「あぁ、別に構わねぇよ」

 

 蜂蜜酒(ミード)が欲しいだけじゃないのかと思いつつも、理由は納得するので了承した。

 そんなわけで、ゴブタ・ランガ・ゼギオンの修行に月2回時間を取る事になり、アピトを連れてそのままトレイニーのお店で親睦会の真似事をすることになった。

 

 

 

「うひゃ~! この蜂蜜って食べ物めっちゃ甘いっすね!」

「アピト殿とゼギオン殿の働きは、我が主もお喜びになることであろう」

「うむ」

「褒めすぎです。私は蜜を集めていただけですで……」

「なんかアイツ甘味に執着してたし、これを使って俺の要望を通させることも出来そうだな。ククク……」

「エミルス様顔が怖いっすよ……」

「ふふ、この店も随分にぎやかになりましたね」

 

 蜂蜜の試食をしながら、俺達は一時の時間を過ごすことになった、アピトもこの親睦会の為に最近仕事を頑張っているようで、仕事の納品とは別に余った蜂蜜を提供してくれている。甘味には興味がないが、いつか役に立つときが来るかもしれないので『胃袋』の中に収納しておいた。

 

「おーい、遊びに来たぞ!」

「お邪魔しますね」

「……なんでここにいるんだよ、シオンと能天気スライム」

「なんで俺だけ敵意むき出しなんだよ……」

 

 何故か時折シュナやリムルとシオンが遊びにやってきたりすることがあり、中々の大所帯で食事をする機会ができたのだった。

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