34話 竜の慧眼
ある日、俺の『魔力感知』が強大な魔力の塊を捉えた。暴風竜ヴェルドラと同等、もしくはそれ以上。てことは十中八九間違いなく
リムルは町から離れて高台へ移動する。流星は軌道を変え、真っすぐリムルの目の前へと降り立った。地面が大きく揺れ、風が吹き荒れる。町の中にいたら建物が数個吹き飛んでいてもおかしくない衝撃波だ。
彼女が降り立った場所は地面がクレーター状に抉れ、最早見る影もない。豪快に登場したソイツは、
「初めまして! ワタシはただ一人の
魔王直々に降臨とか、リムルも災難だな。ミリムがリムルに近づくと、影の中だというのに鋭い視線が突き刺さった。分かってはいたが、さすがにバレてるか。
「そこのお前、さっさとワタシの目の前に出てくるのだ! お前達がこの町で一番強そうだったから、あいさつに来てやったのだぞ!」
さすがにここで軽口をたたいたら面倒な事は分かっている。素直にリムルの影からスライムの姿で出てくると、ミリムは僅かに関心したような声を漏らした。彼女の眼はどうやら何かのユニークスキルのようだが、俺が特殊な状態にでもなっているのか? その疑問はすぐに晴れた。
「ほほう、お前は
「え、お前そうなの?」
「……」
あ? なんだそれ。
リムルも知らなかったようで、思わず素の声が出てしまっていた。リムルの『大賢者』の解析鑑定は、俺の種族を見抜くことが出来なかったらしい。そうなれば俺が知る由もない。
ミリムは興味深そうにしゃがみこみ、俺とリムルの身体をツンツンと突き始めた。抵抗すれば消される。そう思わされた俺達は素直に受け入れるしか道はない。ミリムは前の世界の俺でも勝つのは難しい。目の前の魔王をクソガキと重ねて見れば別にイラつく程度のことじゃねぇ。
「初めまして、この町のあるじリムルと申します。こっちは俺の補佐をしてくれてるエミルスです」
大分片言に喋って緊張気味なのが見て取れる。まぁリムルにとっては初めての本物の魔王だしな。リムルが正体を見破った方法を尋ねると、ミリムは気前よく自身のユニークスキル『
知識としてミリム・ナーヴァの事は知っているが、対面するのは初めてだ。様子を窺っていると、ミリムは俺達の姿を不思議そうに見つめて呟いた。
「ところで二人ともその姿が本性なのか? ゲルミュッドのヤツを圧倒したあの人型の姿は
やはりというか、あの場面は監視されていたらしい。ミリムが知っているなら、クレイマンも知っているはずだ。策謀好きのクレイマンなら、大方ゲルミュッドに何かを仕込んでいたんだろう。そうなると、『鏡像者』の権能はまだヤツにバレていないとみていいだろう。情報のアドバンテージは大事に保持しねぇと。
考え事で放置してしまったミリムに催促され、俺達は人間に変化した。
「おぉ、やはりお前達だったのだな。では、
「まぁ俺達が倒したけど……で、なんの御用なのでしょう?」
「用件だと? 挨拶しに来たんだけど」
気まずい沈黙が流れる。
なるほど、ミリム・ナーヴァはまじで単細胞なんだな。我儘を貫けてしまう狂暴性を持っているが故に、下手な敵より扱いやすいとみた。相手の素性を冷静に観察していたその時。
「覚悟!」
叫声を上げたシオンが空中に飛び上がりそのまま魔王ミリムへ剛力丸を振り下ろす。開戦の合図と同時に、リムルの影からランガが颯爽と駆け付ける。なんとなく事情を察し、翼を広げて空中に移動する。ランガはリムルを載せてこの場から逃亡するつもりのようだ。
シオンの剛力丸は軽々とミリムの片腕で止められていた。
「なんだ、ワタシと遊びたいのか?」
ミリムが剛力丸ごとシオンを衝撃波と共に投げ飛ばす。おいおい、強すぎるだろ。
続いてソウエイが糸でミリムの身体を拘束し、間髪入れずにベニマルの
だが、あまりにも相手が悪すぎる。
「アハハハ、うわぁすごいのだ。これ程の攻撃、ワタシ以外の魔王なら無傷では受けられなかったかもしれぬぞ。だが、ワタシには通用しないのだぁぁぁ!」
魔王ミリムの
まさそく、
「何ボーッとしてるのだ?」
「――ッ!」
間一髪のところで拳を避けるが、空気を殴り飛ばしたかのような衝撃で身体に負荷がかかる。一方でミリムは嬉しそうに笑みを浮かべ、もう片方の腕を俺の腹に埋めようとする。
喰らったら致命傷どころじゃすまないと本能が叫ぶ。収縮された気圧を纏って放たれる拳が、俺の身体に密着するコンマ数秒前で咄嗟に『鏡像者』を解除する。
拳とは思えない重たい爆発音がスライムの全身を強く震えさせる。翼を失ったスライムの身体は重力に従って自由落下する。地面にそのまま落下するかと思ったが、リムルが下で待ち構えて受け取めた。
「おい、大丈夫か?」
おえっ……直接受けてないはずなのに振動で気持ち悪い……
最悪な気分だ、こんなんリムルのとばっちりを喰らったも同然じゃねぇか。
『さっさとあの魔王様を止めてこい、方法はもう思いついてるんだろ』
『……あぁ!』
『思念伝達』でリムルに思念を送ると、ヤツはこくりと頷いて俺の身体をベニマルに預ける。回復薬で多少元気になったベニマルが慌てて受け止め、俺はリムルとミリムの戦いを見守ることになった。
「ほう……ワタシに立ち向かうのか?」
「自信があるのなら、俺の攻撃を受けてみるか?」
「アッハハハ、いいだろう。面白そうなのだ。ただし、それが通用しなかったらお前と珍しいスライムはワタシの部下になると約束するのだぞ?」
「分かった」
なんで俺の命運をリムルが勝手に決めてんだよ! と文句を言いたいところだが、アイツも勝算なしに言ってるわけじゃないだろう。胃袋からアレを取り出したということは、元々正面から戦うつもりなんて欠片もなさそうだしな。
リムルは右手に金色の液体を集め、水球となったそれを持って走り出した。
「食らえ~~~!!」
ミリムはリムルの動きをじっと見つめ、その攻撃を今か今かと待ち構えている。リムルは金色の水球を放り投げた――ミリムの口元に。そう、これはただの攻撃などではない。精神攻撃、胃袋をつかむための魅力的なアイテムを使用しただけだ。
案の定、ミリムの口が動いた瞬間彼女の瞳はキラキラと輝きだした。
「なんなのだこれは! こんなおいしいもの、今まで食べたことないのだ!」
大興奮といった様子で、ミリムの舌をおおいに満足させたらしい。
それもそのはず、これはアピトが集めていた蜂蜜である。甘味は高級品で、滅多に食べられるものではない。リムルがシュナからそう聞かされた時に打開策として、アピトが集めていた蜂蜜に注目した。俺も初めて食べたときは随分と関心させられたものだ。甘いという言葉の意味を理解した気さえした。しかし、リムルはもっと甘い食べ物があると言って、ベニマルがそわそわしていたことを思い出す。ちなみにだが、スナック樹羅のメンバーは修行の後にアピトから分けて貰っている。当然俺も持っている。カレーに蜂蜜を混ぜると美味いからたまに使っている。
閑話休題、つまり魔王といえども味覚があるなら食欲に抗えないというわけだ。
「どうした魔王ミリム。ここで俺の勝ちだと認めるならば、さらにコレをくれてやってもいいんだが」
「欲しい……だがしかし、負けを認めるなど」
「う~んおいしい」
「あ~っ!」
完全に翻弄されてやがる。だが、面白い。
ミリムは蜂蜜の魅力に憑りつかれてしまい、リムルが蜂蜜を食べきってしまう前に急いで契約を取り付けた。今回の件は不問とし、ミリムが今後この町に手出しをすることが無いと誓ってしまった。蜂蜜だけでここまで言わせられるとはな。本人は引き分けだと喚いていたが、これは完全勝利でいいぐらいだ。
もちろんリムルはその条件を受けた。ミリムに蜂蜜が入った瓶を差し出してやれば、ミリムは大喜びで受け取り子供のようにはしゃいでいた。
未曾有の天災を乗り切り、安心しきった配下達から安堵の声が漏れる。
だが、俺はやられっぱなしだからつまらない。もう一度人型に戻って後ろからミリムに近づき、耳元でこう囁いてやった。
「この甘~い食べ物を作ってるヤツと超仲良しなんだけどさ、俺の簡単なお願い事を聞いてくれるなら毎月、いや毎週コレを一定量渡すことを約束してやれるんだが……」
「ホントか!! もちろん聞いてやるのだ、このワタシに出来ない事などないからな!」
「フッ、ありがとな」
ゼギオン経由でアピトと仲良くなっておいてよかった。別にこの展開を予測していたわけではないが、これでミリムからも情報を引き出せるというもの。ククク……こりゃ役得だな。蜂蜜で舞い上がっているミリムを横目に、俺は零れる笑みを隠せなかった。
呆れた顔で見つめてくるリムルに無視を決め込み、そのまま通りまで移動することになった。
リムルから渡された蜂蜜を舐めて「おいしいのだ~」と満足そうに呟くミリム。その隣にスライム姿のリムルと、そのまた隣に俺が座っている。用事は済んだから逃げようと思ったが、ミリムの視線に射抜かれてしまい逃げ出すことが出来なかった。腹パンされるのはごめんだ。この様子だとまだ全然居座るだろうが、さっさと帰らねぇかな。
「なあなあ、お前達は魔王になろうとしたりしないのか?」
「なんでそんな面倒なことしないといけないんだ」
は? ならねぇのか。
ミリムの疑問にリムルが即座に否定して驚いた。確かに、コイツの願い通りなら悪名高い魔王になるメリットなんてどこにもない。それなら何故魔王になったんだ。……チッ、別にどうでもいいはずだ。あの頃の俺ならリムルの過去なんて興味を持つことすらありえなかったというのに。この緩み切った生活の悪影響だな。
だが、コイツが魔王にならなければ集まってくる情報も少ない。すでに俺が介入して歴史が変わっている以上、世界の修正能力を期待するか、最悪俺が動いてコイツに魂を集めなければならない。クソッ、なんで俺がオリジナルの介護プレイをしなきゃならねぇんだ。
「……エミルスは魔王になりたいのか?」
俺が長い思考に陥っていたとき、不意にリムルが俺に問いかけてきた。――そうか、リムルが魔王にならないなら俺が魔王になるという選択肢があるのか。そもそも、魔王種になっているかどうか怪しい。見た目だけは『鏡像者』で繕っても、中身までコピーできてるかはなんとも言えない。
それに、この世界で魔王になってしまえば、ある程度の地位が世界に認められてしまう。いずれ、元の世界に帰る時妨害される可能性がある。この選択肢は、リムルが本当に覚醒魔王になれない場合の最終手段だろう。
リムルの問い掛けに、暫く思考を巡らせた後に呟いた。
「本当に強さを追い求めたいなら、なるべきだろうな」
「そうなのか? ワタシの拳を避けたお前なら推薦してやってもいいぞ!」
「今はいい。俺は別にやりたいことがある」
なるとしたら、元の世界の帰還方法が確立した後だ。魔王になって首謀者を消し炭にしてから帰る。
「魔王になってからでも遅くはないと思うぞ?」
「面倒事が増えるだけだろ」
「それは同感だな、俺もやること沢山あるし」
「魔王だぞ! 魔人や人間に威張れたり強いヤツが喧嘩を売ってきたりするのだぞ!」
「退屈なんじゃないか、それ」
必死に魔王へ誘うミリムを、リムルが一刀両断する。その言葉に、ミリムは雷にでも打たれたような表情になった。まぁ確かに魅力的だが、家族との時間が優先だな。魔王のお楽しみは元の世界でゆっくり楽しむこととしよう。
ステータス
名前:エミルス=アゲンスト
種族:
加護:逆風の紋章
称号:"魔物達の試験官"
魔法:隠形法,気操法
固有スキル:『溶解,吸収,自己再生,影移動,威圧』
ユニークスキル:『
(『大賢者』『暴食者』『変質者』)……並列演算・森羅万象・捕食・胃袋・腐食・統合(姿のみ)・分離
エクストラスキル:『魔血変換』『魔力感知』『血液操作』『水操作』『分身体』『念話』『思念伝達』
耐性:熱変動耐性ex,物理攻撃耐性,痛覚無効,熱攻撃無効,電流耐性,麻痺耐性,捕食耐性