転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

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35話 竜姫の我儘

「じゃあそろそろ、気を付けて帰れよ」

 

 リムルが話を切り上げようとした瞬間、ミリムがスライム状態のリムルをがっしりと片手で掴み上げ、ついでに俺も何故か肩を掴まれて離れるのを許さない。

 

「まて、お前達魔王になるよりおもしろいことしてるんだろ? ずるいぞずるいもう怒った!」

「ええっ、怒ったって言われても……」

「酔うからやめろ!揺らすな!!」

 

 困惑するスライムリムルをぶんぶん振り回し、ついでに俺も肩を強引に揺らされる。視界が回ってまた吐き気が込み上げてくる。ミリムは子供のように駄々を捏ね始め、俺たちの弱々しい抵抗を気にもしねえ。

 ギチギチとリムルの体が悲鳴を上げるがどうすることもできない。

 

「教えろ! そしてワタシを仲間に入れるのだ! 町に連れていけ~!」

「わかったわかった! ただし条件がある。今度から俺達のことはさん付けで呼べよ」

 

 ミリムの拘束から抜け出したリムルは観念してその駄々を受け止める。俺も隙を見て肩についていた手を振り払うと、その行く末を見守った。

 

「ふざけるな、逆なのだ。お前達がワタシをミリム様と呼べ」

「じゃあこうしよう、俺達はお前をミリムと呼ぶから、お前もリムルとエミルスと呼ぶ。エミルスはそれでいいだろ?」

「……ああ」

「分かった。しかし特別なのだぞ、ワタシをミリムと呼んでいいのは仲間の魔王たちだけなのだ」

「はいはい、ありがとうよ。じゃあ今日から俺達も友達だな」

 

 それからリムルは俺とリムルの許可なく村で暴れないようにと約束させた。別にリムルと友達になった覚えはないが、頭はそんなに回らないみたいだし魔王ミリムと交友関係を結んでおけば悪い方向には転がらないだろう。適当に餌付けしておけば充分役立ってくれる。まさに虎の威を借りる狐ってこった。

 

「よろしくなのだ、リムル。それにエミルス」

「あぁ、よろしくなミリム」

「仲良くしようぜ、ミリム」

 

 ヴェルドラはリムルの胃袋の中にいるしノーカンとして、リムル以外に呼び捨てで名前を呼ぶ奴は久しぶりだ。これが前の世界で出来ていたら鏡面世界を本物にした後でも上手く立ち回ることができたはずなんだがな。そう上手くはいかないものだ。

 配下達はそんな俺達の様子を見て感心したようだった。

 その時、たまたま通りがかったトカゲが声を掛けてくる。

 

「おや、どなたですかな? このチビッ娘は」

 

 あ、ガビル(バカ)

 止める暇もなくミリムは渾身の一撃をガビルに喰らわせた。……こりゃ数百メートルは吹っ飛んだな。様子を見に行けば、完全に伸びたガビルが地面に転がっていた。自業自得なので擁護もできん。

 

「誰がチビッ娘だ! ぶち殺されたいのか?」

 

 どす黒いものを纏いながら唸り声を上げるミリム。

 どうやら地雷だったみたいだ。多分ぺったんとか言ったら同じく撃沈だろう。発言には気を付けなければならない。ガビルはというと、龍人族(ドラゴニュート)で無駄に硬いためすぐに起き上がってきた。リムルが彼女の正体を伝えると予想通りの大声で「なんですと!」と驚いていた。

 リムルが呆れ声でミリムを諭す。

 

「あのなぁミリム、怒っていてもすぐに殴ったりしたらダメだぞ」

「う……ワタシを怒らせる方が悪いのだ。それにあのくらいはあいさつのうちだぞ」

「へぇ、つまり俺に攻撃した時もアイサツみたいなもんだったってことかよ」

 

 恨みがましくミリムにそう問いかければ彼女はあっさり頷いた。避けなきゃ死ぬかもしれない攻撃をアイサツにするなよという反論はすんでのところで飲み込む。魔王に常識は通用しないらしい。

 もちろん、リムルは禁止にした。ミリムは不満げだったが郷に入れば郷に従えというしな。

 

 俺達はミリムに町の案内を軽くした後、リムルが広場に住民を集めて改めてミリムを紹介した。ソウエイが町中に知らせてまわったことで魔王が来ていることには気づいているみたいだが、まだ顔を知らないやつも多そうだったし。俺は壇下で行く末を見守ることにした。

 ミリムが壇上で自己紹介をすれば、魔王ミリムの名は広く知れ渡っているようでザワザワと戸惑いの声が漏れた。1部暴君を手懐けるリムルの手腕に感動して涙を流したりする者もいたが、まぁそれはどうでもいい。

 更に、ミリムはこの町に住むことを意気揚々と宣言した。その宣言によって住民達がまたもやザワつき始める。余程この町を気に入ったのか、それともリムルに惹かれたか。

 まぁ後者だろ。魔王に友達と言ってのけるやつだ。リムルみたいなやつはミリムも見たことが無いのかもしれない。

 

「ま、まぁ本人がそう言っているので、そのつもりで対応してくれ」

「何かあったらワタシを頼ってもいいのだ!」

 

 リムルとミリムの言葉に、わっと歓声が上がる。気前が良すぎて後々面倒な事になりそうな予感がする。特に別の魔王の企みに巻き込まれそうな予感が。

 ふとリムルがぽつりと呟いた。

 

「魔王と友達か――」

 

 サラリと零れた言葉に、ミリムは住民達に振っていた腕を下ろしてリムルに視線を送った。

 

「そうだな、友達は変だな……。え、えっと……友達というより、親友(マブダチ)だな!」

 

 お熱い友情って感じだ。前の世界のリムルとミリムもこんな感じだったのだろうか。

 はしゃぐミリムを檀下から見ていると、突然ミリムがこちらを向いてズンズンと大きな歩幅で近づいていくる。意図がわからず観察していれば、手を出してきた。

 

「なに自分は溢れ者みたいな雰囲気を出してるのだ。お前も親友(マブダチ)に決まってるだろう! そんなところに縮こまってないでもっと堂々とするのだ!」

「ちょ、おい!」

 

 無理やり壇上へと引っ張り出され、住民の歓声を浴びる。ミリムは俺に肩を組んできて、片腕でスライム状態のリムルを抱きしめる。両手にスライムといった状態で、満足そうに微笑んだ。まぁ、別に支障があるわけでもないし、好きにさせておくか。はしゃぐミリムを見ていると、何故かシンシヤを思い出して甘やかしたくなるんだよな……。

 こうして、魔王ミリムが魔国連邦(テンペスト)に入り浸る日々が始まった。

 

 

 ミリムの紹介が終わって、食堂へと移動した。食事が運ばれてくる。今日はカレーだ。

 前にゴブイチとペコが作ったカレーをエミルスが食べていたが、今回はカレーライスもどきを用意した。お米に似たイネ科の植物を発見し、現在品種改良中である。まだ元の世界の米の味とは程遠いが、カレーの美味さでなんとか仕上がっていた。

 あの第一回コックグランプリから、シュナも張り切って料理の開発に努めている。エミルスが食のおいしさ――というよりスパイスのおいしさに気づいてから、エミルスに出される料理は激辛料理ばかりとなった。今回のカレーもエミルスだけ色味が赤に近くなっている。前に一度ゴブタがエミルスの激辛料理を一口だけ試食したことがあったが、その時は文字通り火を噴いて卒倒した。しかも『火傷耐性』なるものをゲットしてしまったぐらいだ。当然子供舌であろうミリムと一緒に出せるわけがないので、シュナには果汁を多めにした甘口で用意してもらった。

 俺の判断は正しかったようで、ミリムはカレーを一口食べた瞬間、瞳をキラキラと輝かせて一心不乱に食べている。

 

「うまーーー!! こんな美味いもの、久しく食べた記憶がないのだ!!」

 

 と絶賛しつつ、御代わりしている。エミルスも用意されたカレーを満足そうに咀嚼している。正直、水無しで激辛料理を食べているお前が恐ろしいよ。一度だけ味覚を薄めて食べてるんじゃないか、と疑ったことがあるが「そんなつまらないことするかよ」と怪訝そうに言われてしまった。

 シュナはミリムとエミルスからの御代わりを嬉しそうに応えていた。

 微笑ましい光景だと眺めていると、その空気をぶち壊すように突如爆弾発言をした者がいる。

 シオンだ。

 

「ところでリムル様。ずっと気になっていたのですが、ミリム様にプレゼントされた品、あれは蜂蜜ですか?」

 

 シオンの問いにミリムが反応する。

 ミリムは自分の蜂蜜が狙われていると勘違いして、慌てて蜂蜜容器を隠した。

 

「やらんぞ! これはワタシのものなのだ」

「大丈夫ですよ、ミリム様。誰もミリム様の物を奪おうなどとは致しませんよ」

 

 シュナがミリムを優しく諭すと、安堵の息を吐いて食事を再開した。本当に魔王なのかと疑いたくなる程に、無防備な姿である。ゲームで見た魔王は、どちらかといえばエミルスみたいなヤツが多いし。ベニマルとソウエイには伝えてなかったし、ここで一度報告しておくか。

 

「そうだ。貴重な甘味である蜂蜜を砂糖の代わりに用意したいんだけど、まだまだ生産の目途が立っていないから全員に用意することは出来ないんだ」

 

 俺とシオンとシュナは、エミルスら特別修行組の打ち上げに時折参加している。そこでアピトが月に一回蜂蜜試食会を開催してくれることがあった。樹人族(トレント)の森の珍しい花々から採れる蜜は巨大蜜蜂(ジャイアントハニービー)の巣から取れる蜜とは比べ物にならないぐらい甘いのだ。

 

「薬としても成分を研究させたいので、中々食用には回せないんだよ」

 

 『解析鑑定』によると“特級万能薬”と解析結果が出ている。いざって時の薬として機能する優れものだ。だからこそ、普段の食事に用いることはまだ出来ないのだ。そういえば以前、エミルスにこのことを伝えたときに珍しく食いついてきたことがあったな。問いかけてもそれとなく躱されてしまって結局聞けなかったけど。

 ともかく、甘味を知ったシオンとシュナは、砂糖の発見に全力を注いでくれるようだ。女性三名はいつの間にか意気投合しているようで、仲が良いなと微笑ましい気持ちになったのだった。砂糖が発見されたら、ついにスイーツの登場だ。これは楽しみだな。

 

 夕飯も終わり、自慢の風呂場に案内する事にした。ドワーフ達が腕によりをかけて出来た浴場は、天然の温泉と遜色ない心地よさを生み出してくれている。何時でも温泉に入浴可能だ。シュナとシオンに連れられて、ミリムも大人しく付いていっている。

 俺もスライムの姿になってさりげなく混ざろうと思ったんだけど、エミルスに物凄い顔で威圧され、会議室へ連行されてしまった。お前普段は見逃してくれてたのにどういう心境の変化だよ!

 

 それはそれとして、スイッチを切り替えて今後の出来事について話し合うことになった。座布団が置かれて、その上にぽんと乗って険しい表情の皆に出来事を話して聞かせた。

 

「まさか魔王自らやって来るとは思いませんでしたな」

 

 リグルドが頭を振りつつそう呟いた。

 魔王の噂は常々聞いていたが、まさか魔王本人がやって来るとはまるっきり考えてもみなかったのだから。エミルスが顰め面で呟く。

 

「今回、魔王ミリムがやってきたってことは、他の魔王達もこの町を注目していることは間違いないだろうな」

「その通りだと思います。お二方がミリム様と友達だと宣言したという事は、魔王ミリムの庇護下に入る事を意味します。本らならそれは望ましい事かもしれませんが――」

「ジュラの森大同盟の盟主と副盟主であるお二方の決断はこの森の総意と見做される。つまり、このジュラの大森林が、魔王ミリムと同盟を結んだ、そういう風に他の魔王達の目には映るでしょうな」

「魔王ミリムの勢力が一気に増し、魔王間のパワーバランスが崩れる。打つ手を間違えればこの森も戦火に包まれることになるかもしれないということです」

 

 エミルス、カイジン、ハクロウがそれぞれ意見を口にする。

 なるほどな、深く考えていなかったが、俺とエミルスの行動にこの森までも巻き込まれる恐れがあるのか。だからといって、魔王ミリムを止めることは不可能。俺とエミルスが本気で戦っても勝算は万に一つもないだろう。今回は対策のしようがなかったということだ。

 鬼人達も同意見のようで、こくりと頷いた。

 

「他の魔王が敵対するというのなら、そいつ等を相手にする方がマシだろう。魔王ミリム、アレは正しく天災だ」

 

 結局、最善策らしい策は出すことができず、今後の対応としては敵対する魔王が現れてから考えるという、投げやりな感じに話は纏まったのである。

 肝心のミリムの対応としては――

 

「ンじゃ、魔王ミリムの相手はリムルが喜んでやってくれるらしいからそれでいいよな?」

「「「異議なし!!」」」

 

 おい! お前も親友(マブダチ)だろうが!!

 という俺の悲痛な叫びも空しく、エミルスと配下達によって丸投げされてしまう事になってしまったのだ。

 

 そう思ったが、風呂から出たミリムがエミルスをご所望したことにより、あえなくエミルスの丸投げはものの数分で終わってしまったことは記憶に新しい。ミリム曰く、マブダチは一緒にいるものだぞということだ。観念しろよ、と言ってやればなんとも複雑そうな表情でこちらを見返した。エミルスって子供好きなのか? さっき蜂蜜渡してるの見てたしミリムに何かと甘い気がするのは気のせいだろうか。

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