カリュブディスの目的はリムル=テンペストだと思われる。ヴェルドラの魔素に反応してるって事なら、俺も該当するのかもしれないが。まぁともかく、デカくて飛んでる鮫が町へやってこようとするので駆除する他ないだろう。
対するこちらの戦力は、いつもの奴等にドワルゴンからの助太刀。
先制攻撃に、ベニマルが
「エミルス、大賢者が教えてくれた。エクストラスキル『魔力妨害』で周囲の魔素が乱されてるみたいだ」
「あぁ、そうらしいな」
カリュブディスの面倒さは知っている。俺が使役していたことがあったしな。
こうして敵側に回って随分苦戦させられるとは思ってもみなかっただろう。当時の力が残っていたなら、捕食すればいいだけの話だったが、『暴食者』じゃあの巨体を全て喰らい尽くすことは不可能だ。
「予定通り分散させて各個撃破だ!」
リムルの一声で、それぞれ配置についたリムルの配下達が動き始める。カリュブディスを倒す前に、面倒な小魚どもを先に始末する。ベニマルが一匹焼き尽くして、残るメガロドンは十二匹。
ゲルドやガビル達が協力してメガロドンを討伐。ゴブリンライダー達も後に続くが、空を飛んでいる相手に刃を当てるのは中々難しい話だ。ハクロウが鬼教官ぶりを発揮して死ぬ気で戦場を教え込まされているせいでもありそうだが。爺さん張り切ってんな。
そうこうしている間にペガサスナイツも到着して、メガロドンを相手取っている。
本当は俺もさっさと戦いに行きたいところだが、カリュブディス本体の動きが分からない以上無暗に動くのはよくないと言われ、全体が見られる丘の上でリムルの傍に待機させられている。『分身体』があるのだからそれを使えばいいと進言したが、何故か却下された。
「なるべくカリュブディスに向けて戦力を残しておきたいんだよ。ウズウズしてるのは分かるけど、我慢してくれ」
「ハァ……」
「なぁ、私も一緒に遊びたい」
町に待機させていたはずのミリムが俺とリムルの間に入ってくる。我慢できるはずはないと思っていたが、まだ序盤の序盤。リムルは子供を説教するかのように、語気を強めて言い放つ。
「なんでここにいるの、町で待ってろって言ったよね?」
「け……見学ぐらいいいであろう? 町にいても暇なのだ」
「見学ぐらいは許してやれよリムル。別にデメリットがあるわけじゃねぇし」
「お前がそうやって甘やかすからミリムが助長するんだぞ!」
「あ? 甘やかしてねぇだろ。俺は事実を言っただけだ」
よく分からない言い争いに発展し、ミリムは介入する隙が無いせいで俺達の顔を交互に見る事しかできない。無駄な時間が過ぎていく中、ソウエイがメガロドンの上空に飛ぶソーカの影へ『影移動』で移動し、頃合いを見て技を発動させる。
「操妖傀儡糸!」
メガロドンの神経網を操り、同士討ちさせる残酷な技である。四匹のメガロドンが二組に分かれて争い始め、続いてソウエイは五匹目のメガロドンを操ると、カリュブディスに向かった。これがAランクに指定される魔物の姿なのか疑問を浮かべてしまうほどの惨状である。まぁ隣のミリムが目をキラキラと輝かせて喜んでいるようだが。
ソウエイの活躍ぶりに続いて、シオンとランガがいつの間にかタッグを組んでメガロドンに向かっている。ランガはエクストラスキル『風操作』を獲得しており、風の足場を作って空を駆けているようだ。そうしてメガロドンの上空に到達すると、シオンは並み大抵の物理は効かないはずのメガロドンを一刀両断し、ランガは黒雷でもう一匹メガロドンを撃墜する。
あっという間に、十三匹いたはずのメガロドンは各個撃破された。ゴブリンライダーの方は、ハクロウが仕留めたようだ。何やらゴブタの悲鳴が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
「あとはカリュブディスだけか……」
リムルがぼそりと呟いた。
メガロドンを倒していた各勢力も続々とカリュブディス付近に到着し、全員が一斉に攻撃を開始した。メガロドンには通用していた技は、どうやらカリュブディスには効果が無い。メガロドンの数倍はデカいカリュブディスには、表面の薄皮一枚切る程度で住んでいる。しかも、『超速再生』を持っているせいですぐに回復されてしまうだろうな。
俺達の傍に風が吹き荒れる。ドライアドのトレイニーが近くにいるらしい。
「リムル様、エミルス様。お気を付けください、あの魔物は図体に似合わず動きが早いのです。攻撃を続ければ、いずれ反撃がきます」
『……だ、そうだ。何か仕掛けてくるかもしれない、油断するなよ!』
リムルが『思念伝達』で攻撃中の配下達に情報を伝えると、三者三葉の返事が聞こえてくる。その直後、カリュブディスの大きな一つ目が赤く光る。その攻撃のやり方に見覚えがあった。あの攻撃の合図は――
『お前等、今すぐカリュブディスから離れろ!
強い思念を『思念伝達』で送ると、ソウエイ・ランガ・シオン・ガビルが一斉にカリュブディスから離れる。俺の『思念伝達』が届いていないペガサスナイツも周りの動きを見て一斉に退避した。カリュブディスの身体から全員が退避した直後、全員を覆う鱗が軋み次々とその巨体から解き放たれていく。
アレはベニマルの黒炎獄の比じゃないレベルの広範囲殲滅攻撃だ。かろうじて初撃は避けさせたものの、カリュブディスの身体から次々に仲間達へ襲い掛かっていく。一つ一つが鋭いナイフとなって近くにいる敵を切り刻まんと迫る。
「リムル、もういいよな?」
「あぁ。行こう……俺達の出番だ!」
俺とリムルが翼を広げ、一気に戦場へ飛び立った。
◇
他の仲間達の逃げ道を確保するため、
お前達が仲間で、本当に良かったと思う。
「ほんとお前等って馬鹿だよな。こういう時くらい、俺達を頼ってくれよ」
三人が勢いよく前へ出ようとした時、俺が空から声を掛けると驚愕と喜びがないまぜになった声で俺の名前を呼ぶ。
安否を確認し、三人の前に立ちはだかると左手を翳す。無数の鱗を、目の前の障害を取り除くための最適解。俺の進化したユニークスキルの名前を叫ぶ。
「喰らい尽くせ――『
俺の呼び声に応えるように、満たされぬ胃袋を抱えた暴食の王が目覚めた。全てを包み込む暗黒の霧が俺の掌から一気に膨張する。全てを切り刻まんとした楯鱗が、その黒い霧に吸い込まれていく。数秒も経たない内に、
三人はただ呆然と俺の動きを見ていることしかできないようだ。いや、本当は俺も驚いている。エミルスに急かされて飛んできたのはいいもののどうすればいいか分からず、『大賢者』に最適解を進言されて実行したに過ぎなかったのだ。
『暴食者』は『捕食者』の時より何倍も捕食能力が進化していたようで、俺とカリュブディスの間にあった鱗は全て喰らい尽くしたようだった。予想以上に桁外れの
「後は俺達に任せろ。お前達は一旦下がって休んでいるといい」
俺が三人に告げると、頭上で次々と爆発音が聞こえてくる。三人の救助を行っている間、エミルスがカリュブディスのヘイトを稼ぐと言ってくれたのだ。正直、そんな簡単に行くか? と思いつつもエミルスの作戦に乗って現在に至っている。エミルスはカリュブディスの上空に降り立ち、次々に魔力弾と血液弾を撃ち続けているようだ。そのおかげもあって、鱗の再生を押しとどめている状況だ。
「図体がデカいだけの
とんでもない罵詈雑言を叫びながら攻撃を続けている。アイツの罵倒の知識はどこから出てくるんだ……
そう思っていると、カリュブディスの向きが一気にエミルスの方へ動いた。
「ハッ! ようやくやる気になったかよ!」
『喜んでる場合か、急いで逃げろ!』
町を押しつぶしかねない巨体が加速し、エミルスの方へ突撃していく。エミルスが間一髪のところで避けると、攻撃の手が緩まった隙に
上空へ飛び上がり『暴食者』で再度鱗を喰らい尽くしつつ、魔力弾で『黒炎』を包み込んだ魔炎弾をがら空きな背中に撃ち込んだ。着弾と同時に、強烈な『黒炎』がカリュブディスを焼いた。思った通り、これは通用する。魔力弾で防護しながらだと効果があるらしい。
とはいえ、カリュブディスは苦しむどころか痛がっている程度で、大したダメージにはなっていないように見える。
「へぇ、面白い工夫だな。俺もやってみるか」
ヘイトを向かせたままだというのに随分と余裕そうなエミルスは、先程俺がやったような事を真似て新しい技を生み出したようだ。
「
魔力弾で血液を包み込んだものをカリュブディスの頭めがけて撃ち抜いた。
《告。カリュブディスに撃ち込んだ血液を体内で爆発させた模様》
なんだって!? エミルスってそんな芸当も出来るのか。普通の魔物にやってたら中々グロテスクな光景が見られそうだな。俺の時にしなかったのは、思いつかなかっただけか情けをかけられたのか……
《個体名:エミルスが
なるほどな。そう考えると、俺との決闘の後にエミルスの身体が変化したと見た方がいいのか。
……いや、今はそんなこと考えてる時間じゃない。俺もアイツの攻撃に続かないと。エミルスが簡単にやられるタマではないと分かってはいるが、心配なものは心配だからな。俺の最高火力である『黒炎』や『黒雷』をぶつけながら、鱗は俺とエミルスの『暴食者』で喰らい尽くす。安定した防御は出来ていると思われたが、突如として一つ目から怪光線が放たれた。慌てて避けるが、怪光線は俺とエミルスの両方を執拗に追いかける。攻撃する暇もなく、空中を飛び回っていると地上に放たれた怪光線の通った道が数秒後に爆発する。
「うわっ!」
「っと……アレはやっかいだな」
「――もしかしてコイツ、『超速再生』を持ってるんじゃないか?」
「あぁ、そうだが?」
「そうだが? じゃねぇよ、分かってるなら教えてくれよ!」
エミルスはすでに気づいていたようだが、『魔力妨害』に加えて『超速再生』を持っている。攻撃が通りづらい身体をしているクセに、回復力も高いとか最悪だ。伊達に魔王級と言われているわけではないらしい。危険な状況にも関わらず、エミルスは依然として笑っているのだからコイツは中々の
「全員、持てる手段を尽くしてカリュブディスを攻撃しろ。効きが悪くてもいい、ヤツに回復の暇を与えるな!」
一旦体勢を整え直した俺の配下達が戦闘準備に入る。ベニマルの命令で地上からカリュブディスに攻撃を開始した。だが、多少身動ぎするだけで効いている様子は無い。
「エミルス、危ないと思ったらすぐに俺と代われ。絶対に無茶だけはするなよ」
「言われなくてもお前に擦り付けてやるよ、黙って攻撃してろ!」
再度カリュブディスが
これは長丁場になると覚悟しつつ、二人がかりでカリュブディスのヘイトを受け持つ。
……エミルスがどうしてカリュブディスの生態を知っているのか、それを追及するのはこの戦いが無事に終わってからにするとしよう。