転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

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41話 和平

「獣王国ユーザラニア〝獅子王(ビーストマスター)〟カリオンの名にかけて、貴様達に刃を向けぬと誓ってやる」

 

 カリオンがフォビオを地面に殴り倒した後、監督不行届を認めて謝罪した。リムルはすかさず、不可侵協定を申し出るとトントン拍子に成立した。これは中々の手際だな。リムルはあくまでこの国の安全を確保しようと動いているらしい。これによって、ドワルゴン・ブルムンド・ユーザラニアの3カ国と何らかの繋がりがある状態になった。

 

 カリュブディス討伐を祝い、その夜は宴会が開かれた。メガロドンがハクロウの手によって三枚おろしにされ、新鮮なメガロドンの刺身を味わった。リムルやミリムが撃ち落とした鱗は、カイジンら職人達の手によって加工品や装備に使われるようだ。

 宴会が終われば、待ち受けていたのは溜まりに溜まった書類の束である。大体の仕事は最高責任者であるリムルに押し付けているが、それでも捌ききれないところまで来ている。王様とて楽ではない。現在身を以って味わっているところだ。

 

 その間にフューズと馬鹿三人組がブルムンド王国に帰っていった。特に三人組はここの生活を気に入ったらしく残りたそうにしていたが、フューズを無事に送り届けるという仕事があるせいで帰らざるを得ない。帰る直前まで俺に対して愚痴を投げかけ、エレンはスライム姿の俺を触りながら最後まで堪能していた。

 

「せめてエミルスさんがついてきてくれればなぁ……」

「俺もそうしたいところだが、迂闊に外出もできねぇ立場になっちまってな。もしこの国から逃げたくなったらすぐそっちに行ってやるよ」

「ハハハ、その気持ちだけでも有難いですぜ」

「エミルスの旦那、達者でやす」

 

 別に冗談じゃなかったんだけどな、と思いつつ三人組は名残惜しそうに帰っていった。三か国と友誼を結ぶかもしれないとの事で、来賓達が泊まる場所を本格的に造り始めることになった。おかげでゲルド達はまだまだ働かざるを得ないということだ。本人達はやる気に満ち溢れているので、止めることはない。

 

 

 次は肝心のカリュブディスの戦利品である。

 カリュブディスの魔核をリムルが吸収したことによって、様々なスキルを獲得したらしい。俺はリムルに『鏡像者』を使うことによって、『魔法耐性』を獲得した。

 そう、たったそんだけだ。カリュブディス戦は俺が基本的にヘイトを背負って善戦していたこともあり、成果がこれだけなのは正直堪えたが目に見えない経験値は溜まっているはずだ。耐性が増えていくのは悪い事じゃないと自分を納得させて気持ちを切り替えることにした。

 リムルも自分ばかりスキルを貰って心苦しいのか、『捕食』することなく俺のスキルを何とか出来ないか探しているようだが改善は期待できそうにない。

 

「やっぱり一回俺に『捕食』されて解析を……」

「却下だ」

 

 それだけは絶対にな。

 せめてコピーしたリムルのスキルが劣化していなければ色々と抜け道があるんだが……制限を解除する方法があるのかどうかすら分からない。八方塞がりのため、能力に関してはあまり期待しないことにした。

 

 結局積み上げていくべきは技術の方。そういうわけで、魔王ミリムとの特訓を何度か行っている。リムル、ベニマル、ソウエイ、シオンと五人がかりで奇襲を仕掛けるのだが。

 ガン、キン、ボコ、ズドン!

 重低音が辺りに広がっている時には、ミリムの周りに死屍累々が広がっているのだった。

 

「わはははは! まだまだ余裕なのだ!」

 

 攻撃が届いたことはなく、気づいたら地面に転がされている。意識が気づくよりも先に身体が倒れているのだから話にならない。『痛覚無効』が無かったらとっくの昔にギブアップしているだろう。とはいえ、着実に成長はしてるはずだ。四人がどこを重点的に鍛えようとしているのかは知らねぇが、俺は回避をメインにしている。

 修行を手伝って貰っているミリムの拳にはドラゴンナックルが着けてある。リムルがミリムのために贈った武器らしいが、その効果は威力を増大させるわけではなく逆に抑制するものである。実際、初対面のミリムの拳を避けた時とは比べ物にならないぐらい動きは遅くなっている。とはいえ、あの時避けたのは命の危険を感じたことによる反射的回避だったわけで、弱体化されたからミリムの攻撃をすべて避けられるわけではない。それができるなら今苦労はしていない。

 

 そういや、俺もミリムに贈りものがあるんだった。ミリムにぼこぼこにされた後、ようやくその事を思い出した。最早日課となったミリムとの戦いが終わり、俺はミリムとリムルを呼び出した。

 

「これをつけとけ」

「これは……イヤリングか?」

伸縮鏡の耳飾り(アナモルフォーズ)と言うらしい。この首飾りをイヤリングに改造したものだ」

「キラキラして綺麗なのだ」

 

 俺が依頼した首飾りより小さめで、付けやすいサイズ。ただしガラス玉の大きさはそのままだ。とはいえ普段は髪で隠せるぐらいの大きさだし一目では分からないだろう。ミリムは耳飾りを受け取ると素直に喜び、早速右耳に付けるよう俺を催促した。痛まない程度で外れないように付けてやれば、俺が持ってきた手鏡を見て瞳が宝石のように輝いた。一方リムルは、少し手間取りつつも左耳に付け鏡を見て確かめる。

 

「俺のユニークスキル『鏡像者(ウツルモノ)』で俺がお前達の場所へすぐ飛ぶための媒介装置だ。どんなに遠く離れていようが一瞬で移動できる。ただし、『思念伝達』とかで事前に通達することはできねぇからアポなし訪問になるけどな」

「へぇ、便利だな」

「まだまだ改良する予定らしいし、一先ずそれは試作品だ。ミリムとテメェにしか渡してねぇから無くしたりするなよ?」

「もちろんなのだ! リムルのドラゴンナックルも、エミルスのイヤリングも大事にとっておくのだ」

 

 プレゼントを大事そうに抱えながら、ミリムは上機嫌に部屋へと戻っていった。ガラス玉の中で盗聴することが出来るから、プレゼントとは名ばかりの監視用魔法道具(マジックアイテム)みたいなもんだけどな。後、ミリムとの契約――約束の為の蜂蜜定期便をコイツから届けるためにも活用される。意外と使い道はあるな。

 リムルがイヤリングを触りながら、ぼそりと呟く。

 

「これヴェルドラが嫉妬しそうだな……」

「そうか? 別にどうもしねぇだろ」

 

 杞憂するリムルをばっさりと切り捨てると、俺は自分の執務室に戻る。正直、毎日のミリムとの修行に加えて月二回の特別修行、更には毎日増えていく仕事と休む暇がほとんどない。元俺のテントにいるスライム達の世話やりの時間が一番精神的に楽だ。

 

 

 

 女性陣が風呂から上がった後、ミリムの髪をシュナが梳いている時にリムルがそれとなく問いかけた。

 

「なぁ、ミリムってなんで魔王になったの?」

「う~んなんでだろう? 何かやなことがあってムシャクシャしてなった? 大昔のことだから忘れたのだ!」

「そっか」

 

 ミリムって実際何年生きてるんだろうな。俺は生まれてからまだ一年経ったぐらいだが、俺の想像以上の年月をコイツは生きてきているだろうし。考えるだけ無駄なのは分かっているんだがな。リムルの質問に続くように、俺はミリムに対して疑問を投げかけた。

 

「家族はいるのか? 父親や母親、もしくはそれに該当するような保護者とか」

「そうそう、ずっとここにいるけど連絡しなくて大丈夫か?」

「うむ。私の世話をする者はいるが、あの者どもはワタシを心配などしておらぬのだ。ワタシは最強なので、心配することすら畏れ多いと思われているのだぞ! だからワタシの友は、お前達だけなのだ!」

 

 他に魔王はいるのに、友達の立場にいるのは俺達なんだな。意外とまではいかないが、魔王同士の関係は利益で繋がっているのかもしれない。まぁ、この世界にいる間くらいはミリムの友達として接しても問題無いだろう。個人的に、俺はミリムの事を気に入ったしな。

 リムルは暫く言葉に詰まっていたが、やがて何かを決意したかのように力強く頷いた。

 

「そうだな、これからもよろしくな。ミリム!」

「もちろんなのだ!」

 

 リムルがミリムの頭を撫でて、満足そうに笑う。ミリムも屈託のない笑みを返していた。魔王という器ではなく、個としてミリムを真っすぐ見るリムルの様子に呆れて溜息を吐いた。

 

「ったく、能天気な奴等……」

「満更でもないくせに」

「は? ンなわけあるかはったおすぞ」

「喧嘩か? 喧嘩なら買うのだ!」

「買わなくていいから!」

 

 

 それから数日後、ミリムは「ワタシは仕事に行ってくる」と突然言い出した。来襲してきた時の魔王の衣装に着替えており、準備はバッチリのようだ。昼食を取ったばかりだったので、あまりに急な申し出に驚いてしまった。

 

「突然だな」

「まぁこれで会なくなるわけでもないのだ。しばしの別れなのだ。他の魔王達にもこの地に手出しせぬようにきちんと言い聞かせておくから、安心するといいのだ」

 

 他の魔王達との会談。しかも先日名が挙がったクレイマンもいるらしい。確実に嫌な予感がするが、さすがにクレイマンには騙されないだろう。戦闘力も天と地ほどの差だし、ユニークスキル『竜耳』も『竜眼』もあるのだから大丈夫だろう。……大丈夫か?

 漠然とした不安を抱えつつも、別れの挨拶を交わすとミリムは元気よく空の彼方へと飛び出していった。リムルの小さな制止は意味が無かった。来た時と同じく、唐突だった。

 

 その場にいたシオンやシュナは、自由奔放な彼女の事を好ましく思っていたらしく「次に会える時が楽しみです」と期待を口にした。

 

「次に会う時には、もっと強くなってミリム様を驚かせましょう!」

 

 シオンの言葉に仲間達は同調する。別にミリムの為ではないが、もっともっと強くなろうとする姿勢は理解できる。情報戦を制する為にも、向上心を忘れないのは大切だ。

 

 

 魔王クレイマンは、ミュウランからの映像を見て薄く笑みを浮かべていた。優雅に寛ぎつつワインを嗜んでいる。その向かいに座り窓の外を見ながら憂いの眼差しを向けるのは、〝天空女王(スカイクイーン)〟と呼ばれる魔王フレイだ。

 

「それで?首尾はどうだったのかしら」

「上手くいったようですよ、フレイ」

 

 全てはクレイマンの計画通りだった。カリュブディスがミリムに倒されたのも、予想通り。ミリムが負ける事など二人は考えもしなかった。クレイマンの本当の仲間である中庸道化連は上手く姿を隠し、見事にやってくれたようだ。魔王カリオンの怒りの矛先は、謎の魔物達か、もしくは中庸道化連に向けられるかもしれないが、連絡手段を持たないカリオンに見つけられるわけがない。

 

「しかし、それにしてもゲルミュッドを倒した魔人。そしてその者と瓜二つの魔人。たった二人でカリュブディスを相手取っていましたよ、ミリムが執着するのも頷けるほどに強力な魔人達ですね。下手をすれば、我ら魔王に並ぶ存在にまで成長するかもしれません」

「ふふ、案外面白いことを言うのね。クレイマンは」

 

 興味無さげに相槌を打つフレイ。そのまま話題を変えるように、本題に切り込む。

 

「それで、今回の件の報酬として、私は貴方に何を支払えばいいのかしら?」

 

 そう言って、フレイはクレイマンに視線を向ける。

 その話題こそが、今日二人が会っている目的だった。クレイマンとフレイの話し合いは進む。クレイマンは糸を張り巡らせる蜘蛛が如く徐々に逃げ道を塞いでいく。その最中、クレイマンはミリムを手中にする名案を思いついた。

 決して表には出さぬように取り繕いながら、腹の底では愉悦に歪む感情がぐつぐつと煮え滾っている。フレイがクレイマンの居城から去った後、気持ちを落ち着かせるために仮面を被る。仮面を被った姿こそが、クレイマンの本当の姿だった。

 

(――しかし、エミルスは着実に力を伸ばしているようですね。カリュブディスを相手に善戦するとは。ラプラスやティアの言う通り、謎の魔人の動きも少しは警戒しなければ行けないでしょう。名誉挽回の機会も与えねばなりませんし、ここはミュウランにでも潜入してもらうとしますか――)

 

 クレイマンとしては、カリュブディスによってあの魔人達が消耗すればいいと考えていたがそれは甘い考えだったと改める。二人の魔人がタッグを組んでしまえば、それこそ魔王級の脅威であると感じたのだ。

 仕掛けるならば、あの二人が離れたタイミング。それまでは、ミュウランに機会を伺ってもらうしかないだろう。そして隙を探り、仕留めなければ。

 

(ミュウランより使えそうですし、運が良ければ新しい駒が増えますね)

 

 新たな計画を策謀しつつ、謎の魔人達が障害とならぬように情報を集める。クレイマンにとって、リムル達は大事の前の小事であった。

 

 ミュウランから送られてきた映像の中に、カリュブディスとの激闘の合間でこちらを睨みつけるエミルスの姿がハッキリと映っていた。

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