獰猛な白虎と暴君の鬼人が激突する。
シオンはどうやら武器を置いて、素手で戦うようで真っ向勝負の肉弾戦が目の前で繰り広げられる。稲妻を走らせながらスフィアが俊敏な動きでシオンを翻弄しようとするが、全て受け切って反撃してみせた。
一方、置いてけぼりになったヨウム。
「——まったくしょうがありませんねスフィアは。グルーシス、貴方があの人間の相手をなさい」
二人の戦いを横目に、アルビスが魔人の一人に命令を下した。
めんどくさそうにゆらゆらと馬車から立ちあがり、ヨウムの目の前に飛び出した。一見すれば、獣人に見えない魔人だ。とはいえ、懐から大型のナイフを取り出してすでに臨戦態勢なところは、獣らしいと言うべきか。
「いくら俺が獣王戦士団の末席だからって、人間の相手なんて……。はぁ、遊んでやるよ、人間」
「おう、よろしく……な!」
ヨウムが先手を仕掛ける。
グルーシスの態度はヨウムを見下していたが、その動きは狩人のようであり獲物を見定めようとしている最中に見える。獣らしくこちらも素早い動きで翻弄し、視覚外からナイフを飛ばすがヨウムはその剛刀で弾き飛ばした。互いに隙を見えない攻防戦は見ていて勉強になり、面白いものだ。あちら側も同じようである。
ヨウムとグルーシス、見応えある戦いに思わず感心の声を漏らした。
「ほう、ハクロウに扱かれただけのことはあるな」
「見事な戦いぶりです」
ヨウムの手下どもも、その動きに目を輝かせているようだ。
だが、二匹とも獣へ変身していない以上、本気は出していない。様子見といったところだろう。
弱肉強食の世界で生きてきた獣人にとって、手の内を見せるのはかなりの痛手だろうしな。
けしかけたのは俺だが、ものの数秒で戦闘開始とはな。
行く末をゆっくり見守るとしよう。
シオンとスフィアが互いに戦闘狂だったために、戦いに没頭して周囲を見事に荒らしまくっていた。
ゲルドから後々苦情がきそうだ。僅かに申し訳なく思っている。
数十分が経過しても、未だに二人は戦い続けている。俺の見立てだと、スフィアの方が圧倒的に魔素量が多いはずだが。シオンは疲れ知らずといった様子だ。正面からの戦いだと、シュナやソウエイよりも強いと言われていたし、俺も実際戦ったからアイツの強さは分かっている。だからそこに関して心配はしていなかった。
「鬼人の力はそんなものか。もっともっとオレを楽しませろ!」
「もとよりそのつもりです!」
シオンは威力のみを重視したような、極大の魔力弾を放つつもりらしい。
周りに俺達がいる事などお構いなしに周辺を吹き飛ばす気だ。戦闘狂はこれだからダメだ。
スフィアとかいうヤツも受け止める気満々のようだが、一応これ使節団として国交を結ぶかどうかの話のはずなんだ。一応回復薬の宣伝になるか……? いや、あの威力だと殺しかねないな。アルビスとかいう獣人が、どう動くか。
俺の悩みなどおかまいなしにシオンは不敵な笑みを浮かべて青黒い魔力弾を解き放とうとする。
「喰らえ——!」
その時、凛とした声が戦場の空気を一変させる。
「それまで!」
シオンに金色の錫杖を、スフィアに尻尾の先端を突き付けて制止させる。
予想通り、アルビスは蛇の獣人だったようだ。そして、これが獣人の『獣身化』というスキル。下半身のみ黒い大蛇と化したその姿は、一切の
「もう十分です」
アルビスの制止の声を聞き、グルーシスとヨウムも戦いを止めた。ヨウムの困惑したような視線がこちらに向けられるが、片手を上げて合図をする。
「お眼鏡にかなったか?」
「えぇ、充分に堪能しましたわ。スフィア、貴女もこれで認めるでしょう?」
「不満はない! 大した強さだ。我らが対等につきあうべき価値は十分にある。そう確信したぜ」
スフィアが付き添いの獣人達に高らかに宣言する。
「ジュラ・テンペスト連邦国の盟主、リムル=テンペストとその友人を軽んじることは、カリオンに対する不敬と思え。分かったな?」
「ははっ!」
ヨウムと戦ったグルーシスも、ヨウムの強さを認めたようだ。
「スフィア様の言う通りだ。この俺とこれだけやり合える人間なんざ、めったにいない」
「フッ、うれしいねぇ」
互いに固い握手を交わした。戦いを通して、友情でも芽生えたのか? どうでもいいが。
ともかく、これで和解が成立して国交樹立したってことでいいだろう。俺が出る幕も無かったな。
試していたのはお互い様ってこった。まぁ、こっちは満点合格とはいかなかったが。獣人族は良くも悪くも正面から正々堂々と戦うのを誇りとする種族だ。この探り合いも、魔王カリオンが命じたからだろう。俺の正体にまで気が回るようなタイプではない。俺の存在を明かすのは、暫く先でいいだろう。別にアイツの評判が下がっても痛くも痒くもねぇしな。
問題はこれにて終了、といいたいところだが。
何故かシオンの極大魔力弾が残っている。しかも先程よりも数倍の大きさに膨れ上がっている。
「シオン、お前まさか……」
「あの、これどうしましょう?」
「消せる気力は?」
「ありません!!!」
「はぁ……お前ってやつは」
毎度毎度面倒事を起こしやがって……。
よく見たらシオンの身体は小刻みに震えており、涙目でこちらを見つめている。
限界寸前といったところだ。その様子を見て、シオンの周りからそっと離れていく周囲の仲間達。
割り込んでいたアルビスは、すでに虎車の方へ避難していた。残されたのは、標的にされているスフィアだけである。どうやら自分の電力と魔力が引き合って逃げられないらしい。
「お、おい。落ち着け。そっとだ。そ~っと、それを上に向けるんだ」
「う、上! う~!」
「気合いだ! 気合いで何とか」
「あぁ無理かも!!」
先程とは打って変わって、一種のパニックである。
このままでは、スフィアの焼死体すら残らない。後処理を考えるととても面倒なことにある。
対処するのも面倒くさいが、それ以上に面倒な事が起こるなら仕方がない。
……もしかしなくても、前の世界のリムルもこれに対処していたかもしれない。そんな予感がする。
「シオン、さっさとこっちに撃て」
誰もいない方向に移動すると、半狂乱状態のシオンに向かって喋りかける。
極大魔力弾を何とかする方法。どう考えてもアレしかない。右手を翳して、待ち構える。
「ですが——」
「早くしろ!」
「は、はい!」
この程度で俺が死ぬと思われてたまるかよ。シオンの台詞を無視して叫んだ。
限界だったシオンは、俺の方向になんとか極大魔力弾を放つことが精一杯だったようだ。
迫りくる魔力弾を、俺は意に介さず呟いた。
「『
俺の右手から膨れ上がった黒い煙が魔力弾を包み込む。数秒の輝きの後、魔力弾は短い光芒を残して吸い込まれていった。まるでそこには何も無かったかのように。
唖然とする周囲の者達を見て、俺は溜息を吐いた。そしてリムルに似つかわしくない、狡猾な笑みを浮かべてみせる。
「テンペストの盟主として、これぐらい当然だろ」
結果として、力を示すいい機会だった。だが、虎の威を借る狐の如き有様。俺の業績ではなく、リムルへ向かうものだ。実際、ユーラザニア側はリムルとの縁が結ばれたことを喜んでいた。
気力が尽きて地面にへたり込んだシオンを助けた時、全てを傍観していたシュナ、ソウエイ、ランガから絶賛の嵐が『思念伝達』で送られてくる。
『さすがはエミルス様です!』
『見事な手際でした』
『さすがです、エミルス殿!』
アイツのスキルを使ったとはいえ、一応俺の実力でもある。素直に褒め言葉として受け取ることにした。
俺はアルビス達に近づくと、事前にリムルからお願いされていた歓迎の言葉を伝える。
「……ようこそ、テンペストへ」
◇
その夜、宴が始まった。
出来たばかりの迎賓館で、使節団の人達を饗す。シュナやペコ達が腕によりをかけて料理を準備してくれた。独創的な料理が並んでいくに連れて、獣人達の目がキラキラと輝いているように見えた。見慣れない料理に好奇心がうずうずしている様子。
酒類も解禁。リムルが出発前に開発した
ゴブタやハクロウが舞を披露して注目を集め、ヨウムとその後一行は賭け事を始めた。先程死闘を繰り広げていたグルーシスもいつの間にか混ざっている。
そういえば、リムルは賭け事が弱い。『大賢者』を持っているくせに、漢だなんだと言って勝手に自滅する。滑稽すぎて呆れてしまう。
肝心の最高幹部様は、酒を浴びるように飲んでいた。アルビスは自分の尻尾を器用に使って樽ごと飲み干していた。文字通りの蟒蛇である。なんというか、獣は食欲に素直なのか?
「豪快ですね」
「誰だよ、酒樽ごと渡したの」
スフィアはすっかり白虎の姿に戻り、大杯に並々と注がれた
「おい、その姿。晒しちまってもいいのかよ?」
「特に秘密というわけでもありません。ですが、心を許した相手にしか見せませんのよ」
アルビスが酒を飲みつつ律儀に答えた。周りには酒樽が何個も転がっている。貯蔵していた
まぁ、お前達の求愛事情などどうでもいいが、大した問題にはならなそうでよかった。
空になった酒樽を見下ろす。
「
俺が独り言を呟くと、アルビスが素早く反応した。
「あまり量は造れませんの?」
「果実から酒を造るんだが、森の果実にも限界があるからな」
「では、良い考えがございます。我がユーラザニアは、果物が豊富に取れます。こちらに回すように手配いたしましょう」
「その代わり、酒をこっちに寄越せって事か」
「ふふ、そうなりますね」
「いいだろう。交渉成立だ、割合は?」
詳しく内容を詰めようとすれば、スフィアが先に呟いた。
「細かい事は任せる。オレは美味い酒が飲めればそれでいい。ユーラザニアの果実は品質がいいから、期待していいぜ」
ニャハハハハッとご機嫌な笑い声が木霊する。言い終えると、スフィアはまた酒を飲み始めた。アルビスも特に何か付け加える訳でもなく、酒樽を仰ぎ始めた。
仕事はこっちに丸投げとは、獣には難しい話だったか。物々交換となると、商人共に任せた方がいいだろう。コボルトの商人達に話を通しておいてくれとリグルドに伝えた。代表はコピー……いや、コビーだっけか。同じ獣の一族同士話が通じやすいだろう。
俺も丸投げした。最終確認だけ立ち会えば十分。酒で頭が回らないうちに取引を持ちかけることができれば僥倖かもしれないな。念の為、『分身体』で俺の姿でも残しておけば話は進むだろう。
宴の夜はこうして更けていく。
コビーは怯えながらも何とか上手く話を纏めたようで、正式にテンペストとユーラザニアの交易が始まった。
その数日後、三獣士のアルビスとスフィアは獣王国ユーラザニアへ帰っていった。
残った獣人達は、技術交流ということでカイジン達のところへ弟子入りしたり、シュナの工房で裁縫技術を学んだりしていた。一月も経たないうちに、すっかり仕事に身が入ったようだ。裏表のない真っ直ぐなヤツらだからか、熱心に取り組んでいる。
ヨウムと戦ったグルーシスは、〝
……変身を解くタイミングを失っていたが、テンペストに残った獣人達には真実を伝えようとした。
ところが、グルーシスはあっけらかんとこう言い放ったのだ。
「え、知ってましたよ」
転がされていたのは、どうやら俺の方らしい。
事前にユーラザニアへリムルの方から俺の件を仄めかしていたようだ。
油断しすぎだろボケスライムが。
◇
あれから特に何事もなく1ヶ月が過ぎようとしている。
出来事と言えば、2つ。1つはベニマル達が帰還したことだ。会議室で詳しく話を聞けば、ベニマルは軍事面を、リグルドは文化面を重点的に観察していたようだ。
「ユーラザニアの騎士団は、さすがの一言です。一兵士に至るまで、魔王カリオンに徹底的に鍛え上げられていました」
「そりゃすげぇな。さすがは戦士の国といったところか」
「向こうの建築物は、テンペストに比べれば粗末なものでした。しかし王宮には贅が凝らされ、富の一極集中が顕著のようです」
なるほど、分かりやすい。まさに弱肉強食。
テンペストがおかしいだけで、それが普通なはずだ。リグルが立派に成長したことが嬉しすぎて、リグルドが途中から大泣きしていた。子供の成長が嬉しいというのは理解できる。俺もそれを見守る為に努力しているのだから。
ユーザラニアの文化面ではテンペストの方が勝っているが、唯一農業に関しては目を見張るものがあったという。広大な田畑が広がり、農作物が彩り豊かに実っている。
だから果実を提供すると言ってのけたのだ。国民全員に行き渡っても有り余るほどの果実があるのだろう。ヤツが聞いていれば羨ましがるかもしれない。
テンペストの食糧事情はまだまだ改善する必要がある、と言っていたし今後の使節団は農業を中心に観察してもらう事になるだろう。
会議室から出ると、ベニマルがこっそり耳打ちしてきた。
「実は、魔王カリオンに喧嘩をふっかけてみましたが笑っていなされました」
「へぇ、お前がボコボコにされるとは珍しいな」
「そんな事はありませんよ。ですが、戦ってみて、魔王カリオンは信頼できる人物だと判断しました。なので、今後はリグルに使節団の団長を指名してやってくださいませんか」
「……まぁ、ベニマルが言うならいいんじゃねぇか。俺が許可する、リムルも同じ意見だろう」
「ありがとうございます。ちなみにですが、フォビオには勝ちました」
「そうか、いつか俺とも手合わせしてくれよ。今のお前とはいい勝負ができそうだ」
「不意打ちは勘弁してくださいよ」
軽口を返していると、心做しかベニマルの表情が柔らかくなった気がした。視察団の任務で無駄に緊張していた体が解れたのだろうか。
それにしても、不意打ちとは懐かしい事を言い出す。あの時からすでに一年以上が経過しているとは。時が経つのは早いものだ。
それから2つ目は、人間の商人がやってきた事だ。顔からして胡散臭い中年の小太り男。
魔物という偏見を持たず、儲けることだけを考えている。欲に忠実な人間らしい。何より、話していれば頭が回るのが見て取れる。新たな商売の気配に敏感に食いついてきたのがその証拠だろう。
イングラシアに店を構えているとの事で、もしかしたらヤツとばったり出くわすかもしれない。もし、俺と似た顔をした中性的な子供がいたら声を掛けてみろ、とだけ言っておいた。上手くいくかどうかは知らんがな。
執務室で仕事をしていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「……帰ってきてたのか、無責任スライム」
「酷い言われようだな」
入ってきたのは、見慣れない黒の帽子とマントを羽織ったスライムの先生。1ヶ月経った今、ガキ共の先生として教鞭を振るっているらしい。今回はとある目的で一旦テンペストに帰ってきた、と本人から話された。
目的は、子供達を救う為上位精霊の情報を集める事。トレイニーによれば、精霊女王の統べる〝精霊の棲家〟という場所なら可能性があるらしいが、肝心の居場所が分からないようだ。
「お前も何か知っている事は無いか?」
「ねぇな」
「そうか……」
精霊に関しては、
前の世界のリムルは知っていたかもしれない。もしかしたら、俺もソレの存在を知っている可能性があるが、今のところ記憶が穴ぼこで、オリジナルの記憶の模倣が不完全だった。今まで大して気にしていなかったから今更だが。
リムルはトボトボと明らかに落胆しながら出ていった。暗中模索だというのに、子供数人の為によく抗っているものだ。シズエの心残りということもあるだろうが、それだけでここまでしてやる義理はあるのだろうか。
「所詮、運命の人だと持て囃されて大切な人だと錯覚しているだけかもしれねぇのに」
——へぇ、じゃあ
「……ッ!」
背後から囁きが聞こえ、椅子から立ち上がって反射的に振り向く。しかし、そこは壁があるだけで何の気配も無い。『魔力感知』にも反応は無い。
(今のは、一体誰だ?悪夢に出てきた女の声では無いが……)
少なくとも、リムルや俺の感知をすり抜けてくる存在だ。並大抵のスキルや攻撃は通用しない。それこそ、無駄に暴れたりでもすれば……一瞬のうちに嬲り殺される。
そんな事を読み取られていたのか否か、弾むような声が再び脳裏に響く。
——僕の正体が知りたい? 教える義理は無いけど。
いや、気配が無いだけでここにはいる。『魔力感知』に引っかからず思念を送ってくる存在。そんな高等技術ができるのは、上位の魔人……もしくは、それ以上の。
俺は念の為武器を取り出し、部屋の真ん中に移動する。短く息を吐いて、何も無い空間を睨みつつ小さく呟いた。
「目的はなんだ?」
——意外と冷静だね。まぁそうでなくちゃ面白くないか。目的は君に会いに来たこと、動機は興味本位ってところかな。
聞かれても問題ないとばかりに軽々しく口にする。
俺の推測に過ぎないが、コイツは恐らく俺をこの世界に呼び出した首謀者ではない。接触するにしてもタイミングがおかしい。最初から接触する気ならもっと早いタイミングがあったはず。
……それに、思念が伝わってきた時に気づいた僅かな魔の気配。この気配を、俺は知っている。
「光栄とでも言えばいいのか」
——このクソ悪魔。
憎悪を込めた言葉を呟く。
暫く沈黙が流れ、この部屋から居なくなったのかと感じ始めた時。突如として「アッハハ!」と無邪気に笑う声が上から降ってきた。
——驚いた、ますます興味が湧いたよ。エミルス。
「……どういう意味だ?」
意味が分からず、疑問を投げかける。すると悪魔は、俺の問いに不思議がる。
——あれ、もしかして自分で気づいてないの?
目の前に紫煙が漂いはじめ、それが人の手を形成したかと思えば俺の身体を突き抜ける。普通の人間なら、心臓がある場所だった。
——魂が透明、いや、そもそも
「…………は?」
——魂が無いのに思考するなんて、悪魔だったら見逃せない存在なわけ。
「おい、」
——だったら、唾をつけとくに限るよね。
思考が追いつかない。
俺の混乱などお構いなし、紫煙は俺の身体にまとわりついてくる。
『魔力感知』があるからこそ分かる。このもや一つに、俺の魔素量を遥かに超える程の魔力が込められている。下手に動けば確実にやられるな。
——君の感情は一体どんな味がするんだろう。でも、僕って好物を最後まで残す派なんだ。だから、これは僕の物っていう印をつけておく。
紫煙が霧散した瞬間に、いきなり身体の力が抜け落ちてスライムの状態に変化する。スキルの強制解除。まぁ、アイツの仲間だったら確かにそんな芸当、造作もないはずだ。幸い、再び人間の身体に変化することは出来たが、右手の中指に銀色の指輪がつけられていることに気づいた。
瞬時に剣で手首ごと切り落とす。だが、再生すれば再び指輪は中指に収まっていた。
——僕の魔法を指輪として顕現させているだけだから外せないよ。それは僕が君を監視している証、魔除け防止にもなるかもね。それにしても、君を見つけられてよかったよ。上手くいけば、アイツの嫌がらせにもなるし。
「アイツって……誰だ」
——そこまではサービスの範囲外かな。運が良ければ会えるかもね。じゃ、バイバーイ。
飄々とした姿勢を崩すことなく、軽い挨拶を最後にソイツは姿を消した。
追及する隙など一切ない。自分のやりたい事をやって、好き勝手に荒らした後帰っていく。まさに悪魔の所業。監視していると言っていたが、それはつまり俺が何らかのアクションを引き起こした時に、あの悪魔に情報が伝わるってことだ。
最悪だ。俺はまた溜息を吐く。
「面倒事が増えちまった」
しかも、俺の意志とは関係無いところで。
これをどうにかして外す方法も探さないといけない。
……ディアブロの同僚なんて、碌な奴がいないだろうしな。
悪魔の囁きが俺の頭の中で反芻する。
——じゃあ、きみは?
「…………さぁな」