転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

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リムル視点に変わるときは、◇が最初につきます


04話 鏡像者

 ♢

 

 エミルスを見ていると、親に対して反抗期だった若かりし自分を思い出す。あの時は若かったなぁ、漫画やゲームが楽しくてつい時間を忘れてしまって、食事の時間になっても部屋に引きこもりっぱなし。母さんが部屋に怒鳴りこんできても「まだ途中だから帰れよ!」と、中々ヒドイことを言ってしまったっけ。その後しっかり説教されて反省したんだけど。

 

 誰かに対して攻撃的な姿勢を保ち続けるのは、自立したいという強い意志の表れらしい。エミルスはネームドモンスターとして進化してから、そういう段階に入ったんじゃないかというのが今の俺の考察だ。それにしては、俺に対して当たり強くないか!? とは思う。

 まぁ同じスライムである俺と何か比較して思うところがあるんだろう。こういう時期は、特に他人の評価や実績に対して敏感だからな。俺にできるのは、エミルスを真っすぐ見てやること。入社したての後輩の面倒を見てきたように。

 

 そんなことを思いながらエミルスと他愛もない話をしつつ、俺達は洞窟から抜け出すために歩きだした。といってもスライム二匹。移動手段を確保したわけでもないから何日も時間が経過した。 

 鉱物や草を俺の胃袋に収納していたとき、エミルスが鉱物を自分の身体で溶かしていた。『鏡像者』のユニークスキルによってエミルスが『大賢者』や『捕食者』を獲得して、同じように体内に溜めることが出来るようになったらしい。

 ふと、同じスキルを手に入れたなら利害関係って必要ないんじゃ……と頭によぎったが、深く考えないようにした。俺達は効率を考え、俺はヒポクテ草を、エミルスは魔鉱石を中心に溜めていくことになった。

 

 ヴェルドラに会う前に『水圧推進』を手に入れていたおかげで、俺は躊躇なく湖に飛び込むことができた。コツさえつかむことが出来れば、水面に浮かんで移動することが可能になった。

 

《スキル『水流移動』を獲得しました》

 

 俺ってもしかして、才能があるんじゃないか。スライム生にして水泳の才能に気づくとは、ちょっと遅すぎたかも。

 "世界の言葉"がスキルの獲得を伝えてくる。未だ湖に入らずに様子を見ているエミルスのところに近づいて声を掛ける。

 

(スキルも獲得したし、お前も入れるんじゃないか?)

(俺もそう思ったんだが、どうやら『鏡像者』が獲得できるのは耐性とユニークスキルだけらしい)

(すげぇ限定的だな、そういうのってユニークスキル以外を模倣できるとかじゃないのか……)

(それが『鏡像者』がユニークスキルである理由ってことなんだろう。普通、ユニークスキルは唯一無二のものだが、『鏡像者』は限定的にそれを模倣する唯一のスキルってことだ)

(すごく複雑だな……というか、俺が入れるんだからエミルスも水に入れるだろ!)

 

 もしかして、泳げないのか? ますます吸血鬼っぽいな。生まれる種族を間違えてるんじゃないのか。パシャッと水面から飛び出して、華麗に着地する。うむ、我ながらスライムの身体に慣れてきた。

 

 俺が飛び出したことで波立った水面を見て、エミルスは何かを思いついたらしく身体の一部を水面につける。すると、触れた部分を中心に水面が光り輝きだした。一体何をする気なんだ……?

 エミルスが水面から身体を離して俺を見る。

 え、なんだよ。

 

(ほら、さっさと飛び込め)

(エ!? 俺からなの? エミルスが先に入るんじゃないのかよ!)

(つべこべ言うんじゃねぇ!)

 

 エミルスの血液の巨大な腕が俺の身体を掴み、光り輝く水面に向かって投げ入れる。

 俺はボールかよ! っと渾身の叫びが水中で霧散した……かと思ったら、また水面から飛び出した。

 

(うわっ!)

 

 着地体勢をとれずにべちゃっと地面に倒れる。天地が逆転したような気分だ。頭がぐるぐるして気持ち悪い……スライムだから全部が頭みたいなもんだけど。

 

(いつまでそうしてんだ)

 

 水面からエミルスが飛び出した。うん? おかしくないか。エミルスが水に入ったところなんて見てないし。そう思って身体を球状に戻して確認すると、周りの景色が変わっていることに気づいた。まぁ、相変わらず草と石と岩だけど場所が違うのは分かる。

 

(もしかして、転移したのか)

(ご明察。『鏡像者』は模倣するだけじゃなくて、水面やら鏡みたいな反射するもの同士をくっつけて転移させることができる。だが、調整がムズイ。スライムぐらいの大きさのポータルしか作れないから練習の余地がある)

(おおっ! すげぇなエミルス。じゃあここは、洞窟の入口の近くなのか?)

(さぁな、ヴェルドラがいたところよりも魔素濃度は薄いから可能性はあるんじゃねぇか)

 

 なんと! 移動能力まであるとは。

 これなら移動時間をかなり短縮できそうだ。急いでいるわけではないけど、洞窟の外に出たいのは確かだしな。

 

(じゃあ、もっと転移しまくって……)

(まて。転移は魔素の消耗が激しいし、俺が触れた場所じゃないと使えない。ここからは歩け)

(そうなのか、なら俺が先導するよ)

 

 どうやら無理させてしまったらしい。魔素も魔力もまだよく分からないけど、同じスライムだから魔素も魔力も保有量は同じだと思う。多分。

 だからその場合、魔物に遭遇したら俺が戦うことになるのか。今のうちになんとかしないと。

 

 それから先程のエミルスの『血液操作』を参考に、見様見真似で水を放出してみることにした。最初は水鉄砲しかできなかったが、伸縮自在なスライムの身体で飛ばし方を変えることで水の刃を作ることに成功した!

 俺が作った水刃が大岩の先をスパッと切り裂いた。自分で惚れ惚れしてしまうくらい非常に滑らかな断面だった。

 

《スキル『水刃』を獲得しました 》

《スキル『水圧推進』『水流移動』『水刃』を獲得した事により、エクストラスキル『水操作』へと統合進化しました》

 

 おおっ! 俺の努力の成果がついに実った。

 エミルスの『血液操作』に似ている。これで俺も水の腕を操ってエミルスを持ち運ぶことができるようになったようだ。やったら絶対怒るからやらないけド。

 

 そして歩くこと数日(体感的に)

 ついに俺達の前に現れたのだ。赤い糸で結ばれた運命の人――――ではなく、

 

「キシャアアア!!!」

 

 で、でけええええ!!!

 って、まぁヴェルドラよりかは全然デカくないけど。蛇に睨まれたカエル、ならぬスライム。逃げるにしたってエミルスもいるし、敵前逃亡はできない。

 まてよ? ヴェルドラに比べれば全然怖くない。思ったよりいけるかも。

 よし。

 

 俺はスライムとしての身軽さを駆使し、岩壁を登ってデカい蛇の真上をとる。そして蛇の首めがけて水刃を一発! 見事に蛇の頭と胴体が分かれ絶命させることに成功する。頭が落ちても神経があるから胴体がまだ動いているのを見て、生命の神秘を垣間見たような気がした。

 あれ、というかエミルスは? どこいったんだアイツ。まぁいいか。

 ところでこの蛇の死体……『捕食者』で捕食して解析したらこの蛇の能力奪えるんじゃね!

 

 見た目のグロさも相まって躊躇いそうになる。ええい、ままよ!

 スライムの身体を大きく広げ蛇の死体を全て吞み込んだ。人間の常識が存在しない吐き気を催しそうになるのをグッとこらえつつ、『大賢者』の解析を待つ。

 

《解析完了。スキル『毒霧吐息』『熱源感知』を獲得しました。黒蛇への擬態が可能となりました》

 

 おお、結構便利そうなものをゲットできたな。これならどんどん魔物を倒してスキルを……って、エミルスの分も倒さないと。アイツも一応『捕食者』と『大賢者』があるし。

 

(よぉ、終わったのか)

(エミルス、どこ行ってたんd……)

 

 ぎゃああああああ!!! エミルスが血塗れで赤スライムに!!!!

 

 ビビッて身体を震わせることしかできない俺の様子を見て、エミルスは漸く表面の血に気づいたらしく一瞬で吸収していつもの黒スライムになった。

 

(今のはエミルスの血なのか……)

(いや、魔物の血だな。あっちでちょっと実験のために魔物を殺してたんだ)

 

 ちょっとって……戦闘に慣れてらっしゃる。

 生まれた時から『血液操作』を持っていたらしいし、たまたま俺の周りに魔物が出なかっただけでエミルスはヴェルドラと会うまで死闘を繰り広げていたんだろう。俺も精進しないとな。

 

(実験ってなんだ?)

(俺の『大賢者』と『捕食者』だが、リムルが持っている本物よりできることが少ないって仮説を検証した)

(え、そうなのか?)

(『捕食者』はスキルを取り込むことができねぇし、『大賢者』は俺が質問しても何も教えちゃくれねぇ)

(完全にはコピーできないのか)

 

 エミルスの『大賢者』は、一言しか話さないらしく《解》とか《了》とかで会話が終わるらしい。さっぱりしてるな、仕事の時最低限の会話で済ませてくるタイプの人っぽい感じがする。俺の『大賢者』は1で質問すると100で返ってくるからな。こっちは教えるときに応用まで教えてくれるタイプの先輩って感じか? この世界の知識が無い俺にとってはめちゃくちゃ便利なスキルである。

 

(じゃあエミルスが分からないことは、俺の『大賢者』で質問するよ。それと、お前が狩った魔物の死体を喰わせてくれないか?)

(悪いが俺が狩った魔物は俺の血液タンク行きだ。スキルが欲しいなら自分で狩るんだな)

(て、手厳しい……)

 

 二人で行動し始めてから結構経つけど、エミルスの反抗期は治りそうにない。ずっとこのままなのか? もうちょっと態度が軟化してくれてもいいんだけど……まぁ俺は大人だし、ゆっくり見守ろう。

 

 宣言通り、俺が敵と相対して水刃を出そうとしても練度が高いエミルスが先に攻撃して倒していく。そうなると、一生俺のスキル獲得ができないわけで。

 エミルスに対抗するように水刃のスピードが速くなっていく。最初こそエミルスにボコボコにされたけど、俺の魔物討伐数が両手で数えきれなくなる頃には三回に一回は俺の水刃が先に敵の首を捉えられるようになった。おかげで『水操作』の練度はめちゃくちゃ高くなったと思う。

 

 それから魔物達の戦いに勝利した報酬として、『身体装甲』『麻痺吐息』『粘糸・鋼糸』『吸血・超音波』……これらのスキルを獲得できた。

 

 スキルの練習のためにどのスキルも一回は使うようにしてるんだけど、ジャイアントバットから手に入った『超音波』のスキルで喋ってみたらエミルスに(うるせぇ!)とガチギレされてしまった。俺の今後の課題は、スキルの威力の調整だな。

 

 あまりにも狩りすぎたせいか、それとも逃げられているのか分からないが魔物が見当たらないまま洞窟を歩くこと数十日。

 ついに出口らしき巨大な扉を発見した。だけど、スライム二匹で開けられそうにもない。エミルスの血液弾と俺の水刃で壊せるかどうか……そう思っていると、エミルスは前に乗り出して魔素を練り始めた。

 

(さっさとぶっ壊す)

(まぁ、そうするしかないよな……)

 

 つられるように魔力を練り始めたその時、重たい鋼鉄の扉が大きな音を立てて開き始める。それは間違いなく、太陽の光!

 俺達の頑張りがついに報われた瞬間だった。興奮して思わず跳ねてしまいそうになるが、扉の先から人影がやってきて反射的に身をひそめる。エミルスも危険を察知したらしく反対側の岩陰に身を潜めていた。

 

 多分、冒険者らしい三人組だ。魔力感知のおかげで喋ってる内容も分かるらしい。見た目はスライム二匹なせいで、飛び出したら襲い掛かってくるかもしれないしここはひとまず様子見。

 三人のうち一人が隠密スキルを持っていたらしく、姿形が見えなくなる。三人分の足音が洞窟の奥へと進んでいった。

 のぞき見し放題だぞ、あとでトモダチになる必要がありそうだな。

 

(今のうちだ、行くぞエミルス!)

(俺に命令するな)

 

 青と黒の二匹のスライムが、洞窟の外へと駆け出していく。

 俺たちの冒険は、これからだ!

 




ユニークスキル『鏡像者(ウツルモノ)』の効果……

 鏡面転移:鏡面になった物質から物質へと転移する。ただし自分が触れたことがある物質のみ。

 実像模倣:対象者のユニークスキルと耐性と姿を模倣する。ただしスキル全ての効果の模倣は不可。

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