大賢者、俺の『虚飾者』の権能を教えてくれ。
さっさとスキルを把握しておきたい。
《了。ユニークスキル『虚飾者』の権能を解析します》
目を閉じると、脳裏に能力の詳細が浮かび上がってきた。
じっくり確認していると、とんでもない事が書いてあることに気づく。
なるほど、これは予想以上だな。思わず口角が上がってしまった。
目を開けてゴブエの方に振り向き目線を合わせる。彼女の髪を撫でつつ、なるべく優しい声で囁く。
「ゴブエ、全部終わったら迎えに行くからここで待っていてくれるか?」
「エミルス様は大丈夫なの?」
「あぁ、ゴブエのおかげで元気になったぜ」
「本当?それならよかった!」
先程まで不安げに揺れていた瞳が一気に明るくなった。『大賢者』と『魔力感知』を接続した事で、ゴブエの表情がはっきり見える。戦場の中で笑顔にする事が出来た、と心の中で安堵を呟く。
そろそろ行かねぇと。
名残り惜しくも立ち上がり、ゴブエに背を向ける。
後ろから明るさを取り戻した声に背中を押された。
「頑張って、エミルス様!」
「……ありがとな」
尚更負けられなくなっちまったな。
俺は軽く手を振って歩を進める。予想通り、自分達の力を過信している雑魚共は俺が出てくるのを待っていたようだ。
先程斬ったはずの男の右腕も復活している。確か、『切断者』と『乱暴者』。普通に戦ったら面倒な戦闘スキルだ。俺は顎を引いて真っすぐ敵を見る。出方を伺い、ジリジリと距離を詰めていく。
「待たせたな」
「遅すぎて逃げちまったかと焦ったぜ」
「ハッ、ガラじゃないが仲間の仇を取らないといけないんだ。ここで死ね」
俺の言葉がお気に召さなかったのか、二人の身体に魔力が巡っていく。軽い挑発だったが、簡単に乗ってくれて助かった。『虚飾者』の発動を準備しつつ、冷静に観察する。
先に動いたのは『乱暴者』の男だ。
「喧嘩なら買ってやるぜぇ!」
身体能力を上げたのか、空中に飛び上がり真上から拳を振り下ろそうとする。
「
緋色の極大な拳がその男を空中で掴んだ。確か、イフリートの『炎化爆獄陣』を『粘鋼糸』に纏わせて、それを高速振動させる事で敵を削り取る技だったか。
まぁ俺の自己流に改造したものだ。『黒炎』や『黒雷』も混ぜて火炙りと電流、ついでに圧力の三重苦を背負わせる。
俺が拳を軽く握れば、ミチミチと嫌な音を立てて男の身体が悲鳴を上げる。
「ぐぎゃぁぁぁぁ!!!」
「動くなよ、死が近づくだけだぞ」
《告。解析が終了しました》
男を甚振っている間に、『大賢者』に頼んでおいた仕事が終わったようだ。
どうだ、ユニークスキルに統合できそうか?
《否。今のままではまだ要素が足りません。スキルの経験値は充分ですが、魂の力が不足している為、統合進化は不可能です》
引きこもっていた弊害が出てるな。せっかく『血液操作』をユニークスキルに進化させようとしたってのに。
……待て、コイツら二人を殺して魂を使えば統合は可能か?
《解。可能です》
冷徹な『大賢者』は告げる。
ユニークスキルを持つ人間の魂があれば、充分だと。見逃す理由は元から無かったが、使い道が出来たのは好都合だ。
色々思考を巡らせていれば、左斜めから不可視の刀身が複数俺の結界に弾かれる。カラン、と軽い音を立てて刀が地面へ散らばった。魔力の流れで動きは分かっていたが、この程度なら
「な、なんで……!」
「ご自慢の刃が通らなくて不満か?さっき斬られた時に逃げ出していればよかったのにな」
——そしたらちょっとは延命できたかもしれねぇよ?
恐怖を煽ってやれば、極限状態の男の精神は崩壊した。
「ちくしょぉぉ!!」
一心不乱に剣を振る男。あまりにも憐れで滑稽だった。先程シオンに致命的な一撃を与えたヤツと同じには見えない。
俺は退屈げに溜息を吐いた。
「さっさと、俺の経験値になれよ」
『思考加速』が掛かっていることを確認した後、俺は左手で軽く払い『血液操作』でそいつの首を刎ねた。男はまた事態を把握しきれていないらしく、無様に地面に転がっても目をぐるぐると動かしている。数秒遅れて身体がバランスを崩して倒れた。
「ひ、ひぃぃぃ!!!」
無惨に斬殺された男の死体を見て、半狂乱になりながら身を捩る『乱暴者』の男。皮膚が焼ける臭いと、電流で魚みたいに跳ねる身体、色んなところから切り傷が出来て血が零れていく。
大きな拳の間から血が流れ、俺の頭に滴り落ちた。
遠くから複数の足音が聞こえてくる。馬の蹄の音が近づいてきて、俺の前で止まった。
「ごべんなざい!!ゆる、ゆるしてぇぇ!!!いぎゃああぁ!!」
「期待外れだな」
「これ、は……いったい」
愕然とするリーダー格の男が疎らに呟く。斬殺された男の死体。半狂乱の男はすでに人間かどうかすらも分からない。俺は集団が集まったのを見て、拳に力を込める。
ぷちっ、と軽い音が鳴り、男は拳に潰されて死んだ。
《告。魂の掌握を確認。『
潰したことで大量の血が拳から溢れて俺の身体を汚した。
罪深い人間どもの血はクソ不味い。そもそも血なんて食えたものじゃない。乱雑に口の周りの血を拭うと、拳を握る力を弱めた。
煉獄の剛腕が解除され、人間の死体だったものが地面に叩きつけられる。形容しがたい汚物を見て小さく悲鳴を上げ、後ずさる武装集団。
そいつらに近づいて、問いかける。
「……お前達、何人殺した?」
俺が力不足だったせいで、この結界に阻まれて逃げられなかった住民がいる。
こいつらは、植物を踏み荒らすように蹂躙したのだろう。剣先に、真っ赤な生命の色が塗られていたのだ。
答えない人間どもに、思わず声を荒げる。
「何人殺したと聞いてんのが聞こえねぇのかクソ共!!」
思わず『威圧』が漏れてしまった。そのせいで馬が急に暴れ出して人間が次々と落馬していく。そのまま馬は四方八方に散らばって逃げてしまった。逃げる手段を失ってしまって、可哀そうだな。最初から逃がすつもりは毛頭無かったが。
一歩、更に一歩前に進みながらまた質問を問う。
「数えきれないくらいたくさん殺したってことか?」
沈黙は肯定と見做すぞ。
自分でも驚く程声に感情が乗っていない。内側は怒りと憎悪でどうにかなりそうだというのに。
本当は捕虜にでもして詳細を吐かせた方がいいが、今はそんなことどうでもよかった。
心臓が見える。
ドクドクと拍動する生命の源。速くなっていくリズムに俺は思わず目を細める。
確かフォルゲンとか言われていた男が、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら泣き叫んだ。
「お前、お前は一体、何者だ……!?」
リムル=テンペストの鏡写し。影武者。ヴェルドラの庇護を与えられし者。もしくは、悪魔だとでも思っているのか?
俺か? 俺が……何者か、だと?そんなの、決まってるじゃねぇか。
俺の名は————
「地獄の土産に教えてやるよ。俺の名は、エミルス=アゲンスト。
——この国の、もう一人の王だ」
『
俺はフォルゲン以外の人間に標的を定め、心臓周りの血を全て刃に変える。仲間達を殺した対価は自分の命で払ってもらおう。
最期に相応しい血華を咲かせろ。
パチン、と指を鳴らす。
血の海が広がる。
最期の慟哭を上げた後、グシャリと嫌な音を立てて身体が破裂した。血を噴き出しながら次々と死んでいく部下達を見て、腰が抜けて這いながら逃げ出そうとするフォルゲンを取り押さえる。
「さて、お前にはまだやらなきゃいけない事があるんだ」
「や、やめてくれ……」
「よかったな、お前はコイツラと違って延命できるんだ。喜べよ」
首を刎ねられず、拳に圧し潰されず、心臓を切り刻まれずに済んだ。幸運な男である。
シオンは、仲間達は同じ苦痛を味わったのにお前は経験できないなんてな。目の前の醜い人間を見下しつつ、俺は男の頭を鷲掴んだ。
『お前は味方に犠牲を出しながらも帰還する。テンペストの魔物は潜在的脅威であり、逃げ出さずに戦わねばならない事を伝えるだろう』
そのまま頭を潰したい衝動を抑えながら、兵士どもがやってきた方に放り投げた。
フォルゲンはふらふらと立ち上がり、傷ついた身体を引きずりながら歩いていく。俺が植え付けた
俺は人間を殺した。
リムルが定めたルールを破り私怨の為に力を振るった。
本当は俺も裁かれるべきだが、そうなればこの国は王を失ってしまう。俺の怠慢により起こった戦争で、俺の私欲でクレイマンに付け入る隙を与えてしまったのは俺だ。今の俺にできることは、こうして尻拭いすることだけ。
家の中に入り、隅に座っていたゴブエを見つける。
近づこうとして、身体が血だらけな事に気づいて直ぐに綺麗にした。
血塗れになっていた俺を怖がるどころか、俺を視界に入れた途端顔を綻ばせて近寄って来る。
「大丈夫だったか?」
「うん、エミルス様が守ってくれたから!」
「そりゃ良かった。じゃあ皆のところに合流するぞ」
ゴブエを抱きかかえると、ゴブエはふと俺の頭に視線をやる。
なんだ、と声をかければ俺の頭につけているものを指差した。
「かっこいい王冠!」
いつの間にか、俺の頭についていた黒いサークレット。
あの時の景色がフラッシュバックする。
それは己の戒めであり、民からの信頼であり、決意の証だった。懐かしさと恥ずかしさと悔しさで綯い交ぜになり、何とも言えない心情に苛まれながらも、緩く口角を上げてその言葉を噛みしめる。
「……あぁ、俺も王様だからな」
◇
悪夢で見た景色よりも被害は少ないが、そこら中が破壊されているのは変わりない。
道中に会った避難民へ声を掛けながら、気配が多く集まっている広場へと向かう。
そこには、怪我を必死に治しているシュナと俺の代わりに指示を出しているリグルドの姿があった。
広場に辿り着くと、シュナが俺の存在に気づいて近寄ってくる。
「……エミルス様、よくぞご無事で」
「コイツらのおかげでな」
シオンとゴブゾウの遺体をそのままにする事が出来ず、血液を用いて二人を運べるサイズ感の腕を作り運んできた。
先程戦闘で使った技の応用だ。
そっと地面に置いて、シオンの乱れた髪を整える。ゴブゾウはシオンが好きだったから、横に置いてやった。
「そんな、シオンとゴブゾウが……」
シュナの唖然とした声が響く。だが、目を震わせるだけで涙は零れなかった。自分が泣いてしまえば、周りを心配させてしまうと思っているのだろうか。
「……大丈夫だ、ちゃんと泣け」
悲しい時は泣かねぇと心が麻痺しちまうからな。
シュナはシオンの身体の前で屈む。泣き顔を見せまいとする姿は、あまりに気高いと思った。シュナの意図を汲んでそっとその場を離れ、俺は視線を遠くにやる。
広場に並べられていくのは住民の遺体。
母親が死んだ子供の慟哭。友が身を挺して庇ってくれた青年の後悔、親しかった同僚の戦死。ここに倒れている全員が、すでに息をしていない。
凄惨な光景を見つめる。この景色をはっきりと目に焼き付ける。
何もできないのが、ただ悔しさを募らせるばかりだ。
そうして暫く眺めた後、誰かが背後から俺に近づいてきていることに気づいた。
「ゴブエ……!」
「あ、お母さん……!」
俺に近づいてきたのは、ゴブエの母親だったらしい。膝を曲げてゴブエを降ろしてやると一目散に母親へ抱き着いた。大粒の涙を流して感情を吐露する。さっきまでずっと我慢させていたらしい。
こんな経験をさせてしまったことにどうしようもない無力感を感じながら、俺は二人に近づいた。
「ありがとうございます、エミルス様」
「気にするな、俺のせいでその子には怖い思いさせちまったからな」
離れていく親子に手を振った後、俺は現場をもう一度見る。
——不思議と頭は冷静だ。人間達が仲間達を殺したのと同じように、俺もあいつらを殺したからだろうか。燻っている炎はまだ鎮火していないが、少なくとも周りを害する程大きくはない。
俺はこの国のもう一人の王として、事態を収束させなければならない。
空を睨みつける。未だに俺達を蝕む結界は貼られたままだ。『魔力感知』で町の隅々まで気配を探していると、避難場所で指示を送っていたリグルドが声をかけてきた。
「エミルス様、ご無事で!」
「リグルド、ここから南西方向に住人ががいる。動ける者を送ってくれないか?」
「は、了解しました!」
リグルドに指示を出していた視界の隅で、ハクロウとゴブタが倒れている。
まだ息がある。俺は急いで駆け寄った。
「二人とも大丈夫か!」
「エミルス様、無事だったっすか……」
「ほっほっほ、心配せずとも不肖の弟子とここでくたばるつもりはありませんわい」
「軽口叩いてる場合かよ……」
大賢者、解析は?
《解。『空間属性』のスキルが傷口に影響を及ぼしています。このままでは
あぁ、すぐにやってくれ。
俺の手から『暴食者』の黒霧が溢れ、二人を包む。『大賢者』のテクニックによりものの数秒で処理が完了したようだ。
手元に用意しておいた
「そうだ、言っておくことがある」
その前に、俺は言わなければならない事を伝える。
この場にいる仲間達に俺は告白し、宣言する。
「俺は人を殺した。そして、今この町に残ってるヤツらも躊躇なく殺す」
シオンを殴ったあの男も、シオンとゴブゾウを殺したあの男も、町に入ってきた人間共も、全員殺した。
そう呟けば、仲間達の顔に緊張が走る。人殺し、この国の最大のルール違反だ。
そんなもの俺には関係ない。何故なら俺もテンペストの王であり、法であり、力だからだ。
「リムルが決めたルールを破っていいのは、俺だけだ」
それが許されるのは俺だけでいい。
町に残っていた
あれは、ベニマルの妖気だ。間違いない。
念のため『分身体』をこの場に残し、爆発した場所へ向かう。
大通りから逸れた道に入ると、炎の熱気が充満し始める。
現場に辿り着けば、複数の
戦っている敵は、ヨウムだったが。
「そこをどけ、俺はお前の後ろにいる女に用がある」
「悪いが、今のアンタに俺の女は預けらんねぇよ」
「さっきの一発喰らってまだそんなことを言う気力があるのか」
ヨウムの後ろにいるのは、数日前に見た新入りの魔術師だ。グルーシスが傍で彼女を支え、じっとこちらを見つめている。……やはり、そういう事だったらしい。懸念していたはずなのに、見逃したのは俺の落ち度だ。
ベニマルの憤怒の炎に焼かれるべきなのは、俺の方だ。
「ベニマル、もういい」
「……エミルス様」
魔力を集めていたベニマルを制止させ、俺が前に出る。ゲルドとその部下達、そしてベニマルも跪いた。
ヨウムが剣を構えてこちらを見る。
「俺は彼女を傷つけるつもりはない。……確認がしたいだけだ」
「確認だと……?」
ミュウランは意図を汲んだようで、自ら俺の前に歩を進める。『大賢者』が俺に解析結果を伝えてきた。
彼女の本物の心臓は、ここには無い。——クレイマンに利用され、そしてボロ雑巾のように捨てられたとみていいだろう。
「ミュウラン、お前はクレイマンの指示でテンペストに入り込んだ。目的は、俺を含めた敵情視察だった。そうだな?」
「……えぇ、クレイマン様は貴方の事を警戒していたわ。途中から話題にも挙がらなくなっていたけれど」
なるほど。
これは性格を知っている故の予想だが、魔王ミリムの掌握に成功したからだろう。支配したがりのアイツと、不審なミリムの行動が繋がる。アイツがクレイマン如きに操られるとは微塵も思わないが、ユーラザニアを攻撃したのは確かだ。頭の隅に置いておこう。
思考を遮るように、ミュウランが続けて俺に告げる。
「
「……へぇ、代償は命で払うと?」
「その覚悟よ、その代わり……この二人が私を庇った事を不問としてくれないかしら」
「おい、ミュウラン!」
抗議の声を上げるヨウムとグルーシス。ミュウランに掴みかかろうとしていたので、ゲルドに頼んで無理やり離れさせた。『魔力感知』でみた限り、偽物の心臓はまだ機能を停止していない。
下手な事を言えば、クレイマンに察知される。
《告。〝
あぁ、わかってる。
俺は至って冷静だ。ここで雑にミュウランを殺したりなんかしねぇよ。
「今すぐどうこうするつもりはない。とりあえず監禁させてもらうが、お前の事は後回しだ。そんなことより、もっと重要な問題が起きている」
「重要な問題?」
グルーシスが反芻する。俺の言いたい事が分かったのか、ベニマルの表情が曇る。ミュウランやクレイマン、ファルムス王国なんて所詮大した問題じゃない。それよりは、未だに顔を見せない、もしくはもう見せる身体すら残っていない未来の魔王。
……リムル=テンペストについて、考えるほうが重要だろう。
名前:エミルス=アゲンスト
種族:
加護:逆風の紋章
称号:"魔物達の試験官"
魔法:隠形法,気操法,瞬動法
固有スキル:『溶解,吸収,自己再生,影移動,威圧』
ユニークスキル:『
『
『大賢者』『暴食者』『変質者』
エクストラスキル:『魔力感知』『分身体』『念話』『思念伝達』
耐性:熱変動耐性ex,物理攻撃耐性,痛覚無効,熱攻撃無効,電流耐性,麻痺耐性,捕食耐性
ユニークスキルの詳細
『
意識結界:認識で結界の強弱を変更。自分より
認識操作:触れた対象の意識と無意識を操作する。
装飾:認識したことがあるスキルを模倣する。ただし威力や効果は付随しない。
虚飾:原理を知っているスキルを行使する。認識しただけでは行使不可。
空白増幅:一時的に体内魔素を増幅させる。この権能を使うと一定時間経過後
『
完全記憶:一滴の血液から復活可能。
血液支配:感知内の血液を支配し、血液から属性魔法や物質の生成が可能。
魔血変貌:魔力から血液に変換、その逆も同様。人間を殺す程身体能力が向上する。
血之契約:自身の血を摂取した者のスキルを獲得し、能力向上を行う。