「もうすぐだ、もう少しであの邪魔なスライムを完全に抹殺できる」
クレイマンは自分の勝利を確信し、右手に掲げていたワインを一口嗜んだ。凱旋の前の美酒は、いつもより甘くて濃厚な味わいだ。
並々に注がれた赤ワインは、鮮やかな赤色を湛えており、クレイマンの瞳の色より濃く見えた。
◇
ベニマル達がクレイマンの軍勢と対峙していた頃、俺達は
エミルスは勝手に作っていたけど、シュナがそれに合わせて作っているから結果的にペアルック。あれ、そしたらワルプルギスに持っていけなくないか?……いや、さすがに服で関係性がバレるなんて馬鹿な事はないだろう。
「まぁ、よくお似合いですリムル様」
「はい、とても素敵です!」
「その凛々しきお姿、我が主にふさわしい!」
「そ、そうかな……?」
シュナ、シオン、それにランガも太鼓判を押してくれるものだから、きっと大丈夫なはずだ。ちょっと恥ずかしいけど。シュナも戦闘用の新しい服を着こなしている。さすがは巫女姫、和服が似合う。
仕事を終えたシュナは、作戦通りクレイマンの城へ向かった。俺はもちろんシオンやランガの激励もあり、互いに笑顔で送り出すことができた。いざとなったらエミルスもいるし、心配はしてないんだけど、やっぱり不安はある。だが、仲間達を信じて送り出すことが王としての役目なんだろう。
身軽な王様は単身で敵陣に乗り込んでったから、一概には言えないんだけどな。改めて執務室の周りを見渡せば、呑気に漫画を読んでいるヴェルドラとラミリス。それを微笑ましく見てるトレイニーさんという、なんとも緊張感のない空気が漂っている。
もうすぐ迎えが来る時間だっていうのに、緊張感無いなぁ。ワルプルギスに参加する魔王の詳細も知らないし、この際聞いてみることにした。
「なぁ、魔王ってのは10人いるんだろ? ミリムにラミリス、レオンカリオンフレイクレイマン……あと4人はどんなやつなんだ?」
「我は小物には興味がないのだ。……が、2000年ほど前に、
ヴェルドラが漫画から視線を離さず答えてくれた。
女魔王?と反芻すれば「シャレの分からんやつだったぞ」と不機嫌そうに呟く。
「やつらの都を燃やしたらマジギレしてな」
「そりゃ誰だって怒るだろうよ」
「う、うむ。我も今では、ちょっぴりだが悪かったかなと思っておるぞ」
「ちょっぴりなんだ……」
てか俺だって怒るわ。
ヴェルドラも今では町に住み着いているから、なんとなく自分のしでかしたことを自覚したらしい。背中しか見えていないが、ヴェルドラが若干縮こまっているように見えた。目に見えてキョドっている。
「名は確か、ル……ルルス? いや、ミリスだったかな。本気ではなかったが、我と遊べる程度には強いヤツだったので、せいぜい気を付けるのだぞ」
「その国なら、1500年前くらいからロイ・ヴァレンタインって男が魔王になってるよ」
「代替わりしたってことか」
現魔王のラミリスから追加情報が入る。
代替わりってするもんなんだな、俺自身魔王に対して解像度が低いから知らないことだらけだ。少しでもヴェルドラへの恨みが消えていることを祈るばかりである。
「おおッ!」
っと、ヴェルドラが叫ぶ。
一体なんだ!と俺が言えば、漫画に対して反応しているだけならしかった。真面目にやれよオッサン!
ネタバレしてやろうか、と脅してみれば「そうカリカリするな」と諭される。緊張している俺の方がおかしいのか?と感じたくなるほどの態度だ。
「あとは
ヴェルドラが名前を憶えているだけあって、かなりの強者みたいだな。
今なら我が勝つとかほざいているが、俺にとっては要注意な存在だ。
「それと、我は戦ったことはないが、
「戦ったことがないって?」
「やつは北の果てに住んでるからな。あんな何も無い所に、我のような偉大なる者がそもそも行く必要が無いのだ」
そう言って高笑いをするが、何か別の理由がある気がする。
笑い声の中、ラミリスが賑やかしのように話し出す。
「そうよね、ギィは強いからね。ギィとミリムとアタシが最古の魔王なんだよね」
「ふーんなるほどね、んで、あと1人は?」
「ん? ディーノちゃんだね。寝てばっかりの、私以上にサボるのが好きな魔王だよ」
「ラミリスの同類がいるのか」
「あっ……同類言うな!」
と怒るラミリスは無視するとして、これで十名だな。
ヴェルドラが怒らせている魔王もいるようだし、その辺の怒りを買わないように注意しなければなるまい。
しかし、魔王って思った以上に実力がありそうだ。エミルスを戦力に加えたとしても、ミリムに勝てるかどうか怪しいし。全然本気じゃなさそうだったからな。進化した俺でも勝てるかどうか。
そんなことを考えていると、空間の歪みを感知した。
どうやら、お迎えが来たようである。
目の前に禍々しい門が出現した。デザインが凝っていて、演出が過ぎるな、というのが感想だった。
そこから暗紅色のメイド服を着こなした緑髪の美女が出てくる。
「お迎えに参りました、ラミリス様」
このメイド……ディアブロと同種の威圧感だ。
メイドというより、冥土からの使者という感じだった。
「久しぶりじゃんミザリー、相方のレインは元気?」
「おかげさまで変わりありません」
ミザリーと呼ばれた美女はラミリスに対して一礼すると、俺に目線を合わせる。
「そちらがリムル様ですね? 我が主ギィ様より、お連れするよう仰せつかりました」
最古の魔王の一人、ギィの部下か。
ギィはかなり傲慢な魔王のようだ。敵対するのは現実的じゃない。
「どうぞお進みください」
「じゃあ行くよ、ベレッタ、トレイニーちゃん」
「はい、ラミリス様」
「お供いたします」
ラミリスと配下達が門の中に入っていく。
扉の先に待つのは、この世界の支配者達。
だが、俺だって魔王になると決めた以上気後れしている場合じゃない。
シオンとランガに声を掛け、ラミリスの後に続く。
「リムル様、皆様もどうぞお気をつけて」
「何かあったら、すぐ我を呼ぶのだぞ」
振り返りはしない。ただ手を振ってその声援に応えた。
この門を通ったということは——この俺もまた、この世界での最強の一角となったのだから。
俺の後ろで、重たい金属音が鳴る。
扉が閉まった。
◇
豪華な扉はそのまま会場に繋がっていた。
そこには大きな円卓が備えられていて、等間隔で椅子が十二脚用意されている。
十名の魔王がいて、現在カリオンが行方不明。つまり、俺が座っても二脚は余る計算か。
……カリオンが生きていて、エミルスがここに来るならぴったりだな。いや、まさかそんなことはないか。
「どうぞこちらへ」
「あぁ」
ミザリーの案内で着席する。配下であるシオンとランガは、扉の付近で待機となるようだ。
一番手前、つまり末席という事なのだろう。魔王になった順番で席次が決定するようだ。
俺のちょうど真正面にいる妖艶な赤髪の男——確かに男ではあるが、妙に艶のある美丈夫が寛いで座っていた。
目を閉じているが、眠っているわけではない。
一目で分かった。コイツはヤバい。
最古の魔王の一人として名が挙がっていたギィ・クリムゾンだろう。
一見すると、
きっと『大賢者』のままだったら騙されていたに違いない。情報を読む能力すらも利用して、相手を観察しているわけだ。明らかに別格。そう思わされた。
ギィの観察を終えた時、会場へ大男が入ってくる。伴も連れずに一人だけ。
出鱈目な
ギィの右隣の席を一つ飛ばし、踏ん反り返るように座った。威風堂々たる振る舞い。
さすがはヴェルドラの好敵手だった魔王、竜種と喧嘩出来るのも頷ける。
また一人魔王がやってくる。
特徴的な二本の犬歯が唇から覗いている。
傍に仕えてるあのメイドさん……もしかして。
《解。『解析鑑定』の結果、対象者のほうが魔王ヴァレンタインのよりも
なるほどな。俺のように
赤と青の
この妖しい美少女こそ、真なる魔王なのかも。ルルスとかミルスとかいう……ヴェルドラと俺の関係がバレませんように。万が一バレても尻拭いしなくて済みますように。
暫く経つと、五人目がやってくる。
二本の剣を腰に帯びているがそれだけ、軽装である。見た目だけ言えばまだ若く、下手すれば高校生ぐらいの年代に見える。銀髪に紫色のメッシュが入っており、都会の若者といった感じだ。
そいつは欠伸しながらゆっくり歩を進め、ラミリスを視認すると軽く手を上げて挨拶した。
「よ~っす、相変わらずチビだな」
「んっ! 喧嘩売ってるわけ?ディーノのくせに生意気なんですけど」
ラミリスの同類と噂のディーノだったらしい。
喧嘩というよりは、恒例の
「バッカ、俺が勝つのわかってるのに売るわけないじゃん」
「ふ~ん、死にたいみたいね。今日のアタシは絶好調なんだからね!」
「いやいや、だってお前、前に会った時より縮んでるよね?」
「だってしょうがないじゃん! アタシ最近生まれ変わったばかりだし!」
と、ここでディーノが後ろで控えている従者に気づいたらしく、驚嘆の声を上げた。
「あ? おいおいぼっちのお前がなんで従者を連れてるの? 1人で来た俺が恰好悪いじゃん」
「ふふん、まあね。これでアタシがちびっ子だとか、ボッチだとか馬鹿にしてた
清々しいほどの虎の威を借るなんとやら。
ディーノは「よく見たらマジでヤバくね?」と従者二人を見て淡々と呟いている。その言葉にベレッタとトレイニーさんは会釈を返した。
いやはや、ラミリスには勿体ない従者達である。
「でしょ? でしょでしょ! まあね、これでアタシも発言力が増すってものよね」
その二人に手を加えたの、俺なんだけどね。まぁいいけど。
とりあえずディーノに関してはなんとなくつかめた。
しかも、席に座ったかと思えば隣のヴァレンタインに対して挨拶もせずに寝始めた。
隙だらけに見えて解析に
次に入ってきたのは
彼女が魔王フレイだろうか。なんという溢れ出るような
もうこの人が一番ってことでいいんじゃないかな。
「リムル様」
「うっ! ど、どうしたシオン?」
やべ、つい思考が横道に逸れてしまっていたのがバレたか?
近づいてきたシオンに挙動不審になりつつ答えると、シオンの目線が魔王フレイの方向へ向いた。
「後ろの従者の男、なんだか気になりませんか?」
「ん?んん…」
俺もそっちに目を向けると、
かなりの魔素量だが、この場に集う者達の中ではそこそこだ。
これはまさか——
《告。解析鑑定による推定——》
いや、万が一カリオンだとしても、こんなバレバレの方法で参加するわけないし別人だな。
《——フッ》
ラファエルさん?今笑った——
「お前がリムルか?」
突然、後ろから声を掛けられる。
今まで気配に気づかなかったのに、気づいた途端冷たい風が吹き込んできたような錯覚に襲われる。
金髪美人、神に愛されたかの如き美貌だ。
「そうだけど——」
お前は誰なんだよ、と聞き返そうと思った。
こんな美人に知り合いはいないし、と思ったところで。その正体に思い至った。
魔王レオン・クロムウェル。〝
シズさんを召喚した魔王。
「——そうか、お前がレオンか。何か用でもあるのか?」
「……いや、その姿を見て、ふと懐かしく思ってね」
その言葉を聞いて、レオンであると確信する。
懐かしく思った? 俺の姿は、シズさんの幼き頃の姿でもある。つまりレオンは俺に用事があったのではなく、シズさんの事を思い出しただけだったのだ。
「レオン、シズさんは死んだぞ」
「知っているさ。死ぬのは当然だ。なんせ彼女は、イフリートを受け入れず魔人になるのを拒んだのだから」
淡々と、レオンは答えた。
俺は思わず拳に力が入る。
「彼女から頼まれたわけじゃないが、一発殴らせろ」
「断る。私はシズに、自らの生を選択する機会を与えた。彼女は人間として生きることを望んだのだ。イフリートを餞別にくれてやったのに、殴られる筋合いなどない」
なんという肩透かし。
無礼だと激昂するかと思ったのに、冷静に返されてしまったのだ。
その上、
「だが、お前にも少し興味がある。招待してやるから、文句があるのならば来たらいい。罠だと思うなら、拒否してくれても構わないよ」
「わかったよ。受けてやるから、招待状でも送ってくれ」
「ああ、そうしよう。もっとも、お前がこの場で生き残れたら、だがな」
レオンはそれだけ言うと、さっさと左隣の席に座ってしまった。
これ以上は相手をする理由がない、という意志表示だろう。
とりあえず、シズさんの事を伝える事が出来たのだしよしとしよう。敵に回るつもりもなさそうだ。
なら、残る問題は唯一つ。
足音が聞こえてきた。
ミザリーに連れられて入ってくるのが数名。
まず最初にミリム、無感情のままこちらに歩いてくるのが見えた。エミルスの報告で無事なのは分かっていたけど、こうして顔を見ることで改めてホッと一息吐くことができた。胸元の見慣れないペンダントが気になるが、ひとまず置いておくとして。
カリオンが行方不明とすると、これで8人。
ということは隣のすかした男。白いタキシードを身にまとう神経質そうな男——それがクレイマンだった。気になるのは、腕に抱いた狐だ。とんでもない妖力、そして魔素量。下手をすれば、その力は魔王達にも届きそうな程だ。
クレイマンと思われる男は、ミリムに近づき何かアクションをしようとした。
だがいきなり、動きを止める。それから、皆に聞こえるようにミリムに話しかけた。
「さっさと歩いてください、ミリム」
ミリムはこくりと頷いて、自分の席に着席した。
……自分がミリムに命令できる存在だと周りに暗に伝えている。明らかに周りの魔王の警戒度が上がった。
当然、俺もだ。ミリムがこんなやつの命令に従うなんて到底思えない。だからこそ、今の行動一挙手一投足が不自然に感じるのだ。
本当に、操られているのか?
これで全員揃ったかと思いきや、もう一人。
ミリムの席の後ろに立つ存在がいた。
先程のクレイマンの行動を隠れ蓑にして、本人は一切目立つことなく
……黒いフードを被り、口元だけが見えている。桜色の長い長髪も、紅く光る瞳も隠して従者として徹底的に着飾っている。
間違いない、エミルスだろう。というか、ドワルゴンに外遊していた時もそんな恰好だったし。
エミルスがもし操られているのなら、かなりヤバいが信じるしかない。
俺は必死にエミルスから視線を逸らした。逸らした先で、魔王ヴァレンタインのメイドの視線がエミルスに向かっているのが見えた。いや、恐らくエミルスじゃなくて手前にいるミリム……か?一瞬だけだったから、結局答えは出なかった。
ともかく、クレイマンがミリムを——俺の友達を操っているのなら、許しはしない。
……楽に死ねると思うなよ?
「それでは、出席者をご紹介致します」
ギィの配下であるレインというメイドが、涼やかな声で紹介していく。
「そして
レインがそこまで言い終えた後、暫く沈黙があった。
ギィがゆっくり手を上げると、「以上でございます」と締めの言葉で終わらせた。
エミルスを紹介するか迷ったのか? さすが最古の魔王とその配下だ。エミルスがどんだけ隠蔽してもやっぱり隠し通せないらしい。見逃してくれたようで何よりだが、どんな思惑なのか掴めない。
そんなことを考えていると、クレイマンが立ちあがった。
「本日は私の呼びかけに応えていただき、誠にありがとうございます。ここに魔王の宴……
主催者の権利と言わんばかりに、開会を宣言した。
これから永い夜が始まる。
クレイマンの長い演説が始まった。
魔王ヴァレンタインに対して、何か思うことがあるのか視線が一瞬止まる。俺とは関係ないので、恐らく気のせいだろう。長々とした話だったが、真面目に聞いてみた。
一つ、魔王カリオンが俺を唆し、魔王を名乗るように仕向けた。その証拠として、カリオンの軍勢が俺達の町に滞在している。
一つ、ファルムス王国をたきつけ、ジュラの大森林へと侵攻させた。それを迎え撃つべく俺達に協力を申し出て、それを理由に人間へと手出しした。
一つ、ファルムス王国に勝利した俺が魔王を僭称し、カリオンが裏でそれを支援する。
このような勝手な真似は、魔王間の協定違反である、というわけだ。
そして、その情報を集めてくれたクレイマンの配下のミュウランが、俺に殺されたと主張したのである。
「更にリムルは、カリオンと共謀して私を殺そうとしていました」
怯えた眼差しでこちらを見つめているが、全て演技だと知っている俺は、よくもまぁそんな詭弁がすらすらと出てくるものだとある意味感心していた。
その後、カリオンが裏切ったことを知ったミリムが激怒して、獣王国ユーラザニアを滅ぼし、カリオンは死亡した——と、そう言っている。
ミリムはクレイマンを想ってのものだったので、どうか許していただきたいとか……いや、もうこれ以上は不要だろう。言ってることは全てでっちあげなので、記憶するに値しない。
ラミリスはすでに漫画を読み始めているし、誰も真面目に聞こうとしている感じではなかった。
発議者が説明を終えるまでは全員黙って聞く、というのがルールなのだそうだ。
今回は、来客として当事者の俺がいる。
司会を任されているのか、レインというメイドが俺に視線を向けてきた。
「それでは次に、来客よりの説明となります」
ようやくだ。
道化の相手ももう終わりである。
「クレイマン、だっけ?お前、嘘つきだな」
「何?」
「ぶっちゃけ、俺は魔王なんてどうでもいいんだよ。カリオンさんが俺を誑かしたってのもデタラメだし、ファルムス王国は勝手に欲かいて攻めて来ただけだしね」
そう言って、俺は証拠を提示した。
円卓の中央に大きな水晶玉を浮かび上がらせ、そこに映像を映す。
ベニマル達の戦場の様子や、ゲルミュッドの視線から見た映像なんかもある。エミルスが事前に探し出していたのだから、そりゃあもう溢れるように証拠がある。
ゲルドとフォビオが対峙していた、中庸道化連達の発言も全て記録させてもらっていた。
クレイマンの発言には証拠がない。全ては発言だけのもので、信憑性なんてまるでない。
むしろ、これが良く通ると思ったな。
クレイマンが慌てて弁舌するが、ダグリュールが疑問を呈する。
ヴェルドラの復活によって力を得たリムルが、何故カリオンと共謀してクレイマンを陥れる必要があるのかと問いただした。咄嗟に矛盾しない理由を捻りだそうとするのが、なんとも憐れだった。
「スライムかどうとか関係ないし、ヴェルドラは友達だし。お前のクソつまんねー話を聞きに来てるんじゃねーんだよ。そろそろいいだろう? 認めろよ、お前の指示でカリュブディスを復活させた証拠は、そこに映ってるフォビオって魔人が証言してくれるぜ?
俺は『暴食之王』を起動する。
「ハッタリと思うならそれでもいいさ。そう思ったまま、死ね」
俺が机に手を置くと、大きな円卓が跡形も無く消え去った。
単純に、『暴食之王』に収納しただけだ。驚く事はない。
クレイマンがバランスを崩して距離を取る。
驚きで声も出ないようだ。
椅子を蹴り飛ばすと、クレイマンの後方の壁に激突した。大きな音を立てても、平然とする魔王達。
動揺しているのはクレイマンだけだった。
「お前、演説しながら俺の精神を支配しようとしていたよな? 俺にはそんな攻撃はムダだ。だが、
クレイマンを見据えて問う。
これで大義名分も出来ただろ。
しかし答えたのはクレイマンではなく、最奥の席に座るこの場の支配者だ。
「否。この場では全員に公平なように、自分の言葉でのみ相手に訴える事を是とするよ」
それでも俺の敵に回る魔王がいたら、それはその時。
そう覚悟を決めて、俺は実力行使に出た。
「しかしギィよ、コイツは魔王を侮辱——」
「黙れよ。俺が気にくわないっていうなら、これは俺とお前の問題だろ?」
俺は場の中心に躍り出て、魔王達に宣言する。
「俺は魔王なんざどうだっていいんだ。俺は俺が楽しく過ごせる国を作りたいだけでね。それには人間の協力が必要不可欠だし、だから人間を守ると決めた。それを邪魔する者は、人も魔王も西方聖教会も等しく敵だ。……お前のようにな、クレイマン」
俺の言葉が響き渡り、魔王達は沈黙した。
最初に声を上げたのはやはりギィだ。
「その通りだな、クレイマン。お前も魔王なら、お前自身の力でもって、そこの魔人を倒してみせよ。そしてお前——」
ギィはクレイマンにそう言って黙らせると、俺を見た。
「魔王を名乗るつもりはあるのか?」
「あぁ、既にジュラの大森林の盟主を引き受けているし、人からすれば魔王だからな」
経緯はどうあれ、邪竜と手を組んで森を支配していると受け取られるだろう。だから、魔王と呼ばれるのを否定するつもりはない。
「ならば良し。ちょうどここには見届け人が揃っている。オレ達の前でクレイマンに勝てたなら、魔王を名乗ることを許そう」
クレイマンに勝つだけで、全て片が付く。
望んだ通りの展開となったのだ。