「自分の手を汚すのを嫌ったばかりに、余計に面倒なことになってしまった。策士策に溺れるとはこのことでしょう」
笑いながらそう話すクレイマン。
クレイマンは、薄く酷薄な笑みを浮かべて俺を見た。
そして——
「出番ですよ、ミリム」
と、静かにそう言った。
場は一瞬で緊迫し、魔王達にまで緊張が走った。
もっとも、何名かは相変わらず、悠然と構えたままであったが。
すると、俺とクレイマンの戦いを傍観していたエミルスは、ミリムの斜め後ろに移動した。
クレイマンは笑みを深めた。……おいおい待ってくれよ。
まずい、非常にまずい。
クレイマンはともかく、ミリムとエミルスはやばい。
ギィは何も言ってこないということは、黙認するということだろう。
エミルスが操られてるとは考えにくいけど、万が一に備えて対策しなければならない。
くそ、フードのせいで表情も読み取れない。まさか俺が困っているのを楽しんでるんじゃないだろうな?
「まぁいいさ。俺としてはミリムを助けるつもりだったし、力ずくでも洗脳を解くとしよう」
直ぐに解放してやるよ、ミリム。
俺は心にそう誓う。
「ほざくなよ! 貴様は絶望して死ぬんだ」
「死ぬのはお前さ、クレイマン。俺が出たんじゃ弱い者苛めになるからな。お前相手じゃ、俺の部下ぐらいが丁度いい相手になるだろう。」
笑いながらそう言い切ってやった。
俺の言葉に顔を引き攣らせるクレイマン。
しかし次の瞬間、背後から近づいたシオンが一瞬にして間合いを詰めて、クレイマンに攻撃を仕掛けたのだ。
シオンは拳に
漫画のアレみたいなタコ殴りだ。
最後の一発で、クレイマンは俺の足元まで吹き飛ばされた。
シオンはすっきりした顔で「宜しいのですか?」と俺に聞いたのである。
「普通、殴る前に聞くよね?」
まぁ、やってしまったものは仕方ない。
クレイマンはふらりと立ち上がり、ミリムの近くへ移動する。
「きさ、キサマ、貴様ーーー!!」
クレイマンが叫ぶと、その身体を覆うどす黒い妖気が濃くなり、クレイマンの怪我を瞬時に回復させる。
『超速再生』か。オークロードが見せた回復能力を遥かに上回っているが、腐っても魔王ということか。
「望み通り、皆殺しにしてやる」
クレイマンが俺に敵意を向けた途端、シオンとランガが俺の周りに集まってくる。
本来の大きさになったランガは、唸り声を上げてクレイマンを睨みつけていた。
クレイマンがパチンッと指を鳴らした。
…………
……
あれ?
何も起こらなかった。
だが、クレイマンが焦ったように周りを見渡しているから、アクシデントでも発生したのか?
《告。恐らく
え、まじ?
そういえばいつの間にかいなくなっていたなと思っていたが、エミルスの仕業か。
いなくなってるってことは、『亜空間』に移動させたみたいだ。
……じゃあエミルスってやっぱり洗脳されてないんじゃ。
クレイマンは舌打ちし、ミリムの隣にいたエミルスを睨みつける。
フードを被ったエミルスは、一歩踏み出すと掌をこちらに向ける。あろうことか、俺達に向けてそのまま数発魔力弾を撃ち込んできた。
「っ!?」
反応が遅れたが、間一髪で避ける。
おいおい、洗脳されたフリして俺と戦おうとしてるんじゃないだろうな?……いや、ありえる。エミルスならやりかねないかも。
そんなことをしている間に、クレイマンは影から黒いマントを羽織った人形を呼び出していた。
敵は四人、コッチは三人。
普通に数で負けているんですけど……。
あ、そうだ。
「ベレッタ——」
振り返って名前を呼ぼうとしたが、一歩遅かった。
俺達全員が戦いの舞台となる円卓があった場所に踏み入った途端、その場所が結界で隔絶されていた。
空間が膨張され、外周に在る椅子が遠くに見える。
これは……
《告。魔王ギィによる結界です。結界内部・外部からの干渉が一切不可と推定》
応援のベレッタが入る前に、ステージが整えられてしまった。
やっべ、思わぬ落とし穴——と思った途端、クレイマンが叫んだ。
「ミリム、そいつを殺せ!」
クレイマンの怒号が響いた。
ミリムが動く。
距離があったはずなのに、数コンマで拳が目の前に現れる。
思考加速で時間を引き延ばして、
衝撃波で吹き飛ばされそうになるのを堪え、距離を取る。
ミリムの標的は俺に定められた。
今の俺にできることは、必死にミリムの相手をしつつ、ミリムの洗脳を解く事に集中するのみ。
シオンとランガはまとめてエミルスが相手している。何利敵行為してんだよアイツ!!
いやでも、ミリムの部下として入ってきてるなら怪しまれないようにしてるのかもしれないけど、だとしてもやり方がもっとあるだろ!
エミルスが事前にナインヘッドの支配を解いてなかったら本当にやばかった。
幸いクレイマンは動こうとしないようだが、合間にあの黒ローブの攻撃が入って対処に苦戦しているようだ。
エミルスは本気なんて出していない。出していたら、究極能力を持たない存在にエミルスを知覚できるはずがないのだから。
状況は最悪だ。
俺がミリムの『解析鑑定』を終わらせないとこの不利な状況を覆そうにない。
◆
それにしても、とギィは思う。
クレイマンと共に現れた謎の魔人。スキルで自身の素性を隠しているようだが、ギィにその小細工は通用しない。ミリムは配下を連れてくることがないので、余程のお気に入りか。はたまた別陣営からのお気に入りかのどちらかだろう。
その生態は奇妙だ。
魔人の中にある、ギィも感知できない空洞の奥底に
おまけに古い知人の気配も感じるのだから、フードの下にいるのは
何よりギィが興味を引いたのは、
……それでも、魔王種という発芽の状態の中では上澄みに近い存在であるのは確かだった。現に、クレイマンが演説に力が入り、全員の意識が
血液を操るスキルを行使し、透明な血の腕で捕まえていたようだが、模倣されても構わないスキルということだろう。ギィが気づいたように、あちらにも気付かれている。
(
ミリムの配下を騙り、この地に足を踏み入れたことを許してやったのだから、せいぜい俺を楽しませてくれよ?
ギィの眼光は、顔の見えない魔人とリムルに注がれていた。
◇
ヤバい。
何がヤバいって、ミリムに決まってる。あいや、普通にエミルスもヤバいんだけど。
ミリムの攻撃に隙が無さすぎる。クレイマンへの怒りなんてとっくに吹き飛んでいる。
フォビオが見たという戦闘形態を取っていないので、まだまだ本気ではないんだろうけど……その強さは常識外すぎてそれどころじゃない。
ランガとシオンはエミルスの連撃によってクレイマンへ攻撃できないでいる。
アイツも
ビオーラとかいう魔人形の追撃のせいで、一度距離をとる隙も作れない。まぁランガとシオンが怪我しない程度に抑えているあたり、一応配慮はしてくれているんだろう。
クレイマンはビオーラの美しさを語っているようだが、力任せなランダムな属性攻撃の数々を美しいと感じられるか甚だ疑問だ。
周囲の状況を確認していれば、意識外からミリムの攻撃が飛んでくる。
無理やり魔力で身体を仰け反らせ、回避する。距離を取って、短く息を吐く。おちおち状況確認する暇もないな。
「お待たせして申し訳ありません。リムル様、我の力もお役立てくださいませ」
とそんなところにグッドタイミングでベレッタがやってくる。
どうやって来たのか分からないけど、助かった!
「待ってたよベレッタ、シオン達に手を貸してやってくれ!」
「はは!」
「遠慮はいらん。叩き潰せ!」
俺の命令で直ぐに行動を開始した。
エミルス、上手く誘導してくれよ……!!
あとはミリムを解放してやれば完全勝利だ。
後顧の憂いが消えた今、俺はミリムに全ての意識を集中させる。
なんとしても、ミリムを操るクレイマンの呪縛を解くのだ。
さぁラファエルさん。全力でミリムを縛るクレイマンの呪縛を『解析鑑定』しちゃってください!
《解。解析鑑定の結果…………該当なし》
はぁあっ!? どういうこと????
まさかとは思うけど、クレイマン如きの呪術が見抜けないとか?
《呪法が確認出来ませんでした。これは——》
おいおい、役立たずってレベルじゃねーぞ!
《むっ……》
なんでお前が怒ってんだよ!
怒りたいのはこっちだよ!
《フンッ》
ラファエルさんは引っこんでしまった。
肝心な時に頼りにならないな。
マズい、このままでは本当に非常にすごくマズい。
こうなったら、シオン達がクレイマンを倒すまで俺がなんとか粘るしかないか。
案外、本気で殴ってみたら元に戻ったりして? でも、どうもミリムを殴るなんてのは、自己ルールに反する。
《案。『
おぉ、それだ! その手があったか!
早速実行する。
直撃を受けたらこっちがダメージを負うので、あくまでも受け流しをメインとして吸収を試みる。
ミリムの攻撃の軌道を流すように受けて、空いた背中に向けて——
「
ミリムの魔素を食らうと、効果があったのか距離が離れる。
そして嫌そうに表情を歪ませたのだ。
効いてる。よし、これはいい。
少しでもダメージを積み重ねて、呪縛が解けるのを待とう。
攻撃を受け流して吸収、受け流して吸収。
防御に徹しつつも、隙をついて吸収する。
集中。そして、集中。
短いようで長い戦いの中、ミリムの自発的な隙がやってくる。
ミリムがバランスを崩したまま強引にパンチを放ってきたのだ。
「隙あり!」
俺は左手を掴んで投げ飛ばそうとする。
《告。罠と推定——》
あっ!? っと思った時は遅かった。
ミリムの
咄嗟に手を放して距離を取ろうとするが、ミリムはすぐさま方向転換して間合いを詰めた。
拳はもう目の前。
詰んだ。ゲームオーバー。
これは、また……っ!
ミリムの拳が俺の頭に直撃——する寸前、俺とミリムの間に何者かが割って入ってきた。
魔力の暴風によって景色が白む。
ゴツンッ!!
鈍い音が響いた。
「ぐおお!! いきなり何をする~!! ひどいではないか~!!!」
現れたのは、褐色の肌に金髪の男。
「ヴェルドラ!?」
そう、気が付けば目の前でヴェルドラが頭を抱えて蹲っていた。
かなり痛そうだが、ミリムのパンチの直撃を受けてその程度のダメージで済むのかよ。
心配する必要はなさそうだ。
って、そんなことはよくて。
「呼んでもいないのになんで出てきたんだ。冷やかしなら帰れよ!」
「リムルよ、お主も大概ひどいな」
頭をさするヴェルドラはそんなことを呟く。
別にヴェルドラだから心配してないだけで、気にすることないだろ。
ヴェルドラは「まぁいい、用件は……」と懐から漫画を取り出した。
「これが何なんだ?」
「何なんだ、ではないぞ! こんないいところでお預けなど、我に対する嫌がらせか? 最終巻はどこだ? パイと八雲はどうなるのだ!」
お前、まさかそれを読みたいがためだけにここまでやってきたのか?
というか、『
俺が冷静に分析している間にも、ヴェルドラが喚き散らかしている。
イタズラしておいた俺も悪いが、漫画にばかり気を取られているヴェルドラも悪い。
せっかくなら、この状況を利用させてもらおう。
「よし、最終巻を渡す前に一つ頼みがある」
「む? なんだ?」
「そこのミリムと、少しの間遊んでやってくれ」
「ミリム? おお、我が兄の一粒種か。会ったのは初めてだが、まだまだ子供だな。良かろう、我に任せよ!」
ヴェルドラは快く了承してくれた。
我が兄の一粒種——というのは気になるが、今はそれも後回しだ。
念のため、ミリムに怪我をさせないようにと念を押しておく。「いや、あれは」と呟いていたが時間が惜しい。そのままヴェルドラにミリムを託して、俺はシオン達の援護に向かった。
俺が目を離していた隙に、状況は変わっていた。
さっきから轟音が鳴り響いている気がする。それは一先ず置いておいて。
ビオーラはベレッタによって解体させられていた。あの強そうな魔人形がこうもあっさりと。
ラミリスの悪いところばかり真似していないか?と問いただせば、慌てたように理由を説明し始めた。
魔王ギィに主を決めるように求められて、ラミリス様に仕えると約束したらしい。ラミリスがテンペストに移住したら、ベレッタもテンペストに移住するので俺の役に立つことができるとかなんとか。
「お前ね、いや本当にラミリスに似てきたよ」
「お褒めに預かり恐悦至極」
「褒めてねーよ!」
「ん?」
とりあえずこの件は保留にする。居場所といっても簡単には作れないし、考えておくとだけ返事した。
「波動拳!波動拳!波動拳!波動拳! 昇竜拳! からの、竜巻旋風脚!」
ヴェルドラ、あの技どこで覚えたんだ……
さて、問題のエミルスだが。
シオンが離脱してクレイマンと戦闘。
エミルスはランガと戦っているようだ。戦っているというよりは、最早いつもの特別修行と変わらない。
独自に結界を張っているようで、ランガも伸び伸びと『黒雷嵐』を撃ち続けている。轟音の原因はこれか。
分身体を使って雷を当てる練習のようだ。
……もうアイツらのことは放っておこう。
クレイマンは元々戦闘向きじゃなかったようで、出し惜しみしていた奥の手を使ってもシオンに傷一つつけられないようだ。シオンにボコボコにされ、余裕の態度は見る影もない。
「こんな小手先の技に頼るなど、魔王を名乗るに値しません」
「くッ……許さんぞ虫けらが!! この私に本気を出させたこと、後悔させてやる!」
肩を震わせて、吹っ切れたように凄惨に笑うクレイマン。
そのまま上品なスーツとシャツを脱ぎ捨て、変身し始めたのだ。
裸となった背中から二対の腕が生えてきた。黒い外骨格に守られた腕、そして全体も黒く染まり始める。
「そうか、そうだな。そうだったよ。魔王、私は魔王なのだ。だから戦い方にこだわり、上品に優雅に敵を葬ってきた。だが、もういい。もういいのだ。こんな気持ち、久しく忘れていた……。貴様はこの手で捻り潰してやる!」
激昂したその姿は、荒々しい狂気が滲み出ている。
クレイマンは仮面を顕現させ、被る。それは笑みを象る、道化の仮面だった。
「少しはましになったみたいですね、見直しました。魔王リムル様の近衛秘書シオン、貴方の相手を致しましょう!」
「魔王——いや、〝
互いに名乗り合い、攻撃を開始する。
クレイマンが本気を出したことによって、攻撃が激しさを増した。本気を出したクレイマンは魔王種ということもあり、その膨大な魔素でシオンに攻撃する。
だが、技術の欠片もない攻撃では、シオンに通るはずもない。完全に見切られて手痛い反撃を食らい、シオンの渾身の一撃がクレイマンの仮面を半壊させて後方に吹っ飛ばした。
シオンのスキル『
「……勝負あったな」
俺が出る幕は無かったようだ。
シオンは剣先をクレイマンに向け、「ありえない」と現実逃避を喚くクレイマンを葬ろうとした。魔王といえど、所詮は小物だ。
クレイマンは不利なことを漸く悟ったのか、引き攣った声を上げて周りに助けを求めた。
「ミ、ミリム、そんなやつさっさと倒して——」
クレイマンの眼前に見えたのは、ミリムと対等に戦う金髪の男の姿だった。
「なっ、何者だ。何だ、何なのだ、あの桁外れの力は」
「俺の友達だ。ヴェルドラだよ」
お前が必死に否定しようとした、真実だった。
さっきからヴェルドラは漫画の入れ知恵によって見覚えのある技を披露している。どうか他の魔王に目を付けられませんように。
よろよろと立ち上がり、クレイマンはフレイに助けを求めたが、あっさりと拒否。そもそもギィの結界によって通れないんだけどな。
そして最後に、
「…エ、エミルス! そんな犬さっさと殺して——」
「あ゙?」
あ、地雷踏んだ。
と思ったのも束の間、一気にクレイマンとの間合いを詰めたエミルスは、重い拳を振り翳して地面に叩きつける。「ぶべぇッ!」と汚い声が唾液と共に零れた。
エミルスは脱げそうになったフードを被り直し、クレイマンを見下ろして吐き捨てる。
「次言ったら舌を引きちぎって喉を焼いてやるからな」
「閻魔もびっくりだな……」
操られてないのは分かってたけど、いきなり豹変しすぎだろ。
クレイマン側だと思っていた他の魔王達は、それぞれ戸惑いを見せているようだった。当然である。一応魔王種であるクレイマンをあっさり転がしたし。
《告。個体名:クレイマンの『解析鑑定』が完了しました》
え?ラファエルさん?
いきなりラファエルさんがとんでもないことを言い出した。何のことだと戸惑っていると、エミルスはフードの隙間からニヤリと笑ったのが見えた。それから、ヴェルドラと戦いを続けているミリムに視線を向けて、こう言い放ったのだ。
「もういいぞ、ミリム。遅くなっちまって悪かったな」
ん?
「もういいのか? ワタシはまだまだやれるぞ?」
「やめとけ、これ以上はリムルが泣く」
「そ、そうか。分かったのだ」
は、はああああああ!!???
最初から操られてなかったどころか、エミルスやラファエルさんと共謀していただって!?
嘘だろ……全部、茶番だったのか。
呆気に取られて、気の抜けた声が口から駄々洩れになってしまった。
《…………》
何故か分からないけど、ラファエルさんから冷たい視線を向けられている気がする。
ミリムは混乱している俺を見て、愉快そうに笑いながら喋り始めた。
「見事に騙されてくれたようだな、リムルよ」
「むしろ、ラファエルがいるくせになんで分かってねぇんだよ。そもそも、ミリムがこの程度の雑魚に本当に操られると思ってた方が不思議だ」
「そ、それは確かに……」
「我には一目瞭然だったぞ」
他の仲間達も同様に頷く。気づいてなかったのは本当に俺だけだったらしい。
最古の魔王であるミリムが、小物のクレイマンの呪法で操られるはずがなかったのだ。
でも、あのミリムがクレイマン如きの命令に従っていたんだから信じたくもなる。名演技だったってことね。
観戦の魔王達の中に驚きの声を上げる者もいたが、一番驚愕しているのはやはりクレイマンだ。信じられないといった目つきでミリムを見つめている。
「あ、あの方より授かった
あーあ、自白しちゃった。
これで俺の証拠映像の信憑性も高まった。
「魔王カザリームも魔王種だったんだろ? ミリムを操るどころか、俺やシオンだって操れないだろうな」
エミルスは半狂乱のクレイマンの質問に悠然と答えた。
「ま……ッまて、何故それを……!」
「おお、カザリームか。確かに雰囲気が似てると思っていたのだ」
んん?話がついていけないな。
カザリームって誰だ?
《解。魔王カザリームは、傀儡国ジスターヴの先代魔王であり、〝
なるほどなぁ……って、こういうのってあっさり分かるもんなのか?
そんなことを考えていると、結界の向こうから笑い声が聞こえてくる。
フレイは拍手しながら笑みを零し、全員の視線を集めた。
「そろそろ出番でなくて?」
フレイが視線を向けた先、ワルプルギスが始まった時は空いていた席に誰かが座っている。
獅子のマスクをつけた、魔王フレイ配下の翼の生えた男。
おいおい、まさか……。
男は釣られるように笑い、おもむろにマスクを外した。
魔王カリオンだった。
カ……カリオン?
そんなバレバレの変装を!?
外した途端に溢れだす凄まじい
うん、どうあがいても本物だ。
《ハァ……》
なんかラファエルさんが呆れているような気がする。
《フゥ……》
うぐっ
これでは、気づかなかった俺の方が……。
羞恥心を抑え込み、叫ぶようにしてカリオンに話しかけた。
「ビ……
「無事……とは言えないがな。俺の部下達が世話になった」
カリオンは俺に礼を述べた後、クレイマンを見てニヤリと笑った。
改めて見ると酷いものである。
クレイマンの作戦は万に一つも成功しなかった。ただの茶番劇だ。
「ふざ、ふざけるなよスライム風情がァ!!」
クレイマンはエミルスに狙いを定め、攻撃を仕掛けようとエミルスに迫る。
咄嗟に動こうとしたが、エミルスが手をこちらに向けて制止させる。クレイマンが近づいてくるのを、悠然と待ち続ける。クレイマンの六対の腕がエミルスに迫ろうとした瞬間——動きが止まった。
正確には、身体と精神が正反対の挙動をしているみたいな硬直状態に陥ったのだ。
「あ……が……?」
「なぁクレイマン、傀儡にされる側はどんな気持ちだ?」
「後で教えてくれ」とクレイマンに囁き、エミルスは嗤った。
エミルスの右手がクレイマンに伸ばされる。
「やめ、やめろ……」
本能的に何かを感じ取ったのか、震える声で制止を願う。
エミルスの指がゆっくりと曲がる。その動きに合わせて、クレイマンの六対の腕が動く。
ギチギチと音を立てて、腕はありえない方向へと捻じ曲がる。次の瞬間、乾いた骨折音が響いた。六対の腕は身体から無理やり引き千切られていった。クレイマンの悲痛な叫びが響き渡るが、誰一人味方になろうとはしない。
千切れた部分から血が滴り落ち、血だまりの中にクレイマンが倒れる。
エミルス、
そう思える程、残酷な攻撃だった。