転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

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69話 魔王達の宴 ③

 エミルスの攻撃によって行動不能となったクレイマン。それを見て、ギィは隔離戦域の『結界』を解除し、部屋が元の大きさに戻っていく。今まで傍観していたフレイが立ち上がり、ミリムに近づいた。

 

「お疲れ様、ミリム。それにエミルスも」

「まぁな」

「当たり前なのだ! それよりもフレイ、アレちゃんと持ってきてくれているのだろうな?」

「はいはい、これでしょ?」

 

 フレイが懐から取り出したのは、俺がプレゼントしたドラゴンナックルと、エミルスがプレゼントした耳飾りだ。ミリムはそれらを嬉しそうに受け取り、そそくさと装着した。ドラゴンナックルを先に装着したミリムは、耳飾りをエミルスに着けてもらっていた。

 満面の笑みを浮かべて皆に見せびらかし始め、そんなやり取りを見て魔王達も意識を切り替え始めたようだ。

 というか、これってフレイやカリオンも俺を騙してたってことだよな。敵を騙すにはまず味方から、という言葉もあるけど、実際やられると戸惑ってばっかだ。

 その時、足元から血を吐くような呻きが聞こえた。

 

「——い、いつからだ? いつから私を欺いていた……」

 

 クレイマンだ。

 どうやら、まだ息があるらしい。

 

「うむ、苦労したぞ。お前は用心深いからな。だから私はすっごく頑張ったのだ」

「というかミリム、拳を握りしめてガッツポーズをしたり、口元がにやけていたり、演技は全然ダメだったわね」

「しょうがなかろう。リムルが私の為に怒ってくれているのがわかって嬉しかったのだ」 

 

 嘘だろ、そんな分かりやすかったなんて、俺がそれですら一切気づかないアホみたいじゃないか。

 

《……》

『あぁ、アホだな』

 

 う、二人の視線が痛い。

 てか、俺はエミルスに聞きたいことがあるんだった。

 ラファエルが解析鑑定を完了した途端、エミルスとミリムはさっさと演技をやめた。

 ということは、だ。

 

『エミルス、なんで戦闘を遅延させていたんだ?』

『逆探知が思ったより厄介でな、クレイマンの意思や動きが無いと情報を引き出すことが出来ねぇんだよ。だから話や戦闘を遅延させねぇと、解析できなかった』

『……それなら、俺達に事前に教えてくれればよかっただろ?』

『一つ、他の魔王達がそれを許すかどうか分からなかった。二つ、お前はともかくランガ達が戦いづらくなる。そして三つめは——逆探知した存在が、俺……下手すりゃお前より強かった』

 

 俺はその言葉に目を見開いた。

 

『なんだって?』

『正直、カザリームとかそっち側の話は付属品に過ぎない。俺とラファエルが全力で侵食・解析して、ようやく解除できる呪法。しかも掛けたヤツは東の————』

「面白いこと話してるじゃねぇか、俺にも聞かせろよ」

 

 思念で会話していたはずなのに、平然と会話に混ざってくる者がいた。

 魔王ギィ・クリムゾン。

 ギィはエミルスの肩を掴み、逃げられなくしてから話を続けた。

 

「ここまで見逃してやったんだから、そろそろ誠意を見せてもらわないとな?」

「……」

 

 エミルスが俺の方へ目線を向ける。

 嫌そうなのは分かるが、ワルプルギスに来る時点でこうなることは予想できたろ。

 嘘吐いて姿を偽ったって一発でバレるだろうし、こんなときは素直なのが一番だ。これは、人生の先輩としてのアドバイスである。そんな意図を込めてグッドサインを送る。

 エミルスは暫く沈黙していたが、諦めたのか深い溜息を吐いた。

 

「分かったよ。改めて自己紹介してやる」

 

 エミルスは進んで部屋の中心に立ち、フード付きコートを消滅させる。

 桜銀色(シルバーピンク)の長髪、飾られたサークレット、血のように赤い瞳、胸元に輝く竜の左翼バッジ。

 ……そして、俺とそっくりな顔立ちでありながら、俺にはない静謐さを兼ね備えた立ち姿。あいつが薄く笑みを浮かべると、隠れていた鋭い八重歯が見えた。

 

「俺の名はエミルス=アゲンスト。そこのリムルと並ぶテンペストの王で、ジュラの森大同盟の副盟主だ。言っとくが、俺の存在を軽々しく口外すんなよ。人間共を混乱させるだけだしな」

 

 その堂々たる振る舞いに、全員の視線がエミルスに集まった。

 ラミリスの「えーー!??」という驚いた声が響き渡る。なんとなく分かってたけど、やっぱり気づいてなかったらしい。それにつられるように、魔王達から動揺の声が漏れていた。

 

「なにさなにさ、アタシにナイショでミリムと共謀してたわけ!? エミちゃんのクセに生意気なんですけど!」

「別にお前に教える意味がねぇだろ。咄嗟の拍子に口を滑らせそうだし」

「べべべ別にそんなことないけど!!」

「そうだぞ。これは私とフレイ、そしてエミルスの作戦勝ちなのだ!」

「ミリム、いきなり抱きつくのはやめろ……」

 

『なにこれ、ドッペルゲンガーってヤツ?』

『ミリムのお気に入りが二人も増えているとはな』

『フン、三文芝居だ』

『……』

 

 等々、いきなり正体を現したエミルスに対して、全員が反応した。

 誰一人例外なく、だ。エミルスの名乗りを聞いたクレイマンが、身体を震わせながら小さく呟いた。

 

「貴様、まさか最初から……?」

「ラプラスと接触したあの時から、俺はお前を騙そうと近づいた。悪いが、俺は家族を裏切るつもりはねぇよ……テメェみたいにな」

 

 冷たく言い捨てるエミルスに、クレイマンは押し黙る。

 どうやら、反論する気力すらなくなったようだ。

 

「ところでよ、ミリム。お前さぁ、操られてなかったんだよな? ということは、ノリノリで俺をいたぶってくれたのかな?」

 

 カリオンは笑顔だが、額に青筋が見える。

 うん、そうだね。それは気になるよね。

 

「そ、それはだな、何というか……えっと~」

「いやいや、いいんだよ。それは俺が弱いってだけの話だしな。だがよ、俺達の国を吹き飛ばしてくれたのも、あなたの意思ってことですよね?」

 

 怒りを隠そうともせず、ミリムを問い詰める。

 一瞬慌てたミリムだが、「そんな小さな事はどうでもよかろう!」と逆切れした。

 

「だいたい、アレは演技に夢中——じゃなくて、クレイマンを騙す為に頑張っただけなのだぞ? なので、悪いのはクレイマンなのだ!」

「おいおい、クレイマンのせいかよ……って、もういいや」

 

 なんだか、カリオンがちょっと可哀想になってきた。

 

「まぁまぁ、三獣士や国の皆さんも無事だし、カリオンさんの復讐戦って事で頑張っていたわけだしさ」

「おお、リムル。すまんな、慰めてくれて」

「だから気にするなって。それに、街ならまた作ればいいさ。その為に、クレイマンの配下の魔人を労働力として捕らえさせたんだし」

「おいおい、マジかよ……!」

「俺達も手伝う! だからさ、前より立派で快適な国を作ろうぜ!」

 

 金もクレイマンの城の宝物庫からたっぷりいただいたしな。と付け加えると、カリオンは感激したようで涙ぐみながら俺に手を差し出してきた。

 

「助かる! リムル、いやリムルさん。今後獣王国は、あんたの国と永世友好国として協力を惜しまないと誓うぜ!」

 

 そこまで言ってくれるのか。むしろありがたい。

 俺は喜んで握手する。テンペストとユーラザニアの繋がりが確固たるものとなった。

 ミリムが「ワタシのお陰だな!」と自信満々に言っているのを、エミルスが「やりすぎだから反省しろよ」と釘を刺す。いつもの調子が戻ってきたのが見て取れた。

 

「魔人共を生かしておくなんざ、甘い野郎だと思ったが……。なかなかどうして、面白い考え方をする野郎だぜ。原初の黒(ノワール)が懐いたってのも頷ける話だ」

 

 ギィが愉快そうに笑いながら俺を見る。

 ノワール? なんのこっちゃ?

 まぁいいや。そんな事より、今はクレイマンだ。

 最後の仕(・)上(・)げ(・)がまだ残ってる。

 

《解除しますか?YES/NO》

 

『YESだ』

 

 俺とエミルスの声が重なった。

 

 

◆

 

 

 

『せいぜい油断せんようにな』

『クレイマン、あんたはあたい達より弱いんだからさ、ひとりで無茶しちゃダメだよ』

『ホーホッホッホッ、ティアの言う通りです。ちゃんと私達を頼るように』

 

 あぁ、ラプラス、ティア、フットマン。君達の言う通りだった。

 

 ……どうして、私はこんな判断をしたのでしょうか?

 自分のスキルを過信し、最古の魔王であるミリムを操れたと信じ込み、粗末な作戦を精査もせずに強行してしまった。仲間達の言葉を無視して、独断専行するなんて……昔の私ならしなかっただろう。

 

 ——俺は家族を裏切るつもりはねぇよ。……テメェみたいにな。

 

 そうか、私は裏切ってしまったのか。

 仲間達の信頼を。

 ……少しでも近づきたかったのかもしれない。

 君達に託された魔王という役目を立派に果たして、中庸道化連の一員だと、君達に認めてほしかった。

 

『やぁ、君がクレイマンだろ?』

『魔王カザリームから紹介されてきたんだ』

『僕たちはこの世界を手に入れる。そして、面白おかしく暮らそうぜ!』

 

 魔王カザリームの復活は成就したというのに、私の迂闊さが今回の事態を招いた。

 

『クレイマン、お前は私に似ている。私を真似るのはいいが、決して悪い面を真似てはダメだぞ』

 

 カザリーム様……

 

『お前は俺が死体から作った妖死族(デスマン)だが、頭脳に比重を置いている。フットマンやティアと違い、戦闘には向いちゃいない。だが、策謀を巡らせて軍団を指揮するなんて真似は、お前以外には出来ないだろう。だからな、クレイマン。お前が魔王になるんだ』

 

 魔王カザリーム様の期待を裏切りたくない。

 死ねぬ、私はまだ死ねないのだ。このまま何も出来ずに死ぬなど、私が私自身を許せない。何より、仲間達に顔向け出来ない……許されなくてもいい、私はお前達に会いたい。ただ謝りたいんだ。

 

 真なる魔王に覚醒などしなくてもいい。

 だから、もう一度チャンスを、私に仲間達の元に帰れる力を…………

 お願いだ、応えてくれ。

 エヴァ……

 

 

 

 

《確認しました。個体名:クレイマンがユニークスキル『接続者(ツナギトメルモノ)』を獲得しました》

 

 

 

 あぁ……天は、まだ私を見放していなかったのか……

 

 

 

◆

 

 

 

 魔王達の宴で、〝世界の言葉〟が響く。

 クレイマンの周りに魔素が集まり、クレイマンの身体を治していく。姿もいつの間にか、人の姿に戻ってさっきの大怪我が無かったことになった。

 俺達の予定通り、覚醒魔王にはな(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 ワルプルギスの前、エミルスがクレイマンに集まっていた魂を食ったはずだからな。俺には不可能。内部から繋がりを解除する力を持つエミルスだからこそ、出来ることだ。

 しかし、ユニークスキルをゲットしたのは予想外だな。意志の力で獲得するにしても、生命力が低下しすぎて無理だろうと思ってたんだが。

 まさか、まさかね?

 でも大抵予想外の原因ってエミルスだからなぁ。今回も何かやらかしてそうだ。

 

 まぁ、別に気にすることはない。

 俺は俺のやるべきことをやるだけだ。

 

 新しいユニークスキルを獲得し、進化したわけでもないのに魔素(エネルギー)量が大幅に伸びているクレイマン。

 威圧感がさっきの比じゃない。クレイマンはヨロヨロと立ち上がって、自身の溢れ出る力を信じられないといった目で見つめている。

 

「……言っておくが、見逃すつもりはないぞ」

 

 先んじて言えば、クレイマンはこちらを睨みつける。「分かっているとも」と吐き捨て、クレイマンは臨戦態勢に入った。

 

「ならば、押し通るまで!」

 

 先程までの高圧的な態度が消え去り、真っ直ぐ俺とエミルスを観察する。観戦していた魔王達も、さっきまでのクレイマンとは別人のようだと驚愕の声を上げていた。

 

 エミルスがギィの技を真似て『結界』を設置する。内部にいるのは俺とエミルス、そしてクレイマンだけだ。

 

「オレの技を盗むか、ずうずうしい野郎だ」

 

 エミルスが完全にロックオンされたっぽいが、気にしていられない。

 クレイマンを利用して、魔素量を補う必要はない。エミルスとの魂の回廊によって、回復速度は俺の消費量を上回っているし。

 だから、これは腹いせと魔王達へのアピールだ。

 むしろエミルスがお膳立てしてくれたおかげで、俺の武威を示せるというもの。今後の面倒を避けるためにも、見せてやるとしよう。

 この俺の力——究極能力(アルティメットスキル)『暴食之王(ベルゼビュート)』を。

 

 本気で俺を正面から突破しようと思ったのか?

 それなら、先程の高慢な態度を演技でもして油断させればよかったのに。まぁ、その心意気は認めてやるが、俺に戦いを挑もうとした時点で、お前は既に詰んでる。

 

 クレイマンは間合いを詰め、俺に格闘戦を持ちかける。

 確かにクレイマンの拳は重い。覚悟を決めた意志ある者の拳だ。

 だけど、この程度じゃ俺の覚悟に到底届いてない。『思考加速』で止まってすら見えるクレイマンの拳を受け止め、反対の手でクレイマンの腹を殴った。後方に吹っ飛ばされたクレイマンが血反吐を吐くが、無理やり身体を捻らせて着地する。

 

「どうした、クレイマン。お得意のスキルでも使わないのか?せっかく新しいスキルも獲得したんだろ?」

「……通用しないと分かりきっているものを使うわけないだろう!」

 

 一発で身体が悲鳴を上げ、動けない様子のクレイマン。

 確かに、ユニークスキルでは究極能力に対応できない。さっき獲得したスキルだって、どんな能力であろうと俺には通用しないだろう。

 フラフラと立ち上がり、俺を力強く見つめる。回復はしているようだが、気長にそれを待つ俺ではない。歩を進めると、クレイマンは息を短く吐いた。

 

「そんなに見たいなら見せてやろう……〝操演舞踊(マーシャルダンス)〟!」

 

 クレイマンは叫び、いきなり俺に向かってくる。

 突進を軽く回避して、隙だらけな背中に蹴りを入れようとすれば、何の予備動作もなくクレイマンの身体が飛び跳ねた。そのままクレイマンが上から蹴り落とそうとしてくる。

 

「ッ!」

 

 難なく受け止めることができたものの、今の動きの原理が分からない。さっきまでの動きと違う。

 

《告。どうやらクレイマンは自身を『操演者(アヤツルモノ)』にて操作しているようです》

 

 へぇ、面白いことを考えるんだな。

 操り人形を糸で操るみたいに、自分が傀儡になる技。身体の構造を無視した動きも可能ってことか。

 とはいえ、咄嗟に繰り出した技のようでその技は長続きしない。俺が弾き飛ばすと、クレイマンは床に叩きつけられた。

 

「……っぐ、」

 

 クレイマンは起き上がろうとするが、震えるだけで力が入らないようだ。

 

「負担が大きい技を使うからだ。もうとっくにお前の身体は限界なんだよ」

 

 回復しても、身体にかかった負荷が消えるわけじゃない。

 何度も戦っていたら、いつかは限界が来る。まぁ、俺はスライムだから関係ないけど。

 

「最後に聞いておく。カザリームとの関係と、その上の存在について話せば苦痛を与えず殺してやる」

「——舐めるなよ。私はこれ以上、仲間と依頼主を裏切るつもりはない。それが、〝中庸道化連〟の絶対のルールなのだ!」

 

 そうか、悪党は悪党なりに、曲げられぬルールがあったみたいである。クレイマンはすでに自身が助からないことを理解していて、だからこそ最後の誇りを守り通すことを決めたのだろう。

 なら、せめてもの手向けとして、その誇りを認めてやる。俺の寛大な心に感謝しろよ。

 

「クレイマンを処刑する。反対の者はいるか? いるなら、相手するけど?」

「好きにしろ」

 

 ギィが代表して答えてくれた。

 エミルスが隣にやってきて、クレイマンを見下ろす。エミルスがいなかったら、こんな結末にはならなかっただろう。もっと残酷に、非情に、クレイマンを処刑していただろうから。そもそも、俺がこの場所に来ることもないんだろう。

 てか、美味しいところだけ参加しようとするなよ、といった気持ちで見つめてやればエミルスは不思議そうな表情を浮かべる。何に対して俺が不満なのか分かっていない様子だ。まぁいいけど。

 

「ラプラス、ティア、フットマン、エヴァ、カザリーム様……皆、すまない」

 

 クレイマンはずっと、友の名を呼んでいた。

 仲間達に悔いながら、反省するといい。

 

「食らい尽くせ、暴食之王(ベルゼビュート)!」

「崩れ落ちろ、侵食之王(ニーズヘッグ)!」

 

 例え妖死族(デスマン)と言えども、幽星体(アストラルボディー)ごと食らい尽くす暴食からは逃れられない。二つの魔素霧に包まれたクレイマンは、仲間達に悔やみながら消滅していった。

 あまりにもあっけない最後だった。幾分か魔素(エネルギー)を補給され、今回の戦いで消耗した分は回収できた。

 エミルスはクレイマンがいた場所に落ちた、半壊した仮面を拾う。クレイマンの誇りであったそれを、エミルスは躊躇いもなく消滅させた。

 

 こうしてクレイマンは、その野望を潰えさせて、俺の糧となったのである。

 




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