焚火が燃え尽きたようで意識が地上へと戻ってくる。
アイツらが眠っている間に、身体はどんどん作り替えられていた。みるみるうちに筋肉がついていく様はちょっと気味が悪いと感じてしまったが。
朝になる頃には、よく見たアイツらの姿が並んでいた。朝日を浴びたゴブリンと牙狼族……いや、ホブゴブリンとゴブリナそして
「おぉ! エミルス殿、おはようございます!」
(おう、ちゃんと進化できたようだな)
「はい! この通り生まれ変わった気分でございます!」
危なかった。リグルドの未来の姿を知っていなければ、誰だテメェと聞いてしまうところだった。今にも死にかけそうな老いぼれから完璧な筋肉を併せ持つ漢に進化するなんて誰が予想できる。他のゴブリンも皆若々しい姿に成長し、力が溢れると言わんばかりに動き回っている。何時間でも動けそうだとか、肌のツヤがいいだとか。
人間の姿になれない俺は、足と腕があるホブゴブリン達が羨ましくなってきた。俺はスライムの身体に対してのメリットがヤツと違ってほとんどないからな、捕食しないし。
遠くからゴブタが駆け足で近寄ってくる。変わってない安心感。ちょっと身体つきがよくなったか? 服着たら同じだ。
「エミルスさん! おはようっす!」
(おはようゴブタ。お前は何も変わってねぇな)
「ヒ、ヒドイっすよ! 今なら何時間でも戦える元気があるっす!」
(それはいいな、じゃあ先ずは夕方になるまで俺の遊びに付き合ってもらおうかな)
「エミルスさんのそれは怖いっすよ……」
と、そこにゴブタを突き飛ばして俺の前にランガがやってくる。雷を操るための角が生えて更に巨体になったようだ。ゴブタは地面に叩きつけられ「ぶべっ」と情けない声を出してノビた。憐れなやつだ。
尻尾をぶんぶん振って、喜びが隠し切れない様子だ。ただその尻尾から強風が吹き荒れて周りに被害が及んでいる。
「エミルス殿、此度は我らの進化を見守ってくださり感謝しております」
(別にいいよ、役に立ってくれればいい。これからはテンペストの牙として生きろよ)
「その名に恥じぬ活躍を約束いたします」
(というか一旦小さくなってくれないか、集落がただの空き地になる)
俺が耐えきれなくなってお願いすれば、一気に牙狼族の時と同じようなサイズに変化する。身体の大きさを自由自在に変化させることができるとは、便利だな。
色々話す前に、リグルドとランガに質問を投げかける。
(聞きたいことがある。俺はリムルに忠誠なんて誓えないし、利害関係が終わったら裏切るつもりでここにいる。それでも、俺をここに置いておくつもりか? お前達はリムルに忠誠を誓ったんだろ)
お前達がリムルの配下になるなら、お人好しなアイツの代わりに判断を下すときが来るかもしれない。例えば、俺がリムルを殺す可能性があるとき。正常な判断が無ければ、弱肉強食のこの世の中で生きていくことが出来ない。
俺はいざとなったら、テンペストを見捨ててでもシンシヤの元に帰る。そうだ、だってこの世界は俺にとって偽物なんだから。
二人は顔を見合わせた後、何かを決心したのか力強く頷く。
エミルス殿、と呟いたリグルドが真っすぐ俺を見据えた。
「エミルス殿は、利用価値がある限り我らの味方になってくれるのですか?」
(……あぁ)
「ならば、ご心配には及びません」
……は?
「我らは元々お二方に救ってくださらなければ滅亡していたはずです。主であるリムル様に忠誠を捧げた身ですが、エミルス殿にも恩があります。ならば、この身命尽きるまで利用していただきたい!」
(それじゃ、俺がリムルを殺そうとした時どうするんだよ)
「……その可能性は、確かにあるのですか?」
そう聞かれると、反応に困る。このまま順調に進めば将来一番情報が集まるのはテンペストだ。俺がリムルを裏切る理由はほとんどない。魔王であるリムルよりも情報を持っているやつなんて早々いないしな、他の魔王もリムルのところにいればあちらから出向いてくれるだろうし。……でも一人だけ、いるな。
返答に悩んでいると、ランガが前に出て俺の問いに答える。
「エミルス殿がリムル様を殺そうとするならば、我らが止めます」
(ほう、止められるのか? 俺の血に気づかずに散っていった同胞達も沢山いるのに)
「我ら全の命を持って、エミルス殿を止めてみせます」
(止めるだけじゃ甘い、殺す気でいけよ。俺はアイツと同等の力、もしくはそれ以上の力を手に入れるつもりでいるからな)
「御意」
ふむ、やはり普段から自然の中で生きている狼達はこの世界の摂理を理解している。ランガがいるなら暫くは安泰だろう。
(それならいい、それぞれやるべきことをやってくれ)
「あの、エミルスさん、そろそろオイラにも触れてくれないっすか?」
あ、ゴブタのこと普通に忘れてたわ。自力で起き上がったらしく、痛みで頭を抱えながらもこちらに近寄ってくる。リグルドは他のホブゴブリンに指示を出しにいった。ランガもどこかに行くかと思ったが、どうやらまだ話があるらしい。
(まだ何かあるか、ランガ)
「先程の話とも通ずるのですが、我らに戦闘の指導をお願いしたい!」
「ずるいっす! オイラが先に話通してたのに!」
まさか、二人目がやってくるとは思わなかった。将来敵になる可能性があるかもしれないって言ったばっかだというのに。いやでも、今のうちに戦闘の癖を把握しておいて活かすっていう手もあるな。ランガもとい
やるなランガ、ますます俺の中で利用価値が上がった。
(いいだろう、二人まとめて俺が相手してやる。ついでに連携も勉強できるなんてゴブタは幸運だな)
「そ、そうっすかねぇ」
お前はなんで照れてるんだ。まぁゴブタだから仕方ないか。
やる気満々がホブゴブリン達のおかげで、俺はリムルが目覚めるまでの間ゴブタとランガの戦闘訓練に集中することが出来た。俺の刃のように鋭い血の雨と、ランガの風雷に晒されつつも命からがら生還したゴブタを褒めるものは誰もいなかった。
◇
『大賢者』の報告から丸三日が経ち、俺は無事に
なんと、口笛を吹きながら俺と目を合わせようとしないゴブタに行きついた。両手を後ろに回している。つまり何かを後ろに隠してるってことだ。
「おい、ゴブタ」
「はいっす!」
「今差し出せば、許してやるよ?」
「ごめんなさいエミルスさん! オイラには無理っす!」
(ゴブタ! 訓練してやった恩を忘れたのか!)
差し出されたエミルスの隙を見逃さず『粘糸』。
「エミルス、水か糸どっちがいいか選べ」
(……どっちも嫌だと言ったら?)
「なら両方だな」
そのまま引きずってリグルドの家の裏……は、ランガが誤って壊してしまったので森の中へ。ゴブタはその様子を見て合掌したという。
エミルスには戦闘に付き合ってもらった。三日間の間でたくさん技を思いついたからな、『大賢者』の補助付きで全てのスキルの実験台になってもらった。さすがに戦いに慣れてるエミルスも俺の持続力には勝てなかったらしく、精魂尽き果てて
ルールは敵だ、なんていうやつもいるが俺は基本的なルールは最低限守らないと平和は訪れないと思っている。秩序が無い自由は最悪の事態を招くかもしれないからな。
そこで俺は、最低限の三つのルールを定めることにした。
一つ 人間を襲わない
二つ 仲間内で争わない
三つ 他種族を見下さない
一つ目のルールを、何故作ったか。それは俺が元人間として、人間が好きだから。リグルの疑問に答えてやると、あっさり納得されてしまった。元々作っていた建前がまるで言い訳のようになってしまったがまぁいいだろう。
他種族を見下さない、これはもし見下していた相手が強くなって報復されてしまうなんてトラブルを未然に防ぐため。驕りは何も得しないからな。
ただ、二つ目のルールを作った原因であるやつがこの話を聞いていないことが心配だ。俺が派手に仕返ししちゃったせいでもあるけど、これを聞いていないせいでいつかトラブルになっても心配だから後で個別に言っておこう。エミルスってなんか頑固なところがあるから、一つ目のルールと理由なんて聞いたらめちゃくちゃ怒りそうなんだよな。
この時、俺がエミルスを起こしていないことによって、悲劇を生み出す事になる。君主という地位の重みを、まだ軽々しく見ていたのだ。
リグルドをゴブリン・ロードに任命してやると、いたく感動されてしまった。本当は丸投げしただけだから、申し訳ないことをしたと思う。
その後、ゴブリン達に役割を与えることにした。村の周囲を警戒するチームと食料調達チーム。衣食住のうち食は問題なさそうだが、衣と住は技術が関係してくるために現時点ではどうすることもできない。エミルスが衣と住の技術があるというなら話が別だが、そんな話聞いたことないしできたとしても本格的に携わっていることはないだろう。
ゴブリン達は武装国家ドワルゴンに住むドワーフ族と何度か取引したことがあり、そこで資源を調達したことがあるらしい。技術が足りないなら、一度交渉に行くしかないな。
それに、ドワーフ……! ファンタジーで有名な鍛冶の達人、こりゃあ行くしかない。早速遠征の準備を始めることにした。
その前に、そろそろエミルスを起こさないと。結局ここまで起きなかったし……でも、エミルスを連れて行っても役割はないのか。戦うつもりはないし。なら、ここはリグルド達と留守番してもらうことにしよう。
「リグルド、留守の間はエミルスと統治を任せる。頼んだぞ」
「はっ、お任せあれ!」
こうして俺は、ランガを含む五匹の
俺は、久しぶりにワクワクとした気持ちになっていた。
ただ、エミルスが俺のいない間に何かやらかさないといいけど……それだけが不安要素である。