転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

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今回ストーリーが進みません


08話 閑話 戦闘訓練

 気絶から目覚めたらリムル、ランガ、ゴブタその他諸々が武装国家ドワルゴンへ出発していた。ボコボコにしといて放置するとは、俺が知っているリムルより容赦が無いような気がするんだが。ってか俺が寝てる間に話進めんなよ。

 リムルがよく使う切り株の上に放置されていたらしい。スライムの身体に力を入れ起き上がると頭の上から声が降ってきた。

 

「エミルスさん、おはようございます!」

(あぁ……おはよう。もう少し早く起こしてほしかったんだがな)

「気持ちよく寝ておられましたので、つい……」

 

 お前はゴブリナに進化した……えっと、忘れちまった。

 『大賢者』。こいつってマルナだっけ?

 

《否》

 

 ……ハルナか?

 

《是》

 

 久しぶりに『大賢者』と対話したが、相変わらず最低限の返事で終わらせてくる。シンシアの『大賢者』を知っているせいで物足りなさを感じてしまうが、高望みはやめておこう。ハルナは黙り込んでしまった俺を不思議そうに覗いている。

 

(ハルナはここで俺を起こす係だったのか?)

「はい、今リグルド村長をお呼びいたしますね」

(いや、呼ばなくていい。俺が出る)

 

 外に出ると、リムルに役割を与えられたらしいホブゴブリン達が慌ただしく動いていた。敷地内から出ていく者、帰ってくる者。一仕事終えた彼等の手元には、色彩豊かな果実が籠の中にたっぷり入っている。

 村の中ではリグルドがどうにか家を作ろうと試行錯誤を繰り返しているようだ。……難航している。大きな音を立てて仮で組み立てた骨組みが崩れた。

 すまねぇが、俺は建築の知識なんざこれっぽっちもない。リムルが帰ってくるまでの辛抱だな。

 

 それにしても、あの三人がいないとなると俺のやることはほとんどないな。一応『魔力感知』を村の周りに張り巡らせてはいるが、巡回チームがいる以上ほとんどやる必要はない。

 こうなると、後は鍛錬か……リムルにボコボコにされたばかりだってのに気乗りはしない。

 

 ボコボコと言えば、俺が指導したランガとゴブタは今頃リムル様の役に立とうと頑張っている頃だろう。厳しく指導してほしいと言われたから、大分キツかったはずだ。

 

 

 

 ―――話は数日前に遡る。

 リムルが低位活動状態(スリープモード)になっている時、ランガとゴブタに戦い方を教えるため森の中へとやってきていた。

 ゴブタはまず基本的な攻撃や避け方を教えるとして、ランガは元々戦闘に慣れた種族だったのでスキルに合わせた戦い方を教えていくことになった。ランガには進化したことによるスキルの試運転をしてもらう。先にゴブタをランガと戦える、そうでなくてもランガの攻撃を避けれるぐらいには強くなってもらう。

 

(攻撃の前に、ゴブタは回避を学んでもらう。ホブゴブリンに進化したとはいえ、攻撃を食らったら致命的なのは変わらねぇ。特にお前は、ランガの雷一つでも焼き焦げちまいそうだからな)

「怖い事言わないでほしいっすよ……」

(回避の基本は攻撃を見ることだ。敵の動きを観察して、予測を立てながら身体を動かす。この時避けることに集中して体勢を崩したら本末転倒だからな、攻撃に繋げる意識を怠るな)

「は、はいっす!」

(んじゃ実戦な。ちょうどランガが巨大熊(ジャイアントベア)を連れてきてくれたみたいだからな)

「えええ!! まだ早いっすよ絶対!!!?」

 

 ランガが連れてきた熊はどうやらランガから一撃貰っているらしい。手負いの熊の攻撃を避けられない程度じゃ、どの攻撃も大抵避けられないだろ。ランガに合図を送ると、ヘイトをゴブタに向けるためにゴブタの後ろへ回り、影移動でゴブタの影に入り込む。俺は木の上から気配を悟られないように妖気をしまった。

 

(怪我した時はリムルから借りた回復薬で治してやるから安心していってこい)

「本気っすか!? 冗談っすよね……ひ、ヒドイっす~~~!!」

 

 熊は痛みで我を忘れているようで、一心不乱にご自慢の爪で切り裂こうとゴブタに襲い掛かってくる。手を出す気がない俺に、ゴブタはどうやら本気な事に気づいたようだ。念のため、見えない血の糸を熊に巻き付けているから本当に危なかったらいつでも止められる。まぁ多少の傷は仕方ない。痛みで身体に回避の重要性を覚えなきゃな。

 

 だがそんな俺の考えに反して、数分の間ゴブタは見事に全ての攻撃を避け切っている。天才肌な事は知っていたが、まさかここまでとは。余裕が出てきたのか、「こんなもんすか!」と熊を煽り始めた。

 おいおい攻撃も出来てねぇのに、そう思っていると熊の爪先がゴブタの腹を引き裂いた。血は出ているが軽傷。……こんなところでいいか。

 

(ランガ、お前の雷でトドメをさせ。魔法やスキルは想像で決まるといっても過言じゃない。相手の急所を貫くことに集中しろ、一瞬でも意識をブレさせるなよ)

「はっ!」

 

 ランガがゴブタの影から飛び出ると、アオーンと唸り声を上げる。魔力で雲が熊の頭上に形成され、バチバチッと力強い音を立てて熊の身体を電撃が貫いた。焦げすぎて黒になっちまってるな、これは食料には出来ないだろう。木の上からスライムの身体を広げて巨大熊(ジャイアントベア)の身体を飲み込む。これは俺の血液タンク行きだな。

 続いてゴブタを捕食する。俺の身体の中で回復薬をぶっかけて吐き出すとツルピカで健康的なゴブタが地面に倒れた。

 

(おーい死んでるか?)

「いきてるっすよ……死ぬかと思ったっすけど」

(戦う最中に油断するからこうなるんだよ、いい勉強になったな)

「はい、身をもって覚えましたっす……」

(ランガも一発で当てられたじゃねぇか。こりゃすぐに複数体の攻撃も出来そうだな)

「エミルス殿の助言のおかげです」

 

 地面でピクピクと小鹿のように震えているゴブタを眺めつつ、俺は次の訓練について思案する。コイツら、例え俺が指導していなくても三日あれば独学で辿り着くことが出来ただろう。進化したことによる成長の促進でもあるのかもな。

 

 ゴブタには攻撃を教えるが、ゴブタは魔法とか使えないだろうし武器の選定が先だな。物資が整っていないこの状況じゃ、今のところ棍棒と弓しか選択肢がねぇ。いっそ俺が短剣でも作るべきか……?

 ランガは雷の攻撃パターンを増やすかそれとも複数戦闘に慣れさせるか悩むな。どっちにしろ成長に繋がるのは間違いないが、どちらを伸ばすかでランガの戦闘スタイルも決まるといっていい。大事な決断はランガに決めさせる。

 

 誰かに戦い方を教えるのは新鮮だった。リムルは独りで勝手に成長してたし。これがリムルの運命の人やリムル自身が教師として立っていた時と同じ気持ちなのかは分からなかったが、悪い気分ではなかった。

 それから数時間が経つと、日が落ちてきてほどなく解散になった。この一件でゴブタは驕りにならない程度の自信はなんとなくついただろうし、ランガはスキルの使い方を身体に覚えさせることは出来ただろう。後は本人の努力次第だ。

 

 エミルスはこれで終わりだと勝手に思い込んでいたが、ドワルゴンから帰ってきた二人が再度訓練を頼み込んでくるのは先の未来の話である。

 

 

 

 

 リムル達がドワルゴンに行っている間、俺は実に平和な日々を過ごしていた。シンシアの胃の中にいた時のような安らかな眠りは無いが、ホブゴブリンどもが働く様をぼんやり眺めているのはなんとも言えない気楽さがあった。

 ぼちぼちスキル研究を再開するか、と思い始めた時ホブゴブリンの一人が俺のところへ走ってきた。

 

「エミルス殿~! ちょっと相談したいことが」

 

 こいつは警備のチームのところにいた気がする。何か自分達では手に負えない魔物でも出てきたか? いやでも、最近大亀(ビックタートル)を俺無しで討伐してきたしな。悶々としていてたが、表情から察するに戦闘に関する話ではないようだ。

 

「警備の巡回をしていたら他のゴブリンの村の族長達に出会い、話を聞けばリムル様に面会したいと言っておりまして……」

(あぁ? あいつは今ドワルゴンにいるだろ。ゴブリン・ロードのリグルドに頼めばいい)

「はい、すでに伝えてあります。ですが、リムル様のご友人としてエミルス殿にもぜひ立ち会っていただきたく」

(友人じゃなくて利害関係の……って言っても分かんねぇか。はぁ、ちょうど暇だったから付きやってやる。さっさと案内しろ)

「はい!」

 

 元気溌剌なホブゴブリンに案内されたのは、簡易的に建てられたテントのような場所だ。他のテントと比べても大きめ。中から複数人の話し声が聞こえてくる。

 リグルドがリムル様の素晴らしさとやらを熱く語っているらしい。まぁアイツにカリスマ性があるのは認める。シンシヤが慕うだけの事はあるからな。そういえば、俺に対してリムルとは違う近寄りがたい雰囲気があるかっこいい父様だって言われたことがあった。ショックだったが、シンシヤに悪気はないので深く考えないことにしていた。

 

 ホブゴブリンがテントの幕を開けて、そのまま中に入った。筋肉隆々のリグルドの背中が最初に見えて、その奥にゴブリンの長である四名。その護衛がさらに数名。正直、見た目が進化前のリグルドと似ていて見分けがつかない。俺を見た瞬間、ゴブリンの長達の目が光り輝いたのが見えた。

 

「そちらの方は、もしかしてお噂の……?」

 

 リグルドが振り向き、ゴブリンの長達がとんでもない勘違いをしていることに気づいて慌てて訂正した。

 

「先程言ったようにリムル様はドワルゴンに遠征にいっておられています。こちらにいらっしゃるのは、リムル様の知り合いであるエミルス殿です」

(どうも)

「そうでしたか、それはとんだご無礼を……」

 

 失言したゴブリンが謝罪をする。雌のゴブリンは緊張と恐怖からかこちらを一瞥しようとしない。あぁ、ちょっと妖気が漏れちまったのかもな。

 続いて、もう一人のゴブリンが俺に話しかけてくる。

 

「エミルス殿は、リムル様の代理としてここに来られたのですか?」

 

 代理。その言葉にスライムの身体が僅かに反応する。そうか、代理か。確かに俺以外リムルと同じスライムはいねぇしそう考えるのが自然だろうな。

 けど、俺がリムルの()()()だなんて思われるのは良い気分じゃないな。

 その瞬間、俺は封じ込めていた妖気を全開放させる。ヴェルドラを喰らったアイツをも凌駕する魔素をゴブリン達に叩きつける。空気が振動し、ゴブリン達はまともに立つこともできなくなった。

 

《スキル『威圧』を獲得しました。》

 

 これ幸いとばかりに"世界の言葉"が新たなスキルの獲得を報告する。ちょうどいい、『威圧』を使ってさらに相手を恐怖のどん底に突き落とす。最早顔すら上げられないといった状況だ。リグルドでさえも俺に平伏するしかない。

 

(いいか? 俺はリムルの代理じゃねぇ、もう一人の強者だ。利害の一致でここに留まっているにすぎない。俺がお前達に利用価値が無いと感じたら、すぐに蹂躙されるだけの雑魚であることを自覚してもらわねぇと困るな)

「た、大変申し訳ございません! なんとお詫びすればよいか!」

「軽率な言葉でご気分を害してしまったことを深くお詫び致します!」

「我らの命をどのように使っても構いませぬので、どうかお怒りを鎮めください!」

 

 護衛達も、まともに武器すら持つことも出来ずただ身体を震わせるばかり。

 

(なら聞こう。お前達はリムルが魔素を必要とするとき、喜んで身体を差し出せることを誓えるか?)

 

 配下になるなら、それぐらいの覚悟が必要だろう。更に恐怖を煽るために、血で作った糸を彼等の首に纏わりつかせる。俺がほんの少し力を込めるだけで首と胴体がお別れすることになる。まぁ、さすがに雌にはやらなかった。リムルが激怒してきたら面倒だ。

 ゴブリン達は恐怖で声を出せなくなりかけていたが、何かを言わなければゴブリン達の未来も無いと気づいたのか声を絞り出す。

 

「……誓います、強き者よ」

(ならいいだろう。先程言った通り、俺はリムルの代理じゃねぇ。最終的な判断はアイツに任せる。けど、お前達の勇気は見させてもらった)

「ありがたき幸せ!」

 

 『威圧』を解き、妖気も血も収めてやると漸くゴブリン達は呼吸を取り戻すことができたようだ。リグルドも強靭な肉体が可哀想なくらい縮こまってしまっていた。テントの外を見ると、ほぼ全員が動きを止め、俺を見る目に畏怖の感情が灯っている。こんな調子じゃ、俺が裏切ったとしてもゴブリンと狼は何も出来ずに蹂躙されちまうだろうな。

 俺が直接鍛えてやったランガとゴブタはこの『威圧』の中でも動けるようになるかもしれない。それはそれで面白くなりそうだ。

 

 この件以来、リムルの配下の中で「エミルス殿の逆鱗に触れてはいけない」という掟が自然と生まれた。

 





 ベスタ―暴行事件の少し前。夜の蝶にて。

「なぁ、追加で占いを頼むのは申し訳ないんだけどさ。ちょっとエミルスの未来について見てくれないか?」
「あら、大切な人なの?」
「そんなんじゃないけど……(アイツ、素行悪すぎて将来暴力事件とか引き起こしそうなんだよな)」
「でも未来を見るのは難しいからほんの少しだけね」

 黒髪のエルフが水晶玉に手をかざす。数秒後、水晶玉が景色を映そうと揺らぎ始めた。
 しかし、揺らいだものの一向に景色は暗いままだ。水晶玉の曇りは晴れそうにない。

「残念、映らなかったわ」
「こういうのはよくあるのか?」
「難しいとは言ってもモノぐらいは映るんだけど、何も映らないのは初めてかも~」
「……そうか」

 リムルはその水晶玉の先を、ただじっと見つめていた。


ステータス
 名前:エミルス=アゲンスト
 種族:スライム
 加護:逆風の紋章
 称号:なし
 魔法:なし
 技能:ユニークスキル『鏡像者』
    (『大賢者』『捕食者』)
    スライム固有スキル『溶解,吸収,自己再生』
    エクストラスキル『魔血変換』
    エクストラスキル『魔力感知』
    エクストラスキル『血液操作』
    スキル『威圧』『念話』
 耐性:熱変動耐性ex
    物理攻撃耐性
    痛覚無効
    電流耐性
    麻痺耐性


※ちなみにゴブタはエミルスの逆鱗に無意識に触れがち
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