アルティメット彩葉【完結】   作:芦花イラストうおおお!

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3. 再演

 正直なところ、彩葉は少しだけ不安だった。

 

 かぐやは、ヤチヨと並んで誰よりも何よりも大切な相手だ。その一方、かぐやからすれば彩葉は初対面の女子高生。互いに向けあう気持ちの違いが、微妙な距離感を生むのではないかと。

 

 けれど実際にその時が来てみると、不安なんて感じる暇はなかった。

 

「びえええ!!」

「あーよしよしよしよし大丈夫だよ怖くないよー! べろべろばー! うっ、今週初の壁ドンいただきました……」

 

 待ちに待った始まりの日、やはりゲーミング電柱から現れた謎の赤子は大いに泣き叫び、彩葉の努力も虚しく隣人からの壁ドンを招いた。

 

 いくらシミュレートしていても赤子の泣き声は思考を鈍らせる。壁ドンが四度目を数えた頃になってようやく前回の経験を思い出し、ヤチヨの子守歌にて赤子を眠らせるに至った。

 

 ほっと一息ついたところで、彩葉は部屋の隅にまとめてある段ボール箱を指さし確認。

 

「ベビー用品、ヨシ! 三連休の予定、ヨシ!」

 

 明日から始まる三連休の間に、かぐやは童女の姿にまで成長する。あらかじめ必要な道具と時間は確保してあり、準備は万端だ。

 

 ヤチヨの力もあてにしていたが、とある事情で断られ、赤子時代は彩葉一人で乗り越えねばならない。一層の気合を入れ、三連休の幕が開けた。

 

「あうあー」

「はいはい、おしめね」

「ばぶあ!」

「お腹空いたの? ミルク用意するね」

「びええええ!」

「ああああこれは理由分かんないやつー! よしよしよしよーし!」

 

 赤子の世話は一筋縄ではいかなかった。ぐっすり寝ていたかと思えば、いつの間にかハイハイで危険に近づいていたりする。経験則で相手の求めることを察することもあれば、まるで分からないときもある。初日深夜の夜泣きには彩葉の方が泣きたくなった。

 

 そうして迎えたてんやわんやの連休最終日、深夜。

 

「おなかすいたー。ミルクー」

 

 さらりとした茶髪に形の良い唇、小動物のようなくりくりした目。

 

 よく知る姿に近づいた童女に揺り起こされ、彩葉は肩の力を抜いた。

 

「山越えた……」

「ねえ、おなかすいたってば」

「はいはい、ちょっと待ってね」

 

 コンビニで買っておいたオムライスを二つ温め、皿に乗せて出してやる。

 

 きょとんとしてスプーンを握る彼女の前で、彩葉もゆっくりとオムライスを口にすると、見様見真似で食べ始めた。

 

 口に運んだとたん目をキラキラとさせて夢中になる彼女に、彩葉の頬が緩む。

 

「あなたはどこから来たの?」

 

 初対面の人間がすべてを把握しているのは不気味だ。白々しいとは思いつつ、前回のやりとりをなぞっていく。

 

 かぐやの出自を問い、竹取物語のかぐや姫かと確認する。物語の結末に憤る彼女の姿は記憶とまったく同じで、またも表情が緩む。

 

「なんで嬉しそうなの! こんなの超絶バッドエンドじゃん! しかもちょっといい話風になってるのが余計許せないよー!」

「これはそういうお話なの」

「バッドエンドやーだー! ハッピーなのがいーい~♪」

「じゃあそうすればいいじゃん」

「へ?」

 

 お皿を流しに運びながら、彩葉が告げる。

 

「これがエンディングだからって、諦めたら本当に終わっちゃう。みっともなく喚いて暴れて戦って、自分だけの結末をつかみ取るしかない。私なら、そうするよ」

 

 実際今そうしているし、という意図を込めて流し目を送った。

 

「私もっ」

 

 虚を突かれたように固まっていた彼女は、勢いをつけて立ち上がる。

 

 ばたばたと慌ただしく、後ろから彩葉に抱き着いた。

 

「私もそうする! やりたいこと全部やって、好きなように暴れて、自分だけのハッピーエンドにするっ!」

「いいんじゃない? かぐやに出来るかは知らないけど」

「かぐや?」

 

 あ、と声が漏れた。

 

 かぐやに名前を贈るのは明日の放課後になる予定だった。目の前のかぐやがあまりにも記憶通りのかぐやで、先走ってしまったようだ。

 

 言ってしまったからには仕方ない、と開き直る。

 

「いつまでもあなたとかアンタじゃ呼びにくいでしょ」

「かぐや……かぐやかぁー!」

 

 にへらと笑い、狭い部屋の中をくるくると回るかぐや。さらりとした髪がクラゲみたくふわりと広がる。

 

 ひとしきり喜びの舞を披露すると、かぐやは彩葉の背中に再びくっつく。

 

「かぐやなら絶対できる! だって彩葉も一緒に戦ってくれるから!」

「あんたねぇ……」

 

 当たり前のように甘えてくる厚かましさに頬が引きつる。

 

 純真で破天荒で天真爛漫、そして遠慮を知らない。かぐやは記憶の印象よりもずっとかぐやだった。

 

 その図々しさときたら、素直に「任せて」と頷くのをためらわせるほどだ。

 

「ま、暇になったら手伝ってあげるかもね」

「えー!? 一緒にハッピーエンド行こうよー!」

「こっちも暇じゃないのよ。忙しいのよ。ほらっ、歯磨いてさっさと寝るわよ。今何時だと思ってるのよ」

「はぁーい……あ」

「何よ」

 

 ラッパーのごとく畳みかける彩葉にも怯まず、かぐやはきゅるん、と潤んだ上目遣いになって、

 

「彩葉ぁ、歯磨き、して……?」

 

 赤子のようなおねだりをしてみせた。

 

 かぐやは学習能力が高い。食器の使い方のように、歯磨きも一度見れば自力で出来るようになるだろう。

 

 だから今回だけ。

 

 今回だけは、生後三日目の童女を甘やかすことにする。

 

「あーんして」

「あーん!」

 

 小さなお口をすっかりきれいにして、彩葉とかぐやは二人で寝た。

 

 暑苦しかった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 翌日。

 

 三連休はかぐやにつきっきりだったため、この日は芦花と真実との時間に当てると決めていた。放課後に三人で連れ立って、新しく出来たカフェに向かう。

 

「彩葉は進路どうすんの?」

「海外留学って噂もあるけど~?」

 

 道中の話題は進路だ。高校二年の夏休みといえば、本格的に将来を見据え始める時期である。

 

「普通に国内の大学かな。海外も考えたけど、やっぱり故郷が一番ですよ」

 

 小三から始めた学会での立ち回りにより、野望のための研究基盤とコネは国内に十分確保してある。さらに仮想空間や通話であちらとやりとりできる今、あえて海を渡る必要性はなかった。

 

「そ、そっかぁ……」

「やったね、芦花」

「え? 何がやったなの?」

 

 なぜか安堵する芦花と、それを喜ぶ真実。

 

 彩葉は首を傾げるも、慌てた様子の芦花「なんでもない!」と言うので、深くは聞かない。

 

 三人は予定していたカフェに到着し、席に着く。

 

 彩葉謹製のノートで赤点を回避できたといい、おごってくれる雰囲気──既視感と共に、彩葉は警戒した。

 

 前回ではここにかぐやが乱入し、彩葉のパンケーキを瞬く間に平らげてしまった。

 

 が、今回は違う。潤沢な資金にものを言わせ、あのアパートには退屈しのぎの道具をいくつか用意しておいた。ツクヨミは後回しだが、色々とアプリを入れたスマコンも置いてある。粉と水ではなく、ホケミを使ったパンケーキも。あの退屈アレルギーの宇宙人とてさすがに足止めできるだろう。

 

 そうして、運ばれてきた三段のパンケーキに目を輝かせる彩葉だが──

 

「シャッ!」

 

 今回は背後からだった。

 

 彩葉の顔の横から細い手が伸び、キラキラパンケーキが刺突される。

 

「いただきまーす!」

 

 皿の上から去っていくパンケーキを目で追えば、背後に立つ宇宙人の口にするりと吸いこまれていった。

 

「あむ、もぐもぐ……うんんまあああ!」

 

 ほっぺが落ちそう、とばかり頬に手を当て、きらめく笑顔でウインク。

 

「よっ、彩葉!」

「あんた、なんで……?」

「彩葉いないとつまんないもん!」

 

 彩葉はがくりとうなだれた。これが逃れられない運命だというのか。皿の上のパンケーキが二枚目、三枚目と瞬時にかぐやのお口へと消えていく。

 

「えーかわいい。誰この子」

「彩葉の服着てる。彩葉の友だち?」

「ええと……」

 

 言葉を探しているうち、芦花が自分の分のパンケーキを差し出した。

 

「パンケーキ好き? はい、これもど~ぞ」

「パンケーキ! 彩葉のと同じくらいおいしい~!」

 

 瞬間、わずかに空気が張り詰めた。

 

 芦花がすっと目を細め、探るような目つき。

 

「彩葉の作ったパンケーキ、食べたんだ?」

「うん! 今朝作り置きしてくれた!」

「……作り置き? 同棲してる?」

「してるよ! 昨日一緒に寝た!」

 

 芦花はにこにこと目だけ笑い、彩葉に視線を送る。

 

「彩葉、この子は誰かな?」

 

 奇妙な圧があった。困惑して真実を見やるが、真実はパンケーキを口に運ぶ途中で動きを止め、冷や汗を流している。

 

 前回含め初見の展開に戸惑う。

 

 が、ある程度想定していたことだ。彩葉は背筋を伸ばし、まっすぐに二人と向き合う。

 

「今から話すことに、ウソと冗談は一切ないから」

 

 そしてすべてを打ち明けた。ゲーミング電柱から赤子を拾い、三連休を使って童女に育て上げ、その童女は月から来たと主張している。放り出すのは忍びないため、ひとまず家に置いている。

 

 荒唐無稽な話だ。仮に芦花と真実に同じ話をされたら、過労か寝不足による幻覚を疑うだろう。

 

 それでもよかった。信じてもらえずとも、この二人にウソはつきたくない。

 

 話を聞き終えた二人は顔を見合わせ、目を丸くした。

 

「月から来たって、本当にかぐや姫じゃん!」

「かぐやちゃん、月の兎がついたお餅って食べたことある?」

「おもち? 月には食べ物とかないよ。ただずーっと仕事するだけ」

「うわぁ地獄だ」

「ちょ、ちょちょちょ」

 

 普通に話を続けようとするので、慌てて待ったをかける。

 

「し、信じてくれるの?」

「彩葉が言うなら信じるよ」

「ね~。それにさ、リアルかぐや姫よりずっとファンタジーな人を、中学から見てきたもんね」

 

 そんな人物いただろうか。

 

 記憶を探っていると、自分に二人の視線が突き刺さるのを感じ、彩葉は目を瞬いた。

 

「えっ、私?」

「自覚ないんかーい」

「文武両道の優等生ってレベルじゃないよ。一回エゴサとかしてみたら~?」

 

 エゴサ。以前にヤチヨにも言われたことだ。

 

 不思議に思い、スマホを取り出して自分の名前で検索をかけてみる。

 

「やだ……私の評価大げさすぎ……?」

 

 初めに出てきたのはフルネームと生年月日、さすがに顔写真はない。下に続くのは無数のネットニュース記事と、超人、怪物、神童、麒麟児、先端技術の権威、パイオニア、日本に飛び級があるべき理由、ツクヨミ運営の片割れ──その他、人外めいた活躍を称えるワードが多数。

 

 たしかに前回の経験を活かして大立ち回りをしたのは事実だが、ここまで評価されるようなことではない。ただ望む結末へ向かっているだけだ。ネット特有の悪ノリで理外の超越者扱いになっているだけだろう。

 

「まあそんなわけで、彩葉の存在に比べたら月から来た女の子なんて、十分現実的ってわけ」

「彩葉がウソじゃないっていうなら、どっちみち信じるけど~」

「そっか。ありがとう」

 

 少し釈然としないながらも、信じてもらえたことにひとまず安堵する。

 

 彩葉すっごーい、とスマホで彩葉サーチを続けるかぐやを尻目に、彩葉は言葉を継ぐ。

 

「関わっちゃったからには、ちゃんとこいつの面倒見るつもり。だから芦花と真実も、仲良くしてやって」

「おっけー。かぐやちゃん、私は綾紬芦花。芦花って呼んでねー」

「私は諌山真実ー。よろしくー」

「うん! よろしく!」

 

 こうして友人とかぐやとの邂逅は、穏便に終わった。

 

 芦花が見せた妙な圧については、きっと気のせいだ。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 同日、夜。

 

「まーずは、生のトウモロコシから作ったポタージュ。こっちは新ゴボウとアスパラのカリカリサラダ温玉付き。メインは──」

 

 帰宅すると、前回と同じく手間暇かけた料理の数々に迎えられた。解説の最後にかぐやの笑顔が添えられる。

 

 予想はできていたのに、記憶よりも数十倍おいしそうだ。大人しく腰を下ろし、ポタージュからいただく。

 

 口いっぱいに広がるトウモロコシの甘味。なめらかなクリームの風味。丁寧に裏ごしされたのか、濃厚な味とは裏腹にするりと喉を通っていく。

 

「うっ、うぅ~……」

「泣くほどおいしかったか~かぐやちゃん照れちゃう!」

 

 壊滅的な食生活を突如変えた、かぐやの手料理。思い出の滋味との再会に、体と心がどうしようもなく喜んでいる。彩葉の胃袋は出会う前からかぐやに掴まれていた。

 

「これから毎日作ってあげるからねー。はい、ティッシュ」

 

 上機嫌なかぐやからティッシュを受け取り、涙を止めようと努める。

 

 そうこうしているとアラームが鳴った。ツクヨミの時間だ。 

 

 興味を示すかぐやを引き連れ、仮想空間ツクヨミへログイン。

 

 夜の闇にきらめく平安京めいた摩天楼にかぐやは目を輝かせ、その様を微笑ましく眺めながら、本日の目的地へ向かう。

 

「ヤオヨロー! 神々のみんな~、今日も最高だった~?」

 

 言わずもがな、ツクヨミのトップライバー、月見(るなみ)ヤチヨのライブ会場だ。

 

 これも運命なのか、前回と同じく握手券付きのライブチケットを彩葉は入手していた。巨大な鳥居の上で観衆を沸かせる最推しの姿に、彩葉は恍惚とする。

 

「おい、あれ『いろ』じゃね?」

「同じ運営なのにどうしてこんな後ろに……?」

「コネだから遠慮したのかな」

「はーーー!!? 普通に抽選ですけど!? 何度も何度も応募してやっと当たった握手券なんですけど!?」

「ごめんなさい!」

「彩葉、どうどう」

 

 こほん、と咳払いを挟み、落ち着く。

 

 ここだと『いろ』ね、と注意するよりも早く、ヤチヨのライブが幕を開けた。

 

 会場が熱狂の海となり、彩葉の意識が数分飛ぶ。

 

「彩葉、彩葉ってば! ねえ、なんでまた泣いてるの? 泣き虫?」

 

 かぐやの声で我に返り、熱い涙を拭う。

 

 泣かずにいられるものか。ただでさえ推しのライブは尊いのに、ヤチヨをヤチヨをたらしめる八千年の歩みを知る今となっては、もはや言葉では表せない感動がある。

 

 記憶の中で、ヤチヨは人の美しさよりもずっと多くの醜く、汚く、浅ましく残酷なところを見てきた。それでもなお人々の笑顔を心から願い、歌っている。考えるだけで涙と鼻水が止まらない。

 

「いぇーい、感謝感激雨アラモード! ヤチヨは果報者なのです。あ、ここでお知らせ! ヤチヨカップっていうイベントを開催しま~す☆ FUSHI、詳細よろしくぅ」

「は~い──」

 

 余韻に浸っていると、予定通りヤチヨが夏休みの一大イベントを告知した。

 

 ツクヨミ内の全ライバーが参加でき、期間中の新規ファン獲得人数で競う。優勝すればヤチヨとのコラボライブ。

 

「コラボライブ? それってすごいの?」

「はちゃめちゃにすごい。配信のコラボはあったけど、ライブはいつもソロだったから」

「へー。じゃあ彩葉、一緒にやろ」

「自由時間の範囲なら付き合ってあげる。配信の主役はアンタがやってよ」

「えー!? 二人で主役すればいいじゃん!」

「あのねぇ」

 

 あくまでも裏方だと主張しようとすると、ド派手な爆音。

 

 ブラックオニキス、通称黒鬼。数々のeスポーツ大会で優勝経験のある、プロゲーマーチームの登場だ。

 

「よう、子ウサギども。お前らの帝様が来たぜ」

 

 リーダーの(みかど)アキラが名乗りを上げ、指パッチンと共にチームのPVが投影される。会場は黄色い声一色となり、黒鬼の優勝を期待する声がそこかしこで上がる。

 

 それに待ったをかける悪童が一人。

 

「ヤぁぁぁぁぁぁ──チぃぃぃぃ──ヨぉぉぉぉ──!」

 

 かぐやである。

 

 腹の底から声を張り、会場の注目を一身に集める。

 

「かぐやがヤチヨカップ優勝する! そんで絶対コラボライブする! 彩葉と一緒に!」

「いろだっつの」

「あう」

 

 ぺし、と頭に手刀を落とす。

 

 最初から付き合う気だったため止めはしないが、注目されると照れる。堂々と胸を張り続けるかぐやに彩葉は感心した。

 

「いとかわゆし」

 

 高らかな宣戦布告を最後に、ライブは閉演。

 

 ヤチヨの分身と対面でお話しし、握手をできる夢の時間が始まる。

 

 彩葉は分身がやってくるのを待つが、中々来ない。

 

 しょんぼりとアバターの狐耳がしおれ、かぐやが慌てだした頃、やっと一人がやってきた。

 

 小学生くらいの背丈のヤチヨは、和装の袖で顔の半分を隠し、もじもじしている。

 

「もー、遅いよー! 彩葉が寂しがってるじゃん!」

「ご、ごめんね? でもね、ヤッチョも恥ずかしいというか気まずいというか……」

「なんで恥ずかしがるの?」

 

 心底不思議そうなかぐやだが、原因はかぐやだ。

 

 かぐやとヤチヨは時を隔てた同一人物である。

 

 そしてかぐやはつい数日前まで、彩葉におしめを替えてもらっていた。他でもない彩葉に。

 

 乙女の羞恥心から気まずくなるのは必然だった。

 

「あのっ、ライブ、最高だった! いつも配信見てますっ! ありがとう!」

 

 だがしかし、彩葉には関係ない。

 

 なぜなら今はファンとして推しに会いに来ているのだ。プライベートでのあれこれは棚上げして、純粋にこの時間を楽しむ。

 

 ヤチヨもその意を汲み、トップライバー月見ヤチヨとしての空気に切り替わった。

 

「こちらこそありがとー☆ 彩葉みたいないい子に愛されて、ヤチヨは本当に幸せなのです」

「こひゅっ……えっと、じゃあ私、これで!」

 

 推しとの接触と至近距離からの笑顔に限界を迎え、彩葉はそそくさとログアウト。

 

「むぅー! かぐやを置いていくなー!」

 

 後追いでかぐやも落ち、初めてのツクヨミ体験が終わった。

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