アルティメット彩葉【完結】   作:芦花イラストうおおお!

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4. 破竹

 野望の実現における最大の障壁は、月人たちの動きだ。

 

 彼らの動きを知る術がない以上、ある程度は前回と同じ流れを再現し、かぐやに接触してくるタイミングを固定するのが望ましい。

 

 そのためにはヤチヨカップの優勝が不可欠だが、こちらは問題ないと彩葉は見ていた。

 

 だって、かぐやが配信するのだ。

 

 型破りでぶっ飛んでて滅茶苦茶するけど、まっすぐで優しくてかわいいかぐやが配信をする。そんなの誰だって見るだろう。

 

 というわけで配信はかぐやに任せ、彩葉は自分のなすべきことに専念する。

 

 夏休みの予定をぎっちり詰め込んだ予定表を壁に貼りつけ、むふー、と息をついた。

 

「えっ、何このグロい紙……」

「夏休みの予定表! 私には野望があるの。一秒も無駄にできないんだから、邪魔しないよーに!」

「やーだー! かぐやと遊んでー!」

「自由時間あるじゃん。その時まで待って」

 

 かぐやを幸せにするための計画だ。言うまでもなく、目の前のかぐやと遊ぶ時間も確保してある。

 

「この一ミリくらいの隙間だけ!?」

 

 が、予定の隙間にねじ込まれた一時間足らずの自由ではお気に召さなかったらしい。ばたばたと駄々をこね始めた。

 

「遊んで遊んでー! 一緒に配信やるのー!」

「主役はかぐやがやるって言ったじゃん!」

「彩葉も主役がいぃーいー!」

 

 ぴた、とかぐやが駄々こねをやめる。

 

 かと思うと跳ねるように身を起こし、彩葉の胸元に詰め寄った。

 

 うるうると揺れる瞳に見つめられ、「これダメなやつ」と敗北を悟る。

 

「かぐや、彩葉と一緒がいい……ねえ、最高のエンディング、二人で目指そ?」

「……まあ、自由時間にできる範囲なら」

 

 彩葉は屈した。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 そうして始まったヤチヨカップにおいて、かぐやは想定をはるかに超える快進撃を見せた。

 

 感情を素直に表現し、行動力に富み、話すのもうまい。極めつけに人を惹き付ける歌唱力まである。かぐやがライバーとして人気になるのは必然だったが、前回と大きく違うある要素が、かぐやの知名度を急速に高めた。

 

「え、いろPとどういう関係か?」

 

 活動初期、とある雑談配信にて。

 

 寄せられたコメントにかぐやが即答する。

 

「親友、友だち、パートナー、相棒! そんな感じ!」

 

:マジで!?

:あの謎多きいろPのことを知るチャンス!

:いろPとヤチヨってどんな関係なんですか?

:ツクヨミの運営に関わってるって本当?

:ぶっちゃけ何者?

 

「みんないろPに興味津々じゃーん。えっ、運営してるの? ねえ彩葉、そうなの?」

「いろPだっつの。いや、勝手にP(プロデューサー)にされてるのも納得いかないけど……運営はしてない。個人の研究成果をいくつか提供しただけ」

「だって!」

 

:いろPいたぁ!

:ツクヨミに五感を完備させた神

:ヤチヨ限界ファンの狐ちゃんアバターっていろPだよね? 名前一致してるし

:ガチの偉人と相棒になってるかぐやちゃんイズ何

:ヤッチョとの関係は!?

 

「ただのファンです。狐ちゃんアバター? 何のことだか分かんないですねー。もうっ、私のことよりかぐやを見てよ。これかぐやの配信なんだから!」

「あっ、彩葉待って! みんな、彩葉が行っちゃうよ! もっと質問攻めして引き留めないと!」

「おいやめろ、私は裏方だってば……あああもうアホほどコメント流れとるし同接上がっとるし……」

 

:50000ふじゅ~ いろPさん、貴女のサイバネティクス研究のおかげで、私はこうして文字をタイプできています。本当にありがとう。これは気持ちです。

 

「わあ、スパチャありがとう! さい、ばね? 彩葉、バネの研究してんの?」

「サイバネティクスってのは、ざっくり言うと機械と人間の関り全般を研究する分野のこと。この人が言ってるのはたぶん、義肢関係かな」

「ふーん……え!? 彩葉すっっっご! 救世主じゃん!」

「別にそんなことは……ええと、どういたしまして」

 

 彩葉は今、国内で最も有名な天才児だった。十歳ごろから頭角を現し、先進的な発想で様々な分野に革新を起こした上、学会での確かな立場と無数の特許を獲得している。ユーザー数二億人を超えるツクヨミの運営に関わっている噂と、ヤチヨのライブに出没する名物アバターとの関係も相まって、関心を寄せる人々は彩葉の認識よりもずっと多かった。

 

 それほどの知名度に反して露出の少ない彩葉が、気軽に質問に答えてくれる。彩葉目当てで『かぐや・いろPちゃんねる』にやってくる視聴者が怒涛のごとく流れ込み、同接人数が爆発した。

 

 看板に惹かれてやってきた視聴者を、かぐやの溢れる魅力で捕まえる。新規ファン数は前回に倍するペースで膨れ上がり、順位は四桁から一週間足らずで二桁に上がった。

 

:かぐやちゃん、結婚して!

:結婚希望です

:おじさんの家に来ない?

:結婚汁

:養わせろ

 

「うわぁ、みんなかぐやのこと好き過ぎ! でもかぐやは彩葉のものだから、彩葉に勝てたら結婚──」

「はい、処理」

 

 案の定視聴者たちが悪ノリを始めようとしたので、彩葉は速攻で処理にかかった。

 

 ツクヨミ内の対戦ゲーム、KASSENのルール『SETSUNA』にて。押し寄せる求婚者たちを文字通り刹那の間に切り捨てていく。鬼神のごとき四十連勝にまたも同接が爆発し、かぐいろ、いろPなどのワードがトレンドを席巻した。

 

 そうした前回との差異はありつつも、運命と呼ばれる大きな流れはあるようで、大きなイベントは記憶の通りに発生した。

 

 たとえば芦花と真実を誘い、かぐや、彩葉と合わせ四人でビーチへ遊びに行ったこと。

 

「彩葉、着ぐるみ脱いで配信出て……? 伴奏して? 新曲も作って……?」

「忙しいっつってんでしょーが」

 

 まだまだ一位に届かないことに焦ったかぐやが、彩葉に無茶なお願いをする。

 

 瞳を潤ませて弱弱しい声を出すかぐやに前回の彩葉はなすすべもなかった。しかし今回は違う。

 

 ささっとスマホを操作し、かぐやのスマホに音声ファイルを送り付ける。

 

 かぐやが不思議そうに画面をタップすると、ポップな曲調のメロディが流れ始めた。

 

「こんなこともあろうかと、曲はいくつか用意しておいたわ」

「ええええ!? あんなに忙しくしてたのに!?」

 

 分かってるならちょっとは遠慮しろや、とは言わない。相手が傷つかない範囲でひたすら甘え倒すのがかぐやだからだ。

 

 前回でかぐやのために作った曲はすべて頭に入っており、完成形が分かっていれば作業量は大したものではない。驚くかぐやに対し、どや顔で胸を張る彩葉。

 

「すっごくいい曲! ふんふんふーん、誰も止められやしない、歌わずにはいられないー♪ うわああ歌詞が溢れてくるぅー!」

「完成度高すぎ……彩葉って作曲もプロレベル?」

「彩葉だけ一日四十八時間あったりしてー」

「ふっふーん」

 

 はしゃぎまわるかぐや、感心と呆れが半々の芦花と真実。彩葉は未来の自分からのカンニングをまったく悪びれず、高くなった鼻は入道雲を貫かんばかりだ。

 

 しばらくメロディに乗って即興の踊りを披露していたかぐやは、たまらないとばかり彩葉に抱き着いた。

 

「決めた! 今度のファーストライブでこの曲歌う! 彩葉も一緒にやろ!」

「ギャラは?」

「たんまり出ますぜ!」

「じゃあやる」

「やったぜうおおお!」

 

 歌枠やツクヨミの路上ではなく、ツクヨミのライブハウスを借りてのライブ。前回の思い出の中でもひときわ深く心に刻まれている。出る、と即答できずにワンクッション置くあたり、往生際が悪いと彩葉は内心自嘲した。

 

 かぐやは喜びに飛び跳ねながら砂浜を駆け回り、ぴたりと止まる。足元に一抱えほどの石があり、しゃがみ込んでひっくり返している。

 

 この後起こることを思い出し、彩葉は瞬時に対抗策を探った。近くに岩場を見つけ、素早く駆け込む。

 

「彩葉見て見て! カニ! たくさん集めて軍隊作──彩葉は?」

「あっちー」

 

 かぐやは野生のカニを大量に引き連れて帰ってきた。

 

 前回はこれに追い回されて散々な目に遭ったが、今回はそうはいかない。

 

 岩場から帰ってきた彩葉の足元には、自立して動く大量の貝殻がいる。

 

「アンタがカニなら、こっちはヤドカリよ! 全員、突撃~!」

「なにおー、受けて立つ! カニ軍団ゆけーい!」

 

 はたしてヤドカリとカニの軍団が衝突し、熾烈な火花を──

 

「ちょっ、なんでスルー!?」

 

 散らすことはなく、お互いに交錯して素通り。

 

 カニは彩葉に、ヤドカリはかぐやに向けて突撃していく。

 

 砂浜を追い回された二人は、やがて波打ち際に追い込まれ、足元でわさわさする甲殻類に二人して悲鳴を上げる。

 

 カニとヤドカリはやがて付き合ってられるかとばかり互いの住処へ引っ込んだ。

 

 息も絶え絶えな彩葉とかぐやは顔を見合わせ、笑う。

 

「あはははっ! 彩葉、裏切られてやんの!」

「そっちこそ……ふふっ」

「おーい、二人ともー」

 

 笑い合っていると、浜辺の真実が手を振って声をかけてくる。芦花がスマホを構えてこちらに向けていた。

 

「今の熱いバトル、ツクヨミにアップしていい?」

「いいよ!」「絶対ダメ!」

 

 この後彩葉がジャンケンで勝ち、動画はアップされなかった。

 

 そうして前回の反省を大いに活かし、ファーストライブを成功させ、芦花と真実とのコラボ配信も実施。ファン数を更に伸ばし、電子通貨ふじゅ~をがっぽがっぽ稼いでいく。

 

 すると、やはり例の問題が浮上した。

 

「ねえねえ、こことかどう? マンションなのに二階があるんだよ! 吹き抜けで、システムキッチンでパントリーにバルコニー、しかも最上階! かぐや、ここがいいな~」

 

 引っ越しである。

 

 配信道具と称してかぐやは様々なガラクタを購入しており、始まりの場所であるワンルームは相当に窮屈になっていた。

 

 かぐやが引っ越しを提案するのも、目をつける物件も、彩葉には予見済みのことではあった。

 

 あったのだが。

 

「もうちょっと安いとこにしない? ほら、こっちとか同じ最上階だけど安いし……」

 

 一度染みついた節制癖は抜けないものである。

 

 不動産屋が表に張り出した物件のうち、かぐやの希望するものは家賃三十五万のデザイナーズマンション。ここに敷金礼金、引っ越し費用、新しい家具家電費用などの諸経費がのっかってくる。

 

 蓄えがあるとはいえ、研究資金はあればあるほどいい。お金を引っ張ってくるのは楽ではないのだ。彩葉は少しでも安く済ませようと、別の物件を指し示す。

 

 しかしかぐやは頑として首を横に振った。金髪がばっさばさと揺れる。

 

「やだ! 絶対ここ! お金ならかぐやが出すから~」

「それは折半でいいけどさ。もうちょっと色々見てからでもよくない? 同じ条件でもっと安いところあるかもだし」

「そうだけど~、ん~」

 

 むう、と唇を尖らせ、言葉を探すように唸るかぐや。

 

「なんか、彩葉と暮らすならここ! って感じがするんだよね。ビビッと来るというか、運命みたいなやつ? 彩葉は感じない?」

 

 そんなことを言われると、彩葉は抗えない。

 

 ため息と共に、不動産屋の扉に手をかけた。

 

「分かった。とりあえず内見行こっか」

「……! 彩葉、好き!」

「はいはい」

 

 内見の間、かぐやは終始浮かれていた。彩葉も、見覚えのあるシステムキッチンやかぐやの配信部屋を前に、興奮が悟られないよう随分気を使った。

 

 その場で契約がまとまり、帰りは不動産屋の車で送ってもらう。

 

 車中でスマホをいじり、引っ越し業者を予約しておく。かぐやと肩を並べ、通販サイトで必要な家具家電を吟味する。

 

「あ、そや。忘れんうちにやっとかな」

「そや? やっとかな?」

「ええいうるさい、忘れて。ちょっと電話する」

 

 その最中に用を思い出し、彩葉は迷いなく連絡を入れた。

 

 三コールほどで応答。ともすればシステム音声の方がまだ愛想がよさそうな、冷淡な声が聞こえる。

 

『もしもし。久しぶりやね。忙しいやろに、よく電話かけてくれはったね』

「そっちこそ忙しいやろに、よく電話とってくれはったね」

 

 相手は母、酒寄紅葉である。

 

 にこやかに挨拶を交わし、さっさと本題を告げた。

 

「今度引っ越しするねん。保証人になってや」

『あらま、天下の酒寄彩葉様が親に頼み事とはなぁ。お母さん嬉しくて涙出そうやわ』

「あ、そう。で、なってくれる? 無理やったらお兄ちゃんかおじいちゃんに頼むけど」

『……ならへんとは言ってへんやろ。せやけどいい加減ワンルームは止めぇや。危ない人間はどこにでもおるんやからな』

「分かっとるって。今度のはセキュリティばっちりのいいところや。あ、そういえばかぐやの話したっけ?」

『なんの話や』

「光る電柱からな、かぐや姫生まれてん。で、今その子と暮らしとる。新しい家もな、その子と選んだんやで」

『は?』

「今度写真送るわ。じゃ、保証人の件よろしくー」

『ちょ、待てや──』

 

 通話を切った。

 

 久しぶりに母の声を聴き、感傷的な気分に浸る。前回の記憶を取り戻してからというもの、母は彩葉にあまり干渉しなくなった。

 

 それは彩葉が結果を出し続けているから、ではない。世間の荒波にへこたれない自立可能な精神を突如として確立したため、言うことがなくなったのだろう、と彩葉は見ている。

 

 アラサーまで生きれば、親の気持ちも少しは分かる。口を開けば皮肉とお小言ばかりだった前回の母は、彼女なりに娘を立派に育てようと必死だったのだ。彩葉もその想いに答えようと躍起になり、自我の弱いその態度がすれ違いに拍車をかけた。

 

 だから彩葉は、今の母との関係が嫌いではない。

 

 何のしがらみもなく言葉を交わし、必要があれば頼る。そんな普通の親子にもう一度なってみたかった。

 

「彩葉、楽しそうやな」

「その口調やめろ。あ、またかかってきた」

 

 ニヤニヤするかぐやをジト目で睨んでいると、母から着信。

 

「どしたん?」

『どしたんちゃうわ。さっきのしょうもない冗談はなんやねん。変な薬でもやっとるんちゃうやろな』

「ウソは言ってないで。かぐやなら隣におるけど替わろか?」

 

 かぐやは目を丸くした後、ちょうだいとばかり両手を差し出した。

 

 困惑して言葉に詰まる母に構わず、かぐやにスマホを渡す。

 

「はじめまして、かぐや言います。よろしゅーおねがいします」

『しばくぞ』

「なんでぇ!?」

 

 雑な訛りで半ギレになる母と、いつも通り天真爛漫なかぐやがやり取りして、彩葉と一番の仲良しの同級生かぐやがルームシェアをしているという話に落ち着いた。

 

 終始かぐやに振り回されている母の声に、血の定めのようなものを感じる彩葉だった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 引っ越しを終え、ライバー活動に一層の精を出すかぐや。

 

 しかしランキングのトップは遠い。優勝候補の黒鬼は変わらず首位を独走しているし、トップ10に入るのも難しい。

 

 かぐやがリーダーボードを睨みつつむむむと唸り出した頃、やはり例のメッセージが届いた。

 

『KASSENで 帝VSかぐやの竹取合戦 ってのはどう?』

 

 独走状態の黒鬼から、対戦コラボの申し入れである。

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