少女の失踪
千八百八十年 九月七日 二十一時 五十八分 イギリス ロンドン
「パパ……ママ……起きてよ……」
父と母に連れられ見に行った劇の帰り道……私は目の前で両親を若い男に殺された。
「いや、!来ないで!」
男はまるで散歩をするかのように私に近づきナイフを構えた……。
「…………?」
男は構えたナイフの血を綺麗に拭き取るとケースにしまい私の前から姿を消した。
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千八百九十二年 四月十一日 イギリス ロンドン 十一時 三十八分
「……ん!……ヴ……さん!エヴァさん!起きてください!」
私は体をゆすり必死に起こそうとする助手の声で目を覚ました。
「ん……あぁ、もう着いたのか?」
「えぇ、着きましたよ例の事件のあったロンドン
に。それよりも……うなされていましたが大丈夫ですか?」
彼の名前はルーバン・クレイ。私の助手としてこの事件を調べるにあたり助手として私の担当となった。
「あぁ、大丈夫だ。少し昔のことを夢に見ていただけさ……」
私の両親を殺した男……巷では曇りの日にしか人を殺さないことから
「それにしても……ロンドンは相変わらずですね……」
産業革命により華々しい成功を遂げたイギリスだったが、当然の負の面も生まれた。富裕層が富を独占し、貧困層は厳しい労働環境で働いている。そんな中、綺麗な身なりで街を歩いている男女が周囲からどういう目で見られているかは想像もしたくない。
「それでは行こうかクレイくん。事件の現場に
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十二時 十分 酒場前
「ここが事件の現場ですよね?それにしては……」
「あぁ、不自然だ」
今回の事件は十六歳の少女タビサ・リーヴィスの殺害事件。事件の起きた日、私たちのいる酒場の前で倒れているタビサちゃんが倒れているのが目撃されている。
目撃者は当初、酔っ払って地面で寝てしまっているのだと思い無視をした。だが、男が用事を済ませ帰ってきても事件の被害者であるタビサ・リーヴィスが倒れており、不安になった男は息をしているのか確認をした。
呼吸をしていないことに驚いた発見者は警察を呼びに向かったが事件現場には被害者の遺体は存在していなかった。
私たちがおかしいと感じているのは、酒場の反応だ。仮にも遺体があったと騒がれているというのに営業しており、お客さんも多く入っている。
「クレイくん。私達も入ろう。」
「まだ昼間ですよ?」
「酒を飲むためじゃないさ。情報収集だよ。」
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十二時 五分 酒場
「いらっしゃい!なんだ……あんた警察か?」
カウンターの席に座ると大柄な男は失礼な態度で接客を始めた。
「いや、探偵だ。聞きたいことは同じだろうがね。酒場の前の遺体のことだ。」
「ここは酒場だ……まずは酒を頼みな。」
「では、ジンをロックでこの子に。」
「……ちょっと、エヴァさん!」
「私は酒が弱いんだ。悪いが君が飲んでくれたまえ。」
優しい私が助手に飲み物を頼み、マスターが用意していると。別の席で酒を飲んでいた男たちが絡んできた。
「なぁなぁ、男装の姉ちゃん!そんなひょろっちい男とじゃなくて俺たちと飲もうぜぇ!」
男たちは、朝からかなり飲んでいるようで千鳥足で私の元へと歩み寄ってきた。
「あいにく私たちは仕事中なんだ、他を当たってくれないかな?」
「冷たいこと言うなよ……おっ近くで見たら、めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか!男装なんて辞めちまえばいいのに!」
私は、肩に触れてきた男の手を叩き落とした。
「この男装は君のような人間を避けるためにしていたんだがね……どうやら君ほどのバカになると効果がないようだな。」
頭に血が上った男が拳を振り下ろすよりも早く私はホルスターから銃を抜き男に構えた。
「ウェブリー・リボルバー。軍人さんたちが使っているものを知り合いから借り受けてね。トラブルを解決するのに重宝しているよ。」
私が慌てている助手を横目に銃を構えていると「ドン!」という音と共にグラスに並々注がれた酒が置かれた。
「ここは酒場だ。喧嘩なら外でやりな……」
「……悪かったよ、ハッドンさん。」
男たちはマスターの圧に気圧されたのかトボトボと自分の席へと戻った。
「騒がしくしてすまないねマスター。これはお詫びだ取っておいてくれ。」
私は少し多めに料金を払い席を立った。
「ちょ……まだお酒が!」
「君はゆっくり酒を楽しむといい。私は用事ができたので失礼するよ。」
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十二時 三十分 酒場近くの裏路地
「どうやら当たりのようだ。」
私は酒場を出て、すぐ近くの路地裏へと足を運んだ。路地裏へと入ると思わず鼻を塞ぎたくなるような強烈な匂いが立ち込めていた。
「あんた一体何者だ?」
周囲を調べていると、背後から先程まで同じ空間にいた人物に話しかけられた。
「やぁ、こんな所で会うなんて奇遇だねマスターさん。いや、ハッドンさんと呼ばせもらってもいいかな」
「……御託はいい。アンタただの探偵じゃないだろ。何者だ。」
「そういう君はグールだね」
「………………」
グールとは死肉を食らう怪物だ。この怪物の厄介なところは変身能力を持っており、人間にも動物にも化ける。故にどこにでもいて、どこにもいない。
「フッこういう時は沈黙しないことをオススメするよ」
「……なぜわかった」
「簡単なことさ。一つ目は爪。随分と綺麗にしているようだけど、爪の間に血肉が残っていたよ。」
「………………」
周囲を入念に調べながら、推理とも呼べないような情報をハッドンさんに聞かせてやった。
「それから二つ目は香り……君たちは匂いを誤魔化すために乾燥させたハーブを持ち歩ているようだが。酒場という匂いの強い場所でも、強烈な死肉の匂いをかき消すには至っていないね。」
「そうか……」
「爪も匂いも女性は敏感なものだ。次回からは気をつけることをオススメするよ」
探索のかいはあった。恐らく被害者のものと思われる衣服と遺骨を見つけた。
「……探偵さん。実はグールも鼻がいいんだ。俺も一つ探偵さんについて気づいたことがある。」
「なるほど……聞かせてもらおうか」
私は立ち上がりホルスターに手を置いた。
「その銃。弾がこもってないだろ。というか弾薬自体を持ち歩いていない」
「バレていたか……正解だ」
私はホルスターから銃を取り出し、シリンダーを開いて弾丸がないことをハッドンさんに見せた。
「……なぜだ」
「何がだい?」
「だと言うのに何故逃げようとしない?私はグールで君は無力な女性だ。簡単に殺すことができる」
「それは違うな。無力な女性ということもだが……君は私を殺さない。いや、殺したくないはずだ。」
「何故……」
「では、事件について生理しよう」
私は銃を手に握ったまま、ハッドンさんの周囲をグルグルと回りながら、お粗末な推理を聞かせた。
「被害者のタビサ・リーヴィスさんは酒場の前で亡くなった。もしも君たちグールが被害者を殺害した犯人だとして、彼女の遺体を酒場の前で放置するような真似をするか?」
「…………」
「そう。殺した犯人は別にいる。では、突然遺体が消えた理由は?」
「……それは俺たちが」
私が推理を聞かせていると酒場の失礼な男たちが路地裏にやってきた。
「お前はさっきの……!」
「ちょうどいい所に来た。君たちもそこで推理を聞くといい。」
男たちは私に襲いかかろうとグールの姿になったが、ハッドンさんは横に手を伸ばし男たちを、静止した。
「では、推理を続けよう。発見者が警察を呼び戻ってきた時に遺体が消えた理由、それは。君たちが隠したから……では、どこに?」
私は肩に手を置いた男の近くに寄りお腹に触れた。
「そう、ここにね。」
「コイツ……!」
グールへと姿を変えた男たちは今にも襲いかかりそうな表情で私を睨んでいた。
「殺していないとはいえ、人を食べた。それが分かって何故逃げなかった。」
「それはあなたの目を見れば分かります。酷い充血に目の下のくま。どちらも人を食べていないグールに起こる禁断症状です。あなた……長いこと人を食べていませんね?」
「…………」
「理由は恐らく奥さん……いえ、タビサさんに惚れていたのですね」
「……そうだ。俺みたいな奴にも明るい笑顔で話しかけてくれる彼女に惚れていた……叶わないとしても見持っていたかった」
「ですか、この路地裏で、彼らがタビサさんを食べているところを目撃した……」
「こいつらに恨みはないさ……俺たちは人を襲わないと決めた。だが、グールは人を食わないと生きていけない。だから死体を見つけたら皆で分け合うことに決めていた。彼女も例外ではなかった……ただそれだけだ。」
「ハッドンさん……」
「…………」
私は感傷に浸っているハッドンさんに近づき心を揺さぶった。
「復讐支度はありませんか?無力な彼女を襲った犯人に」
「………………」
「取り戻したくはないですか?慕う人からの信頼を」
「…………」
先程まで向けていた敵意はどこへやら、ハッドンさん以外のグールが向ける敵意は、ここにいない誰かに向けられているようだった。
「幸いなことに、私は君たちのような化け物を殺す手段を持ち合わせている。君たちが居場所を探すのに協力してくれるのなら私が犯人を殺して見せよう。」
「ハッドンさん……こいつになら……」
「ダメだ!あいつは……危険すぎる……」
「知っているのですね?犯人の正体を。」
私はハッドンさんの頭に銃を突きつけ問い詰めた。
「「私は無力な女性ではない」先程私はそう言いましたね。ハッドンさん、数分単位でいいので適当な時間を言ってくれませんか?私の実力を証明して見せます」
私の自信にハッドンさんは怯むことなく呟いた。
「十分」
ハッドンさんが呟くと同時に私は銃の引き金を引いた。すると、弾の込められていないはずの銃から黒い煙のような弾丸が放たれハッドンさんの頭部を撃ち抜いた。
「ハッドンさん!」
声を荒らげグールたちは襲いかかろうとしたが足を止めた……私の背後にいる存在に。
「エヴァ……怪物の十分では、顕現できる時間は一分もないぞ……」
「あなたの姿を彼らに見せるのが目的だから問題ないわ。これが私が無力ではない証拠です。彼の名はルシファー。ハッドンさんの寿命……十分を生贄に顕現してもらいました。」
音はあるが銃に威力はない。驚いたハッドンさんは尻もちをついていたので手を差し伸べ起き上がらせた。
「な……なんなんだその化け物は!」
銃から解き放たれた、黒いコートに身を包んだ男。その存在を後ろのグールたちは恐怖していた。
「……聞いたことがある。悪魔の望むものを生贄に捧げ使役する存在がいると。君がそうなのか?」
「彼は少し特殊ですがね。概ね当たりです。それで、どうですか力を証明しましたが、まだ協力を惜しみますか?」
「いや……話そう。彼女を殺した怪物の正体と居場所を……」