曇天があなたを隠すなら   作:ネコノトリ

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第11話

潜入

 

 「……潜入ですか。」

 

 七月八日。手紙で呼び出された私は差出人である、エレナ・ブラヴァツキー夫人に依頼の内容を聞いていた。

 

 「そうなの。最近黄色の印の兄弟団とかいうカルト教団の動きが活発になっててね……どんな活動をしているのか潜入して調べて欲しいの。」

 

 黄色の印の兄弟団は外なる神を信仰しているカルト教団で、信者の一人が所有しているBARを隠れ蓑に活動している。何を信仰しているのかを神の使徒(アポストル)に長年所属しているメンバー三人は知っているようだったが、私に教えてはくれなかった。

 

 「とは言っても、女の子一人で行かせるのは危険よね……そうだわ!彼を同行させましょう!」ベリアル

 

 「彼……?」

 

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 七月 十日

 

 「久しぶりだなエヴァ。元気にしてたか?」

 

 身なりを整えパブの近くで待っていると、待ち合わせの時間ピッタリに、フロックコートにシルクハットを被り、ステッキを持った、わざとらしい程の英国紳士の姿で現れた。

 

 「はい、お久しぶりですキッドさん。キッドさんもお変わりないようで。」

 

 ブラッド・キッドマン。神の使徒に所属する一人で、超のつく女好き。容姿端麗で契約している悪魔の関係で高価なアクセサリーを複数身につけている。

 

 実力は確かなのだが、任務に真面目に取り組まない姿勢から、神の使徒に所属していた頃から私は彼のことが苦手だ。

 

 「エヴァ、君も災難だね。せっかく神の使徒を抜けて探偵になったのに、未だに怪物の事件に巻き込まれるなんて。」

 

 「……仕事を選んでいる余裕はないので。そんなことより早く入りましょう。」

 

 パブの中は騒がしいほどに賑わっており、一階は労働者階級の使うタップルームとなっており、二階は中流階級の利用するパブリックルームになっている。

 

 私たちが用があるのは二階のパブリックルームなのだが、どちらもやはり女性の客は利用しておらず、男装をしてきて正解だったと、内心安堵した。

 

 「なぁ、エヴァ。どっちが先に情報手に入れられるか競走しないか。」

 

 「これは仕事ですよ。真面目にやってください……」

 

 「俺に負けるのが怖いのか?」

 

 「そういうことじゃ……ちょっと!」

 

 キッドさんは話の途中であるにも関わらず、私の頭を軽く叩き、酒を飲んでるグループの輪に入っていった。

 

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 キッドさんと別々に情報収集を初めてから一時間。キッドさんに手招きされ、私はキッドさんと共に店の外へと出た。

 

 「何か手がかりありましたか?」

 

 「俺はあったよ。そういうエヴァは?」

 

 「……ありませんでした。」

 

 「やっぱりな……これでわかったろ、真面目にやりゃいいってもんじゃないって。」

 

 「……今回はたまたまです。」

 

 「いいや、違うね。」

 

 キッドさんは私の目を見て、間違いを指摘した。

 

 「ここはパブだ。皆が酒を飲み、情報交換や談笑をしてるのに、お前は一滴も飲んでなかっただろ。」

 

 「これは……仕事で……」

 

 「仕事だからこそだ。お前、この場所に溶け込めてなかったぞ。そんな奴に大事な情報を教える奴がいると思うか?」

 

 「……私が間違えてました。キッドさんのように……は難しいですが、次から気をつけてみます。」

 

 反省している私を見て気まずくなったのか、キッドさんは話を変え、本来の目的である情報について話し始めた。

 

 「反省会もこの辺りにして、そろそろ本題に移ろう。ミ=ゴのことはお前も知っているな?」

 

 「はい、最近の事件にも関わっていたので。」

 

 「それなら話が早い。どうやら黄色の印の兄弟団が信仰する神から神託があったらしく、近々ミ=ゴや協力している魔術師たちに襲撃をかけるらしい。まぁ、俺達には関係ない話だな。」

 

 情報を手に入れ、仕事の報告に帰ろうとする私たちの前に黄色のローブを身につけた五人の男たち?が道を塞ぐように横に並んだ。ローブの影からは人ではない異形の存在が顔を覗かせていた。

 

 (お前たちは何者だ。ここで何をしていた。)

 

 脳内に直接、男の声が響いた。

 

 「パブに来てすることなんて一つしかないでしょ。飲みに来てたんですよ。」

 

 (あのブラッド・キッドマンがわざわざこの店に?そちらのお嬢さんはお仲間ですか?)

 

 私は直ぐに懐のナイフに手を伸ばした。

 

 「ハァ……どうしてお前たちは、そう、遠回りな話し方をするんだ?気づいてたなら気づいてるって言えばいいだろうに。っで?俺が誰か知ってる上で道を塞ぐってことは、殺されても文句は言わないよな」

 

 (人間が私たちを殺せるとは思えませんがね)

 

 そう言うと目の前の男たちの体は半透明に変わり、見たことのない機械を懐から取り出した。

 

 「なるほどな……そういう……エヴァ。お前は避けることに集中してろ。敵が増えたら面倒だ、銃は使うな。」

 

 そう言うとキッドさんは宝石のはめ込まれた指輪を三つ指から抜き取り、宙へと投げた。

 

 「仕事の時間だベリアル!」

 

 キッドさんの声と同時に三つの指輪は黒い霧に包まれ、一人の男が姿を現した。

 

 「三つか……奮発したなキッド。」

 

 黒い霧から現れた男は身長は、百八十センチ後半で、細身。容姿はキッドさんと同じくらい魅力的で、シルクハットと黒いフロックコートに身をつつみ私たちの前で不敵な笑みを浮かべている。

 

 「相手が相手だからな。」

 

 突然現れたベリアルという悪魔に驚いたローブの男たちは、私たちに向けていた機械をベリアルに向けレーザーのようなものを放った。 

 

 「……!?」

 

 機械から放たれたレーザーのようなものは、顕現していない霊体のベリアルに当たることはなく、後ろの建物の壁へと命中した。

 

 命中した建物の壁はドロドロと崩れ落ち、ローブの男たちの持つ機械の危険性と恐ろしさを物語っていた。

 

 「……当たらないとはいえ、気に入らねぇな。」 

 

 瞬き一つしている間にベリアルはフードの男たちの前に移動し、二本の腕で二人の首を掴んだ。

 

 「な……なぜ!我々を掴むことができる!」

 

 「霊体に霊体が触ることができるのは当然だろ?」

 

 ベリアルの言葉を聞いたローブの男たちは半透明でなくなり、再び機械を私たちに向けた。

 

 「そうか……貴様も霊体の存在だったのか、ならば実体を持てば触れないということだな。」

 

 勝ち誇るローブの男たちにベリアルは絶望を突きつけた。

 

 「残念でした。」

 

 ベリアルが不敵な笑みを浮かべ、シルクハットを頭から落とすと、シルクハットの中から次々と様々な姿をした小さな悪魔たちが現れ、ローブの男たちにまとわりついた。

 

 ローブの男たちは悲鳴をあげながら機械からレーザーのようなものを放ち抵抗するが、次から次へと現れる小さな悪魔を消し去ることはできず、その悲鳴は徐々に徐々に小さなものへと変わり、最後には悲鳴と共に消えてしまった。

 

 ローブの男たちを食べてしまった、小さな悪魔たちは、現れたシルクハットへと帰っていき、ベリアルはシルクハットを何事も無かったかのように拾い上げ頭に乗せた。

 

 「キッド。次呼ぶ時はブレスレットにしてくれ。お前が選んだ物は俺によく似合うから気に入っている。」

 

 「男へのプレゼントを選ぶ趣味はないんだけどな……仕方ないから上等なものを用意しておいてやる。」

 

 ベリアルはキッドさんに満足した表情を見せ、姿を消した。

 

 「さて、トラブルはあったが無事に仕事は終えたことだし、改めて報告に行くか。」

 

 ブラッド・キッドマン……私はこの人が苦手だ。女好きで、仕事に真面目に取り組まない。だけど、悪魔とすら親しくなれる、人柄は善悪問わず全ての人間を魅力する魅力がある。その点に関してだけは、私は彼を少し認めている。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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