曇天があなたを隠すなら   作:ネコノトリ

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第14話

七人の少年少女

 

 「それは困る、その絵画は私のものになるのだからね」

 

 その言と共に玄関から現れた男は、過去にハイゲイト地区で私が取り逃した、継ぎ接ぎの男だった。

 

 「まさか朝、それも玄関から堂々と来るとはね……調子はどうだい?Mr.ワース。」

 

 「説明は聞かせてもらったが、私は君たちのように血なまぐさい生活はしていないからね、絶好調だとも。シャーロック・ホームズ。」

 

 ワースは、ただ立っているだけ……それなのに隙がどこにも見つからない。

 

 「……動くなワース!」

 

 レストレード警部の銃口の先がワースへと向けられた。

 

 「警部……早く銃を下ろしてください……」

 

 「何を言っているんだホームズ!早く君も構えろ!」

 

 レストレード警部に続き、ワトソン先生も銃をを構えるが、ホームズさんは依然として銃をを構えようとしない。恐らく私と同様に、目の前の怪物(アダム・ワース)に銃を向ける無意味さに気づいているのだろう。

 

 銃口を向けられたワースは、ホームズさんから視線を外し、ゆっくりとレストレード警部たちへと歩みを進めた。

 

 「止まれ!止まらないと撃つぞ!」 

 

 警部の忠告を無視したワースに、警部とワトソン先生、二人の弾丸が放たれた。

 

 「な……!」

 

 ワースとの距離は、約十メートル以上の距離から放たれた秒速三百mを超える弾丸を、歩みを止めることなく軽々とワースは躱した。

 

 「化け物が……」

 

 レストレード警部とワトソン先生は銃に込められた弾丸を全て発砲するが、ワースは最低限の動きで全て躱しレストレード警部の前に立った。

 

 「レストレード警部。安心していい、私はあなたを傷つけない。何かを盗むのに暴力なんて必要ないからね。」

 

 そう言ってワースは目にも止まらない速度で、レストレード警部の手から銃を奪い取り、破壊した。

 

 「これで分かったかな?今の私を捕えられることは決してできない!あくまで人間はの話だかね。」

 

 ワースはそう言うと、私を見つめ、無抵抗のレストレード警部の首に手を回した。

 

 「エヴァ・ブラウン。君のことはフランケンシュタイン博士に聞いたよ。彼の失敗作を、何体も破壊してきたんだろ?安全が確保されるまで警部を人質にするとしよう。バイロン!コリー!」

 

 レストレード警部を人質にしたワースが大きな声で名前を叫ぶと、二人の血まみれの少年少女が玄関ホールへと現れた。

 

 「…………誰だお前ら?」

 

 ワースにとっても予想外の展開だったのだろう。二人の子供の登場にワースの額に僅かに汗が滲んでいた。

 

 「私たちは七人の少年少女(ロビンフッド)。ごめんなさい、その絵画は私たちが頂きます。」

 

 誰がどう見ても普通の子供だ、だが何故だ……怪物を倒してきた私の勘が、危険だと知らせてくる。

 

 「……館の外に男が二人いたはずだ。二人はどうした?」

 

 「殺したよ?気づかれる前に、ガッ!てね。」

 

 「見るからに人間ではなかったので……ごめんなさい。」

 

 何度も謝っている女の子は十代半ばといったところか、チョーク工場で働いていたのか、服に染み付いた白い粉が目立っている。

 

 男の子の方は十歳にもなっていないだろう、背は小さく、手のひらが汚れ、ひび割れや、たこができていることから靴磨きをしている子供なのではないかと思う。

 

 そんなイギリスでは普通の子供たちの口から放たれた、「殺した」の一言。その一言には、子供たちを危険な存在として認識するには充分すぎる情報が込められていた。

 「君たちは絵画を盗んでどうするつもりだ?君たちのような子供から買い取る大人がいるとは思えないが……」

 

 「ごめんなさい。私たちはお喋りをしに来た訳じゃないんです。アダム・ワースさん、絵画を私たちに渡してください。あのお薬がないと……私たちはもう生きていけないんです……」

 

 そう言うと少女はナイフを取りだし、ワースに向かい襲いかかった。その速度は子供とは思えないほど速く、ナイフを振り抜く速度はベテランの軍陣を思わせる程だ。

 

 「おっと」

 

 ナイフの一撃を躱すと同時にレストレード警部を横に押し倒した。ワースの右手には依然、絵画が握られており、視線は少女へと向かっていた。

 

 「……まったく、ロンドンも物騒になったものだね。まだ若いというのに、殺し慣れている人間の動きだ。」

 

 新たに現れた、子供たちの突然の攻撃に全員が視線を奪われている中。ホームズさんだけが、ワースの避ける先を計算して行動に移していた。

 

 「ガハッ……!!」

 

 背後をとったホームズさんの蹴りが、ワースの背に直撃した。蹴りを受けたワースの体は階段の下に向け、ふき飛ばされ、ワースはたまらず絵画を手放した。

 

 「おっとと!」

 

 手放された絵画は警部が滑り込みキャッチして無事だったが、その場にいた全員の視線は、常識外れの蹴りを繰り出したホームズさんに集まっていた。

 

 (なんなんだ……今の蹴りは。……ダメだな肋骨が何本かやられてる……撤退するか……)

 

 (ホームズさんの蹴り……いつからか手に持っていた組み立て式のステッキに秘密がある。)

 

 この場にいる人間でホームズの蹴りの秘密に気づいたのはエヴァ・ブラウンただ一人。ホームズはワースを蹴り飛ばす直前、ステッキを三本目の足として床に対し斜めに勢いよく突き立て、蹴りの威力を増大させていた。

 

 体を支えるだけではなく、体を押し上げる腕と、まるで床を蹴りあげるような状態で体を支える右足が強力な蹴りを生み出していた。

 

 「……今回は私の敗北だ。」

 

 気づくと、吹き飛ばされたはずのワースは既に玄関の扉までたどり着いており、私たちを見て笑っていた。

 

 「その絵画はコレクションとして手に入れたかったが……しばらくは君たちに預けるとしよう。……それと、君たちに忠告だ。」

 

 ワースは少女たちを指さし、言葉を続けた。

 

 「君たち二人では、彼らを倒して絵画を盗むことはできない。長生きしたいのなら、状況を見極めらるようになった方がいい。」

 

 ワースはそう言い残すと玄関から堂々と館の外へ姿を消した。

 「何言ってんだ?あの、おじさん。蹴りを食らったのは、ただの不注意だろ?」

 

 最も厄介な存在が、消えてくれたお陰で私にとってはやりやすい状況になった。

 

 「一時間」

 

 時間を指定した私は、自分の頭を撃ち抜いた

 

 

 

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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