曇天があなたを隠すなら   作:ネコノトリ

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第16話

ゾンビの街

 イギリス セヴァーン谷周辺に存在する湖畔リゾート。今回の依頼はレストレード警部からのものでリゾート地の長期滞在者の失踪事件らしい。現地に訪れた私は早速レストレード警部の元へと向かった。

 

 「Missブラウン。お呼び立てして申し訳ない。」

 

 レストレード警部が軽く会釈するのに合わせ、私も会釈を返した。

 

 「お久しぶりですレストレード警部。私を呼んだということは怪物絡みの事件なんですか?」

 

 私の質問に対しレストレード警部は首を傾げ答えた。

 

 「いや……それが分からないんだ。奇妙ことが多すぎて……」

 

 「……話を聞かせてください。」

 

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 「なるほど……」

 

 レストレード警部からの説明によると。失踪者は全員、悪夢にうなされていたようで、ブリチェスター湖をしきりに気にする様子を見せていたそうで、夜中にブリチェスター湖へと向かっているのを見たという地元民の目撃情報があがっているのだそうだ。

 

 「かくいう私も悪夢を見てしまっていてな……あの日見た悪夢に近いものを感じて君を呼んだというわけだ。」

 

 「ブリチェスター湖には既に?」

 

 「いや、君を待ってから向かおうと思っていた。その代わりにホテルの出口を見張って湖に向かおうとしてる者は保護しておいた。」

 

 「流石は警部ですね。臨機応変な対応ありがとうございます。私はこれから周辺の調査を行いますが……」

 

 「私も同行しよう。人手は多い方がいいだろう。」

 

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 あれから数時間、湖をしきりに気にしていたという情報から湖を調べてみると、玉虫色に光る謎の物質が水面に浮かんでいるのを発見した。それが影響してなのか分からないが湖の魚が大量に変死していることも分かった。

 

 「今の情報で何かわかるもんなのか?」

 

 「いえ、これだけではなんとも……」

 

 「だったら。湖は調べたことだし、一度街に戻って、聞き込みついでにお茶でもどうだ?」

 

 「そうですね……そうしましょう」

 

 私と警部は来た道を戻り、宿泊施設のある街へと向かった。

 

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 湖の近くの、どこにでもあるようなパン屋の中にあるティールーム。警部は私の向かいの席に座り、共に店の中を香るパンの匂いを楽しみながら、ウエイターが注文を取りに来るのを待った。

 

 「……ご注文をお伺いします。」

 

 顔色の悪い若い青年。青年の目つきからは私たちを警戒する様子が見て取れる。私と警部は軽い食事と紅茶を頼み、何分かが経つと青年が商品を運んできた。

 

 「……ごゆっくりおくつろぎください。」

 

 「待ってくれないか?」

 

 私は、店の奥に戻ろうとする青年を引き止め聞き込みを開始した。

 

 「私と向かいの席に座る警部は、この湖に失踪した旅行客の捜索に来ているのだが。君に幾つか質問があるんだが大丈夫かい?」

 

 そう言って懐から一シリングを取りだし青年に手渡した。

 

 「……構いませんが。お力になれるかどうか……」

 

 「なに、単純な質問しかしないから安心してくれ。まず一つ、この湖で失踪事件が起きていたことを君は知っていたかい?」

 

 「……いえ、あなたの口から話を聞くまで知りませんでした。」

 

 「では、二つ目。湖に謎の物質が溶け込んでいて、魚が大量に浮かび上がっていたが、それは知っていたかい?」

 

 「……申し訳ありません。湖の周辺に住んでいるかたがたは湖に慣れてしまっていて、近くに行く事が少ないんです。」

 

 「なるほどね……それでは最後の質問だ。容姿から推測するに、君はパン屋の見習いと言ったところかな?だが、パン屋の見習いにしては爪が長い、少々不衛生なんじゃないか?」

 

 今までの質問に淡々と返していた青年は動揺しているのか、一瞬表情を崩し、遅れて返答を返した。

 

 「……配慮が足りず申し訳ありませんでした。今後はこのようなことがないように気をつけます。」

 

 「あぁ、構わないとも。だが、食欲が失せてしまったのも事実だ。悪いが、このパンと紅茶は下げてくれ。もちろんは代金は払わせてもらうから安心してくれ。」

 

 レストレード警部がテーブルに代金を置くのを確認し、奥から出てきた顔色の悪い店主と青年の視線を浴びながら、私と警部は店を後にした。

 

 「Missブラウン。何かあったのか?君が口を付けるのは聞き込みの後と言っていたから、結局一口も口をつけずに代金だけ払うことになってしまったんだが……」

 

 「払ったのが代金だけで済んでよかった。」

 

 「まて、その言い方だとまるで……さっきの二人が怪物のような言い方じゃないか?」

 

 「そうですね……警部に怪物を見分ける知恵をお教えしましょう。まず、彼らはバカじゃない。ジロジロと観察していると、怪しまれます。では、どうするか。会話をしながら観察するのです。」

 

 警部はメモ帳を取り出しメモを初めた。

 

 「会話をしながらと言っても、観察していることがバレてはいけません。例えばパイプにタバコの葉を入れながら、道具や物を説明させ、相手の視線を逸らしながら、どんな方法でも構いません。」

 

 警部はメモを取り終えると一息つき質問を挟んだ。

 

 「それで、怪物を見分けるためにはどこを見ればいいんだ?」

 

 「目、口、指の順番で観察をします。眼球を確認する時は、充血しているか、瞳が動いているかを確認します。充血している場合は食人衝動を抱えている場合があり、瞳が動いていない場合は人に似せて作っただけの偽物の可能性があります。」 

 

 「だが、充血している人間もいれば、義眼の人間もいる。そこは、どう見分ける?」

 

 「だから、これはあくまで可能性です。ただし、当てはまるものが多ければ多いほど、怪物の可能性は高くなります。」

 

 一見上手く偽装しているように見えるが、怪物たちの偽装にはそれぞれ特徴があり、私から言わせれば随分と杜撰なものが多い。

 

 「目の次は口です。話しをしている最中に牙の有無を確認します。」

 

 よく観察するようになったのは神の使徒(アポストル)を抜け、探偵として働くようになってすぐのことだった。神の使徒だった頃は正面から戦うことが多かったが、観察をして怪物の正体を見極めるようになってからは、相手の苦手な時間や物を使うようになり、討伐が、より安全に行えるようになった。

 

 「そして指。指を見る時は爪をよく見てください。怪物の爪は伸びるのが早く、ほとんどの怪物は長い爪のまま生活しています。爪が長ければ当然、爪の間に何かが挟まることが多く、時には血肉、またある時は皮膚が挟まっていることがあります。」

 

 「なるほど……これからは気をつけて見ることにする。他には何か特徴はないのか?」

 

 「観察とは違いますが、匂いも重要な情報です。多くの人間と動揺にハーブで匂いを隠していますが、通常、人間からは香らないような異臭がした場合は気をつけることをオススメします。」

 

 警部はメモ帳を閉じ、懐にしまい。新たな質問を投げかけてきた。

 

 「話の流れからすると、先程のハフキンスの青年に、その兆候が見られたと?」

 

 「あくまで可能性の話ですがね。ただ……レストレード警部。この街に違和感を感じませんでしたか?」

 

 「違和感?……そういえば住民が外にいないような……観光客ばかりだ!」

 

 外を歩いているのは中流階級の商人や画家。または上流階級の貴族ばかりで、住民らしい服装の人物はどこにも見当たらない。

 

 「恐らく住民は全滅……これ以上の聞き込みは無駄でしょう。まぁ、幸いなことに発生源は湖で時間は夜に起きていることは分かっています。気乗りはしないですが、夜に決着をつけるとしましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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