曇天があなたを隠すなら   作:ネコノトリ

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第17話

湖に潜むもの

 

 「本当に行くのか?外は怪しい人間で溢れかえってるし、湖にいる怪物は少なくとも俺たちは知らない生き物だ。」

 

 湖畔リゾートのホテル。私は三十分の寿命と引替えに、ルシファーに外の偵察を任せ、客室でレストレード警部と武器の手入れを行っていた。

 

 「問題ないわ。そんなことより警部。本当に着いてくるつもりですか?相手の強さが分からない以上危険ですし、恐ろしい存在を目撃することになると思いますよ。」

 

 「覚悟の上だ。なに、安心してくれ。私もそれなりに強いつもりだ、君の足は引っ張らない自信がある。」

 

 「……分かりました。ただし、私の命令には必ず従ってください。」

 

 私と警部は武器の準備が整い、部屋を出ようとすると。ホテルのスタッフが部屋の前までやってきた。

 

 「お客様、食事の準備が整いました。食堂まで案内をいたしますので、部屋を出てきていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 「……!」

 

 返事を返そうとする警部の口を抑え、息を潜めた。

 

 「お客様……お客様……お客様……お客様」

 

 ホテルのスタッフは客室のノブをガチャガチャとひねり始めた。しばらくじっとしていると徐々に足音が遠ざかる音が聞こえ、私はすぐに行動へと移した。

 

 「警部。私が扉の後ろに隠れるので、警部はベットで寝たフリをしてください。いいですか、何があっても目を開けないでください。」

 

 警部はすぐにベットへ潜り、私は部屋のノブをスタッフが気づくよう音をたてて回し、扉を開き裏へと隠れた。

 

「コツコツ、コツコツ」と足音は部屋の前まで続き、部屋の前まで来たスタッフは足音を止めた。恐らく部屋の様子を伺っているのだろう。

 

 「…………」

 

 スタッフは無言で部屋の中へと入り込み、膨らんだ掛け布団に近づき、手に持ったナイフを振りかぶった。

 

 「な……!」

 

 私は背後から忍び寄り首に手を回し、容易にスタッフの意識を刈り取ることに成功した。

 

 「警部、終わったので起きて大丈夫ですよ。」

 

 私の声を聞くと警部は慌てて起き上がり、血の気の引いた顔で私のことを見つめた。

 

 「私には二度とこんなことさせないでくれ……寿命が何年か縮む思いだったよ。……そのスタッフは殺したのか?」

 

 「いえ、意識を奪っただけです。彼らについて私たちは何も知らなすぎるのでね。」

 

 私は扉を閉めて、警部にホテルスタッフを縛り上げるように頼んだ。縛り上げられたホテルスタッフの口に剥ぎ取った靴下を詰め、荷物に詰めてきたテープで口を塞いだ。、

 

 「……随分と慣れているんだな。」

 

 「慣れてますよ。そうでなくては生き残れない。」

 

 私は意識を失ったホテルスタッフの衣類を上から下まで全てナイフで剥ぎ取り、生まれたままの姿にして確認した。

 

 「なんなんだこれは……」

 

 ホテルスタッフの体には一つの何かで刺されたような跡があり、そこを起点に腐敗が始まっている。

 

 「だいたい死後四日から五日ってところか……」

 

 「そうですね。爪は長いですし、牙もある。ベーカリー&ティールームの青年と同じみたいですね。」

 

 私と警部がホテルスタッフの体を隅々まで調べていると、ホテルスタッフが目を覚ました。

 

 「おはよう。少々話をしたいんだが、会話に応じるつもりはあるかな?」

 

 私が丁寧に尋ねると、目の前のホテルスタッフの体が、「グジュグジュ」と音をたて急激に腐り始め、泡立つ液体となり溶けてなくなった。

 

 「くそ……!なんなんだ一体!」

 

 警部の服に液体が少し跳ねたようで、警部は軽いパニックを起こしているようだった。

 

 「落ち着いてください!」

 

 私が警部の元に駆け寄ろうとすると、窓が割れる音とともに石が部屋へと投げ込まれた。割れた窓へと近づき、外を眺めてみると、怪しい人物たちが建物へと次から次へと近づいてきており、完全に包囲されていた。

 

 「……警部!よく聞いてください。時期に怪物がここに押し寄せてきます。今すぐ玄関を監視させているという部下を連れてきてください。」

 

 私の言葉を聞いて部下のことを思い出したのか、警部は一瞬で正気を取り戻し、部屋を出て部下の元へと走って向かった。

 

 「一体何の騒ぎだ!騒々しい!」

 

 このホテルに泊まっていた他の宿泊客が次から次へと部屋から廊下へと出て声を上げている。

 

 「十分」

 

 ルシファーに捧げる時間と共に引き金を引き、ルシファーを呼んだ。

 

 「あなたの力で宿泊客たちを部屋に戻して、方法は問わないわ。」

 

 ルシファーは頷くと、目の前から姿を消し。すぐに廊下から獣の咆哮と宿泊客の悲鳴が響き渡った。

 

 「なんだ!なんの悲鳴だ!」

 

 悲鳴の声に駆けつけた警部と部下の刑事が慌てて廊下へと現れた。

 

 「レストレード警部!この騒ぎは一体なんなんですか!」

 

 レストレード警部は取り乱す部下に、なんと説明すればいいか分からない様子を見せていた。

 

 「初めまして私の名前はエヴァ・ブラウン、探偵をしています。刑事さんの名前を聞いても?」

 

 「そうか……君が協力者の。俺の名前はトラヴィス・フィリー。仲間からはトラヴィスと呼ばれています!」

 

 私が代わりに説明すると察したレストレード警部は銃を構える、廊下を見張っている。

 

 「悪いが、君に詳しく説明している時間はない。……君はレストレード警部のことを信じられるか?」

 

 「もちろんです!警部は俺の憧れなんです!」

 

 「よろしい。これから君はホテルに宿泊する市民を守るために危険な目に合うことになる。レストレード警部は私の指示に従うと約束してくれた。できることならトラヴィス刑事も私の指示に従って動いて欲しい。」 

 

 トラヴィス刑事は、まるで自分の死に場所を悟ったかのように、目に涙を浮かばせながら黙って頷いた。

 

 「レストレード警部!説明は終わりました、着いてきてください。」 

 

 私は警部と刑事の二人を連れ、屋上へと向かった。

 

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 「レストレード警部……俺は夢でも見ているのでしょうか」

 

 膝から崩れ落ちた刑事の見る湖には縦五メートル、横十メートル程の巨体を持ち、体には幾本もの長い棘を持つナメクジの様な生き物が蠢いていた。

 

 その大きさは三十メートル程離れている、私たちのいるホテルから見ても巨大で圧倒的な存在感を放っているのが分かる。

 

 「夢だったらなんだ……」

 

 「え……」

 

 「夢だったらなんだと言っているんだ!奴が失踪事件の犯人で、私たちはヤードだ!お前は夢ならばと、あの怪物を放置して、ホテルに泊まる観光客だけではなく、これから来るであろう、観光客を見殺しにするのか!」

 

 「……!?」

 

 レストレード警部の言っていることは滅茶苦茶だ。だが、この状況であれば滅茶苦茶でも構わない。大事なのは奮い立たせてくれる誰かがいることなのだから。

 

 「そう……ですよね。関係ない……夢だからって俺は見捨てたりなんてしません!」

 

 「……すまない。熱くヤードの魂?を語っているところ悪いんだが、時間がないんだ。今すぐ奴の元に向かう。これから見ることは他言しないでくださいね。」

 

 私はルシファーの宿る銃で頭を撃ち抜いた。銃から飛び出した黒い影が私の体を包み込み。黒いロングコートを形成した。

 

 「……移動しながら説明します。」

 

 私は二人にそう言って、ルシファーの重力を操る力で体を軽くしてから、二人の手を取り屋上から飛び降りた。

 

 「うわあああぁぁ!!」

 

 当然説明なしに飛び降りたので、落下しても問題ないほど、体が軽くなっていることに気づいていない二人は悲鳴をあげて顔を青くしていた。

 

 「……え?死んでない?」  

 

 地面に着地すると、二人は冷静に戻ったようで、私は悪魔憑依(サタノファニー)を解いてから、怪物の元に移動しながら力の説明をした。

 

 「つまり変身すると、重力、そして引力と斥力を操ることができ。一秒経つごとに一時間寿命を失う……ということですか?」

 

 私が頷くと、二人は深刻そうな顔へと変わった。

 

 「依頼の度に悪魔を憑依させているのか?」

 「まさか……普段は使ったりしませんよ。使うのは今回のような大物の時だけです。二人は運が悪かったですね。」

 

 「たしかにな……まさか、あの館で見た夢以上の恐怖を味わうことになるとは思いもしなかったよ。」

 

 私たちはひとしきり笑い、改めて怪物を倒す作戦を立てた。

 

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 怪物のはるか上空。悪魔憑依を使い、斥力と重力の力で、ここまで来た私は怪物に初めの攻撃を開始した。

 

 どこにでもある普通の旅行カバン。私は自分のカバンを開き、カバンの中に敷き詰められた黒い球体を上空から怪物へと投下した。

 

 「aaaaaaaaaa!!!!!」

 

 投下した、複数の黒い金属の球体が、怪物の体から伸びる幾本もの棘を破壊した。棘をへし折られた怪物は形容しがたい雄叫びをあげ湖に潜った。

 

 複数の黒い金属の正体は、教会の監視対象である錬金術師がたまたま生み出した産物で、悪魔の鉱石という安直な名前で呼ばれている。

 

 この鉱石は不思議な性質があり、非常に固く、非常に軽い。銀と同様の効果があると思えば、悪魔の力に強い反応を示す。錬金術師の作り上げたこの鉱石は、教会により秘匿され。教会はこの鉱石を使い、神の使徒(アポストル)たちに専用の武器を作り出した。

 

 「【サタンシリーズ】星のかけら」

 

 神の使徒が与えられた武器は悪魔憑依を前提にした武器ばかりで普段使いがとても悪い。だが、今回のような怪物相手と戦うには必須と言えるだろう。

 

 「水の中に逃げるのね。いいわ。」

 

 私はルシファーの力で、湖の水に斥力の力を付与して、土と反発させることにより、湖から水は溢れかえり、怪物の姿が顕になった。

 

 「aaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

 「これでおしまいにしてあげる。」

 

 形容しがたい咆哮をあげ、這い上がろうとする怪物に、私は土と引き合う引力を付与した。

 

 「aa……aa……aaa!!!!」

 

 「いい加減うるさい。近所迷惑よ。」

 

 周囲の土が次から次へと怪物に引き寄せられ、湖に隠れていた怪物は、水の消え去った巨大なクレーターで土に覆われる結果となった。

 

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 「Missブラウン!大丈夫か!?」

 

 怪物を倒した私は、悪魔憑依を解き、湖のあった場所の近くの木にもたれかかっていた。

 

 「えぇ、なんとか……そちらは何ともないですか?」

 

 「あぁ、こっちも大丈夫だ。トラヴィスは動かなくなった死体の確認を行っている。」

 

 私は教会が死体の処理をしに来るまで人の目に触れないよう、人気の少なそうな場所まで引きつけるよう二人に頼んでおり、二人が無事なことを心から喜んだ。

 「そうだ……君に渡したい物があるんだ。」

 

 そう言ってレストレード警部は懐から一冊の黒い本を取りだし、私に手渡した。

 

 「これは?」

 

 「腐敗の一番進んでる奴が落としてな。本の中身は見てないんだが、何故か嫌なものを感じてな……一応回収して持ってきた。」

 

 「グラーキの黙示録……」

 

 ヤードの二人が死体の確認を行っている間、私はホテルで先に休ませてもらえることになり、夜通しページを一枚一枚めくり、本の内容を頭に叩き込んだ。

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 「……酷い顔だが大丈夫か?」

 

 教会に回収される前に読んでおかねばと、読み始めたはいいものの、悪魔憑依をした体では流石に無理があったのか、すこぶる調子が悪い。

 

 「夜通しあの本読んでいただけなので気になさらなくても大丈夫です……」

 

 「大丈夫なようには見えないが……それで?あの本にはどんなことが書かれていたんだ?」

 あの怪物の名前はグラーキ。この本にはグラーキが地球に降りたった時のことが鮮明に記されており、これ以上の情報を読み解く前に私は意識を失うように眠りについてしまった。

 

 私とレストレード警部、そしてトラヴィス刑事は、遺体の詰め込まれた、使われなくなって短くない小屋の前で教会の人間の到着を待っていた。

 

 教会の人間が来るまでの間、暇なので遺体の確認を行っているいた私は、最後から拳を構え近寄る影に直前まで気づくことができなかった。

 

 「……っ!!」 

 

 私の頭に振り下ろされた鉄槌は、馬鹿力で頭に浮かぶフランケンシュタインの怪物と比べても遜色のないもので、私の視界を揺らすには充分な破壊力を秘めていた。

 

 「まったく……これだからチャド神父の弟子はいかんのだ!簡単に背後を取られるは、一般人を巻き込むは……それで?今回の騒動の報告を聞こうかエヴァ・ブラウン。」

 

 私の頭に鉄槌を振り下ろした男の名はモーガン・サザーランド。神の使徒の中で三本の指に数えられるほど強く、自分と同じ強者であり、教育者でもあるチャドさんをライバル視している傾向がある。

 

 私はモーガンさんに本を手渡し、起きたことと本の内容を余すことなく伝えた。話をしている最中、何人もの教会の人間が遅れて現れ、腐敗の進んでいる街の住民であろう遺体を馬車の荷台に乗せ運んで行った。

 

 「なるほど……グラーキか。通りであのエヴァ・ブラウンが悪魔憑依を使うわけだ。」

 

 「……あの怪物のことを知っているのですか?」

 

 「当たり前だ。奴は怪物は怪物でも異星からやってきた神のような存在だ。地球にやってきてからは湖から湖に信者を求めて移動を繰り返していた。」

 

 「そんな怪物を何故今まで野放しに……」   

 

 教会の人間に住民の遺体を受け渡したレストレード警部はモーガンさんに当然の疑問を投げかけた。

 

 「失礼、挨拶が遅れました。私のことはレストレードとお呼びください。」

 

 「まさか巻き込んだ一般人がヤードの人間だとはな……どうして、野放しにと言いましたなレストレード警部。どうやらあなたは勘違いをしているようだ。」

 

 「というと?」

 

 一方は存在を知っていたにも関わらず、隠し、結果市民が襲われたことに。もう一方は知りもしない人間に言いがかりをつけられたことに。それぞれ別の理由で頭にきているようで、険悪なムードのままモーガンさんは説明を始めた。

 

 「私たちの仕事は怪物の駆除、そして管理だ。人に害なす怪物は駆除し、不死性を持つ怪物や人社会に上手く溶け込む怪物などは殺すことを禁じられ、日々監視をしている。」

 

 「今回の怪物は人に害をなす怪物で、Missブラウンが始末したように見えるが?」

 

 「始末?ハッ!笑わせるな。奴らは生き埋めにされた程度では死にませんよ。」

 

 「そうなのかエヴァ・ブラウン。」 

 

 私は警部に頷いて答えを返した。

 

 「私たちもグラーキの撃退には何度も成功している。だが奴は、深手を負うと、別の世界へと逃げ込み、回復をして別の湖へと現れる。奴らはそういう存在なんだよ警部さん。」

 

 「では、またあの怪物が現れるというのか……いつ現れるかは分かっているのか?」

 

 「さぁな。短くて十年、長くて百年は大丈夫だと思うが……どちらにせよ関わらないことをオススメする。」

 

 衝撃を受けている警部をよそに、モーガンさんは私に近づき肩に手を置いた。

 

 「彼は、お前がこの世界に巻き込んだんだ。彼がどんな死を迎えようとも、後悔だけはするなよ。」

 

 モーガンさんは脅しをかけるように、鼓舞するように、私に声をかけ街を去っていった。

 「Missブラウン。今回は世話になった。遺体を遺族に届けるのは私たちでやるから、きみは帰ってもらって構わない。」

 

 「大丈夫ですか?」

 

 「あぁ、大丈夫だ。これから遺族に何て説明すればいいのかトラヴィスと頭を悩ませることにNARUTO思うと少々億劫だがね。」

 

 警部は引きつった笑顔を私に見せてそう言った。

 

 「では、レストレード警部。お元気で。」

 

 「そちらこそ元気でなMissブラウン。報酬は後日、事務所に直接届けることにするよ」

 

 私は警部に別れ告げ、事務所へと戻った。

 

       

 

  

 

 

 

 

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