人喰いの庭
「どこなんだここは!」
見知らぬ男の声で目を覚ますと。そこは演劇で使用されていた舘そっくりの場所で、また怪物絡みかと頭を悩ませた。
「なに!なんなの……ここは!出口はどこ!?」
恐らくは夢の中中なのだろう。私を含め、この場にいる全員が舞台で役者が着ていた衣装に着替えさせられており、上流階級は青年の主人の衣装を、中流階級は使用人の衣装を、労働者階級は庭師の衣装を着せられていた。
かくいう私もメイドの格好をさせられており、知り合いに見られることのなかったことに心から安堵している。
「イヤァァァァ!」
悲鳴の聞こえる方へ目を向けると、舞台で見た主人役の役者が木の枝に突き刺され、遺体となっているのを発見した。
このような状況に陥ると人間は大きく分けて二つのタイプに別れる。
「彼はどうして……なにかの冗談よね。この中にスタッフが紛れているんでしょ!?」
一つはパニックを起こし、冷静な判断を失う人間。
「冗談だとしても、これはおかしい!扉はないし、明らかに本物の館だ。そうだ、きっとこれは夢なんだ!」
パニックを起こさないよう、必死に冷静さを保つ人間。
「皆さん落ち着いて!今は自分たちの置かれている状況を知るのが先決です!」
このような集団パニックが起こると、中には彼のように取り仕切ろうとするものが現れるのもお決まりだ。執事の格好をしているが、中流階級だろうか?それにしても若い、私と同じか少し上くらいの年齢だろうか?
「落ち着いていられるか!あの遺体が見えないのか貴様は!黙っていれば私たちもやられてしまう……お前たち、試しにあの木に近づいてみろ。当然、報酬は払ってやる。」
一人の上流階級の男が労働者階級の人々に命令をすると、皆は頭を悩ませた。彼らは知っているのだ、命よりも金が重たいことを。
「辞めてください!今の状況で迂闊に動くのは危険だ!」
「うるさい!私に命令するつもりか!」
先程の執事の格好の青年が止めに入るが、上流階級の男は引く様子を見せない。しばらく、二人が揉めている時間が続き、一人の労働者階級の男が決心したのか、庭へと足を踏み入れた。
「ギャァァァァァァ!!!」
男が庭の芝を踏みつけた瞬間、足元の芝生が耳に残る強烈な悲鳴をあげた。
「うるさ……!?」
全員が耳を塞いで堪えていると、串刺しになっている遺体がある木の裏から茨で覆われた人型の生き物が現れ、我々へ向かい歩みを進めてきた。
「だ、誰か!あれを何とかしろ!」
周囲は再びパニック状態になり、収拾がつかなくなっていった。
(それにしても困った……夢の中だから仕方ないのかもしれないが、武器がない。戦うにしても素手では話にならないだろう。)
私が決意を決め、怪物の足を止めるため庭に入ろうとすると、突如男が怒声を上げ、私を含め全員の動きを止めた。
「テメェら!うるせぇ!!」
聞き覚えのある声……私が声の主の方を振り返ると、そこには
「おい、そこのお前。お前だよ、さっきから場を取りし切ろうと必死なガキ。」
「わ、私ですか?」
執事服の青年は指を指され戸惑いながらも返事を返した。
「そうだ。お前、服を脱げ。」
「え……どうして……」
「いいからさっさと脱げ!」
青年は執事服を脱ぎ男に手渡した。男は執事服をビリビリと引きちぎり拳に巻き付けると、悲鳴をあげる芝生へと足を踏み入れた。
「ギャアァァァァァァ!!!」
再び芝生は耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げ、茨で覆われた人型の生き物が男へと歩みを進めた。
「危ない!逃げて!!」
青年の心配は男の耳には入っていない様子で、茨の怪物へと、芝生から響く悲鳴を聴きながら自ら歩みを進めた。
茨の怪物は、まだ拳や蹴りが届かない距離で動きを止め、予備動作なしで体に巻きついている茨をムチのようにしならせ男を襲った。
茨の尖端は目で追えないほど速く、破裂音と共に男の体へと至った。
「……!?」
初めに異変に気づいたのは怪物だった。男は目で追えないはずの茨の尖端を確かに体で受けた……だが、男はあろうことか無傷で立ち尽くしており、体で受けて速度の落ちた茨を服を巻いた手のひらで掴み、茨の怪物を全力で引き寄せた。
「周囲を従わせたければな……」
彼の名前はグレン・エドワード。グレンは引き寄せる力を利用した拳の一撃で茨の怪物の頭をもぎ取った。
「まずは自分の力を示すことだ。」
彼の力は私が誰よりも知っている。なぜなら彼は私の神の使徒時代のパートナーだったのだから。