曇天があなたを隠すなら   作:ネコノトリ

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第2話

真犯人

 

 十三時 三十分 ウィンブルドン地区 

 

 「犯人が分かったって本当ですか!」

 

 私と助手のクレイくんはグールから聞いた犯人の住処に足を運んでいた。

 

 「あぁ。私より君向きの相手だったよ。」

 

 「ということは……」

 

 「吸血鬼だ。」

 

 世界で最も有名な怪物と呼んでもいい。この怪物は人間の血液を好む。恐らく被害者最も夜道を歩いているところ、運悪くそうぐうしてしまったのだろう。

 

 有名所で言うとドラキュラ伯爵やカーミラが有名だろう。どちらも未だ存命の手強い吸血鬼だ。今回の相手がどちらでもないことを祈ろう。

 

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 十三時 四十分 ウィンブルドン地区 とある下宿

 

 「さぁ、着いたぞ。ここが犯人の根城だ。」

 

 私たちの前にある、どこにでもある普通の下宿。その一室に吸血鬼は住んでいるという。

 

 「クレイくんは確か、武器は持ち歩いているのだよね?」

 

 「はい。ブラウンさんの言いつけ通り、銀の弾な込められた銃と銀製のナイフを……」

 

 「よろしい。では、お邪魔するとしよう」

 

 グールたちの話では、この宿の中には最低でも三人の吸血鬼の匂いがしたそうだ。全員が吸血鬼であれば管理人への説明を省けて助かるのだが……はたして。

 

 「誰だ?」

 

 数回ノックすると男の低い声が返ってきた。

 

 「スコットランドヤードです。少々お伺いしたいのですが、扉を開けていただいても構わないでしょうか。」

 

 女の刑事では疑われると思い、クレイくんに対応は任せた。

 

 「ヤード……扉越しではいけませんか?」

 

 「何か開けたくない事情があるのですか?」

 

 「それは……」

 

 男は扉越しに言い淀むと、少し間を置き扉を開いた。

 

 「ご協力感謝します。」

 

 扉を開くと男は目の前のクレイくんよりも先に私に目を向けた。

 

 「そちらの女性は?」

 

 嫌な目だ。人を食らう怪物の獲物を見る目。

 

 「こちらは私の部下の」

 

 「グレースです、よろしく。」

 

 「あぁ、よろしく……」

 

 私が握手のため差し伸ばした手に男は迷うことなく応じた

 

 「……お前たちは!」

 

 手のひらに隠した銀でできた十字架に触れた男の手のひらは「ジュー」と焼けるような音を耳に届けた。

 

 「当たりだ!」

 

 私が声を発するより早く、クレイくんは銀のナイフを引き抜き数度体を突き刺した。

 

 「中はクレイくんに任せたよ。私は外に逃げた奴を殺すとしよう」

 

 クレイくんは無言で頷き下宿の中に足を踏み入れた。

 

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 十三時 四十五分 下宿中 ルーバン・クレイ視点

 

 (臭いな……)

 

 下宿の中は綺麗に整えられ一見マトモに見えるが、強い血の匂いがたちこもっていた。

 

 「今の音はなんだ?カール、誰か来たのか?」

 

 俺は二回の扉を開き、声を発した対象の胸部に正確にナイフを投げ、怯んだところに銀の弾丸を頭にぶち込んだ。

 

 (二匹目……)

 

 この事件の話を聞かされた際にエヴァさんが「随分と雑な犯行」と言っていたが合点がいった。まだ昼時というのに起きているということは……つまり、新しく()()()吸血鬼である可能性が高い。

 

 (早くに見つけることができてよかった……怪物共は皆殺しだ)

 

 僕は一回をくまなく探し、二匹目の死体がある階段へ向かった。

 

 (さっきの銃声で間違いなく気づかれているだろうな……)

 

 細心の注意を払い、天井から部屋の隅まで吸血鬼を探した。

 

 (いない。エヴァさんが言うには三匹はいるらしいけど……)

 

 僕が部屋を後にしようとすると背後から生暖かい吐息が首筋に触れた。

 

 「……!」

 

 振り返り銃を向けようとしたが、怪物の力に敵うはずもなく銃は弾き飛ばされ首を掴まれた。

 

 「よくも俺の仲間を……殺してやる!」

 

 僕の首を掴む怪物力は、やはり強く。十秒も意識を保つことはできないだろう。

 

 「……!これは……聖水か!」

 

 下宿に足を踏み入れる前に口に仕込んだ聖水。それを吸血鬼に吐き出した。

 

 「そのロザリオを付けているということは協会の!」

 

 目の前の化け物は僕の正体に気づくと、引きちぎったカーテンに身を包み、窓から外へと飛び出した。

 

 「あ〜あ。大人しく、僕に殺されておけば楽に死ねたのに。」

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 十三時 五十分 下宿外 エヴァ・ブラウン視点

 

 (何故、俺たちの居場所が協会に!まさか!あの日の女がバレたのか!いや、それはない。あれはグールに罪を擦り付けたはず……)

 

 部屋から飛び出した怪物は考え事に夢中で、下宿の前にいる女に気がついていなかった。

 

 「食事の時間だよルシファー」

 

 エヴァの銃から、グールの時と同じ、黒い煙が放たれた。煙は吸血鬼の体に溶け込むように消えた。

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 同時刻 吸血鬼の精神世界

 

 「な……どこだここは!さっきまで俺は窓から飛び降りて……」

 

 吸血鬼は真っ暗な部屋に一人立ち尽くしていた。

 

 「また怪物の魂か……まぁ、贄としては充分か……」

 

 吸血鬼の前に黒いコートに身を包んだ、若い男が突然現れた。

 

 「誰だ……おまえ……は。」

 

 吸血鬼の前に現れた男の背中には片翼の翼が生えており、その姿を見ただけで吸血鬼の頭には名前がうかんだ。

 

 「ルシファー…………」

 

 最後に残った吸血鬼が、目の前の怪物の手によって、悲惨な死を迎えると共に事件は解決した。

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 十四時 下宿前

 

 「クレイくんお疲れ様。怪我はないかい?」

 

 二度の銃声で周囲がざわつき始める中、下宿から服を着替えたクレイくんが出てきた。

 

 「首を掴まれましたが、口に含んでいた聖水のおかげで何とか無事です」 

 

 「流石は教会が育てあげた神の使徒(アポストル)の一人なだけはある。」

 

 「……ブラウンさんが言うと嫌味にしか聞こえないんですが」

 

 過去に私も所属していた教会の裏の仕事を担う、怪物退治専門の組織は十二人いることから、イエス・キリストの十二人の使徒に準えて神の使徒(アポストル)と名付けられた。

 「僕じゃなくてブラウンさんが怪物の住処に侵入した方が効率的だったんじゃないですか?」

 

 「おいおい。私が返り血を浴びたら服はどうする。着替えを持って来ていない私は上着を脱ぐしかなくなってしまうのだが、英国紳士である君が、まさかそんなことを女性にさせるつもりかい?」

 

 「……そんなつもりじゃ」

 

 彼を困らせるのを楽しんでいると、ようやく本物のヤードが到着した。

 

 「それじゃあ私は行くよ。ヤードの諸君には私のことは秘密にしてくれよ?また姿を変えるのは面倒だからね」

 

 私は面倒なことは全てクレイくんに任せ、依頼主に報告へ向かった。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

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