夢の中で喰らうもの
「ギャアァァァァァァ!!!」
グレンは悲鳴をあげる芝生を踏みつけながら、私の方へと向かってきた。
「……存外メイド服似合ってると思うぞ。」
そう言うとグレンは演劇を見きにた観客の元へと歩いて向かった。
「おい、お前!あの怪物は何者なんだ!私たちはいつになったらここから出られる。」
(グレン……残念だが、お前に庭師の格好は似合わないよ……)
恐らく怪物を倒したグレンをキャストか何かと勘違いしているのだろう。観客たちはグレンを質問攻めにしていた。
「うるせぇ!!」
グレンの怒声で再び場が静まり返った。
「俺から言えるのは一つだけ。生きて帰りたければ、あのメイドの言うことに従え。それができないなら死ぬだけだ。」
グレンは私の方に指を指してそう言った。
「死ぬって……さっきの怪物はあなたが倒したはず……もう安全なのでは?」
「怪物ってのはあいつのことか?」
グレンは頭をもぎ取った怪物を指さした。茨の怪物は、まるで失った頭を探すように首から茨を伸ばしていた。しばらく探すと諦めたのか立ち上がり、首から伸びた茨で頭部の形を作り出した。
「誰かが助けに来るなんて都合のいい考えは捨てた方がいい。ここには誰も来ないし、俺に出来るのは怪物の一部を破壊して時間を稼ぐことぐらいだ。」
グレンの言葉で観客たちの動揺は激しくなり、昔から口下手なグレンのことだ。そろそろ、助け舟を出してやるか……。
「黙れ!!!何度も言わせるなよ。生き残りたければ彼女の言うことに従え。お前たちにできるのはそれくらいのもんだ。」
私が神の使徒を辞めてからは、こうして怒声をあげることで場を落ち着かせきたのだろうか……少々強引だが、たしかに彼らしい。グレンは再び再生した怪物の元へと向かい、私は演劇を見に来た観客への自己紹介から開始した。
「私の名前はエヴァ・ブラウン。怪物の関わる事件ばかり依頼される、不憫な探偵です。以後お見知りおきを。」
私の挨拶に一人の領主の服を着た上流階級であろう男が反応した。
「エヴァ・ブラウン……君があのMissブラウンか!マクファーレンから聞いているよ!君とMr.ホームズの推理は実に見事だったと。」
たまたま私を知っている人間がいた事で、どうやら話はスムーズに進みそうだ。私は声を上げてくれた領主服の男に軽く頭を下げ、単純な確認作業を開始した。
「まずは今の状況について整理することが始めましょう。我々は全員同じ演劇を見ていた、題名は【アイザック】主人公アイザックが庭師として働く物語。物語を見ていると、強烈な睡魔に襲われ、眠ってしまい。目が覚めるとこの場所にいた。」
演劇を見に来た観客たちは頷き同意を示した。
「あの茨の怪物とこの場所については省いて、次が大事です。皆さんの中にも気づいている方も多いと思いますが、何百人と観客がいたはずなのに、ざっと数えて我々の人数は二十人あまりだ。皆さんは誰かに誘われてこの場所に来ませんでしたか?」
「……私は友人に誘われ、この演劇を見に来た。だが、友人はここにはいない……」
私の目の前にいる全員が、誘われて来たらしく、私の推測は確信へと変わった。
「なるほど……幾つか考えていた可能性はあったんです。一つは幾つもの部屋のように夢は分けられている可能性。二つ目は、私たちより先に、この場所に来て死んだが、夢なので死体は残らないという可能性。」
「…………」
その場にいる全員が、私の一言一言を息を飲んで聞いているのが分かる。彼らの隣にいた人間は既に死んでいると伝えているようなものなのだ。当然だ。
「ですが、皆さんが連れられて来たというので確信しました。そうですね……試しに皆さん、一人づつジャンプをして貰えますか?」
私の指示に従い、演劇を見に来た観客たちはジャンプの意味に疑問を持ちながらも、一人づつ私の前で飛び跳ねて見せた。
「……どうしました?飛んでみてください。」
執事服を着ていた青年の番。彼は一向にジャンプをする気配を見せなかった。
「……皆さん、離れていてください。」
私は青年の周囲から離れるように伝え、青年の正面で攻撃に備えた。
「余計なことを……」
青年が呟くと、庭に生えていた木々が暴れ狂い、芝生全体が悲鳴をあげた。
「なんなの……!!」
耳をつんざくような悲鳴と、まるで何かから逃れようとしているような木々たちの光景は、その場にいる観客達を震えがらせた。
「……母が来る」
青年が庭へと走り出すと、庭の中央から一本の巨大な樹木が現れた。
「あれを見ろ!」
庭に生えていた、芝生や木々は枯れ果て、樹木から実が落ちるように、人間の体が産み落とされた。