曇天があなたを隠すなら   作:ネコノトリ

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第21話

アモン

 

 突如現れた巨大な樹木から産み落とされた人間の姿をした怪物たちは、こちらへ向かい歩みを進めた。

 

 「そんな……どうしてキャシーが……」

 

 周囲の人々は絶望と困惑の表情で名前を口にしていた。恐らくは共に劇場に足を運んだ人物なのだろう。樹木から現れたということは、既に彼らは……。

 

 グレンは生まれ落ちた人間の姿をした怪物に近づき右手を振るった。グレンの右手が生まれ落ちたばかりの怪物触れると、怪物の体が突然燃え上がり、跡形もなく消えさった。

 

 ルシファーとの契約の証である銃がなければ何もできない私と違い。グレンの右手は義手でできており、【サタンシリーズ】の一つであり、義手には悪魔が宿っている。

 

 「食い散らかせアモン!!」

 

 悪魔と契約して力を使う人間は、アンバーやキッドさんのように体に悪魔を宿すものと、道具に悪魔を宿す私たちのどちらかに分類される。

 

 グレンとアモンの契約内容はアモンの()()を満たすこと。名前を呼び、あの義手で殴られた生き物には炎が燃え移り、燃え尽き命を落とすことでアモンの食欲は満たされていく。

 

 どうやらこの様子からして、茨の怪物とは違い、新しく産み落とされた人間の姿をした怪物は生物扱いのようだ。

 

 グレンが一人、また一人と燃やす度に、人の姿をした怪物と演劇を見に来た観客たちの悲鳴が大きくなる。

 

 「相性が悪かったみたいだなクソガキ。さっさと俺たちをここから出した方がいいと思うぞ。」

 

 「フッ……ハハハハハ!まさか勝った気でいるのか!?」

 

 青年が笑っていると、共に笑うように樹木が揺れ動き。再び人間の形をした怪物を産み落とした。

 

 「僕たちは何度でも生れ落ちることができる!たかが十人倒した程度で勝った気になってもらっちゃ困るな!」

 

 「おい、あんなこと言ってるが。あんたは手を貸さないのか!」

 

 領主の服を着た肥満体型の男が私に詰め寄るが、グレン一人で問題ないことを私は知っている。

 

 「アモン!!」

 

 「だから無駄だってば!僕たち死なないんだ!それに……ほら。」

 

 グレンの体は新しく生まれ落ちた怪物から伸びた茨により体を拘束されてしまった。

 

 「君も僕たちと同じ存在にしてあげる。」

 

 グレンに樹木の枝が、まるで手を差し伸べるように伸びた。

 

 「充分だ……」

 

 「……なんだって?」

 

 「お前たちを殺すのには充分なほど喰わせたって言ったんだ!」

 

 グレンの契約した悪魔アモンは、空腹を満たさない限り働こうとしない。先程まで怪物を燃やしていた炎はアモンにとっては舌を垂らしていたようなもので、全力ではない。

 

 「起きろアモン!」

 

 「【悪魔憑依(サタノファニー)】アモン」グレンの悪魔憑依は全身から溢れ出る炎を自在に操ることができる。その熱の強さは鉄を容易に溶かすほど強く、私たちの元まで熱が伝わってくる。

 

 「言っただろ?お前たちと俺じゃ相性が悪いって。」 

 

 グレンを拘束していた茨は一瞬で灰になり、危険を察知したのか親である樹木を守るように、先程よりもグレンへの攻撃は激しくなった。

 

 「邪魔だ!」

 

 だが、今のグレンに攻撃が届くはずもなく、グレンの前で灰となった。

 

 「僕らを燃やせたからなんだって言うんだ!母さんはその程度の熱じゃ殺せない!」

 

 「だろうな……」

 

 グレンの足を樹木から伸びた根が拘束し、伸びた枝がグレンを襲った。

 

 「……なっ!」

 

 グレンは義手に体の炎を集中し、怪物を産み落とす樹木へと解き放った。目を開けていられないほどの熱風が吹き、再び目を開けると、そこは劇場の中だった。

 

 私がボックス席から周囲の席を見渡すと。周囲の観客のほとんどは灰となり崩れ去っており、その中に夢の中で見た顔ぶれが目を覚ましている姿が確認できた。

 

 「エヴァ!ステージ裏に来てくれ!」 

 

 グレンの声が聞こえ、私はステージ裏へと向かった。ステージ裏へ向かう途中、幾本もの根が全ての席へ向かい伸びていた。もし、目が覚める前に根が私や観客の元へまで辿り着いていたと考えると鳥肌が立つ。

 

 「エヴァ……これを見てくれ。」

 

 ステージ裏には美しい色とりどりの花を咲かせる見たこともない木が劇場の床を突き破り、生えていた。

 

 「こいつが元凶なんだろうが……結局何がどうして、どうなったんだ。」

 

 グレンは昔と変わらずグレンのままのようだ。グレンが力技で倒した怪物たちの始末や報告は、よく私がしていた。

 

 「話す前に……まずは。」

 

 「あぁ……そうだな。」

 

 私が報告のため枝を折り。グレンが義手で触れると、メラメラと燃え上がり、私たちを襲った劇場に潜む怪物は灰になり消えてなくなった。

 

 「それで?何がわかったっていうんだ?」

 

 私は怪物の正体について、憶測だがグレンに説明を聞かせた。

 

 「まず、夢の世界に私たちと一緒にいた人たち。わたしも含めて彼らは、知り合いからの紹介で劇場に訪れていた。その()()()()には一つの共通点があると思われる。それが何かわかるかい?」

 

 「……先に演劇を見に来ていた?」

 

 「正解だ、グレンにしては冴えてるね。そう、彼らは私たちより先にこの劇場を訪れており。そして、あの怪物とも遭遇していた。そして私たちを紹介した人物は。」

  

 「夢の中みたいに、さっきの木から生まれ落ちたってことか……」

 

 「あくまで推測だけどね。少なくとも、観客の元に根が伸びてきたことを考えると、私たちを栄養にしようとしていことは間違いないね。報告書は特別に私が代わりに書いて提出しておいてあげるよ。」

 

 目が覚めてからしばらくすると、どこから聞きつけたのか、教会の人間が大勢駆けつけ、怪物へと対応におわれていた。

 後から聞いた話だが、レストレード警部が私にくれたチケットは湖の失踪者の捜索を依頼した人物からの提供であり、レストレード警部は演劇を見に行っていないようだった。

 

 同じくグレンが見に来たのも、ブラヴァツキー夫人から紹介され断りきれず見に来ていたらしい。

 

 こうして劇場で起きた、謎の樹木による事件は幕をおり、私は事務所に帰り、悪夢にうなされることなく眠りについた。

   

 

 

 

   

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