曇天があなたを隠すなら   作:ネコノトリ

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第24話

不死身の怪物

 

 「やめて、お願!……」

 

 首を刎ねてもなお、吸血鬼は頭か心臓を破壊しない限り動き続ける。私はナイフ片手に悪魔憑依を解き男の頭を潰した。

 

 「チッ……何から何まで本当に役に立たない男。……ねぇ、坊や?私の仲間にならない?あなたとなら、ただの仲間以上の関係だって考えてもいいわ。」

 

 「……!」ケリー君の瞬速の剣が女を襲った。

 

 「悪いけど僕は、あなたみたいな女性はタイプじゃないんです、ごめんなさい。」

 

 女王直属近衛騎士の持つ軍剣は刺突を得意とする剣で、先頭に向かうほど細く、鋭くなるという特徴を持つ。この武器を用いた刺突は恐ろしく早く相手の急所を突き破り、命を奪う。

 

 「あら……そう。だったら手加減は辞めて、全力で殺してあげる」

 

 私は悪魔憑依で疲労した体を酷使して、即座に子供たちの前に立ち銃とナイフを構えた。

 

 「ブラウンさん!こいつは僕が殺します!手助けはいりません!」

 

 ケリー君は分かっていない。吸血鬼のような怪物は、例え弱っていようと侮っていい相手では決してない。

 

 「遅い!遅い!遅い!そんな速度で私をどうやって殺すつもり!」

 

 「ック……」

 

 イギリス軍剣の刺突に特化した形は切ることに不向きで、この吸血鬼はそれが分かっているのだろう。弱点である頭部や心臓のみを常に守るように戦っている。これをされては再生能力高い吸血鬼相手に勝つのは相当厳しい。

 

 「……しょうがないですね。」

 

 ケール君は目の前の吸血鬼に切りかかると見せかけ、自分の剣を地面に叩きつけてへし折った。

 

 「何を……!」

 

 短くなった剣での攻撃を届けるため、先程よりも怪物に近づき刺突を放った。その刺突はリーチという有利を捨てる代わりに、短くなったことにより、速く、力強く、取り回しのきく武器へと変化した。

 

 先程までのスピードに慣れていた吸血鬼は、突然の変化に対応できるはずもなく。腹部を二度刺突を受けた後、顔を切り裂かれた。

 

 「ア゙ア゙ア゙……よくも私の顔を切りつけてくれたわね……」

 

 「切りつけるだけで終わらせるつもりはありませんよ。きっちり殺してあげます。」

 

 カール君の余裕な表情と吸血鬼の浮かべた笑みを見た私は嫌な予感が頭をよぎった。

 

 「カール君!」

 

 私が声をあげた時には既に遅く、二人の攻防は開始していた。一進一退の攻防……だが、吸血鬼は片腕を失った影響が大きく、ジワジワとカール君の攻撃が吸血鬼の体に通る。

 

 「ちょ……ヤバ……!」

 

 吸血鬼の攻撃の隙間、カール君の剣が吸血鬼の心臓目掛けて放たれた。……だが、地面に倒れていたのはカール君の体だった。

 

 「なーんちゃって!」

 

 「グフッ……どう……して。」

 

 この女吸血鬼は戦闘中に腕を直せなかったのではない、わざと直していなかったのだ。カール君の意識が完全に失った右腕から消えた一瞬、踏み込んだカール君の体を、本来攻撃の来るはずのない方向から重たい一撃を叩き込まれた。

 

 吸血鬼の一撃をまともに食らったのだ、呼吸をするのも一苦労だろう。

 

 「さぁ、お嬢さん。次はあなたの番かしら?」

 

 圧倒的な戦闘能力に戦闘中の駆け引き、この吸血鬼はまさか……。

 

 「あなた……カーミラね。」

 

 「あら?私のことを知っているなんてね。そうね……そう言うあなたは何者なのかしらね?あんな気味の悪い怪物を体に入れるなんて、正気とは思えないわね。」

 

 吸血鬼カーミラ。彼女の名を知らぬものはロンドンには少ないだろう。吸血鬼の中でも一際強い力を持つ彼女はドラキュラ伯爵と同様に物語にして対処法を世に知らせるという、異例の処置を教会が取らざるを得なかった怪物だ。

 

 こんな大物と出くわすなんて……子供たちを守りながら、できるだけ早く仕留めないと。

 

 「正直ね。あなたがデリックを殺してくれて、心から安心したの。私は、男の子はギリギリ守備範囲だけど、本当に好きなのは若くて可愛い女の子なの。あなたみたいなとびっきりのご馳走様をデリックなんかにあげることにならなくて本当によかったわ。」

 

 私は本日二度目の悪魔憑依で体にルシファーを宿して、お喋りに夢中なカーミラの体を銀のナイフと引力で引き合うように変えて、全力で投擲した。

 

 カーミラは吸血鬼が自身の体への理解を深めたことで使えるようなる、()()の力で姿を大量コウモリに変えて避けようとしたが、ナイフの軌道は変わり、変化したコウモリたちを次から次へと撃ち落としていった。

 

 「相変わらず……意味の分からない力……」

 

 銀のナイフて殺したコウモリ、その一匹、一匹がカーミラの体の一部だったのだろう。カーミラの体は抉られたように幾つもの穴が空いており、傷の再生が遅くなっているのが分かる。

 

 「デリックも死んだし、笛の効果も切れる頃。そろそろ退散の時間ね。」

 

 カーミラがそう言うと、まるで謀ったかのように蒸気機関車の音が地下に鳴り響いた。

 

 「あら?てっきり、逃がさないために攻撃を必死になって仕掛けてくると思ってたけど、そうじゃないのね。」

 

 「……私への依頼は子供たちの捜索。吸血鬼カーミラを殺すことは依頼に含まれていないもの。」

 

 「よく言うわよ……あなたがさっき撒いた黒い塊。吸血鬼が触れてはいけないものよね?子供たちを守るために撒いた塊とは別に、いつの間にか既に私の周囲を取り囲んでる。殺す気満々じゃない。」

 

 「ダメだ……ブラウンさん!」

 

 私とカーミラのやり取りに反応して、肺に溜まった血液を吐き出しながら、剣を杖代わりにしてケリー君が立ち上がった。

 

 「今ここで逃がせば……こいつは別の街で再び事件を起こす。こいつはここで殺さないとダメだ!」

 

 今にも倒れそうな体を信念で支え、ケリー君は剣を構えた。

 

 「………………」

 

 「ブラウンさん?」

 

 「残念、時間切れ!」

 

 カーミラは蒸気機関車に飛び移り、私たちが降りてやって来た駅のホームへと走り去っていった。

 

 「逃げられた……どうして攻撃を辞めたんですかブラウンさん!説明してください!」 

 

 (よかった……カーミラが逃げてくれて。これで少し休める……)

 

 「ブラウンさん?大丈夫ですかブラウンさん!」

 

 カーミラが逃げ去り、私の緊張の糸は切れ。意識を失うように眠りについた。

 

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 「ようやく目が覚めたのねエヴァ。」

 

 目が覚めると、そこらの貴族の客室と比べても一回り広い部屋のベッドで寝かされていた。

 

 「……ここは?」

 

 「バッキンガム宮殿よ。エヴァと近衛の子供の治療を教会でしていたら、ぞろぞろと近衛騎士が教会に入ってきて、ここに移されたってわけ。」

 

 彼女の名前はアナベラ・アナキン。契約している悪魔の名はアザゼル。代償を支払う代わりに様々な知識を与えてもらえる。医療の知識を教えてもらった彼女は教会の管理の元、優秀な医師として名が知れ渡っている。

 

 「アナベラさん……私、どれくらい寝てたんですか?」

 

 「十日よ。あなたが目が覚めるまで帰っちゃダメだって言われて大変だったわよ。」

 

 「ごめんなさい……」

 

 アナベラさんは深くため息をつくと扉を開けて、外の兵士に声をかけた。

 

 「応接間で女王陛下が話をしたいそうよ。早く着替えて、挨拶に行くわよ。」

 

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 「あなたがエヴァ・ブラウンさんね。それから、あなたがアナベラ・アナキンさん。どうぞ、座ってちょうだい」  

 

 応接間には四つの椅子が用意されており、一つは女王陛下が、もう一つはカール君が座っていた。女王の後ろには二人の兵士が立っており、私とアナベラさんが椅子に座るとテーブルに、いい香りの紅茶が置かれ、しばらくの沈黙の後、女王陛下が口を開いた。

 

 「ブラウンさん。カール。二人とも、よくぞこの国の子供たちの未来を守ってくれました。まずは、その働きに感謝を。」

 

 女王陛下の口から放たれた感謝の一言は、今まで聞いたどんな言葉よりも重く、心に響いた。

 

 「ですが、カーミラには逃げられてしまいました……申し訳ありません。」

 

 「いいのです。無事に帰ってきたことが重要なのですから。そしてアナベラ・アナキンさん。よくぞカールの傷を癒し、ブラウンさんの目を覚まさせてくれました。」

 

 「身に余るお言葉をいただき、大変光栄に思います女王陛下。」

 

 アナベラさんはこういう場に慣れているのだろう。私なんかと違い、堂々とお礼を述べることができている。

 

「今回の事件。まさか吸血鬼カーミラが起こしていたものとは思いませんでした。そして今回のカーミラとの戦闘で、今の私の騎士では怪物の相手をするのには力不足……いえ、知恵不足ということが分かりました。」

 

 女王陛下は口を挟む隙を与えぬまま話を続けた。

 

 「なので、Missブラウン。私たちにも怪物の知識を教えてはいただけないでしょうか?」

 

 「女王陛下。お言葉ですが、私の知識は経験から得たものが多く、教会の知識に比べ不明瞭なものが多いです。もし知識を得たいのであればブラヴァツキー夫人を尋ねた方がよろしいかと……」

 

 女王陛下は困った顔で私に言葉を返した。

 

 「そうなのだけれどね……ここだけの話。私、彼女に嫌われてるみたいなの。」

 

 女王陛下は小さく微笑んで言葉を続けた。

 

 「もちろん、MissブラウンやMissアナベラが教会と深い関わりにあるのは知っています。ですが、いざと言う時に教会にだけ、任せて私たちが動けないでは困るのです。もちろん教えられる範囲で構いません。」

 

 女王陛下にここまで頼まれては断れるはずもなく、私は知識を伝えることに決めた。

 

 「ありがとうございます!カール、記録係を呼びなさい。」

 

 「女王様!?まさかここで話を聞くつもりですか!」

 

 「もちろんです。何か問題でも?」

 

 女王様の後ろに立つ護衛は、とても驚く様子を見せた。

 

 「お言葉ですが、女王陛下には少し刺激が強いかと……」

 

 「構わないわ。話しなさい、Missブラウン。」

 

 それから数日間、私は宮殿で知識を伝えるため拘束されることとなり。贅沢な暮らしを存分に楽しむこととなった。 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

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