呪われたナイフ
「っで。なんで私の部屋に集まってんの?」
ジャック・ザ・リッパーに逃げられた私たちは、質問の途中だったこともありヒルダさんの部屋を訪れていた。
「ごめんなさいヒルダさん。質問の途中だったから……」
「はぁ……そうだったわね。さっさと質問を終わらせてちょうだい。」
ヒルダさんは仕方ないといった表情を浮かべながらも再び質問に応じてくれた。
「その前にだMissブラウン。私たちの自己紹介が必要だろう。私の名前はシャーロック・ホームズ。そしてこちらが友人のワトソン君だ。」
「名前なんてどうでもいいわ。早く質問を終わらせちゃいましょ。」
二人は礼儀正しく挨拶をしたが、彼女にとってシャーロック・ホームズという存在はどうでもいいようだ。
「では、新たに引っ越してきた老人。その方の住まいを知っていそうな人物などはご存知ですか?」
「……宛が無いわけじゃないけど。エロオヤジだから何を要求されるか分かったもんじゃないわよ?」
「……覚悟はできてます。」
「分かった……けど今夜はもう遅いわ、明日にしましょ。明日の朝エロオヤジの場所に案内してあげる。あんたは距離ここに泊まっていきな。そら、男は出ていきな。」
ホームズさんたちは部屋から追い出され、その日はヒルダさんと同じベットで夜を明かした。
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ケント・マカヴォイ
「ケント爺さん。あんたに会いたいって客を連れてきたわよ。」
ヒルダさんの家から少し離れた場所の路上生活者が多く集まる道路。ホームズさんと合流した私とヒルダさんは早速、情報を知っている可能性の高い男に会いに足を運んでいた。
「……ヒルダか。儂に何のようだ?」
ケントと呼ばれる老人は六十は超えているであろう風貌をしており、ヒルダさんの体を下から舐めまわすように視線が移動していた。
「だから、用意があるのは私じゃなくて、こっちだって。」
ヒルダさんに袖を引っ張られ、ケントさんの前に引きずり出された。
「初めまして、エヴァ・ブラウンです。ケントさんにお聞きしたいことがあり尋ねさせていただきました。」
ケントさんはまるで値踏みでもしているかのように、私の体の周囲を歩いて回り観察した。
「顔は悪くないが、胸も尻も出てないな……。まぁいい、聞きたいことを話でみな。」
「最近ここ、ホワイトチャペルに越してきたという老人。どこに住んでいるかご存知ではないでしょうか。」
「奴の話しか、そうだな……お嬢さん初めてはまだか?」
「失礼、ご老人。その質問は関係ないように思うのだが。」
ケントさんはホームズさんに構うことなく私に迫った。
「処女かどうか聞いとるんじゃ。それで、どっちなんだ?」
「……処女です。」
ケントさんは満足したかのように首を縦に二度降ると、情報を教えた場合の報酬を提示してきた。
「ならば、お嬢さんの履いている下着で手を打とう。」
……ホームズさんとワトソン先生が見たことの無い表情をしている。
「だから言っただろ?何を要求されるか分かったもんじゃないって。ほら、探すの協力してあげるから、こんな爺さん放っておいて行くよ。」
私を連れて離れようと腕を引いてくれているヒルダさんの力に逆らい留まった。
「……すみませんホームズさん、ワトソン先生。少し離れていてもらってもよろしいでしょうか。」
「待ってくれブラウンさん!そんな奴と取引する必要はないだろ。時間がかかってでも全員で探せば……」
「ワトソン先生、それじゃ遅いんです。私たちが探している間に次の被害者が出るかもしれない。それに、あくまで容疑者の一人として疑ってはいるものの関係ない可能性だって。」
「だったら尚更……」
私は首を横に振りワトソン先生に固い意志を示した。
「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫です。普段から悪魔と取引しているからか、こういうのには慣れっこですから。」
ワトソン先生はそれ以上何も言わず、ホームズさんと共に路上の曲がり角を曲がった。
「ヒルダさん、体で隠してもらってもいいですか?」
「いいけどさ……あんたは本当にこれでいいのかい?なんなら変わってあげてもいいんだよ?」
「大丈夫です。下着一枚で人の命が救われるかもしれないなら安いものですよ。」
ヒルダさんは自身の履いている長いスカートをたくし上げ、私が下着(オープンドロワーズ)を脱ぐ間隠し続けてくれた。
「……どうぞ。」
ケントさんは下着を受け取ると笑みを浮かべ頬擦りをした。
「本当は脱いでいる所も含めての取引だったんだが……お嬢さんの覚悟に免じて許してやるよ。これ以上の要求をしたら、さっきの男たちに何をされるか分かったもんでもないしな。」
私たちはホームズさんとワトソン先生を呼びに行き、ケントさんの案内で老人が越してきたという家の前までやってきた。
「案内が終わったことだし、儂は帰るぞ。」
「待て。」
帰ろうとするケントさんをホームズさんの声が止めた。
「あなたの情報が真実とは限らない。本当かどうか確認できるまでは一緒にいてもらおう。」
「心配症な奴だな……だったら、ほれ。早く終わらせてしまえ。」
ケントさんは扉の前に立ち、扉を何度か強くノックをして声をかけた。
「おい、あんたに客だぞ!早く開けてくれ!」
ケントさんの声に、誰からの返事も帰ってくることもなく周囲は静寂に包まれた。
「どうやら留守みたいだな。悪いが儂は帰るからな。」
再び帰ろうとするケントさんの肩をホームズさんが掴み静止する。
「私が開けよう。」
ホームズさんは頭を低くして扉の鍵のピッキングを始めた。
「ホームズ……流石にそれは。」
「Missブラウンの覚悟を無駄にするわけにはいかないからね。家主が帰ってきたら、その時は私が説得するさ。」
ホームズさんのピッキングの腕は大したもので、あっという間に扉の鍵を開けてしまった。
「ヒルダさん、ここからは危険なので帰った方が……」
「ここまで来て帰れるわけないでしょ。最後まで見学させてもらうわよ」
ヒルダさんは私の頭を撫でながら笑顔を見せてくれた。
「さぁ、探索を始めよう。」