曇天があなたを隠すなら   作:ネコノトリ

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第30話

不気味な彫刻

 

 「……っう!酷い匂いだ。どうやらブラウンさんの予想は当たっていそうですね。」

 

 ヒルダさんとケントさんを中央に、私とホームズさん、ワトソン先生で囲みながら家の中へと侵入した。

 

 「この腐敗臭は昨日、一昨日のものではないな。」

 

 私たちは最大限警戒をしながら、家の中の捜索を始めた。捜索とは言っても家の中に物はほとんどなく、気になるとすれば一際目立つ場所に飾られている不気味な彫刻だ。

 

 巨大な腹部を持つカエルに似た頭部を持つ彫刻。彫刻の前には皿が置かれており、まるで捧げ物でもするかのように人間のものでまちがいないであろう心臓が皿の上に置かれている。

 「不気味な彫刻だ……Missブラウン、この彫られている生き物に心当たりはあるかい?」

 

 「見たことないです……ただ、経験からなのか、この彫刻には触らない方がいいような気がします。」

 

 「私もそう思うよ。見ているだけで鳥肌が立つ。これが確認できただけで充分だ、早く家を出よう。」

 

 ホームズさんが先導して家を出ようとする私たちの耳に二階から小さな物音が聞こえた。

 

 ホームズさんはジェスチャーで私とワトソン先生にヒルダさんとケントさんを守るように伝え、それぞれが戦闘態勢をとった。

 

 物音は階段へと近づき、一歩、また一歩と徐々にこちらへと近づいてきていた。

 

 「どうしてこんなことに……どうしてこんなことに……どうしてこんなことに……」

 

 家に入ってからというもの静かだったケントさんが突然、同じ言葉を何度も呟き始めた。

 

 「ケントさん……静かにしてください。」

 

 「知るかそんなこと!私は関係無い!」

 

 大声を上げ部屋から飛び出し玄関へと辿り着いたケントさん。だが、外に出ることは叶わず、階段から飛んできたナイフに頭を突き刺され、その場に倒れた。

 

 「………ッッ!」

 

 先程まで動いていた人間が突然動かなくなったのが余程恐ろしかったのか、ヒルダさんの口から我慢していた声が僅かに漏れた。

 

 「ホームズさん、ワトソン先生。ここは私が残るので、ヒルダさんのことをお願いします。」

 

 「女性一人残す訳には……」

 

 「大丈夫です。」

 

 私は頭に引き金を引きルシファーを呼び出した。

 

 「女性一人ではないので。さぁ、お早く。」

 

 ホームズさんとワトソン先生はルシファーを見て納得してくれたのか、ヒルダさんを連れて窓ガラスから脱出をした。

 

 「ルシファー。あのナイフには気をつけて 戦って、魔術何かで切れ味がおかしな事になってるみたいだから。」

 

 私かナイフをルシファーに手渡し銃を構えると、ケントさんのあたまに刺さったナイフを引抜き、男が部屋へと侵入した。

 

  (やっぱりあの時の男……老人じゃないってことは犯人はもう一人いる?)

 

 「エヴァ、援護を頼む。」

 

 ルシファーは相手が攻撃を仕掛ける前に動いた。ルシファーのナイフの一振を躱した男にルシファーは手に持つナイフを投擲した。

 

 「………………」

 

 ナイフは男に命中し、腹部へと突き刺さった。

 

 だが、男は怯む様子を見せず。腹部に刺さったナイフをそのままにルシファーへと突撃を仕掛けた。

 

 「ルシファー!」

 

 私の声ですぐさま霊体化したルシファーの体をすり抜け、放った弾丸が男に向かう。男は弾丸の軌道が見えているかのように最小の動きで躱しルシファーに詰め寄った。

 

 「…………!」

 

 ルシファーが男に手をかざすと、腹部に刺さっていたナイフがルシファーの手に吸い込まれるように戻り、男は腹部から大量の出血を余儀なくされた。

 

 ルシファーの権能【重力】【引力】【斥力】完全な権限ではないため小さい力しか働かないものの、戦闘能力の高いルシファーが使うとなれば、その脅威は明らかだ。

 

 「終わりだ。」

 

 腹部にナイフが刺さっただけでは何の反応も見せることがなかった男だったが、大量の出血は命が関わるからか、一瞬だけこちらから意識が逸れた。その隙をルシファーが見逃すはずもなく、接近したルシファーに喉元を切り裂かれ、力なくその場に倒れ込んだ。

 

 「早くホームズさんたちと合流しないと……」

 

 ルシファーが姿を消し、私が部屋から出ようとした時、背後から何かが崩れる音が聞こえ、突然見知らぬ場所へと景色が変わった。

 

 「誰だい君?あの老人ではないみたいだけど。」

 

 地面に響くような低い声。わたしはすぐさま声の主を確認するため振り返った。

 

 そこにはヒキガエルのような頭を持った肥大化した腹部を持つ生き物……あの彫刻の生き物が玉座のような場所に腰掛けていた。よく見るとその体表には短い毛出覆われており、肌の黒さも相まってコウモリを彷彿とさせられる。

 

 私は本能で理解した。この怪物とは戦ってはいけない、かといって逃げることもできないだろうことを。

 

 「私の名前はエヴァ・ブラウン。ホワイトチャペルで起きていた連続殺人事件の解決のため、勝手に家に上がらせていただいていました。」

 

 目の前の怪物はその巨体ゆえか、起き上がることなく天井を見上げたまま私の会話に応じてくれた。

 

 「別に、君があいつの家に上がろうと僕には関係ないないんだけどね。それより問題はこいつが僕の彫刻を壊してしまったことかな」

 

 よく見ると怪物の手には先程まで戦闘していた男が握られており、精神世界なのか先程負った傷は見つけることができなかった。

 

「この男は、君が入った家に盗みに入って、無様にも魔術師に操られてたんだ。ただ、魔術師も詰めが甘かったね、洗脳されている間の記憶が残っていて、君らに重症を負わされたことで意識を取り戻し、僕の彫刻を壊した。」

 

 怪物は口元に男を運ぶと、大きく口を開き男を丸呑みしてしまった。

 

 「それにしてもどうしようか。この男が彫刻を壊したせいで、魔術師から食材の供給がなくなってしまった。なぁ、君はどうすればいいと思う。」

 

 圧倒的な威圧感と極度の緊張、気に入らない答えならば食べられてしまうであろう現実に今にも足は震え、胃液が迫り上がる。

 

 「新たな契約者を見つける……ですかね。」

 

 「そこは私が契約者になるではないのだな。少し残念だ、君とは良い関係を築けると思っていたのだが……」  

 

 顔は見えないが残念そうにしていることは声で分かる。未だ襲われることなく会話をできていることから考えると、比較的マトモな怪物なのかもしれない。

 

 「安心してください。新たな契約者はしっかり紹介させていただきます。その方は何柱もの悪魔と契約していますし、裕福な人物なので食事には困らないかと。」

 

 「へ〜厄介な力を持つ、あの悪魔とね……面白いじゃないか、その人物を紹介する時は僕の姿を思い浮かべるといい。君たちを再びここに招待しようじゃないか。」

 

 怪物はようやく見下すように私に視線を向けた。

 

 「最初は君のことも食べるつもりだったんだけど辞めておこう。代わりもいることだしね。」

 

 怪物は喉をならなして不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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