曇天があなたを隠すなら   作:ネコノトリ

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第35話

怪物を束ねる者

 

 オックスフォードへクレイくんの捜索にやってきて半日が経過した。

 

 (……誘われているな。)

 

 この街には怪物の痕跡が多すぎる。抜け落ちた狼の毛、至る所に転々と跡を残す血痕。それらが街を数歩歩けば見つかってしまう。一体どれだけの怪物がいるのだろうか……。

 

 「……バディお願い。」

 

 私はマンホールの蓋を開け下水道を通り、怪物たちの集まる場所を探してくるよう頼んだ。

 

 数ヶ月共に仕事をして分かったことだが、バディはそこらの怪物よりも優れた能力を持ち。獲物を捕らえる際は体感三十キロ程の速度で移動し、人間のように()()を話すことはできないが、生き物の形を作ることができたり、体の一部を変化させ口や耳などのパーツを生み出すこともできる。

 

 「おかえりバディ。」

 

 数時間が経つとバディは私の元に戻り、ご褒美を要求するように口を生成して大きく開けている。私は口の中に携帯しているジャガイモを放り込み、バディは咀嚼を始めた。

 

 「それで怪物の場所は分かった?」

 

 バディは小さくジャンプをして、私の質問に答えてくれた。

 

 「じゃあ、もう少し遅くなったら静かに忍び込もっか。」

 

 バディと共に夜が更けるのを待ち、私はバディの案内で怪物たちの住処に辿り着いた。オックスフォード運河周辺の倉庫、どうやら怪物たちはここを根城にしているようだ。

 

 バディが言葉を話すことができないのもあり、正確な数は分からないがクレイくんがいるとしたら、ここが可能性が最も高いだろう。

 

 (正面の見張りは男が二人……バディ、気づかれないように近づいて、私たちから見て右の敵の口を塞げる?)

 

 バディはピョンと飛び跳ね、そのまま物陰を利用して右の男の背後に回った。

 

 「なんだおま……!」

 

 左の男が右の男の異変に気づき振り向くと同時に首を絞めあげる。二人の見張りを突破した私とバディは倉庫の前についた。

 

 (やっぱり吸血鬼か……それにしても数が分からないのは厄介だな、帰ったら数の数え方も教えてみるか……)

 

 気絶させた二人の男の口内を確認すると吸血鬼特有の鋭い牙と首元の噛まれた後を確認することができた。私はバディに倉庫の中で暴れてくるように命令をして、倉庫の入口を少し開いた。

 

 「パァン!パァン!パァン!パァン」

 

 何発もの銃声が倉庫の中で響いた。吸血鬼なら暗闇でも問題なくバディを視認することができるだろう。私はバディが囮になってくれている間に倉庫の中に入り、銃を発砲している男の背後に回り込み意識を刈り取った。

 

 倉庫のような建物でこれだけ発砲していれば吸血鬼の自慢の聴覚もマトモに機能しない。人間の私でも容易に気絶させることができる。

 

 倉庫の中の敵を一人……二人と気絶させると、突然先程までの銃声が嘘のように鳴りやみ、男の声が倉庫の中に響いた。

 

 「実に見事な手際だMissブラウン。」

 

 倉庫の中央に拍手をしながら現れた男、その傍らには手足を拘束されているクレイくんの姿があった。

 

 「誰も殺してはいない。私はあなたの横で拘束されている彼を救出に来ただけだ。」

 

 「殺していない事は知っているとも、見ていたからね。それにしても……まさか無形の落し子を連れているとはね。ツァトゥグァ様のお気に入りか、それとも優秀な魔術師か……どちらにしても厄介なことこの上ない。」

 

 背の高い猫背の男……彼がここのリーダーなのだろう。上手く交渉に持ち込めるだろうか……。

 

 「争うつもりはない!彼を返してくれさえすれば攻撃はしない!」

 

 「そうか……争うつもりはないか。だがね、我々には君と戦う理由があるのだよレイラ・ハイランド。」

 

 (それは社交クラブの時に使った偽名……関係者?一体何者?)

 

 様々な思考が私の中で駆け巡る。だが、答えは悩むまでもなく男の口から明かされた。

 

 「おっと失礼、挨拶が遅れたね。私の名前はジェームズ・モリアーティ。種族は君たちの言うところの蛇人間だ。」

 

 (社交クラブで会ったジュリアンと同じ……!)

 

 私はすぐさまホルスターに手を伸ばした。

 

 「変な気は起こさない方がいい。君と会話をしている間に包囲させてもらったからね。」

 

 気づくとモリアーティ教授の言う通り、私の周囲は女たちにより囲われており、私はホルスターから手を引いた。

 

 (いつの間に……)

 

 私が警戒をしていなかった訳ではない。警戒していたにも関わらず気取られることなく囲まれた。敵には蛇人間もいるのだ、透明になる薬くらい作れると警戒するべきだった。

 

 「……私たちを捕まえてどうするつもり。」

 

 「我々蛇人間の目的は常に一つだ。地上を人間から奪い返す。だが、現実的に考えてそれは不可能だ。故に我々のような虐げられてきた怪物でイギリスを奪う。」

 

 なるほど、他の蛇人間に比べると非常に合理的な考えだ。ジュリアンのしていた貴族を蛇人間にするというのもモリアーティ教授、彼の策略の一つに過ぎないのだろう。

 

 「それで、どうして私を?」

 

 「君は気づいていないだろうが、君は君が思っているよりもずっと価値のある女性なのだよMissブラウン。」

 

 「買いかぶりですよ。私は所詮、妙な依頼の多いだけの探偵にすぎません。」

 

 「では聞くが、ただの探偵が女王陛下と直接会うことができると思うか?我々、怪物の世界に踏み込んだ時点で普通の探偵ではいられないのだよMissブラウン。」

 

 女王陛下と会っていることがバレているということは、私の交友関係はあらかた調べられていると考えて間違いないだろう。

 

 「私は君のような優秀な人間を殺したりなんかはしない。君を取り囲む女性の一人が薬を持っているのが分かるかい?その薬を飲むんだ。」

 

 支配血清……クレイくんも飲まされていることを考えると、ここで戦闘を始めても奴を殺さない限り、操られたクレイくんとも戦うことになるだろう。

 

 何とか乗り切る方法を必死に考えるが、どう考えても詰みの状況だ。可能性があるとすれば外部からの干渉だが……。

 

 神に頼むことは決してしない。してなるものか。無力だった幼い私を苦しめたのも救ってくれたのも、神ではなく人間なのだから。

 

 (私の位置が倉庫の右側の荷物の陰なのに対してクレイくんの位置は倉庫の中央……やってみるしかないか。)

 

 覚悟を決め、僅かな希望にかけて支配血清を持つ女に近づいた時。神が私の決意を嘲笑うかのように、屋根を突き破り複数の人間が現れた。

 

 「お前は……曇天(クラウディ)!」

 

 

  

  

 

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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