曇天があなたを隠すなら   作:ネコノトリ

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第36話

執行者

 

 「全員撃て、執行者だ!」

 

 天井を突き破り降りてきた複数の男女。その中には私の親の仇である曇天(クラウディ)の姿があった。執行者と呼ばれる男女たちは、それぞれの武器で放たれた弾丸を防ぎ、倉庫中に配置された怪物たちのの元に襲いかかった。

 

 「曇天……!」

 

 私は怒りを何とか理性で抑え、執行者の登場で注意のそれた、私を囲んでいた女たちの一人を人質にとった。

 

 「こいつが殺されたくなければ道を開けろ!」

 

 女たちがゆっくり道を開け、クレイくんの元に向かおうとした周囲「スパンッ」と陰になっていた荷物が上下半分に切断され、私の姿が執行者に見つかった。

 

 「人質をとって脱出しようとするとは、やっぱりお前たちモリアーティ一味はクソだな。」

 

 足に巨大な刃を付けた猫背で背の高い細身の男が私に狙いを定め襲いかかってきた。

 

 「ちが……!」

 

 何とかナイフでガードをしようとするが、間に合わない……死を覚悟した私の耳に響いたのは激しい金属音だった。

 

 「バディ!」

 

 天井から落ちてきたバディが体の一部を硬化させ刃が私に届く前に守ってくれた。

 

 「なんだその生き物は……きもちわりぃ。」

 

 変幻自在のバディはガードと同時に体の一部を伸ばし生成した口で噛み付こうとしたが、男には避けられ距離を取られてしまった。

 

 「バディ……私の体を覆って。」

 

 悪魔憑依(サタノファニー)に頼らずとも戦えるように特訓したバディを使った新たな姿。バディの強烈な匂いを防ぐため鼻を布で覆い、体にバディが被さることで自身の身を守る。

 

 【メタモルフォーゼ】(欠点といえば身にまとった衣服が使い物にならなくなることくらい……この服気に入ってたんだけどなぁ……。)

 

 「姿が変わったからなんだ!真っ二つに両断してやるぜ!」

 

 私は怯むことなく男の大振りな蹴りに向かい走った。

 

 「……な!」

 

 足についた刃をバディが防ぎ、男の体に私の弾丸が三発命中した。

 

 「おい、おい。どうなってんだその生き物。この武器の攻撃を二度も防いで平気なんて……そんな怪物あったことねぇぞ。」

 

 「あなたの蹴りが軽いんじゃない?」

 

 (この挑発に乗って冷静さを失ってくれればいいんだけど……)

 

 私の思惑とは裏腹に男は冷静に言葉を返した。

 

 「バカ言うな。この武器は聖武器だぞ。様々な聖遺物が埋め込まれたこの武器は、不浄を清め、邪悪を滅する。怪物がガードして無傷なはずはない。」

 

 男はバカなのか戦闘中に丁寧に説明をしてくれた。幾つか疑問が残る話だが、今は戦闘に集中しなくては。私が武器を構え攻撃を仕掛けようとすると、横から大量の薬品が投げ込まれた。

 

 「お前ら……これが助けてやった奴にすることか!」

 

 男と私に投げ込まれた薬品は怪しい煙を発生させた。

 

 (これはガス!?どういう効果か分からないけどマスクをしておいてよかった。)

 

 私とバディは無事だが、執行者の男はそうもいかないようで、地面に膝を着いた。

 

 「助けてくれなど頼んでないわ!貴様ら執行者に我らの同胞が何人殺されたと思っている……!」

 

 「そうか……お前ら魔女だな……。」

 

 魔女とは錬金術や魔術に秀でた種族で、人間が禁術を使った成れの果てと言われている。禁術には相手を呪い殺すものが多く、力の弱い女性が男性を呪う際に使用されることから男性の魔術は少ない。

 

 ヨロヨロと立ち上がる男に魔女らはナイフを持ち男に近づいた。

 

 (助ける理由はないけれど……バディ!)

 

 私がバディに命令をすると体を覆ったバディが私の代わりに足を動かし、魔女の元に一瞬で移動した。まだバディの速さに体が追いつかないため、目の前で停止しては弾丸を放つの繰り返しにはなるが、無傷で魔女を倒すことができた。

 

 「……待て!」

  

 クレイくんの元に向かおうとするわたしを男が止めた。

 

 「……どうして俺を助けた。」

 

 「あなたの仲間の一人に恨みはあるけど、あなた自身には恨みはないもの。」

 

 私はそう言い残し、弱った体の男を一人残し、クレイくんの元へと走った。

 

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 「モリアーティ教授には逃げられたか……。」

 

 執行者と呼ばれていた男女が屍となった怪物を足蹴に会話をしている。その傍にはクレイくんの姿があり、見つからずに近づくのは難しいだろう。

 

 「バディ……魔法瓶に入ってて。」

 

 私は物陰から両手をあげ執行者の前に姿を見せた。

 

 「生存者……!」

 

 「待ってください、彼女は人間ですよ。」

 

 攻撃を仕掛けようと斧を振りかぶった男を止めたのは私の宿敵【曇天(クラウディ)】だった。

 

 「あの時の女の子……大きくなったね。」

 

 「あなたは一切老けていないみたいね……若作りのコツがあるなら参考に聞いておきたいものね。」

 

 曇天は一切老けていない。身長から体型、シワの一つたりともあの日見た姿と寸分たがわず同じように見える。そして私は、そんな人物を他にもう一人知っている。

 

 「あの日に君のことを殺し損ねてから、執行者として君のことをしばらく監視していたけれど、いい人に拾われてよかったね。」

 

 気持ちが悪い。まるで感情のないロボットのように一切の表情が動かさずに会話に応じてくる。

 

 「……そこの少年を返してほしい。私の友人なの。」

 

 「うん、いいよ。僕らのターゲットはモリアーティ教授とその一味だ。彼はどうでもいい。」

 

 一切の迷いがない返事。まるで人の命になんて微塵も興味もないような曇天の目が昔を思い出させる。

 

 「どうして……ここにブラウンさんが……早くここから逃げて……」

 

 「あなたを捕らえていた奴らはもういないから安心していいわよ。」

 

 執行者の女がクレイくんを縛っていた縄を解いて、優しくそう伝えた。

 

 「違うんだ、奴らじゃないんだ。僕から離れない……と…………。」 

 

 突然クレイくんの体が蛆で覆われた。【悪魔憑依(サタノファニー)サブナック】蛆を払い除けたクレイくんの姿は変化しており。中世の騎士のような鎧を着込み、首元はライオンのようなタテガミで覆われている。

 

 「危ない!」

 

 クレイくんのナイフが、縄を解いた執行者を襲った。曇天の仲間なのは分かっている。だが、チャド神父に育てられたおかげなのか自然と体は動いていた。

 

 「……なんだこれは!」

 

 「……彼の契約している悪魔の名はサブナック。その力は傷の腐敗。これ以上傷を負わないように気をつけて、その傷は治りが遅くて、一週間は蛆が湧く傷のままだから。」

 

 二人の執行者が怪物たちとの戦闘で負った傷から膿が噴き出し取り乱している。

 

 「あなたたちは手を出さないで……彼は支配血清で蛇人間に操られてるだけだから、私が気絶させて連れて帰る。」

 

 「そう……じゃあ私たちは撤退しましょう。」

 

 縄を解いた執行者の女性は冷たく、そして冷静に仲間を連れて、倉庫の出口へと向かった。

 

 「クレイくん、あなたの相手は私でしょ。」

 

 執行者たちを追いかけようとしたクレイくんの横を私が放った弾丸が掠めた。

 

 「家族を養うためには金が必要なんだ……悪いが、金のために死んでくれ化け物。」

 

 支配血清の効果で操っている奴の都合がいいように、私の姿がクレイくんには見えているようだ。

 

 (気絶させると言ったものの、どうしたものか……バディを纏っている状態ならナイフの攻撃はガードはできるだろうが、切り札を使われたら……)

 

 私とクレイが武器を構え、向き合っていると。クレイの背中に強烈な蹴りが繰り出された。

 

 「俺も協力してやるよ!」

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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