共闘
「あなたはさっきの……」
「俺の名前はアベル!ギロチンのアベルだ!」
魔女から助けた男……どうして彼が協力を?だけど今は……。
「私の名前はエヴァ・ブラウン。協力感謝します、アベルさん。」
「アベルでいいぜ、エヴァ。話は聞かせてもらった、あいつの意識を奪えばいいんだろ?」
アベルはクレイくんの攻撃を楽々と避けながら私に返事を返した。
「一人増えたか……警戒レベルを上げる必要がありそうだな。」
「サタンシリーズ【四十三本の腐敗する某手裏剣】」クレイくんは右手の剣を捨て、腰に巻き付けた棒手裏剣を両の手に三本づつ抜き取った。
「(まずい……!)アベルさん遠距離攻撃がきます!気合いで避けてください!」
私はすぐに腰のホルスターから銃を抜き取り自分の頭を撃ち抜いた。
【
私は、ばら蒔いた黒い球体を強力な引力で一つの塊に変形させ、【明けの明星】にかかる重力をクレイくんのいる方向に変えて解き放った。
「……!」
落下する巨大な球体はクレイくんの避ける度に重力のかかる方向を変え、落下するようにクレイくんへと襲いかかった。
「おいおい……気絶させるんじゃなかったのかよ……あんなん食らったらお陀仏だろ。」
「……あんな速度の攻撃じゃ、クレイくんには当たりませんよ。」
神の使徒になれる人間は、この程度の攻撃なら簡単に避けて仕舞う。それどころか……。
「……くらえ」
ぶらりと垂れ下がった状態のクレイくんの手から、ほとんどノーモーションで棒手裏剣が飛ばされた。高速かつ細く鋭い形状をしている棒手裏剣を人間が目視して躱すことは不可能。
「バディ!」
私の体を守るように、普段はべチャリと地面に広がる液体のような姿をしているバディは、体を上に伸ばし、私の体を隠すように棒手裏剣から私を守った。
「……グッ!」
素早く動き続けていたアベルだったが、クレイくんの放った棒手裏剣は正確にアベルの足を抉った。
(アベル……だけど、クレイくんに隙ができた!)
クレイくんの背後の【明けの明星】を再び小さな黒い球体の形に戻し、クレイくんの体と引力で引き合う状態にした。
「……っな!」
球体が小さくなったことにより、先程までと比較にならない速度でクレイに迫り、ここまでの速度を予想していなかったクレイくんの体に次々と黒い球体が張り付いていく。
「重……!動け……」
クレイくんの体に張り付いた大量の黒い球体は、完全にクレイくんの動きを封じることに成功した。
「……アベル」
身動きのできなくなったクレイくんをバディに見張らせ、私はアベルノ元へと駆け寄った。
「おう、やったな!」
棒手裏剣の突き刺さったアベルの足からは膿が出ており、アベルは疲れた体を休めるように座っていた。
「あなたのお陰でクレイくんを取り押さえることができました。ありがとうございます。」
アベルは照れるように頭をかき、魔女たちに襲われた場所を見て返事を返した。
「……お前を勘違いで襲ったことと、魔女から助けてもらったこと。お前には二つの借りがあるからな。一つ借りを返して、後一つだ。」
魔女の件も借りと判断するとは、律儀だ男だ。魔女程度なら怪我こそ負っていただろうが、フラフラの状態でも勝てただろうに。
「……その傷どうするの?」
「どうするって言ったって。しばらく大人しくして完治するのを待つさ。」
(連れて行ったらアナベラさん怒るだろうな〜……だけど、、、)
「……私の知り合いの医師を紹介するから着いてきて。」
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「エヴァ……私が教会に監視されていることは知っているわよね?」
「はい…………」
「なるほど……つまり分かっていて!迷惑がかかると知っていて!なお、連れてきたということだね。」
教会の管理下にあるアナベラさんの診療所。拘束したクレイくんとアベルを連れてきた私は気怠げなアナベラさんに叱られていた。
「そのくらいにしてあげてくださいアナベラさん。……悪いのは捕まった僕なんですから。」
「……そうだね。神の使徒が捕えられることなんてあってはならないことだ。きっと君は神の使徒になれたことで自身の強さに自惚れていたんだろうね。」
「………………」
神の使徒は情報を漏らしてはならないと、キツく教え込まれている。(私は神の使徒じゃないから許されているけど)恐らくブラヴァツキー夫人以外の上層部は漏らす前に死んでくれと思っているだろうし、実際に多くの神の使徒はそうするだろう。
「……それで問題の執行者くん。君はこれを持って早く帰りなさい。」
「これは……?」
アナベラさんはアベルに丸い入れ物を渡した。
「それは塗り薬だよ。本来なら一ヶ月以上傷が残るけど、その塗り薬を毎日塗れば一週間かそこらで治るから。ちゃんと毎日塗りなよ。」
なんだかんだ言いながらもアナベラさんはいつも私たちの治療をしてくれる。悪魔から得た知識とはいえ、それを完全な善行に使えるアナベラさんは聖人のような女性だ。
「あの……アベルさん。」
クレイくんが腕と足を縛られた状態でアベルさんに診察台の上から声をかけた。
「……俺のせいで怪我を負わせてしまい申し訳ありませんでした。」
「礼ならエヴァちゃんに言いな。俺はエヴァちゃんに借りを返しただけだからよ。」
そう言い残すと、アベルはアナベラさんにお礼を言って診察所から出ていった。
「エヴァさん、ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした……」
「…………」
落ち込んでるクレイくんに何を言ってあげればいいのだろう。考え込んだ末にアベルの言葉を真似ようと思い至った。
「……クレイくんが神の使徒の適正を図るために、私の助手をした時があったよね。私はその時に警察の対応をクレイくんに押し付けからね。これで貸し借りなしだ。」
私の発言に「ポカン」と口を開けてクレイくんが固まってしまった。
(……誰かを励ますのは慣れていないんだ、誰かこの空気を変えてくれ。)
怪物との戦闘以上のピンチに、こんなことで陥るとは思っていなかった。
「フ、フフ……アハハハ!」
突然笑いだしたクレイくんに私は武器を構えた。支配血清の効果でまたしても操られている可能性があるからだ。
「……待ってください。違うんです……フフ。今のブラウンさんの顔がおかしくてハハハ!」
(どうやら操られてはいないようだな……とはいえ私の顔がおかしいだと……支配血清の除去が終わったらゲンコツしてやる。)
元気なクレイくんと会う楽しみが一つ増えたことに、つい笑がこぼれてしまった私の頭にアナベラさんのゲンコツが直撃した。
「あんたへと説教はまだ終わってないわよ。」
結局、アナベラさんのお説教は一時間に及び続き。教会への説明や対応に追われ、気づけばその日は終わってしまっていた。