舌のない店主
「…………」
私はバディを体に纏った【メタモルフォーゼ】状態で使用する武器を求めて、舌のない店主の武器屋にやって来た。
店主の名前はエイブラハム。彼の体は店の店主と言うには鍛えられており、体には幾つもの深い傷がある。店を利用する客が元軍人なのではないかと噂をしていたのを聞いたことがあるが、彼の過去は定かではない。
「エイブラハムさん。これは、どう使うものですか?」
店主のエイブラハムさんは私の指差す三つの部品を組み立て、組み立てた杖を構え実演してくれた。
一度目は杖の柄を両手で持ち槍のように突いてみせ。二度目は杖を逆さに持ち、ハンマーのようにグリップを床に叩きつけ。最後にボタンを押しながらグリップを曲げると、仕込み杖になっており、中から美しい刀身が姿を表した。
エイブラハムさんの動きは素人のような武器に振り回されている様子はなく、むしろ武器の特徴を掴み百二十%を引き出していている。
「相変わらず凄いですね……これにします。」
この店に通う客はエイブラハムさんが上手く話せないこともあり、私のような人に言えない仕事をしている人間が多い。エイブラハムさんはそういった仕事を理解しているのか少し変わった武器をよく店に並べている。
私がエイブラハムさんに代金の交渉をしていると。勢いよく店の扉が開かれ、身なりのあまり整っていない三人の男が店に押しよってきた。
「おっ……ほんとにいるじゃん!お久しぶりですねエイブラハムさん。元気してましたか?」
どうやら入ってきた男たちはエイブラハムさんの知り合いのようだ。アメリカ訛りの目立つ発音でエイブラハムさんに親しげに話しかけている。
「………………」
「無視するなんて酷いな〜。遥々アメリカからあなたに会いに来たって言うのに……」
エイブラハムさんは男の言葉に返事の代わりに口を開けて、舌の切断面をが相手に見えるように、できる限り伸ばして見せた。
「……そういえばそうでしたね。貴方は情報を漏らさないという覚悟を示すために舌を切って出ていった。」
先程まで笑顔だった男の顔は引き攣り、苦虫を噛み潰したような表情となった。
「ほえで、あにをひにききゃ」
「それで、何をしに来た」エイブラハムさんの口から放たれた言葉はかろうじて理解はできたものの。舌がないため適切な発音はできていなかった。
「ボスが亡くなったんですよ、……エイブラハムさん。それが何を意味するか分かりますね?」
男たちは腰から銃を抜き取り構えた。
「……!」
男たちが発砲するより早く私は銃を抜き取り、それよりも早くエイブラハムさんが動いていた。
エイブラハムさんは軌道を読んでいるのか、ほぼ同時に放たれた三発弾丸に当たることなく一瞬で男たちとの距離を詰めた。
「クソ……!」
二人は距離をとり、残った一人はエイブラハムさんに拳をふるった。
「あ……がぁ……」
エイブラハムさんは拳を避けることなく額で受け止め、そのまま男の首を掴みあげ、発砲されないよう肉壁として利用した。
「チッ……」
掴まれていない二人はエイブラハムさんを挟むように位置取るが、エイブラハムさんに焦りは見えず、片方に掴んでいた男を全力で投げ飛ばし、残った男の顔に強烈な一撃を食らわせた。
「な……化け物が!」
一撃で意識を失う仲間を見た二人は、銃に込められた残りの弾丸を全てエイブラハムさんに解き放った。
「………………」
エイブラハムさんは前のめりに膝をかがめて内蔵を守り、頭部を守るために腕を前に出した。
男たちの持つ銃はS&Wの38口径リボルバー、同時に五発から六発の銃を発砲することができる。男たちは初めに一発の弾丸を放っているため最大でも十発の弾丸がエイブラハムさんを襲う。
「……………」
三秒間続いた弾丸の雨を正面から受けたエイブラハムさんの腕と足は、大量の血液を滴らせながらも、かろうじて腕の機能を失ってはいなかった。
「……な!」
そこからは一方的だった。銃という有利を失った男たちは、エイブラハムさんの弾丸を受けた腕と足で、二度と歯向かわないように暴力……もとい教育を体で受けた。
エイブラハムさんにより腕と足を数本折られた男たちは店の外に追い出され、店の中には私と血塗れのエイブラハムだけが残された。
「……協力できず申し訳ありません。」
男たちが、どこかの組織に所属していると考えた私は、エイブラハムさんに手を貸さなかった。そのことについて反省はしていない。だが、目の前の血塗れのエイブラハムさんを前に、これ以外かける言葉が見つからなかった。
「………………」
エイブラハムさんは何も言い返すことなく、私に手のひらを突き出した。
「え?」
「……おあい」
一瞬戸惑ったが自分の左手を見て我にもどる。
「……お代!そういえばまだでしたね!」
私から代金を受け取ると、いつも座っている椅子に腰掛け、本を読み始めた。
(タフだな……)
今日は新しい武器を手に入れると同時に、怪物よりも恐ろしい人間がいるということを知ることができた一日だった。