不格好な協力者
千八百九十二年 十一月八日 ロンドン イズリントン区
クレイくんが連れ去られた事件以降、至る所で怪物の活動が活発になってきており。一度、教会が居場所を知る怪物へのカウンセリング……もとい脅迫を行うこととなった。
「お久しぶりですねホランドさん。」
アルベルト・ホランド。イズリントン区で起きた狼男による連続殺人事件。同族の犯行を止めるため協力をしてくれた心優しい狼男。
「え……エヴァさん。……どうしてここに」
ホランドさんは明らかに戸惑った表情を見せながら私と顔を合わせた。
「君たち狼男のために来たというのに、その反応はないんじゃないか?」
「す……すいません!……あがってください。」
軽口のつもりだったのだが……どうやら彼には高圧的に見えたようだ。
「あの……その……話って……」
出涸らしで入れた紅茶に小さなパンの欠片。彼なりの応対に感謝しながら口に運んでいると、ホランドさんが急かすように私に尋ねた。
「そうだね、先に話してしまおう。今日は君に頼みがあって来たんだホランドさん。」
「頼み?俺にですか?」
紅茶を一口飲み込み、ホランドさんに要件を話す。
「最近になって怪物たちが騒がしくしているのには気づいているかな?」
「……えぇ、まぁ。」
歯切れの悪い返事。何かを隠しているようだ。
「今回は教会の代わりに知り合いの怪物たちに、おかしなことをしないよう釘を刺すのが依頼でね。できればここのリーダーと話がしたいのだが、紹介してはくれないだろうか?」
「…………」
ホランドさんはしばらく考えこんだ末、何かを覚悟したかのように重たい口を開いた。
「実は……」
「それで?何をとち狂ったら人間を連れてくることになるんだ?アルベルト。」
ホランドと話してから一時間が経過した頃、私は六人の狼男が廃墟に集まっている会合へとやって来た。
どうやらイズリントン区の狼男たちは人間への復讐を企てていたようで、ホランドさんからは穏便に止める方法はないかと相談された。
「この人は今年起きたイズリントン区で起きた狼男による殺人事件を解決してくれた探偵で、皆を説得するのを手伝ってもらおうと思って……」
「説得ねぇ……説得に銀製の武器は必要ないんじゃないか?それに……何か嗅いだことのない悍ましい匂いが、その女からは薫るなぁ……」
六人の狼男は全員年老いており、ただならぬ空気を漂わせている。
「いくら銀の武器を使ったとしても、所詮は人間の女。我々に勝てるとも思いませんがな」
「ケタケタ」とバカにするように狼男たちは私を笑ったが、意に介さない様子が気に入らなかったのか笑顔は崩れ、怒りの表情が顔をのぞかせた。
「……気に障る女だな。何とか言ってみたらどうなんだ。それとも、怖くて声も出ないのか?」
「ハァ……警告になんて来るんじゃなかった。」
小さく呟いた声は当然のように狼男たちの耳にも届き、一人の狼男が私を睨んだ。
「警告だと……一体何を警告しに来たって?」
「教会からの警告です。人間を襲う怪物が出た場合、加担した加担していないを問わず、一族毛頭皆殺しにするそうです。」
【教会】という単語が私の口から飛び出すと同時に狼男の余裕そうな表情は消え去った。
「ホランド……お前、教会の人間を連れてきやがったのか!」
一人の狼男は瞬間的に変身を行い、ホランドさんへと襲いかかった。
ホランドさんに襲いかかろうと飛びかかった狼男の頭に右手に持った杖を全力で振り下ろす。
「グッ……」
「ゴンッ」という低い音をたてて怯みこそしたが、狼男に目立った怪我は見られない。
それもそのはず、狼男に生える体毛は生え変わるほど丈夫なものとなり、長年生き延びた狼男のそれは、体毛呼ぶには頑丈でしなやかなクッションのようなものとなっていた。
「娘……やってくれたな……」
一人を除き、五人の狼男が変身をして私に襲いかかった。
「バディ……」
私の声に反応したバディは入っていた魔法瓶を突き破り、ドロドロとした不定形の体で私のコートを覆った。
一人また一人と襲いかかる狼男をコートの形となったバディが自動で応戦する。
「ホランド……貴様!一体、何を連れてきた!」
慌てる年老いた狼男と怯えているホランドさんを他所に私はダメだしと言わんばかりに、腰のホルスターから銃を抜き取り自身の頭へと突きつけた。
「ルシファー、三十分。」
銃口から放たれた黒い煙はみるみると人の形を作り出し、黒いスーツに身を包んだルシファーが姿を表した。
「エヴァ。私は何をすればいい?」
「殺さない程度……そうね、腕や足を折るくらいに痛めつけましょうか。」
ルシファーの加わった戦闘は長くは続かなかった。次々と襲いかかってきた狼男をなぎ倒し、最後には変身せずに腕を組んだままの一人が残った。
「降参だ……」
腕を組んだ狼男がこの一言を口にすると、倒れた狼男たちは変身を解いた。
「ホランドさん、この方は?」
「こ……この人がイズリントン区の狼男を束ねるリーダー。レオン・グレーテルさんです……」
名前を教えてくれたホランドさんの体は小刻みに震えていた。
「まずは礼儀のなっていない私の旧友を殺さないでくれたことに深い感謝を……。」
レオンさんは私に向けて深く頭を下げて礼儀を示した。
「そして安心してくれ。私たちは人間を襲ったりはしない。」
「……今の現状を見て、どう安心しろと?」
彼の言葉には言い表せぬ説得力があったが。襲いかかられた手前、簡単に信じる訳にはいかない。
「狼男の会合に銀製の武器を持ってくるのを悪いとは言わないが、持ってきたのであれば襲われても文句は言えないはずだ、違うかい探偵さん?」
「……そうですね、今日のところは帰らせていただきます。ですが、今回のような行動は気をつけてください。ここにやって来たのが私だったから良かったものの、
私が背を向け扉へと向かうと、ルシファーは煙になり銃の中へと消え、バディは「ドロドロ」とした無定形の状態に戻り、私の後に続いた。