フランケンシュタインの怪物
千八百九十二年 四月 二十日 十三時 十五分ブラウン探偵事務所
「墓荒らしですか……」
ロンドン南東部のルイシャム区 デプトフォード・ハイストリートにある私の探偵業に一人の女性が尋ねてきた。
「そうなんです……最近埋めたばかりの墓が五つやられました。」
依頼者の名前はアーヴィン・カルンズ。五十台後半の容姿で、余程眠れていないのか目は充血していて体からは疲れが見て取れる。
依頼者の仕事は葬儀屋らしく、埋められたばかりの死体が盗まれたので、探すのに協力してくれとの事。
「わざわざ、私の事務所に足を運んだということは……」
「……見ちまったんです、怪物を。」
「詳しく聞かせてください。」
「今からちょうど一週間前の夕方頃です。いつものように以来のあった遺体を埋めるための穴を堀に向かっていると、墓の前に一人の男と怪物がいたんです……」
「怪物の姿は?」
「怪物は……なんて言ったらいいんだ。蜘蛛?いやカニか?足が沢山あって、鉤爪があって、それから……」
依頼主の男性は思い出しながら必死に話そうとするが、その手は酷く震えていた。
「無理に思い出さなくても大丈夫です。一緒にいた男には何か特徴はありましたか?」
「……男は、酷く痩せていたのを覚えている。そして背は平均的で……あの体型なら学者先生かもしれない……」
五フィート五インチ(百七十五センチ)。それがイギリスに住む男性の平均的身長。そして痩せている……怪物もだが思い当たる節がある。奴らが手を組んだとなるとマズイかもしれない……。
「わかりました。依頼はお受けします」
「本当ですか!」
「はい、遺体の回収は何とかしてみせます。それにあたりカルンズさんは私の昔お世話になった教会に向かっていただきます。」
「教会……ですか?」
「カルンズさんは、あまり眠れていないようなので、神父様にお話を聞いていただくとよろしいかと。」
「何から何までありがとうございます……!」
あそこならカルンズさんの身の安全も保証される。私はカルンズさんを教会まで案内をして、依頼主が怪物を見たという墓場へと向かった。
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十六時 三十分 ハイゲイト墓地
依頼主が墓守をしているという、ここハイゲイト墓地には数々の有名人が眠っている。カール・マルクスもその一人である。
マルクスの唱えた【資本論】は現在のイギリスが抱える大きな問題だ。資本が集約することにより、企業は成長し便利な道具を使い効率を求める反面。少ない労働者で足りてしまうようになり、失業者が増える。
産業革命によりイギリスは大きな力を手に入れるとと共に大きな闇を抱えてしまった。もしかしたら、そんな闇が怪物を生み出しているのかもしれない……そんなことを考えながら散策していると、一匹の怪物が現れた。
その怪物は三対の足を持ち、その先端には依頼主の言っていた通り、鉤爪が付いている。頭からは渦巻き状になっており多数の触覚が生えており、背中には飛行するためと思われるコウモリのような羽が生えていた。
(やはりミ=ゴか……)
その書物に乗っていたミ=ゴの情報は大きくわけて三つ。一つは地球の外から現れた存在であること。二つ目は人間よりも遥かに高度な技術を用いること。三つ目が気に入った人間の脳を
そんなミ=ゴは目の前で墓石に刻まれた文字をじっくり観察してから、宙に浮いたかと思うと、その場から消えてしまった。
「……ルシファー、三十分」
私は即座に自身の頭を撃ち抜き、寿命を引き換えにルシファーを顕現させた。
「さっきの怪物を追って居場所を報告して。」
「了解した」
過去にも姿を消す怪物と対峙したことのある私はルシファーなら追えると判断し、追跡を任せた。
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二十時 五分 ハイゲート地区 とある廃墟
追跡を終えたルシファーから居場所を聞いた私は、遺体の回収のため、とある廃墟へと向かった。
廃墟と言っても、路地裏にある小さな古民家。その中に盗まれた遺体が存在するのだという。廃墟の前に着いた私は、右手にナイフを握り扉を開け中へ入った。
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同時刻 廃墟中
廃墟の中は蜘蛛の巣やホコリで覆われており、人が足を踏み入れた形跡といえば、ホコリの上を歩いた足跡くらいのものだった。
私は一歩一歩、周囲を警戒しながら足跡の上を歩き、足跡の終着点の扉の前へとやってきた。
(私の予想が正しければ、今回の相手はミ=ゴじゃない……)
ドアノブに手をかけ「ガチャリ」と回すと同時に、古びた扉は突き破られ、私は突然現れた男の手に首根っこを掴まれた。
「ぐ……が!」
私を捕らえた男の手は、扉を開かぬまま、私を無理やり部屋の中へとねじ込み、窓の外へと放り投げた。
「……げほっ……がは!」
部屋の中で一瞬見た光景、それは今まで想像に過ぎなかった予想を確信させた。
(やはりフランケンシュタイン博士は……ミ=ゴと手を組んだのか……!)
ヴィクター・フランケンシュタイン博士。彼は各地に現れては継ぎ接ぎの怪物を生み出し、姿を消す。
彼に作り出された継ぎ接ぎの怪物は、墓から盗まれた遺体から上等なパーツ切り取り組み合わされたもので、理性を持ち合わせていない。その身体能力は計り知れず狼男や吸血鬼よりも戦いたくない相手だ。
そんな怪物を作り出す男が考えうる限り最悪の相手と手を組んでしまった……。
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二十時 十五分 廃墟外
継ぎ接ぎの怪物は私が放り出された窓から飛び降り、私の前へと立った。
「君は一体何者だ?どうやって私を見つけた?」
私の嫌な予想は当たってしまった。不完全だった継ぎ接ぎの怪物は、ミ=ゴの技術により理性を併せ持つようになり、真の怪物と成った。
「私は探偵でね……遺体を回収する仕事だったんだが……依頼主には、どう報告すればいいかな?」
継ぎ接ぎの怪物は複数の遺体からできている。つまり、既に遺体はバラバラに切断されていることになる。
「……それは、悪い事をしたね。まぁ、やったのは私ではないが、彼らには感謝しているよ。何せ私を蘇られてくれたのだから!」
「あなたは……」
「失礼、まだ名乗っていなかったね。私の名前はアダム・ワース。それともヘンリー・J・レイモンドと言った方が
アダム・ワース、またの名をヘンリー・J・レイモンド。 彼の犯罪は革新的で証拠を見つけるのが難しく、ヤードのロバート・アンダーソン刑事には、現在はモリアーティ教授を指すあだ名「犯罪界のナポレオン」と呼ばれていた。
「また、犯罪を起こすつもりですか、アダム・ワースさん」
「もちろん!むしろ、他の奴らはどうしてマトモに働くことができる?貴族は働かずに飯を食い、私たち下層階級の人間は半日以上の労働を強いられる。理不尽だとは思わないか?だから、私は私が幸せになるため犯罪を犯す!」
彼の主張を否定することはできない。彼も今のイギリスの被害者なのだろう。だけど……。
「残念でしたね、あなたには墓に戻ってもらいます。」
「ハァ……まったく……可愛らしい探偵さん。そういう言葉は勝ちを確信した時に使うべきだ。なぜなら君は私を取り逃して、恥をかくことになるからね。」
私はアダム・ワースにナイフを投擲し、ホルスターから弾丸の込められた銃を取り出し三発発砲した。
「……凄まじいね。だけど、この体を手に入れた私には止まって見えるよ。」
アダム・ワースはそう言うと高く飛び跳ね屋根の上て登った。
「ルシファー!三十……!」
私はルシファーを呼び出すための銃をもう片方のホルスターから引き抜こうとしたが、アダム・ワースが指で弾いた小石が手に当たり、それを阻止された。
「何をしようとしたかは知らんが、切り札だったのかな?今回は残念だったね探偵のお嬢さん。機会が会ったらまた会おう!」
アダム・ワースは屋根から屋根へと飛び移り、霧の濃いロンドンの街に姿を消した。