曇天があなたを隠すなら   作:ネコノトリ

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第8話

チョー・チョー人の三合会

 

 千八百九十二年 六月二十日 グールの酒場

 

 「それで、話って?」

 

 私は事務所に押しかけてきた取り巻きのグールに連れられ、ハッドンさんの営む酒場へとやってきていた。

 

 「あんた……|曇天《クラウディ」を探してるってのは本当か?」

 

 「どこでそれを知った?」

 

 私の過去をどこまで探られたか分からない。酒を飲む手を止め腰のホルスターに片手を置いた。

 

 「落ち着いてくれ。どこで知ったかも込で話があって呼んだんだ。」

 

 少しも取り乱していないハッドンさんを見た私はホルスターから手を離し、再び酒の入ったグラスを傾けた。

 

 「ブラウンさんは、チョー・チョー人のことを知っているか?」

 

 チョー・チョー人は東南アジアに住むミリ・二グリという怪物と人間の混血の生き物で、百二十センチ程の小柄な体格でスキンヘッドの生物だ。人間と同等の知性を持ち、人社会に溶け込んでいる存在も確認されている。

 

 「……三合会から聞いたってことね」

 

 「俺が聞いたのは行方不明者の情報と向かった先だ。だが、奴らは耳が早い。帰る前にアンタの過去を少し聞かされたんだ。」 

 

 三合会……星歩会、黒蓮会、夢達人会の三つのチョー・チョー人が取り仕切る組織からなる団体。貿易会社として様々な事業に関わる反面、人身売買や密輸などの様々な犯罪に加担している。

 

 「俺たちはあんたに見逃してもらった恩がある。」

 

 「これは?」

 

 ハッドンさんから一枚の綺麗な装飾の施されたカードが渡された。

 

 「それは三合会の一つ星歩会への招待状だ。これがあれば少しは曇天についての手がかりを得られるんだじゃないかと思ってな。」

 

 三合会の組織は全て招待制で利用者のほとんどを怪物が占めている。人間……それも怪物を退治している探偵事務所に招待状を渡したことがバレたら、ハッドンさんはタダではすまないだろう。

 

 「……礼は言わないわよ。」

 

 「必要ないさ。だが、気をつけろよ。星歩会は怪物の巣窟だ、お前がエヴァ・ブラウンであることは悟られるなよ。」

 

 「もちろん。これでも変装には自信があってね。心配入らないよ。」

 

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 六月 二十二日 星歩会の経営するレストラン

 

 「いらっしゃいませ。当店は招待制になっております。……はい、確かに確認いたしました。では、お席の方に案内させていただきます。」

 

 店に入ると四十代ほどに見える背の高い男が店の奥から現れ、接客をしてくれた。店の内装は東南アジア風の装飾が施されており、慣れない景観はどこか異界を彷彿とさせた。

 

 私が招待状を見せると、小さな個室に案内され一枚の紙とペンを手渡された。

 

 「当店にはメニューというものがありません。お客様が望むものを表面に、払われるお代を裏面に記入ください。五分後に回収に参ります。では、失礼いたします。」

 

 長身の男は説明が終わると個室から離れた。ハッドンさんから聞いた話では、支払われた代価によって提供されるグレード変わるらしい。

 

 注文するものは食べ物に限らず、情報や武器、ドラックなど多岐にわたる商品が提供される。それはこちらが支払う代価も同じで、どんなものでもお代として受け取り、お代に見合う商品を提供するのが星歩会のやり方らしい。

 

 「ご記入は終わりましたでしょうか。」

 

 足音もなく個室に近づき、戸を開けたウエイターに紙とペンを渡すと、頭を下げ店の奥へとまた消えた。

 

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 三十分後

 

 「お客様、大変お待たせして申し訳ありません。お客様の求める情報なのですが、大変貴重な情報でして。お客様の支払われた代金ではこれが限界のようです。」

 

 私が支払ったのは情報。父や母が奴隷や怪物を売ったとされれ悪徳貴族の個人情報。悪行や家族構成、住所まで利用しようと思えば、星歩会が利用すれば莫大な富を産むことができるだろう。

 

 「そこで、オーナーからの提案なのですが。お客様が直接会ってくれるなら伝えてもいいとの事です。」

 

 オーナーを任せられているということは間違いなく人間ではないだろう。だが、曇天(クラウディ)の情報は少しでも欲しい。私はオーナーの出した条件を了承し、ウエイターの案内でキッチンの奥の事務室に案内された。

 

 「初めましてMissブラウン。私の名前はトゥオン、このレストランのオーナーしている。」

 

 チョー・チョー人特有の小柄な体に髪のない頭。そんな存在が高価な椅子に腰掛け、自身より背の高い机に肘を乗せている。

 

 (名前がバレている?招待状にも偽名を書いてもらい、新しい服を買って変装までしているのに、なぜバレた……。)

 

 私は自身の迂闊さを反省しながら、ホルスターから銃を抜いた。

 

 「そう、警戒しないでくれ。私は君のと争う気はないよ。何せ君は、元神の使徒(アポストル)第六席 慈悲のブラウンだからね。君を殺しきるなら星歩会の従業員と会員を全員集めないと難しい。」

 

 そう言うとトゥオンと名乗るチョー・チョー人は椅子から飛び降り、私の顔を見上げ、少し笑うと、再び話を再開した。

 

 「私は君の怪物を退治する能力を高く評価していてね。そこで、どうだろう?|君が星歩会から依頼があった時に、他の人間からの仕事と同じように考えてくれるなら、知り得る限りの曇天《クラウディ》の情報を先に提示された情報で開示しよう。」

 

  (悪い条件ではない……というか私にとって不都合がない条件だ、もしも依頼の内容が気に入らなければ断っても問題ないということ……何か裏があるのか?)

 

 「……悪いが君たちの目的がさっぱり分からない。そんな状態で条件を受け入れる訳にはいかないな。」

 

 私の言葉を聞いたトゥオンは驚いた表情を少し見せると、ゲラゲラと大きな口を開け笑い始めた。

 

 「やっぱり君は……覚えていないようだね。私たち星歩会のチョー・チョー人は幼い君に会ったことがあるんだよ。人間は生まれてまもない頃は記憶がないとは聞いたことがあるが、どうやら本当のようだね。」

 

 「私があなたたちと?」

 

 「そう。正確に言うなら君ではなく、君たち。君の父上や母上とは交流があってね。星歩会のボスは君の両親に大きな借りがあり、それを返す前に亡くなったことを悔やんでいた。」

 

 父と母と交流があったと聞き、何を通して交流があったのか、聞く気にはならなかった。父と母は人間や怪物を奴隷として売買していて、その際に何らかの関わりがあったのだろう。

 

 「なんせ君の嫌う怪物だから、我々から君に接触するつもりはなかったんだが……君から私たちを頼りにしてくれるなら話は別だ。本来は怪物としか取引はしないが、君との取引は受け入れよう。」

 

 三合会のチョー・チョー人は三つの団体で別々の邪神を崇拝している危険な団体ではあるが、性格は真面目で、取引をする相手としては信用ができる。

 

 「分かったわ……条件を飲む。」

 

 「交渉成立だ。それでは奥の部屋にどうぞ。紅茶でも飲みながらゆっくり話そう。」

 

 この後聞いた情報は知っているものがほとんどだったが、有益な情報も幾つか知ることができた。

 

 一つは、曇天(クラウディ)はモリアーティ教授と関わりがあるようで、悪を良しとしない彼にとって弱者の味方であるモリアーティ教授は悪という認識ではないこと。

 

 二つ目は労働階級の彼らに英雄として扱われていること。今の社会で弱者に味方をするというのは、並大抵の勇気と力では成立しない。優秀な探偵を五人殺したことも考えると超常的な力を使う可能性も考えられる。

 

 後は好物や性格など噂の域を出ない情報だけだったが、どんな情報でも集まれば最後には奴に辿り着くことができる。

 

 私が奴に復讐を果たした時、人類の敵である目の前の異形との混血に少しの感謝と敬意を示さなくてはならない。いずれ敵対することになったとしても、今日この日は、共に紅茶を飲めたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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