酒に狂った男 作:鶏肋
石実現、
「女より弱い男は、屑だ」
親父は弱い男だった。物理的にも精神的にも。
強い男だったら、きっと母さんの尻に敷かれてない。こんな暴言じみた教えを自分の子供に植え付けたりしてない。
何より、俺を遺して母さんの後を追うなんて真似はしない。
「ごめんな。こんな屑の血を、
母さんは強い女だった。だから弱い親父を尻に敷いて、引っ張って、病気がちな親父に変わって働いてた。苦しい時ほどよく笑う、とても強い人だった。
でも死んだ。働き先で、通り魔に刺されて。
弱い親父は、その場にいる事さえ叶わなかった。
「お前は楓に似てるから。間違っても、俺みたいになるなよ」
棺に縋りついて親父は言う。その姿は本当に惨めで、情けなくて、母を亡くしたばかりの齢6つの身ですら涙が引っ込むほどで。
「強い男に、なってくれ」
ああ、分かってるよ。言われるまでもない。アンタみたいに生きるのなんて絶対に御免だ、マジで反吐が出る。
俺はアンタのように女に縋りついたりしないし、言われるが儘になんてならない。後塵を拝するなんて以ての外だ。
男は女より強く在るべきだ。
男は女より上であるべきだ。
男は女より先を歩き、前を行き、そして────
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「起きろ~。おーい、なんちゃってイシミソジニスト~。略してイシミソ」
「誰が糞味噌だッ!──なんだ諌山かよ」
どうやら数秒ほど
「あゝ98点……痛恨……」
「いや凄いじゃん。私なんて赤点ギリだよ」
「んなワケあるか」
凡ミスで失った2点がどれほど大きいか、悩みの種が飯の事しか無い貴様には分かるまい。何故なら俺が躓く所で、
「ハイ次、才川ー」
この先生の特徴として、最高得点を取った生徒には最後に手渡ししてその点数を公表するという悪癖がある。つまり順番が飛んだ時、ソイツがこの期末テストの勝者だと分かるという絡繰り。
俺は祈った。どうか順当に“次”が呼ばれてくれと。
でも同時に、“次”の奴以外が俺を差し置いてテッペン取るのも嫌だ、とも。
結果は……
「次、須藤ー」
「カハッ」
「……乙~」
飛んだ。飛んじゃった。確定、ハイさよなら。
真美の憐れむ視線にプライドを八つ裂かれながら待つ事1分。とうとうほぼ全員に配り終え、そして最後の一人となった。
「じゃ、大トリも大トリ!最高得点は~~~!」
分かってたよ。チクショウ。
女のクセに、女のクセに。女のクセに俺より先を往きやがって……!!
「100点満点!酒寄~!!!」
「……あは、は。どうもです~…」
(酒寄彩葉ァァァァァッ!!!!!)
この学区で俺が握ってた覇権を、一瞬で切り崩した余所者。その小綺麗な顔が、困惑しながらも喜びに染まる光景を、俺は妬ましく呪う他無いのだった。
「……石実はさ~。もしかして彩葉のこと、好きだったり?」
「分からん!」
「少なくとも自覚は無し、と。メモメモ」
突如立ちはだかった異性の壁に激突した彼は、しょーもないようなそうでもないような苦悶に身を焼かれていたのでした。
事の始まりはと言えばそう、入試。我が厄介なる幼馴染が、我が誇りある友人に対し喫した記念すべき初敗北がそれ。
昔っから自由・気まま・横暴、なのに成績優秀だから大人もあんまり強く出れない。咎める親もその……いなかったゲンちゃんの鼻っ柱を、まるで雷の如く
しかもテストの点数だけに留まらず、体育で勝ち、風紀で勝ち、信頼で勝ち、もう瞬く間に席巻したのなんのって。友人数や先生からの好感度でも負けた挙句なんなら見放されて、ゲンちゃんの友達が私一人だけになった時期さえあった。あ、コレは今もか。
ちなみに私も彼の味方って訳じゃなくて、既に彩葉派閥。言わば二推し、帝様と併せて三推しでーす……流石に冗談でもゲンちゃんが推しは無いや。メンゴ。
「で。その石実
「その呼び方やめて~、言い方もやめてぇ~」
「ぅゎめっちゃ嫌そう」
そんなこんなでこの諌山真実、現在進行形で彩葉党──彩葉本人、および中学からの親友である芦花と女子会中であります。と言ってもお昼ご飯を共にしてるだけなんだけどね。
「う~ん。石実のヤツに関して特に面白い話のタネは無いかな、先に言っとくけど。昔なじみの腐れ縁でしか無いから」
どうしてそんな姦しい女子会にてあのイシミソなんかの話になってるかというと、なんとなんと彩葉が聞いてきたからだ。ま、まさか!あんまりにもしつこく敵視されてる内にその毒牙に!?
「違う違う、本当にそんなんじゃないよ。ただなんであんなに目の敵にしてくるのかなって」
なんか悪い事しちゃったのかな、と反省する彩葉に思わず瞠目。うわ眩しっ。善性が輝き過ぎて網膜焦げるっ。あんな奴の所為で気を揉ませてる現状自体が申し訳無さ過ぎるぜ……。
「いーの。気にする事無いって、あんなヤツがどう喚こうがひっくり返ろうが。あぁもし万一、億が一、アイツの事が気になったとしても!絶対やめといた方が良いから!!彩葉の為に断言する!!!」
「そんなに!?」
「石実はね、なんとこのご時世で男尊女卑主義なの!令和のこのご時世でだよ?!付き合うこっちの身にもなれっての、あ~あウンザリ」
私の物言いに目を白黒させた彩葉が、審議を問うべく視線を投げた先は芦花。返される答えは、伏し目がちの首肯。
「まぁねー……『女のクセに』が代名詞、って言われる程度には」
「最悪じゃん。真実、なんでアイツから離れないの?こっちの方が心配になって来たんだけど」
「ダイジョブダイジョブ~。こう見えて割と楽しんでたりもするから」
悪しざまに罵ったけども、このポジに収まったのは自分の意志。アイツの手綱を握れるのは私だけなんだから、精々面白おかしく踊らせてやろうじゃないの。
そう吹かしながら見下ろしたカフェテリアから中庭。そこで独りパンを食むゲンちゃんの姿が視界に入って、思わず目を逸らした。
……芦花にはバレちゃったかな。
Q.ヤチヨどこ?
A.ヤッチョなら主人公の隣で寝てるよ(笑)