酒に狂った男 作:鶏肋
FUSHI「…………」
「ステーキ焼けたぞ。次どうするよ」
「肉寝かせて!あ、火を止めて蓋に濡れ雑巾かぶせるって意味ね!」
「装飾終わったけど手伝える事ある?」
「大丈夫、
「礼の品???」
「男には知らなくて良い世界があるのっ」
「あらあら、真実ってば張り切っちゃって」
ママが趣味で拡張してたキッチンをフル稼働して、私とママとゲンちゃんと芦花でパーティの準備に勤しむ。もうちょっとで彩葉が来る時間、それに合わせて熱々の料理を間に合わせないと。
ってゲンちゃん!つまみ食いしないのーっ!!
「いやぁ悪い、あまりにも旨そうだからつい……ってマジで美味過ぎだろ。引くわ」
「まぁママ直伝のソースに私のグルメ知識を加えて
「石実君。ここだけの話、真実ったら君の好みに合う味付けを研究してた時期があったのよ」
「ママー!!?!?」
「はぇー研究熱心」
秘密を盛大にバラされて焦るけれど、本人はどこ吹く風で勘違い&スルー。ここまで引っ掛かる素振りが無いと逆に腹立ってくるね。
と思ってたのも束の間。
「真実ちゃんみたいな子と将来結婚する奴が羨ましいですわ。こんな積極的な女の子と一緒になれるなんて嫉妬する他無いですもん」
「え?」
\ズコーッ!/
「真実ぃ!?」
こ……ここにきてそんな頓珍漢な発言をかましてくるとはさすがに思わなかったッ!私は思わずズッコケるし芦花には心配させちゃうし、あのママすら呆れさせるってホント相当だからね?
舐めててごめんゲンちゃん。キレちゃったよ久しぶりにさぁ……!!
「綾紬さん、ウチの子大丈夫かしら?まさかゲンちゃんとの仲がここまで進展してないとは思わなかったのだけれど、親としてもっと背中押した方が良いのかしら」
「場合によっては援護頼むかもです。申し訳ありませんホント」
「謝りたいのはこっちよ。ウチの娘を助けてくれてありがとうね」
「ちょっと~。井戸端会議開いてる暇あったらママはゲンちゃん手伝って~。芦花とは私が話すから~……!」
「おーい真実ー。不味い事言ったなら謝るから、何処が悪かったか教えてくれねぇか」
「うるさい。そこでモヤモヤしてて」
「酷ぇや」
「いやぁ娘がごめんなさいねホント」
ママを体よく追い払いつつ、気分転換もかねて芦花と合流。準備も大詰め、後は完成と並べるだけの所まで来たって感じだ。
喜んでくれるかな、彩葉。ゲンちゃんも楽しめると良いな。
「……作戦、上手くいくと良いけど」
「いくよ。だって、これまでもそうだったもん」
彩葉とゲンちゃんが正面からぶつかり合えた、今回の
それに二人の対立に一旦の決着がつくって事は……私達の想いを一歩先に進める、丁度いいきっかけになるって思わない?
「……まさか」
「芦花。彩葉に告っちゃいなよ」
私もゲンちゃんとの関係、前進させるから。
そう告げたら、芦花の顔色は真っ赤と真っ青を反復横跳び。ぷぷっ、綾紬二面相だ。
「いやいやいや冗談じゃないって!──って言いたいところだけど、本気なんだろうなぁ。石実との関係まで引っくるめてる辺り」
「もちろん無理にとは言わないよ。でもここまで彩葉の世界に踏み込んだんだし、いっそ最後まで突き通してみない?」
友達としての善意──出歯亀根性も無きにしも非ずだけど──で芦花の背中を押す。いつも一歩引いてた親友が、幸せを勝ち取れたら良いなって思いで。
大丈夫。芦花1人じゃない、私も一緒。そしてあなたには彩葉が、私にはゲンちゃんがいるから。
「信じようよ、私達が好きになった2人をさ」
「……真実のクセに先輩ぶっちゃって。でもありがと」
「どういたしまして〜☆」
そう。信じてたんだ、2人のことを。ゲンちゃんと彩葉を心から。
でも、2人は。私達から信頼はあっても、2人から私達への信頼があっても。
2人同士の、信頼は。そこに考えが及ばなかった。
だから全ては……私の浅慮が招いた事なんだ。
死にたい。
死なせてくれ。
死ぬべきだ。
死ねよ。
死ね。
死ね、死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねあっ良いとこに橋
この程度じゃダメだ。
石。頭突き。
痛くない。石が割れた。ダメだ。
水。
溺れれば。
底なら見つかりにくい。迷惑も少ない。
服に石。詰め込んで。
母さん。ごめん。
俺、父さんみたいに、なっちゃった。
だから、父さんみたいに、そっちに。
「────ッ」
唇に柔い感触。そこから送り込まれる温かい生気に、モノクロの視界が開く。
「ゲンちゃん、息して!……っんむっ……ふぅーーーっ……!!」
まみ。
マミ。
真実。
「~~~っけほっ!はぁ、はっ、おねがい……んんっ────」
口移しの酸素が肺に渡り、血に通う。それが体を巡って脳に達した刹那、目醒めた。
そうか。
俺は、死のうと。
「ま……み……」
「!!っ、ゲンちゃん!ゲンちゃん……ッ!!」
ズブ濡れの真実。水を含んだ髪が重く、カーテンのように俺の視界いっぱいに広がって、彼女以外の総てを見せないようにしてるみたいだ。その中心に座す真実の、その目から零れる真珠の輝きが、俺の頬に降り注いでいた。
それを塗りたぐるように手を這わせ、真実は俺を掻き抱く。
「ごめんね……!私がわるいから……ゲンちゃんはなんにも、わるくないからッ」
「……血……」
「ぁ、あぁ!ごめん、すぐ止める!今はこれでガマンしてっ、救急車も呼──ケータイ忘れたっ、ああもう!」
違う。橋から飛び降りた時、割れた額から流れる血が、お前の服を汚しちまうと思ったんだ。服を破いてガーゼ代わりにして欲しいだなんて、そんな事微塵も思っちゃいない。
けれど回らない舌では説明する事も叶わず、目の前で躊躇なく破られるスカート。勿体ない。俺なんかの所為で、真実の服が。
もう……やめて、くれ。
「いみ、ない」
額の傷口へ必死に布を押し当てていた真実の手が、止まった。
「きえたいんだ」
最初こそ同情。
一時はより深まり。
けれどやがて、
疎み。
邪魔。
厄介者。
そんな言葉は当時知らなくても、歓迎とは真逆の空気なのは分かっていた。それに取り巻かれながら、「君には新しい環境が必要だ」なんて言われ続けて盥回し。
意味が分からなかった。
俺が存在してる意味が。
何の為に、誰の為に生きてるのか分からなくなっていった。
だから
どんな屑に落魄れる事があったって、父さんとは真逆の存在にだけはならなくちゃ、って。
……誰と?もう覚えてなんかいない。そんな誓いを交わせるような相手なんか、俺にはいなかった筈だしな。
けどその約束が俺を生かした。父さんと違って、母さんのような女を守れるような男に。それだけが俺を肯定してくれると信じて、突っ走ってきた。
「けど、もう、むりだ」
失敗した。
守るどころか、傷付けていたなんて。
「そんなつもりじゃ、なかったんだ」
俺はな。酒寄を、
お前は守られて然るべき存在なんだって示してやりたかった。でもそれは俺がアイツより弱かったら成り立たないから、躍起になって越えようとしたんだ。
俺より強くて俺より頑張れてしまうアイツを、休ませてやりたかったんだ。
怖がらせようだなんて、微塵も考えちゃいなかったんだよ。本当なんだ。信じてくれ。
──それが何の言い訳になる?
「ただの押しつけだって、明らかだったろうに」
結局俺の願望。悍ましい程に未練がましい
それを一方的に叩きつけられたら迷惑だなんて、就学前のガキでも分かることだ。しかも会って1年にも満たない異性に詰め寄られ続けた酒寄の恐怖はどれほどの物だっただろう。
なのに俺は、そんな事からさえ。
「目をそらして、逃げつづけて。あーあ」
──なっさけねぇの。
最後の言葉は、ほぼほぼ息に等しい。まるで末期の呼吸みたいに細く、淡く、空気に溶けていく。
同じように消えて無くなりたい。ただ、そう願った。
「だめ」
そんな願いを、息ごと真実が噛み潰した。
「そんなこと、言わないで」
「まみ?」
「無意味なんかじゃない。そんなのありえない」
真実は泣いてた。同じように輝きを目から溢れさせて、けどさっきまでとは違う。
顔に掛かる雫達が、さっきまで冷え切っていたそれらが、火傷するほど熱い。
「エゴがなんなの。押しつけがなんだっていうの。そんなの、それに救われた私からしたら、なんにも悪くない」
その滴を再び拭う手は、けれど先程より力強く。自分の痕跡を俺に沁み込ませるみたいに。
「ゲンちゃんは、ずっと私といてくれた。ずっと私を守ってくれた。ずっと私のやりたいことを応援してくれた──それが間違ってただなんて、だれにも言わせない。たとえゲンちゃんでも!」
「……っ」
「ねぇ、分かる?私がゲンちゃんを見つけられたのって、あなたが自分で川から這い出てくれたからなんだよ」
……俺が?自分の意思で水に入ったのに、なんでそんな事を。
けれど必死に伝えてくる真実の声に偽りは無く。手を通して伝わってくる真心が、それが嘘ではないのだと突きつけてきた。
「私の呼ぶ声、聞こえたんだよね?……ううん、違っても良い。私はそう信じてる。あなたが違うって言い張っても、勝手にそう
それが自分の尺度で真実の救済を切り捨てようとした俺への意趣返しだとばかりに、彼女は笑って言おうとした。引っかかる表現なのは、川の水と涙で濡れた顔、俺の名を必死に叫び続けて枯れた喉ではぎこちない表情にしかなってなかったから。
「ゲンちゃんは、今も私のねがいに答えてくれたんだって、信じてるから」
けどその気丈な、弱さの中に“つよさ”を湛えた、引き攣った笑みに。
「だから……いわない、で」
石実現は。
「きえたいなんて、いわないでぇっ……!」
俺は。
なんかスッッッッッキリした。それも8時間睡眠を取った土曜の朝に匹敵するレベルで。
真実の家で送った夜はとんでもない快眠だったらしく、その日の朝はお母さんに電話出来るんじゃないかと思い上がったほど*1。一体何がどう私の頭に作用したんだ?寝起きの芦花に聞いたけど
「……覚えてないなら、それが一番良いよ」
ってはぐらかされて終わったし……む。そういや芦花は寧ろ目に隈作ってたっけ。まさか睡眠時間吸い取っちゃった!?というかあの時真実どこにいたっけ、思い出せないんだけど!?
「なーんてやってる内に、突入したばかりの冬休みが終わってしまいましたとさ……トホホ」
しかし全能感も所詮は一時。バイトに勉強に東奔西走してれば時間はあっという間、一人暮らし初の年越しさえも一瞬で過ぎ去ってしまう始末。こんな筈では……流石に正月はもうちょっとぐらいゆっくりする筈だったのに……!
(けど、もう学校始まっちゃうんだなぁ)
そう。始まるという事は、この2週間弱で再び練り上げてきたであろう石実とのデッドヒート(誤訳の方の意味)が再開するという事。いよいよもって油断ならないライバルと
(冬季講習は流石に被らなかったけど、どこの塾行ったんだろ。まぁアイツの事だし相当知識溜め込んでんだろうなぁ。はぁ〜〜〜)
……悪い奴じゃないなんて重々承知。なんなら多少信念が相いれなくても配慮してくれるめっちゃ良いヤツですらある。けどあの執念を前にすればそれはそれ、これはこれだ。いくら好敵手とは言え限度って物があるから。
あ、学校着いちゃった。
「おはよ〜」
「……!酒寄さん!!」
「聞いた!?結構すごい事起きたよっ」
「へ?」
教室に着くと、ある一点に固まっていた同級生達の視線が一斉にこちらを向く。まるで私を待ってたみたいに。
そしてその真相は、彼らがつい数秒前まで見つめていた──空の机が物語っていた。
誰かに使われる筈だった、なのにその誰かが消えた事で役目を失った、その席が。
「石実の奴、転校したって!!」
「!」
驚き、そして脱力。鞄が落ちて教科書の背表紙が顔を出す。
その刹那、微かに過ぎった感覚を、この時の私は自覚出来なかった。
「……そっか」
その名は
もう、奪い合わなくて良いんだと。
冬休み直前に全ての手続きを終わらせた。急な話で先生方には悪い事をしたな、とらしくもなく殊勝に思う。いや自分で殊勝とか言ってる時点で殊勝じゃねぇわ。
「……ごめん」
「だから謝んなって。何回目だよこのやりとり」
「…………」
最後の登校からの帰りしな、待ち伏せしていたんだろう真実・芦花と合流。出会い頭の謝罪をかましてきた三人娘の美人担当をあしらいつつ、話を次に進める。
「ストレス源そのものである俺は物理的に離れる。お前らは引き続き酒寄を支える。そういう事で決着ついたじゃねぇか、なんかそっちに不利益あったか?」
「無いのが問題なんだよ」
「無いなら無問題だろ」
どうにもこの前の大惨事は芦花にとって余りにも大きい傷となってしまったらしく、俺を見るなり死にそうな顔をしてしまう始末だ。俺も気が滅入っちまうからやめて欲しいんだけど、まぁ芦花は良い
「でも……こんな、石実だけが損じゃん。私にも背負わせてよ」
「……う〜ん、じゃあ考え方を変えるか。俺は酒寄から尻尾巻いて逃げ出す、お前らは向き合い続ける。ホラお前らの方が大変」
「詭弁じゃんそんなの……!」
「本心なんだが」
別に引越しみたいな大仰な真似する訳ではなく、隣の校区へ移るだけだし。元の居住区域からすると、距離的にはむしろこの高校に通ってたのがおかしいまであったんだ。あるべき形に戻るだけって事。
じゃあなんでそもそもこっちの高校に来たかって?そりゃ……なぁ。
「ゲンちゃん」
「どした、真実」
「私の前で無理しないで」
…………。
「約束、したよね」
あの夜、俺は真実に誓った。彼女にだけは弱みを晒すと、打ち明ける事を厭いはしないと。
それを足掛かりに詰め寄ってくる姿勢にたじろぎつつ、敵わないなと苦笑。それは
……あゝ、やっぱキツイわ。今もまだ、おそらく今後も暫くは。ずっとかも知れん。
「俺も随分弱くなったらしい。こりゃ暫く、酒寄の泣き声で目を覚ますかもな」
「……うん。私も、アレは効いちゃった」
俺の半生を全否定する嘆き。救いたかったのに傷付けた、アイツの
この3人は、その罪を共有する一蓮托生……とでも言いたいのか?
「そうだよ」
「そうなんかい」
「ほら、芦花も」
「えっ?」
言うと真実は、俺達の手を引いて繋ぎ合わせる。重なった三者三様の両掌。
きっと、ずっと、この繋がりは切れちゃくれないんだろう。それぞれが酒寄を想う限り。その罪を忘れない限り。
「──そろそろ行くわ。向こうの学校での手続きもあるしな」
「そうなんだ。じゃ、また近い内に会おうね」
「なんなら一緒に行ってあげようか?ゲンちゃんってば乗り換えド下手だし、色々逃しそうでもう心配で心配で」
「ざっけんな、今年でもう17だぞ」
お前に心配されるなんて100年早ぇわ、と笑い飛ばしながら背にした学舎。酒寄と競い合った日々が胸に去来し、一言だけ謝りたい欲に駆られ──封じ込めた。それはただの自己満足に過ぎない。
こんなだから俺は、アイツを追い詰めて、結局……
「ゲンちゃんっ!」
そんな澱んだ思考を、祓う光の音色。
「またいつか、
ああ。
あゝ。
嗚呼。
Ah.
あぁ、ああもう。お前ってヤツは!
「真実!」
「なにー?!」
この1年。酒寄と出遭った事で発掘された新しい自分ごと、己を見つめ返して、やっと分かった。
俺の中に、ずっとお前がいた。
「好きだッ!!!」
知らないかも知れないけど。というか俺自身もあの夜まで気付かなかったんだけど、俺ってさ。
いじめっ子に気丈に言い返した、お前の
「……はっ」
そして次に俺が選んだのは疾走。男らしさのかけらも無い言い逃げに自嘲が溢れる。
けど、ここが
今度こそちゃんとしたヤツになって、今度こそ誰かを守れる男になって、そうして……
酒寄彩葉。お前の前に立つから。
真実。お前を迎えに行くから。
待ってろなんて言わない。遅れるようなら置いて行け、幸せになれるなら勝手になれ。
それでも俺は、お前らの所へ戻ってみせる。
「…………」
「────」
「……真実」
「何」
「喜んで良いよ」
「ダメだよ。だって、私だけなんて」
「いいの。私の事は置いといて、さ」
「────っ、ごめん。ごめん芦花。私、嬉しいや」
「だから良いってば。おめでと、真実」
これは序章?
それとも前日譚?
表す言の葉は数あれど、彼と彼女らの物語はひとまずここまで。“めでたしめでたし”へ向かう為の“めでたくない”エンドと相成りましたとさ。
かの劇作家、シェイクスピアならどう評すでしょうか?喜劇王チャップリンならば?ううん、生憎どちらとも会えなかったので分からないのです。およよ動けぬ此身がいと恨めしきなり哉……。
……FUSHI。ようやく、だよ。
「あぁ。あと半年だ」
最後の
八千代の願いがもうすぐ叶う。不死の辛苦が報われる。彼女達の痛みを贄として。
「彩葉」
「ゲン」
かぐやが、来るよ。
見上げた月に黄金が輝いて。名付けるならただのかぐや伝説じゃない、縄文より
……“超かぐや姫”の、はじまりはじまり〜。
実は現君の話はここで終わり、超かぐや姫!原作本編と繋がっても特に齟齬の無い形にするのが当初の構想でした。高二の彩葉とは全く関わる事なく、「真実の彼氏(?)」というモブとして画面外で過ごす……という顛末です。まぁ高三時点で再度かかわる話も考えてましたが、かぐや&ヤチヨとはノータッチ。
しかし。
なんと。
特別に!
今回に限り!
という無駄かつ迂遠な言い回しは置いといて、予定変更です。
高二編、かぐや本編の章へ続きます。次回、待て!(ストック尽きたため更新日未定)