酒に狂った男 作:鶏肋
「なぁ君、酒寄って苗字の人知らへん?」
リアカー引いて歩いてたらパツキンの糸目
なんだコイツ、酒寄のストーカーか?処す?処す??
「おっと、そう荒立たんといて。彩葉ちゃんがどこに住んどるかは、君に聞くまでもなく知っとんねん」
「お前らー」
「「「はいっ!!!」」」
「やから違くて。ワイこういう者やねん。話聞いてくれ」
二、三度ほど手拍子を打てば、ゾロゾロと出てきて兄ちゃんを取り囲む俺の配下共。転校先で幅利かせてた連中を、俺が
で、そいつらに巻かれた兄ちゃんは降伏の後に名刺を差し出してきた。なになに……“酒寄法律相談所 善庵直也”ぁ?
「あっぶね。ちょっとでも脅迫してたら俺らの方が詰みだったのかよ」
「いやいや、多勢に無勢で取り囲んでる時点で充分脅迫やし。後は分かるやろ?詰みや、捕まるで君ら」
「俺、拍手しただけ。コイツら勝手に出てきた。俺も取り囲まれてる。俺も被害者」
「「「ボス………?」」」
「*1疾風迅雷やね」
この問答がお気に召したのか、兄ちゃんは気楽な様子で尚も語り掛けてきた。セーフ、最悪の場合“最終手段”使う事になるかと思ったわ。予め言っとくが刑法に抵触はしねぇぞ。
「で。名刺見るに酒寄の母親の手下が、アイツに何の用だ?っつーかそもそも俺経由にせずとも直で突れば良いだろ──この名刺が偽モンでなければの話だが」
「疑り深いのは結構な事や。まぁ安心しぃ、昔からの付き合いなんや彩葉ちゃんとは。彼女が小学校入学前に一緒に撮った写真もあるで?」
ふーむ。とは言われても、酒寄の幼少期なんて俺は知らんし。ここは
「おっす酒寄ソムリエ」
「誰がソムリエか」
「お前以外にいるかよ綾紬」
「彩葉ちゃんが世話なっとるね。ほら、これが証拠写真な」
分かりそうなのがコイツしかいなかった。その分全幅の信頼を置いてるからまぁ良いけど、果たしてどうか。
そんな彼女に手渡された一枚の写真は、宣言通りに酒寄に似た幼女とそれを抱き上げる小学校高学年の男子、そして隣にパツキン兄ちゃんの面影を残した少年が写っている。
目にした綾紬は、一瞬見開いた後……数拍ほど経てから言った。
「これ、彩葉だ。虹彩の色と睫毛の向きが同じ。黒子の位置も完全一致してる。爪の紋も彼女の物だよ。あとすっごく可愛い」
「すげぇ……凄すぎる。凄さの次元が違う」
「ホンマごめん。JKに言う事ちゃうけど、君怖いわ」
写真要る?という問いに「要ります!」と即答する姿に若干引きつつ、立ち返るのは最初の質問だ。なんで酒寄本人じゃなくて俺に来た?
「うーん、実は君に会う予定は全く無かったんやけど……彩葉ちゃんには後で直に会うつもりやったんやで。酒寄先生に彼女の健在を伝えなアカンかったからな」
「……酒寄先生って、紅葉さんの事ですよね。自分が会いにくるんじゃなくて、部下を遣いに寄越したって事ですか」
「悪いなぁ、堪忍したってくれ。あの人ってホンマ不器用で、かつ忙しいもんやから中々時間作られへんのや。親失格なんはホンマその通りやけど」
紅葉──確か酒寄の母親。あのボロアパートに酒寄が住む事を承認した最終責任者だったか。
状況を鑑みるに相当ヤバいヤツを想定してたんだが、兄ちゃんの話振りを見るにそうでもねぇのか……いや偏見と油断は禁物。極まったBBAは何するか分からんし、警戒は続行だ。
それはそれとして、話を前に進めよう。
「酒寄の健在さえ確認できりゃ良いんでしょ。見ていきますか」
「おっ、話分かるなぁ君」
「石実っ」
(かぐやの露呈を危惧してんのは分かるけど、まぁ任せろって)
綾紬の語気が強まるのを視線で制しつつ、首肯で以て善庵に応答。彼を連れて河川敷へと向かったのだった。
「あのっ。ボス、俺らはどうすれば」
「知るかよ邪魔だ帰れ」
「「「アッハイ」」」
「なぁなぁ綾紬ちゃん。ちなみに聞くけど、この子や君って彩葉ちゃんの何なん?」
「知らずに話し掛けたんですか。私は彩葉の同級生で親友、石実は元同級生でライバルですよ」
「ライバルかぁ……彩葉ちゃんアレに対抗してんのかぁ……」
「ちなみに彩葉の全戦全勝ですよ」
「ファッ!?」
「3!2!!1…………
\ズドドドドドドンッ!!!/
「うわ、すっごい!」
「かぐやー!誤射ると不味いからもっと左向いてー!!」
「……あれ?立川に自衛隊の演習場とかあったっけ?」
「無いっすね。紛れも無い民間ですよありゃ」
ナオヤ!アレを見てみろ!!えーっ!!
なんて茶番は置いといて、土手を登った俺達を歓迎したのは「貸し切ったグラウンドで6連装ロケットランチャーを発射するかぐや」だった。そして彼女を撮影しフォローする酒寄・真実の姿も。
もちろん
「えーと、彩葉は今ライバー活動をやってる友達──あの金髪の子、かぐやちゃんの手伝いをやってまして。見ての通り元気です」
「いや元気というか……発想ェ」
「前のペットボトルロケット、その次のバズーカ動画がウケたからなぁ。この調子ならシリーズ化するのが安牌だな」
────ライバー活動を始めてからのかぐやの躍進は凄まじかった。
なんせ飽きが来ない。飽きさせない。目につく物、アイデア、それに形があろうとなかろうと即座に飛び付いて自分の糧にしてしまう。自前のダンス然り真実直伝の食レポ然り綾紬教導の化粧メイク然り。“バズ”というものを追求し、追求した分だけバズりから愛されて話題となり、見る見る内にのし上がっていた。
特に……歌。これが強い。
「見て下さいよこの動画。というか曲」
「ほほう……っ。これ、作曲彩葉ちゃんか!!」
「分かるんですか!?」
やはり酒寄は超人だった。天は二物を与えず、なぞ大嘘だとよく分かる。
そしてその音楽の才能が、かぐやという愛嬌の才能と出逢った結果、凄まじいシナジーを生み出した。ほらここ、最初の曲なんかもう50万再生っすよ?
そんな彼女達の活躍に随分と気を良くしたのか、徐に善庵の兄ちゃんは笑い始めた。
「くっ……くはっ、あーっはっはっは!!ええやんええやん、最高やで彩葉ちゃん!見ん内にドエラい
「……ええ。本当に」
同調する綾紬も、微笑んで眼下の彼女達を見下ろす。その快哉が聞こえたのか、かぐやの視線がこっちを向いた。
「あ、リアルに芦花!…………と誰?」
「……えっ。ナオさん!?」
「なになに。あのミステリアスお兄さん、彩葉の知り合い?」
「まぁちょっと、ね」
頃合いという事で、俺達は土手を降り、酒寄達も寄ってくる事で合流。ここで改めてあんちゃんが自己紹介を始める。
「どーも、善庵直也くんやで。酒寄法律相談所で、彩葉ちゃんの母親の見習いやってます。
「まだそんな事言ってるんですか。お母さんに叱られてましたよね、その標語」
「あの人は半端なんが一番嫌いやろ?一度掲げたら最後まで突き通す方が軽傷で済むんねん。あとは賛同者が集まり次第、同調圧力でブチ抜いたるッ」
酒寄と知り合いなのが本当だったと裏付けるような気安い会話に、俺と綾紬は肩を下ろした。母親はともかくこっちとは特に問題ないようだ。
それを見越してか、次に続いたのは真実。そしてかぐやも。
「はいはーい!私、諌山真実って言います。彩葉とは同級生です!」
「かぐやはかぐやだよ〜!ナオヤは彩葉と仲良いんだねっ」
「じゃあ私も改めて、綾紬芦花です。彩葉にはお世話になってます」
「……あー。石実現っす」
「リアル、ノリわるーい」
「いやはや元気で何よりやなぁ。こちらこそ、彩葉ちゃんをよろしく頼むで」
「ナオさんってば、そんな勝手に……」
和気藹々とした雰囲気は傍から見てても微笑ましい。かぐやの出自について深掘りされる気配も無いし、この場についてもう懸念する事は無いだろう。
そう見計らってから、俺はかぐやに本題を切り出す事にした。
「……で。お望み通りパルクールキットを持ってきたが、本当に
「あ。忘れてた」
「ア・ン・タ・ね・え」
「(´∀`*)テヘ」
何が最初なのか?そう、コラボだ。配信者同士の交流動画だ。
チャンネル登録者を増やす上で最も重要なのは幅広い層を積極的に取り込む事。地道に野良から視聴者を募っていくのも手だが、それじゃ1ヶ月という制限時間のある今回の案件には間に合わない、
だがコラボなら。既に集められた、ある程度の数を誇る層の視聴者を一気に取り込めるというワケだ。
……その最初の相手がド弱小ライバーである
「ううん、リアルが良いの。最初はリアルっ」
「……はぁ〜〜〜っ」
「い、石実。嫌だったら普通に断ってくれても、」
「勘違いすんな酒寄、その溜め息じゃねぇ」
お前ら女子には分からんかもしれんが、男って単純なんだ。外野から見てると、同性でも阿呆らしくなるぐらいに。
例えばこんなかぐガキにちょっと求められた程度のことで、良い気になっちまう……とかな。
「代わりにお題は俺が決めさせてもらうぞ。ズバリ、“コースを走破したいRe:AL VS 絶対阻止したいかぐや”だ。スタートして駆けずり回る俺を、お前がロケランで妨害しまくれ」
「!!!っ〜〜、ありがとリアルー!略してリアりがと〜〜〜!!!」
「一々纏わりつくなコラ、ウゼェぞかぐガキッ。というか何だその意味不明な感謝は!?」
「……良い空気のところ悪いけど、私反対して良い?ゲンちゃんがペットボトルロケットの直撃喰らう可能性があるのは流石に怖いよ」
「いや真実、多分大丈夫。金属バットで殴られた時、バットの方がベコベコにへし折れるぐらい硬かったからアイツ」
「それもう人間とは呼べんくない???」
「っていうか芦花はどこでそんな事知ったの……」
・
・
・
そうして、あれやこれやという間に撮った初コラボ動画は…………なんと予想外の大成功。
俺の言った「かぐガキ」およびかぐやが勝手に叫んだ「リアりがとう」がトレンドワードとなるに至り、俺とかぐいろの両チャンネルはその登録者数を大幅に飛躍させるに至ったのだった。俺の方が増えても意味無いんだが。
(なんにせよ、順調で何より)
それを境に、ランキング上昇速度においてはツクヨミ内でぶっちぎりのトップとなったかぐいろは、箔が付いたという事でそのまま真実や綾紬達ともコラボ。それも大成功に修めて、今やツクヨミを代表するライバーTOP10に入ってもおかしくないレベルになっている。酒寄も音楽に手を付けてからかなり明るくなった印象を受けるし、貢がれるふじゅ〜の金額からして相当潤ってるだろう。本当にすげぇよかぐやは、こんなに簡単にアイツの住まう環境を変えちまうなんて。
これは本当に……優勝してもおかしくねぇぞ。
「黒鬼のちらし寿司共さえいなけりゃなぁ」
だがこれでもなお立ち塞がってくる高い壁を前に、俺は自室で今度こそ落胆の溜息を吐く他無かった。ヤチヨカップ時点で既に1億のファンがいたのにそこから更に登録者増加数1位?おかしいだろ。古参ファンにマルチ営業でも強いたとしか思えねぇって。
(あと俺にしてやれる事っつったら……うーん、思いつかん。善庵の兄ちゃんもライバー歴長いとか言ってたし、なんか聞いときゃ良かったかな)
そんな時に思い出したのは、あの胡散臭い関西弁おっさん*2。そういやあの人、帰り際に変なこと言ってたような……
「そういや言い忘れとったな。彩葉ちゃん訪ねるより先に君に声かけた理由」
「え?良いですよもう、今となっちゃ特に興味無いし」
「いやいや言わせてくれや、俺がスッキリするから」
酒寄の健在を確認できて一安心したんだろう。どことなく険の取れた笑みで、彼はこう告げてきた。
「似とんねん、君。酒寄先生にな」
「……はぁ?」
「喋り方とか空気感とかそういう深い話やない。もっと表面的な、純粋に顔のパーツ……特に吊り目っぷりが」
「はぁあ???」
「せやから、親戚に酒寄の誰かがおるんかなって思て」
俺と酒寄が親戚?そんな似てんのか。でも俺は両親の旧姓も、どっちがどっちに婿入りしたかも知らんぞ?だって教わる前に親死んでんだから。
その旨を当たり障りの無い範疇で伝えると、兄ちゃんは残念そうな顔を浮かべる。
「そっかー……ま、そんだけの事や。気にせんといてな」
「あい了解。じゃあお元気で」
「っとと、その前にもう一つだけ。そろそろ彩葉ちゃんのお兄ちゃんが、妹可愛さ余って爆走し始める頃やろから、もし彩葉ちゃん狙っとるんなら相応の準備しときや」
「俺が酒寄を?無い無い、自分の上位互換な女は守れませんから」
「なんや逆に腹立つなその返答」
それだけ言って新幹線の車窓に消えたパツキンに思いを馳せた。酒寄の兄が動くと言われても、何にどう備えれば良いのやら……ん?
(俺にDMたぁ珍しい)
真実達とはRINNEで繋がってるからあり得ない。名が上がった結果、チビチビと他配信者から提携を打診される事も若干増えてきたからその影響か?断るの面倒臭ぇんだよなぁ……開帳、開帳、はいはい誰々?
ぅっっっわ。
(げぇーっ)
最悪だ。寝転びながら開いたウインドウに、考え得る限り最悪の名前が載っていた。
その名も────
| 帝アキラ |
| Re:AL ニ告グ 壱.其方ニハ、チート使用ノ嫌疑ガ掛ケラレテイル 弐.真偽ヲ問ウベク、其方ヲ我ラガ審問ニ掛ケヨウ 参.使用続行スルナラバ、父母兄弟ハ賊トナルノデ 皆泣イテオルゾ _ 肆.己ガ無罪ヲ掲ゲルナラバ、其ノ剣デ示サレリ_
要約:コラボしようぜ★
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世に憚る
※まだヤチヨカップ開催から2週間経ってないので、黒鬼からの打診は原作のコラボ展開とは無関係です
そして直也くんのお話はまた別の機会に。どっちかというと鬼いちゃんの方にご執心なんで彼