酒に狂った男   作:鶏肋

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帝アキラ(酒寄朝日)、来たる

鬱蒼とした竹林にて、二人の猛者ありけり。

 

片や月に舞う兎。片や天を制す鴉。

 

両雄相容れる事、未だかつてなし。各々が(おの)が得物を構え──

 

兎が、駆けました。

 

 

「ぃ~~~よいしょォ!!」

「はい直線的」

「どわぉっ」

 

難なくいなした(Re:AL)は、追撃もせずに悠然と見下ろします。大槌(ハンマー)の慣性に引っ張られてそのまま五体投地した(かぐや)を。

無論、この程度でへこたれるかぐやに(あら)ず。ペッペと土を吐き出すなり、立ち上がって思い切りのいい横降りを叩き込もうとして。

 

「もっとコンパクトに纏めろ」

「ほぇっ、いつの間に?!」

「さもなきゃせめて隙を潰す次善策を設けとけ。大振りばっかじゃNPCにも狩られかねんぞ」

「だって強攻撃気持ちいいじゃん!!」

「……すっげぇ分かる」

 

既にRe:ALは背後。彼はかぐやの意見に同意を示しつつ、だがしかしとばかりに教導を続けます。

 

「だからこそ抑えろ。その大振りの一撃を決める為に、小技でフラストレーションを溜めるんだ。自分にも、相手にも」

「ふらすと?」

「要はイライラ。それに耐えて、耐えて、耐え抜いて……相手が耐えられなくなった、瞬間に、こうッ!」

「!!」

 

そうやってかぐやの連撃を自分の弱技でしのぎ切り、出来た隙をついての貫手(近接強攻撃)。それは仮想の大気を割きながら、面白いぐらいの無抵抗にかぐやの首へと吸い込まれ──突き刺さるその1ポリゴンだけ直前にて、寸止め(技キャンセル)されたのでした。

 

「……すっご」

「病みつきになるぜ?抑圧を経た解放、()()()()()()()の味はな」

\DRAW……!/

 

引き分けを告げる鐘の音と共に竹林は消滅し、2人が舞い戻るは待機ルームなりけり。そして彼女達を迎え入れるのも3人だ。一方は、美しき鹿(ROKA)、一方は愛嬌溢れる栗鼠(まみまみ)、そして妖艶なる(いろ)

 

「おつかれ。かぐやちゃん、操作方法は分かった?」

「分かったけどく゛や゛し゛い゛~~~!!!次やる時は、言われた通り小技挟む!そんで160コンボぐらいキメてリアルにリベンジするっ!!」

「単独で160は無理でしょ」

「少なくともSETSUNAモードじゃ非現実的だねぇ~。にしても優しい教え方でしたなゲンちゃん先生(せんせ)、最後の一撃ならクリティカル出せばHP全損出来たでしょ」

「アバターと分かってても、首をブチ抜くのは流石に気が引けちまってな……けど、目に見えて手加減された方がかぐガキにゃ効くだろ」

「聞こえてるよー!効いたよー!もう負けないから!!」

「ほらな?」

 

そう、今日はかぐやの記念すべきKASSEN初プレイ。その基本操作を、1on1形式のSETSUNAモードにてRe:ALが教えていたという顛末なのでした。舐めプされたかぐやはプンプン、次なるリベンジの時を見据えて勇気凛々・元気爆発です。いとかわゆし。

さて、次はいよいよメインモード……というタイミングで何故かメニュー画面を開いたRe:AL。退出ボタンへと動かされるその指を、彩hゲフンゲフンいろが呼び止めます。

 

「あれ、帰るの?」

「ちょっと別件あってな。後はお前らで楽しんどいてくれ」

嘘だッ!*1……冗談は置いといて、今日はバイトも何も入れてないでしょゲンちゃん。隠し事禁止っ」

「んなこと言われたって……」

「リアルは、嘘ついてでもかぐやと遊びたくないのぉ……?」

「そうじゃねぇッ……んだが……!」

 

詰め寄る真mゲフンゲフン、まみまみとかぐやにタジタジになりながらも、彼が目を付けたのは芦k──ええいもういっか、芦花です。「綾紬に明かす!綾紬が隠すべきだと判断したなら諦めろッ!!」という投げやりな叫びと共に転送されたメールに、彼女は一瞬目を見開いた後、諦めたように言いました。

 

「あ~……これは明かせませんわ。行ってきなよRe:AL」

「スマン。そしてありがとう」

「えぇ~~!!」

「芦花の裏切り者ぉー!!!」

「ごめん。これは真実にだけは特に明かせないや」

「いや待って、本当に何?私が不味いの??」

「訳はまた今度、色々落ち付いてから話す。それまで信じてくれ」

「……もう」

 

そうして窮地を脱したRe:ALは、退出手順を滞りなく遂行。後は決定ボタンを押すだけ……というタイミングで、今度は彩葉に目を向けました。

 

「なぁ酒寄、最後に一つだけ」

「何よ?」

「お前の──」

 

──“お前の兄って、どんな奴?”

Re:ALは、ゲンは、きっとこう聞こうとしたのでしょう。脈絡の無い質問だけれど、きっとそうさせたのは彼の肉体が秘める野生の勘という代物。無意識的に、この後に出遭う相手の正体を看破していたのかも知れません。

 

けれど自覚は無く、彼の口もそこで止まりました。彩葉に兄がいる事は先日の善庵お兄さんから皆聞いていましたが、ここで掘り返さずとも良いと判断したのでしょうね。Re:ALがこの1年間で身に付けた、常識的な会話スキルの賜物と言えます。

 

「……いや、また今度聞くわ。じゃあの」

「なんだそりゃ。じゃ、また」

 

 

それだけ言ってお終い。今度こそゲンは、このルームから姿を消したのでした。

 

 

 

しっかしFUSHI、彼ってば中々尻尾を出してくれないねぇ。折角久し振りにKASSENしたんだから、ちょっとぐらい()()見せてくれても良いのに。

 

「それはこの後の帝に期待だな。彼らの技量ならうまいこと引き摺りだしてくれるかもしれないぞ、ゲンの本領を」

 

 


 

 

「入りたくねぇ……」

 

真実に隠し通さなければならなかった“別件”。その正体とは、即ち黒鬼とのコラボ企画に他ならなかった。

といっても大層なモノではなく、言ってしまえばKASSENで対戦するだけ。生の配信でもなく、録画形式で後日投稿する形式らしいから緊張する事も無い。

無いが……それ以前に俺嫌いなんだよなぁ黒鬼……!

 

(断れば良かった。チートの嫌疑ってのがどういう事なのか知っときたかったし、ヤチヨカップ独走のノウハウを得られるかもと思って応じちまったが、今になって嫌になるとはなぁ……ッ)

 

指が右往左往する。黒鬼が用意した対戦部屋への入室ボタンか、それともKASSENそのものからのログアウトボタンか。とはいえ、俺に既に退路は無い。ここで退いたら俺は二度と真実に合わせる顔が無くなっちまう。

そんな苦汁を噛み潰して……俺の足は、部屋に踏み入る事を選んだ。

 

「よう。初めまして、俺達こそがBlack oni-X、そのリーダーの帝アキラだ。よろしく頼むぜ」

「……Re:ALだ。かの高名な黒鬼に見初めて頂けたこと、光栄に思うよ」

「そう固くなんなって。一緒にツクヨミを盛り上げる同志、仲良くしようや」

 

迎えたのは赤髪の偉丈夫。自己紹介されるまでも無ぇ、真実の最推しにしてトップライバーの名を今更知らねぇワケが無ぇだろ。

お前の後ろ、ソファに控える2人だってそうだ。そんな思いを乗せた視線を読み取ったのか、帝アキラは思い出したように大仰に振る舞う。

 

「おっと、遅れて失礼。こっちにいるのは俺の仲間の……」

「雷だ。よろしく頼む」

「乃依だよ~。まぁ帝と適当にやっといて、どうせ俺の出番ないし」

「オイ」

 

女装したやる気の無い男に、それを窘める白髪。なんだかもう全部が俺を逆撫でしてくる要素まみれなんだが、出番が無ぇなら僥倖だよ。俺もお前とは極力関わりたくねぇ。

さて、双方挨拶も済んだ所で本題に移ろうか。俺とお前らのコラボについて、な。

 

「で、具体的に何をするんだ?俺はチート使用者っつー(てい)で、正義のアンタらにボコり倒されりゃOKか」

「んな露悪的な事したら顰蹙買っちまうぜ。実際チートじゃないんだろ?」

「言った所で信じられるか?」

「信じるさ。お前を看過するツクヨミのセキュリティを、な」

 

なるへそ、そりゃ一理ある。ツクヨミのチート検知能力は超一級品、一介のプレイヤーに過ぎない俺がそれをすり抜け続けるってのも逆に考え辛い。その点で向こうは俺の挙動を合法的な物と見做した、という帰結だろう。

 

「だが、チートでないならグリッチという事になる。グリッチならば再現性が無ければならない。KASSENのプロ界隈では、お前がかつて披露した挙動がいつ蔓延するのか危険視されているんだ」

「そりゃなんともご迷惑をおかけしましたね」

「だが俺達は既に察しもついてる。オートマモードの抜け道、違うかな?」

「……ご名答」

 

割って入ってきた雷の状況説明。そこまで分析が進んでるんなら、俺から明かす事は何も無ぇな。だって俺より理解度高ぇんだから。

とすると、今回行うのは……

 

【1】マニュアルモードの俺 vs 帝

【2】オートマモードの俺 vs 帝

【3】残り2人による、上記2戦の比較・解説

 

ってところか?

 

「そーゆーこと!動画の見せ場としては、まずマニュアルの君を難なくいなす俺。次にオートマの君と激戦の末に競り勝つ俺。そして最後に、君の挙動を雷と乃依が解説し、オートマ特有の仕様から謎を解明するっていう算段なワケ」

「勝敗はともかく、話運びとしては今アキラが言った通りになるな。これによって君の無実を晴らしつつ、ツクヨミ運営──月見ヤチヨにグリッチの懸念を提言する。君以外には再現不能なグリッチなのが不幸中の幸いだが、対策しておくに越した事は無い」

「あんなワンピースばりの動きするのはどっちかというとプレイヤーじゃなくてボスだしねぇ」

 

どうやら俺の普段の動画まで把握してくれているらしく、至れり尽くせりに舌を巻く他ない。アンチ感情も消え失せて……あーダメだ、消えん。これは俺個人の感情論だし、表には極力出さんから許してくれ。

 

……さて。俺からすると“チート疑惑の払拭”に“大手ライバーとのコラボによる売名”と、ほぼ一方的な恩恵を賜る訳だが。じゃあアンタらは俺に何を望む?

 

「そっちの方が金持ってるだろうし、ふじゅ〜目当てってワケじゃないだろ。しかし俺から差し出せる誇れる物も特に無いんだが、アンタらは俺に何を見出した」

「……ま、ちょっとした()()()()()を見過ごしてもらう対価ってとこかな」

 

タダより高い物は無い。そんな言葉が脳裏をよぎり、俺はやっぱりこの企画を受けた事を後悔するのだった。

*1
ひぐらし並感

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