酒に狂った男   作:鶏肋

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今更ですがヒロインは真実です
芦花が注目されがちだけど、彼女の“良さ”はもっと広まるべきだと思うの


諌山真実、キレる

「食べるのが好き?良いじゃん」

 

分かんないんだろうなぁ。

 

「太りたくない奴はやせれば良いし、眠たい奴は寝れば良い。なんで皆いっしょにしなきゃいかんのか逆に分からん」

 

どうせ、考えなんて無い。

 

貴方はただ思った事を言うだけの、ちょっとおバカで素直過ぎる男の子。

 

「誰も責めないよ。つーか、俺がさせねぇ」

 

だから、知る事は無い。

 

知る必要もない。

 

 

「お前のやりたい事は、俺が────」

 

 

その言葉が。

 

貴方が。

 

どれほど救いになったか、なんて。

 

 


 

 

酒寄彩葉は超人だ。准超人の俺が言うんだから間違い無い。だから困る。

 

週5でバイト入れて睡眠は平均3時間、一人暮らしを自炊で賄い立派に独立しやがりながら予習復習を欠かさず現状全教科において100点満点を叩き出してんだから手に負えん。

しかも有り得ない事に、何とも悍ましい事に。

 

アイツ。

 

体育で。

 

女の身ながら。

 

男の俺を。

 

(超えやがった……!)

 

負けた。第二次性徴をほぼ終えて充実しつつある俺の記録を一回塗り替えたんだ!!

屈辱なんてモンじゃない、今思い出しても胃の腑から反吐が沸き上がる思いだよホント。

 

なんとか鍛えて抜き返したものの、先天的な男女性差(染色体ハンデ)を踏まえたら何の慰めにもなりゃしねぇ。そもそもアイツ、あの記録出しといて筋トレしてないってマ!?ふざけんな、これじゃ道化も良いとこだろうが石実現!!

 

何よりアイツが癪に障るのはッ……障る、のは……!

 

「あーもう!このまま弱男(おやじ)ルートとか勘弁……ッだー!!!」

 

思い浮かべた雑魚の顔を砕く勢いでペダルを踏み込んだ。只今バイト中、熱い内に料理をお届けするスーパーイーツとは我が事なりけり。

えーと。最後の予約品、3人前受け取り完了!届け先は……なんか見覚えある住所だな……まぁ良いや、出発!この地域は全部俺がカバーするつもりなんだ、まごついてられるかよッ。

 

 

 

 

(帰りてぇ)

 

しくじった。ちょっとぐらいまごつくべきだった。

見覚えのある住所。見覚えのある景色。見覚えのある家……だけど、何故?じゃねんだわ5分前の俺。

 

「……スーパーイーツ、お届けに参りましたぁ」

「やぁやぁいらっしゃーい」

「ほな自分はこれで」

「待てぃ」

 

……諌山ぁ。どういう了見だコレは。

 

「いやー悪いね。石実の事話したら、友達が食いついちゃって」

「落ち目の俺に食い付くとか悪食が過ぎるだろ。縁切っとけ」

「ところがどっこい、落ち目の石実よりも遥かに盤石な大船なんですなーコレが」

 

申し訳なさを秘めたドヤ顔という意味分からん顔をした諌山が差し示した玄関の向こうには……げっ、綾紬芦花。酒寄彩葉に最も近い女。

 

「やっ」

「……あー。酒寄は?」

「いないよ。私と真実と、そして君の三者面談」

「拒否権は」

「あるとでも?」

 

冗談じゃねぇ、こんな所に居られるか!俺は家に帰ぐぇーっ。

 

「逃がさないよ。石実のバイトが直帰可能な奴なのは真美から聞いてるし、時間帯的にこれがラストの配達でしょ──うわっ、力強!」

「冷静に考えろ!お前は名のあるインフルエンサー!諌山も名のあるインフルエンサー!!そうでなくとも女子高生!!!そんな奴らが家に同年代男子を呼び込む絵面のヤバさを!!だから放せェーッ!」

「離さんっ!真実、ジェットストリーム引き込みだよ!!」

「一人足りなくない?まぁいっか、やれソーランソーランっ」

 

抵抗も虚しく、女とは言え二人がかりに疲労を湛えた身は力尽き。天国の母さんには逆立ちしたって見せられない醜態を晒して、俺は敢え無く引きずり込まれたのだった。

親父?地獄でやってろ。

 

 

「あら石実君じゃない。いらっしゃい、本当に久しぶりね」

「あ、どうも諌山夫人。ご無沙汰してます」

「親と顔合わせ済み?!ちょ真実、何処まで関係進んでるの!彼氏いたよね!?」

「彼氏!?!初耳なんだが!!?」

「そういうのじゃないってば~~~!」

 

 

 

「じゃ、本題に入ろっか」

 

で。俺は今、女子の家に連れ込まれた挙句、その部屋で圧迫面接をされていた。それが現状、以上。

正面に座る綾紬は表面上こそ和やかだがその実、視線は非常に冷たいもの。まぁ俺の過去を知ってんだから残念でもないし当然、此方としても納得こそすれ困る事は何も無い。何故か面接対象者である俺よりも、芦花の隣に控える諌山の方が冷や汗ダラダラなのが謎でしかないが。

 

「まず、私が真実と、そして石実と会ったのは中学の時が最初。それ以前の事は伝聞と、真実から聞いた事でしか知らない」

「諌山に聞いた事だけで事足りるだろ。それが事実で真実だ。ああ、真実(まみ)じゃなくて真実(しんじつ)の方な」

「やかましい」

 

ピシャリと遮られたのち、溜息。その宛先は意外にも真美の方で。

 

「なんだか知らないけど、この娘ったら石実の事を聞いても徹底的にはぐらかすのよ、“ただの腐れ縁だ”ってね。それで他の情報源が心許ないなら、いっそ1次ソースに直接問い詰めてみようかなと」

「はぁ?」

「……~~~♪」

 

こんにゃろ、これ見よがしに口笛なんぞ吹きやがって。聞かれたなら()()()()()()()答えりゃいいだろうに、何を出し惜しみしてんだか?

 

「分かった分かった、好きに聞け。俺の知る限りのことを俺が嘘だとは思わない範疇で答えてやらぁ」

「素直でよろしい。真実も良い?」

「……あ~うん。分かった」

 

どうにも歯切れの悪い真実はさておき、始まる面談もとい尋問。と言っても内容は拍子抜けする物で、至極単純な事実確認と相成った。

例えばどんなモンかというと、

 

 

Q.「小学生低学年の時、いじめの主犯だったって本当?」

A.「うん」

  「……」

 

Q.「女子グループを追い詰めて転校させたのは?」

A.「俺」

  「……ぅ……」

 

Q.「学級崩壊を引き起こしたって噂は?」

A.「まぁな」

  「………~~っ………」

 

 

こんな感じ。俺に纏わる過去の騒動なり醜聞なりを綾紬が問い、俺が二つ返事で肯定するだけの作業。その度に真美がなんかモニョモニョしてるが知らん。

しかしまぁ、常識の領域に生きる奴からすればこんな俺は避けるべき異端でしかないだろう。それは、質問を進める度に表情を引きつらせていく綾紬の反応が物語っている。

 

「ま、真実。コイツと関わるのもうやめときなってマジで。こんなあっけらかんと無反省オーラ撒き散らしてるのヤバいよ」

「そ、それは……」

「ああ。()()()()()()

「ほら本人もこう言って──えっ」

 

こう見えて自覚はある。だからこそ地味に解せないのが、今なお続く俺と真実の交流だ。

中学までは先天的な才能から出力された成績でゴリ押せた。大人は「素行悪いけどこの才能を潰すのはな……」と遠慮させて、子供同士では「あの石実の仕業じゃしょうがない」と災害じみた諦念を強要した。だから許されたし、その覇権を謳歌できた。

 

だが酒寄と出くわして以降の俺はただの負け犬だ。本物の超人を前にしてメッキを剥がされた俺は、“毛が生えた程度の凡愚”という烙印を押され失墜。あんだけ舎弟ヅラしておこぼれに預かろうとしてきた連中もさっさと乗り換えて冷笑してきやがる。残念ながら当然だけど。ちなみに綾紬は最初から距離取ってきた賢明なクチ。

 

けど真実だけは、何故かそんな俺との親交を断とうとしない。

 

「せっかく酒寄派閥(良いポジ)に就けたのに、こんなのと関わってたら台無しも良いとこだ。お前からも言ってやってくれよ」

「……派閥って。私達と彩葉は、そんな関係なんかじゃない」

「お前らがそうでも他は違う」

 

そりゃ結構な事だが、俺の言う派閥ってのは有意識的・無意識的に関わらない。凄い奴、尊敬できる奴、えらい奴の近くに居る事で自分を高めようとするのは当然の行いだろう。同時に、良くない奴から距離を取るのも。

良くない俺と共にいる事は、真美にとっての機会損失になりかねない。

 

真実だって分かっている筈だ、俺が下の名前ではなく“諌山”で呼ぶようになった変化を。だってそれを受けて、アイツも()()したんだから。

 

「……良い機会だ。俺は今日を境に、諌山から離れて只の酒寄アンチに成り下がる。お前らはアイツの隣という高みから、それを見下ろして嘲笑ってろ」

「は?」

 

そこでようやく、真実本人から声が上がった。怒りの色濃い反感の声だった。

 

「なに?ゲンちゃんって、私をそんな事する奴だと思ってたの?」

「……さぁて」

 

それっぽく口角を上げてみれば、目論見通りに着火した。唇を真一文字に結んで、アイツは勢い良く立ち上がる。

 

「っ────!」

「ちょっと、真実っ」

 

床を踏み鳴らして去ってく栗色の後ろ髪。あー清々した、これでアイツも後腐れなく俺を見限るだろ。

そうは思わんかね、友達想いな綾紬の嬢さん?

 

「これで、満足?」

「ああ」

「ふざけないで。真実が君を大切に想ってるから、何か裏があるんじゃないかって思ったのに……そんな彼女に対する仕打ちがこれ?」

「じゃあお前、もっと穏便に諌山を厄ネタ(石実現)から引き離す手段があるなら言ってみてくれよ」

「貴方が素行を改めればいいだけの話じゃないっ」

「今更?無意味だろ。今現在で俺を忌避してる連中の殆どは中学からの縁だぜ、これから態度を改めた所で変わるもんか」

 

酒寄とつるむだけあって聡明なんだろう、綾紬はそこで言葉を飲み込んだ。もっと言いたい事だってあるだろうに、俺と諌山が繋がり続けるリスクと断交するメリットを咀嚼してくれている。

それに甘えて、俺も一つ嘆息。

 

「弱い男はな……それだけで害悪なんだ」

「……?何の話?」

 

息に紛れて、ふと漏れ出す。自分でも気付かぬまま。

 

「“盾”で考えてみろよ。人の柔肌より脆い盾が防御手段として成立するかっつったら、そりゃあ否だろ」

「いやだから、急に何の話を……」

「男女も同じだよ。女にさえ勝てない男に存在価値は無ぇ。そんな男が女に解決できない問題を対処出来る訳が無ぇ。弱いまま出しゃばろうモンならただの重荷だ」

 

言ってて気分が重くなってきた。そうだ、今の(おとこ)に存在価値なんてありはしない。酒寄に勝つまでは取り戻せない。

その日が来るまで、真実の隣には……居ちゃいけない。

 

「ま、来たところで……っつー話でもあるがなぁ」

「…………」

「どした、反論でも否定でも良いからなんか言えよ。無反応は流石に効k「石実の」あ?」

 

そこまで吐き出した所で、綾紬が口を開いた。すわ全否定でも飛んでくるかと身構えたが、こちらを見据える視線に激情はもう無くて。

 

「君が考えてる男尊女卑って、まさか……」

 

探るような視線の意図を読み取ろうとした、その時の事だった。

 

廊下から重い足音。ドスドスと踏み鳴らしてきたそれは部屋の前で立ち止まったかに思えば、蹴破る勢いで──というか本当に蹴破りやがった──ドアが開かれたその先には、怒髪を揺らめかせる真実の姿があった。

 

「異議ありっ!!!」

 

……空になったウイスキーボンボンの箱(15個入り)を床に叩きつけながら。

 

「異議あり意義ありいぎありっ!さいしんをせいきゅーしますっ!!」

 

次に投げつけて来たのは、俺と真実が通ってた小学校のアルバム……といっても卒業時の物ではなく、1/2成人式で撮られた写真を集めた物。

程々に重量のあるそれは、初手の音圧でひっくり返った俺と綾紬の間、つまりテーブルに直撃。あっ1発で凹んだッ!

 

「えっ何!?何なの真実!??」

「さいばんちょっ、さっきのハンケツは、事実とことなりましゅ。ゲンちゃんはただのわるい子じゃないって教えりゅからぁ!!」

「待て待て待てどこから説明するつもりだ!」

 

オイふざけんな、俺だって明かされたくない過去の一つや二つ存在するんだぞ!っつーかいくらウイスキーボンボンでもここまで酔うか普通!?

やめろー!!それ以上言うなー!!!

 

「ありぇはね、いまやむかひ、ザッと8000年前のころ」

「あっ大丈夫そう」

「将来飲みには連れてけないねコレ」

「だまって聞いれ!」

「「アッハイ」」

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