酒に狂った男   作:鶏肋

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お待たせしました。
遂に辿り着いたぞ……この海回(けしき)に……そして誕生日おめでとう彩葉……

【投稿前日の追記】
あれーっ!?(予想以上に手間取り、海直前で4000文字弱に達してた人並の疑問符)


諌山真実、叱る

乾いた音が鳴った。

普段は和やかに緩んだ目尻が、無理に引き絞られ目の前の男を睨みつけていた。男はといえば、頬を張られたにも関わらず視線は絶対に女から逸らさない。

何が起きたか?────石実が真実に自身の粗相を明かした。それだけの事。

 

(駒沢乃依を偽女呼ばわり、ねぇ……)

 

それを見つめる私の視線はどんな色をしていただろうか。けどそんな私個人の感情を差し置かとするなら、この結果はある程度見えていたと言える。

石実現と駒沢乃依。旧態然とした男らしさを掲げる彼と、男ながら可愛らしさを纏う彼。相性が良い訳が無いのに、どうして接触してしまったのだろう?

 

(というか石実も黙ってれば良いのに……いや、彼が真実に嘘なんてつける筈が無かったか)

 

“良いニュースと悪いニュースがある”と言って切り出した石実。そこにあったのは、恋人に隠し事をしたくないという彼なりの誠意……であると同時に自己満足だ。わざわざ明かすべきでない事を明かして、結果として真実のストレスに繋がってるんだから。

振り切られた真実の手が赤く、彼女自身にもまた痛みを与えてる事を石実も分かってるだろうに。

 

「ゲンちゃん。私が何言いたいか、分かる?」

「……正直、分からん。けど何言われても仕方ねぇ事だけは分かってる」

 

だからこそ、せめてもの恭順の意で以て応じるつもりらしい。それでも張り詰めていく空気は錯覚か現実か、少なくとも真実の(まなじり)が強張り続けている事は確かだ。

 

「なんで私に明かしたの?私より先に言うべき人と、言うべき事があったよね?」

「さぁな」

()()()()。謝るの」

「──ああ、怖いね。非を認めりゃ何されるか分からんから」

「そっか。じゃあ、顔下げて」

「…………」

 

やがて下された両の手が拳を形作る。あわや、次はグーか。流石に止めるべきかと私が口を開くより早く、全てを受け入れようと石実が眼を閉じたのと時を同じくして。

 

「……ゲンちゃん」

「ぇ……?」

 

真実の手が通ったのは、石実の頭ではなく後ろだった。

迂遠な言い方をやめれば────彼を抱き締め、その顔を懐に埋めさせていたのだ。

 

「一緒に謝りに行こ。すぐにでも、今にでもさ」

「いや……俺の問題だろ。お前は関係無ぇ」

「“私がいたら助かる”って言ったの、覚えてるでしょ」

「そりゃそうだが……でも、」

「でもも何も無しっ。私はゲンちゃんの勇気の元にはなれない?」

 

まるで母親が子に言い聞かせるように、懇々と語り聞かせる。さしもの石実もそれに抗うのは至難のようで。

 

「そんなに私を巻き込むのが嫌なら、もう謝らなきゃいけないような事はしないで。傷付けるような事も、()()()ような事も禁止。ハイ決定!」

「……なんでだ」

 

不意に漏れたのだろう言の葉は疑問。どうしてそうまでして、わざわざ危険な自分周りに飛び込んでくるのかが心底不可解らしい。

そんな石実に対し、真実はコテンと首を傾げ──やがて得心がいったように、柔らかい微笑みを湛えて言った。

 

「だって、ゲンちゃんが痛かったら私も痛いもん」

 

呆気。(いだ)かれながら彼女を見上げる石実と、傍観する私を言い表すならその一言に尽きる。

 

「ゲンちゃんは私を守ってくれた。つまりとっくの昔に私の痛みはゲンちゃんの痛みになってるんだよ。罪にしたっておんなじ事だよ」

「……ハッ。そりゃ、迂闊な事は出来ねぇなぁ」

「ガムのように癒着するって言ったもーん。覚悟してよね」

 

吹き出すように笑う石実の声音には“完敗”の二文字が滲み、2人して笑い合う。その様子に憂う物は何一つ無く、さっきから置いてけぼりかつ最早居る意味ある?な私もつられて笑みを零すのだった。

 

「──と、いうワケで。さっそく謝罪DM送ろっか」

「いや真実、その事なんだが」

「だがも駄菓子もない!言っとくけど笑い事じゃないんだからね、乃依様関連は特に!!芦花もそう思うでしょ」

「アッハイ」

 

しかし一転、石実の言った事が本当なら確かに笑っている場合ではない。ジェンダーフリーが進む昨今において相手の目前で「偽女」発言など、いや一昔前でも大分許されちゃいけない罵詈雑言だ。好きな人と崇拝する人の間に立たされた真実など複雑極まりない立場であり、その心中や察するに余りある。

 

というワケで真実は(はた)いてしまった石実の頬を、そして石実はほんのりと赤を醸す真実の掌を、双方労わりつつ話を再開。私も巻き込まれたところで、彼の方が再び口を開く。

 

「いやその前になんだが……“良いニュース”の方に移らさせちゃくれねぇか」

「む。良いよ、言ってみて」

「どーぞ」

 

そうして取り出されるは貢物。女王か女帝かはたまた女神か、ともかく目上の女性に捧ぐ体で以て石実は“それ”を差し出した。

 

受け取った真実は────ひっくり返った。

 

「どひゃーっ!?なんじゃこりゃー?!!」

「Black oni-Xの直筆サイン。お前に対するボイスメッセージ付き。勿論全員(3人)分」

「待って石実、黒鬼と揉めてるんじゃないの?!」

「んなモンとっくの昔に謝ったわ。償いもしたつもり。相手もそれを受け入れてくれたからコレをくれた、って帰結」

「ちょっと待って!いやありがとう!嬉しい!!でも、ゑー!?!?」

 

目を血走らせながら精査した後、宝物のように抱き締める真実は半狂乱だ。それをどこか悔しそうな目で見つめる石実の姿は……まぁうん、これも織り込み済みの彼自身への罰則という事なんだろう。

それでも必死の思いで精神を持ち直した真実は、宝物を収納してすぐに石実へ飛びつく。

 

「もうちゃんと謝って和解してるなら、私がさっき言った事全部的外れじゃん!!ゲンちゃんごめん!殴ったりして本当にごめん!」

「気にすんな。俺からすりゃ、お前に捨てられても当然だと思ってたんだぞ」

「捨てるワケ無いじゃんバカーっ!!!そういう事は先に言ってよ~!!」

「あ゛ぁもう、いいからその“お宝”を愛でてろ!俺と揉みくちゃになってる内に折れたりしても知らねぇぞッ*1

「それはそう!!!」

 

目まぐるしく変わる真実の百面相、それを弄る石実、やっぱり全く付いて行けない私。そのイチャコラぶりに呆れの息を吐く他無いけれど……それでも、親友達の幸せそうなやり取りは、傍から見ているだけで多幸感を誘うもので。

 

「……良いなぁ」

 

ふと漏れたそんな本音を、自覚したのは数瞬遅れての事。

 

 

 

……けど、話はそこで終わらなかった。

 

「綾紬。ちょっと諸用あるんだが」

「あ、それが私を呼んだ理由だったりする?」

「用無く呼ぶかよ逆に」

「目の前で痴話喧嘩を見せつける為かと」

「ンなワケあるか」

 

真実が急ぎお宝の保全を行っている間に、距離を詰めてきた石実。彼女には聞かれたくない内容なのか、と身構えてみれば。

 

「帝アキラの素性が分かった。酒寄の兄だ」

「……へ……?」

「裏は取れてる。善庵の事も知ってたぜ」

 

出てきた衝撃的な情報に、思考が一瞬吹っ飛んだ。あの一億を超えるファンを束ねるツクヨミのカリスマ、帝アキラが彩葉の兄だなんて。

 

……いや、彩葉の兄なんだから当たり前と言えば当たり前か。そんな具合に納得はすんなりいく。

でも、どうしてそれを?

 

「どうしても何も無ぇ、向こうから接触してきたんだよ。“いろ”が酒寄だと推測つけて近況を知るべくな。そこでカマ掛けてみたらあっさり発覚」

「……やっぱり、自分で見に来る気は無いんだ。彩葉のお母さんも、お兄さんも」

「言ってやんな。深い深い訳があったよ、少なくとも兄の方には。それはもう御涙頂戴、聞いてて目から汗がちょちょぎれたぜ」

「泣いてないよねそれ。石実も私と同じく反感側だよねそれ」

「お前俺を何だと思ってんだ。筋金入りの帝ドアンチだぞ」

 

聞いてみればみるほど増す濁った感情を、けれど同じく抱いてる筈の石実は何の事はなく流して次へ進む。

 

「とりあえず酒寄の精神衛生の為に表立っての支援は出来ないが、緊急時の最終防衛線的な役割は約束できた、ゆくゆくは俺達を介しての金銭援助も視野に入れてる……真実とお前の分の負担は完全な0に出来るかもな」

「石実は?彩葉を除けば一番キツイの、あなたでしょ」

「酒寄支援が目的なのに真っ先に俺が楽になってどうする。ま、方針としては現状維持からの変数(かぐや)に期待ってとこだが。少なくとも前よか楽になるだろう」

「……凄いね」

「ああ。悔しいが、大人の助力ってのは些細なもんでも頼もしいわ」

 

そうじゃない。ふと零した言の葉は、誰でもない貴方に向けたものなのに。

ずっと苦手だった、嫌いだった人に頭を下げて、自分じゃない誰かの為の利を選んだその姿勢。あの暴君が彩葉と真実の為にプライドを捨てた、その意味が私の中で際限無く大きく響き渡っていた。

私に出来るだろうか。石実無しで、こんなに彩葉を助けられる体制を整えられただろうか。きっと、否。

 

「本当に、凄いよ」

 

貴方が嫌いだった。筈なのに。

今では、彩葉と並んで、眩しい。

 

 


 

 

取り敢えずその後、正気を取り戻した真実と共同で改めて謝罪DMを送らされた。

アイツ、一丁前に責任なんて感じて「ここでら頭を下げられなきゃ黒鬼のファンを続ける権利なんて無い」まで言いやがるとは。真実に頭を下げさせるなんて二度と御免だ、と流石に深く反省したのも記憶に新しい。もう絶対に繰り返さねぇ。

 

で、今なにをしてるかというと────()()()()

 

『ワン!ワフッ、ワンワン!!』

「お前現実世界でも投げられんの好きなのな」

『フンス』

 

正確にはそう、犬DOGE。かぐやが造り、ツクヨミにも連れてきていた電子ペットだ。

そいつが入った●まごっちごとジャグリングしてやれば、なんとも無邪気にドット絵の世界を犬っころが走り回る。こんなローテクもいいとこの機器にこれだけ精巧なプログラムを仕込むとは、月星人のテクニックは化け物か。

 

「……ちゃんと餌やった?」

「今やるところ。ぅお、コマンドに干渉してまで(じゃ)れついてくんな莫迦!餌を出せんッ」

「あるあるだわ〜……ちょっと構わなかっただけで体調崩すレベルの寂しがりやなのに、少しでも好感度上げ過ぎたらそれだもんね」

 

同じく時折世話を任されるのだろう酒寄が隣でボヤくのを現実逃避気味に聞き流しながら、見上げた空には炎天。烈日が空から、砂浜が下から肌を焼いてきる。

……うぅん。これ以上の逃避は無理。

 

「なんで海に来てまでゲームペットの世話してんだ俺は。そしてなんでそもそも海に居んだ俺は!?」

「そりゃ真実に頼まれたからでしょ……うん。男避け、ありがとね」

 

酒寄の答えと潮騒に、俺のぐうの音は敢え無く掻き消される。そんな俺達の視界の向こうで、無邪気全開のかぐやと綾紬が水掛け遊びに興じていたのだった。

 

経緯を説明すると、まず先日の黒鬼の件で「先に良いニュースから教えてくれてたら、私が叱る必要なんて無かったのに!」と変な方向性で真実から難癖を付けられて。

じゃあ何して償えばいいかと聞けば……海に来い、と。

女子三人、文字通り姦しい集いに男の身で参戦しろと。酒寄もいるのに乱入しろと。

勿論めっちゃ抵抗した。だが無力だった。何故か綾紬まで真実に味方されては抗いようが無かった。

 

(人見知りだのなんだのと言い訳捏ねりゃ良かった。酒寄と二人きりになるタイミングまであるんじゃやってられん)

 

酒寄を見遣る。パラソルの下、チェアに体を預けてかぐや達を眺める様相はリラックスしているように見えた──実際安らいではいるんだろう──が、俺に話しかける時だけは別だ。

どこか堅い雰囲気と、合間に僅かに挟まる沈黙は明らかに言葉を選ぶ時のそれで、やはり俺と相対するのは中々に避けたいらしい。本人がそれを自覚しているのかは別にして。

……それでも前に比べりゃだいぶマシになった。楽観的観測とはいえそう思う。

 

「最近、どうだよ」

「……もう大変ですとも。かぐやってばバトルと演奏が同時に出来るキーボードなんて作っちゃって、私まで巻き込んで歌枠とゲーム配信の同時進行とかやろうとしたんだよ。付き合わされるこっちの身にもなれっての」

「いやオイそれ下手すると特許獲れねぇか?不労所得だぞ稼げ稼げ」

「どうせ雀の涙でしょ。稼げたとて、そんな水物・あぶく銭に興味はありませーん」

「おまっ──て、ふじゅ~に同じ事言ってた俺も同類か」

「そーゆーことです」

 

探り探りながらも、こんな砕けた会話が出来る程度には。

というか、本当に酒寄は変わった。単純に明るくなった。(しるべ)も無い夜道に迷っていた所を、雲間に浮かんだ月明かりに道を示されたみたいに。

 

(良かった。それでこそ支援した甲斐がある)

 

その寄与がどれほど些細でも、例えほぼ貢献出来てなかったとしてもだ。酒寄ほどの才能が疲弊していくのは見るに堪えなかったからな。

とはいえ懸念点もある。具体的に言や、日差しに託けて外そうとしないサングラス──の下に隠された、目の隈。

 

「まだ週5でバイトしてるって?もう結構余裕出来てるだろうに」

「アンタのからの支援(しゃっきん)があるじゃん。返す目途が立つまで辞めるつもりなんて毛頭ないよ」

「まだ言ってんのかよ」

「強情なのはお互い様でしょ。首を揃えて真実に渡すからちゃんと受け取ってよね」

「だからなんで真実の金が俺の金に────」

 

この期に及んで、やはりまだ休息が足りてない。ハッキリ言って過労。睡眠時間の確保も怪しいか?

かぐやの騒がしさは、酒寄の心を融かすのには十全に貢献してくれてるようだがなぁ。逆にそれが休む時間の阻害になってる側面もあるんだろう。真実と綾紬が交代で訪ねて家事を手伝ってくれてるが、どうにもそれだけじゃ足りないらしい。

だからせめてバイトの頻度は減らせねぇか……と切り出した会話は、しかし唐突に打ち切られた。

 

「噂をすれば、来たよ」

「あ?」

「後ろ」

 

酒寄が指さした先。次いで俺の耳が捉えた砂を踏む足音。これは……ああ、真実か。

 

(随分着替えに時間掛かってたけど、なんかあったのか?)

 

更衣室方向の気配はずっと追ってたから、他の客とのトラブルが無かった事は把握してる。となれば真実自身が何か引っかかってたのか……と思い振り向けば。

 

「どうしたんだよ」

「……むぅ……」

 

顰めっ面でタオルの蓑虫となった、なんとも愛嬌ある姿があった。どうしたどうした、そんな恰好じゃ泳ぐに泳げねぇだろ。っつーかその顔はマジで何?

 

「覚悟しなよ真実。()()()()()()()んでしょ?」

「そうなんだけど……彩葉ぁ、勇気ちょうだい」

「では邪魔者はここらで」

「あっ、裏切り者ーっ!」

「?????」

 

あれよあれよという間に酒寄が退散し、残されるは俺達二人。途端に空気が緊張し、俺もまた固唾を呑んでしまう。

一体何が始まるのか。ドッキリか?そのタオルの中に何を仕込んでるんだ。え、俺死ぬ?こわ。

 

「ゲンちゃん」

「おう」

「自分で外すの、恥ずかしい。から、さ……」

 

そんな風に杞憂を脳内でフル稼働させてた俺の脳を、真実の告白が揺らす。

 

「タオル、解いて」

「──え」

 

硬直。沈黙。周囲の喧騒を他所に、俺達をその二つが包み込んだ。

だが脳内はそうもいかない。俺に。真実を。暴け、と?

 

「……早く」

 

いや急かされても。そんな上目遣いで乞われても。心の準備が。

待て、別に恥ずかしがる事でもなくね?ただタオルから手を放して御開帳すりゃ良いだけの話、街中ならともかく海辺で何を躊躇う事がある。問題があるとして、精々が真美本人ではなく第三者の異性である俺の手でそれを行うことくらいで、そして真実がそれを許したなら何も障害なんて……ある筈も、無ぇのに。

 

「いくぞ……」

「……」

 

恐る恐る手を伸ばす俺も。

頷く真実も。どうしてこんなにも頬を、耳の先さえも紅に染めてるんだ。

 

(──えぇい、儘よ)

 

それでも意を決し、タオルをギュッと握ったままの彼女の手に自分の手を添え──布を、解いた。

 

 

瞠目した。

 

 

「……じゃ、じゃーん。なんてね、勿体ぶって期待させちゃったかな」

「」

「でもね、でもね、こう見えてこの真実さんも割といっぱいいっぱいなのですよ。この水着、ゲンちゃんに見せるまでずっと取っといたんだからっ」

「」

「だから、その……えーと」

「」

「……ど……どうかな……?」

 

今は昔、遡ること去年。忘れもしない真実とのショッピングで、俺が選んだ水着。真実はそれを身に付けていた。

俺が押し付けた、俺の欲望の形を。

 

本気を出せばどこまでも綺麗で美人で可愛くなれる真実を、それでもその可愛さを最も引き立たせたいと願った欲の具現。彼女の在り方を捻じ曲げようとする一方的な望み。

それが、自分勝手だと、分かっているのに、嗚呼。

 

────限界だ。

 

「ムリ」

「なんでーーー~~~~っ!?」

 

たった二文字の内心を吐露しつつ、即座に再びタオルでぐるぐる巻きにした。チクショウ、直視できるかよこんなのッ!!

 

「勘違いすんなよ。いいか、1回しか言わねぇぞ。最高だった(わるくなかった)。以上!」

「じゃあ良いじゃん!一緒に海で遊ぼ?!」

「ムリ。ダメ。ゼッタイ」

「だからなんで~!?!」

 

やめろ!粘らないでくれ、本音が漏れる!あまりにもこっ()ずかしくて口に出すのも憚られるような代物が!!

だからやめ、やめっ……あああああ~~~~!!!

 

「可愛いからだよッ!!」

「ぃ」

 

……言っちまった。

顔を逸らして、なっさけなく目を瞑って、叫んじまった。

 

「可愛過ぎんだよお前!いい加減にしてくれ!頼むから隠せちょっとは!!」

「ぇ」

「今のお前の姿を!他の男が見ると思うと!胃の腑が煮え繰り返んだッ!!!」

「ヒぅ」

 

一度溢れればもう止め処ない。出るわ出るわ心からの本音、幾ら真実相手に隠し事禁止だからって程度があろうに。もはや自分自身でも何から何まで吐き散らしてるか分かったモンじゃない。

でも、今の真実を、他の男共に見られるぐらいなら──俺以外の奴の情欲の対象にされるぐらいなら、俺ごとドン引きされてでも隠す方が幾分マシだ。

 

(……流石に嫌われたか……?)

 

急激な血圧上昇で激痛を主張してくる脳内血管を無視しながら、片目だけ空けて目の前の様子を窺う。ゴミ山を眺める目で見られてたら、このまま海に直行して入水するのも視野に入れながら。

果たして、真実は──?

 

 

「あ、やば、うん。えっと……っ~──もう我慢できないや──」

「……?」

「──うん。ゲンちゃん、ちょっとこっち」

 

冷めた目なんてどこにもなく。

寧ろ頬を火照らせて、挙動不審に周囲を見回して、そうでありながら何処か覚悟を決めた趣で。

徐に俺の手を引き、パラソルの影へ誘ったかと思えば……なんと。

 

「っ、えい!」

「!?」

 

勢いよくタオルを開き、俺の頭に被せてしまった。一瞬で閉ざされる光。仄暗い視界の中で、目に映るのは真実以外なく。

何を──と問おうにも、真実の口が開くのはそれより更に早い。

 

「私以外、見える?」

「……見えない」

「私も見えない。ゲンちゃん以外には、見られてない」

 

ただでさえ蒸し暑いのに、ここは布に閉ざされた世界だ。必然、互いの存在により湿度は増していく。

滲み、滴る汗。

目と鼻の先で混ざる吐息。

瞳さえも、潤んで。

 

「今だけは、ゲンちゃんだけ。ゲンちゃんだけの私」

「ッ、ぁ……!」

 

滴が伝う白肌から目をそらせない。オフショルダーのビキニが濡れて、近付いて、彼我の距離は限りなく零へ。

ピタリ。密着した。

 

「私を見て」

「……~~~!」

「私も……私だけのあなたしか、見ないから」

 

あっ。ダメだ。理性が()たない。

真実以外分からない。目の前の女が欲しい。

細められた瞳が恋しい、俺を待つ唇が狂おしい。

欲しい欲しい欲しい、欲しい!俺の真実、俺だけの真実!!

 

 

真m「かぐやっほ~~~ぃ!!!」

 

 

「ゑ」

「な──ぶはぁ!?」

 

……そこまでだった。突然の闖入者によって、俺も真実も被ってたタオルごと押し倒されたのは。

咄嗟に自分をクッションにして真実を抱き留めたものの、一体誰が。悪意の類なら事前に気付いてる筈なので襲撃ではない。なら誰が何の目的で────って、オイ。

 

「かぐガキ。テメェ」

「やーっと出てきた!何してんの、かぐやも混ぜてっ☆」

「かぐやちゃ~ん……あと10秒待ってよぉ……」

 

タオルを引き剥がしてニッコリ笑うは金髪の悪魔*2。ああもう、なんつータイミングで……ッ。

 

「だってだってだって、折角5人揃ってるのに二人だけ秘密の遊びだなんてズルいじゃーん!」

 

ああ言えばこう言いやがって、ホント……!

 

「か、かぐやちゃん。ちょっとこっちに……」

「え~、でも芦花だって羨ましそうにチラチラ見てなかった?」

「違う違う!羨ましかったんじゃなくて微笑ましく見守ってただけで!真実もこっち見るのやめて!?」

 

コイツは…………!!

 

「ハッ──ハハハハハッ!」

「ぅおびっくりしたぁ」

「ゲンちゃん?」

「なんでもねぇよ!ああ悪いなかぐや、()()()()わッ」

「「え??」」

 

ヤバい、笑いが止まらねぇや。さっきまでの俺の()()を思えばこそ、かぐやに対する感謝の念が止まらなかった。

 

あのままだったらどうなってただろうか?いや、きっと悪い事にはなってない。なってはいなかったろうが……だが、俺は“空気に流された男”という烙印を、自分の中に焼き付ける事になってたのは確かだ。

かぐやのお陰でそれを免れたってワケだな。あーあーチクショウ、情けねぇ限りだぜ!

 

「許せよ真実。()()()()のは……俺からしたい」

「……もう。ゲンちゃんってば焦らすんだから」

「俺自身はせっかちだけどな。ホントごめんな」

 

今にして思えば、誰にも見せたくないなんてのも“逃げ”に他ならねぇわな。下卑たゴミ共の視線から真実を守れない、って豪語してるようなモンだ。1年前の圧し折れてた時期なら兎も角、今そんな甘ったれた事を言うような俺じゃない。

 

「全員で……派手に遊ぶか!」

「!だね、遊びに泳ぎにれっちご~!」

「そうこなくっちゃ!!」

 

しっとりしたのも悪かないが。それよりも、誰の目も気にせず、全力全開ではしゃぎ・騒ぎ・喚き倒す。

それが若人の特権だと、俺達は声高に叫んだ。

 

 

「か~ぐ~やぁ~~~~?」

「ひえっ。どしたの彩葉」

「どうしたもこうしたもあるかァー!なに二人の邪魔してんのッ!!」

「ぎゃーっ急に怒ったー!?!」

 

かぐやだけすぐ悲鳴に変わったのは、まぁ、ご愛敬。

*1
なお破損したら土下座してもう1セット貰いに行くつもりである

*2
「悪魔じゃないよ、かぐやだよ」

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