酒に狂った男   作:鶏肋

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かぐや、唄う

波満つる砂浜にて、二人の猛者ありけり。

 

片や月に座す兎。片や天に荒ぶる鴉。

 

両雄相容れる事、未だかつてなし。各々が(おの)が構えを取り──

 

「流派・●方不敗は!」

「王者の風よぉ〜!」

 

なんか叫び出した。

しかも石実の方が思いっきり殴りかかった。かぐやに。

 

「全新!!」

「系列!!」

 

「「天破侠乱!!!!」」

 

かぐやも応戦。なんと石実からの乱打を全て掌で受け止め……あっ、違う。適当に手をハチャメチャに動かしまくってるだけだ。石実がそこへ的確に拳を収めにいってる。

 

「見えるの?」

「ギリ」

「さっすが超人。私はとっくの昔にヤムチャだよ」

 

「超級覇王電影弾──!」

「うわゎ……あはははーっ!!回ってるぅ〜〜!!!」

 

やがて助走をつけて激突した2人は、今度は砂嵐を巻き起こした。すっご、ルーレットみたいにかぐやと石実の顔が並んで大回転してんじゃん。ウケる。

いや真面目に考えるとどうなってんの???

 

「かぐやちゃーん!そろそろ最後!」

「そうだった!って何すれば良いんだっけ」

「拳突き合わせろ。後は俺の口に追従すりゃ良い」

「オッケー!せーのっ、」

「「見よ!東●は紅く燃えているッ────!!!!」」

 

最後はグダリながらも、皆のアシストもあって無事に〆。海を背景にポーズをバッチリ決めた2人は、ここに一本の動画を完成させたのだった。

 

……なぁにこれぇ?

 

「“【かぐいろ×Re:AL】某機動武闘伝を完全再現してみた”動画だよ?やっぱりリアルとなら出来たっ」

「自分が助力したみたいに言わないの。9割9分が石実の力でしょ、何あの砂嵐」

「何って、お前もやりゃ出来るだろ多分。しっかし流石に疲れた」

「まーたゲンちゃんが彩葉を過大評価してる〜」

 

爽快そうな汗を拭いながらこちらに来た男女2名の言動に呆れ返る他無い。かぐやは思い付いた事を考え無しに手を出しちゃうし、石実は持ち前の膂力でその無茶振りに応えちゃうし……嫌々付き合ってる私よりも、よほど息が合ってるんじゃないだろうか。

かぐやにとっては、どうなの?

 

「……そんなに石実が気に入ってるなら、石実ん()の子になれば良いじゃん」

 

冗談めかして聞いたそれは、果たして私自身にとって何割が冗句だったんだろうか。問いを受けて顔を見合わせるかぐやと石実の揃いっぷりに、またも胸のどこかにチクリとした感覚。

けれどすぐ、かぐやは私の方をまっすぐに見つめて。

 

「なんで?」

「だってそれは……」

「かぐやの家は彩葉の家だよ?」

 

返ってきた答えに、今度唖然とさせられたのは私の方だった。

何の臆面も無い、本気本音の言葉。かぐやは、あのボロアパートを、私の部屋を帰る場所だととっくの昔に定めてたんだ。疑問に思う事ですらなかったんだ。

そう突き付けられて……思わず、ホッとしてしまった。その隙を見逃すような友人達ではない。

 

「……彩葉、今もしかして石実に嫉妬しかけてた?」

「は!?私が?!!」

「ゲンちゃんにかぐやちゃんを盗られると思ったんだぁ、かぁいい〜」

「かぐガキ預かるとか心底御免だぜ。酒寄家で養ってやってくれや」

「ちょっとリアル〜!そんな事言うぐらいだったら隣に越してきなよ、()()()()()()()()()()()だよ!?」

 

両サイドの芦花真実コンビに挟まれ揉まれ、為す術無い私の耳は恥ずかしさで紅潮する。かぐやと石実の喧嘩声だって辛うじて拾える程度だ。

だってこんな事で嫉妬なんてする訳無い。無いのに、無いなら、なんで私の頬はこんなに暑いの?どうして?

 

(ああもう!こんな筈じゃなかったのにっ)

 

じゃあどういう筈だったのか。自問自答しながら思い返したのは──ああそうだ。()()()()()()()()んだ。

 

最初は女子4人での集まりの予定だった。けど私が男除けの必要性を議題に上げて、じゃあ真実の彼氏(石実)を呼ぼうって方向に誘導して。それで彼をこの場に引き摺り出した。

 

何故か?深い意味なんて無い。

私はただ、彼と……石実現と仲良くしたいだけ。

 

(私がアイツに抱いてる忌避感なんて、とっくの昔に自覚してる)

 

その正体は分からない。けど単に感覚的な物に過ぎないなら克服したい。だって石実は悪いヤツじゃ──いやだいぶ前科持ちな所はあるから悪いヤツではあるんだけど──ただ悪いのではなく、その裏に確固たる誠実さを秘めた男だから。

そんな相手に、曖昧な嫌悪なんて抱いていたくない。ちゃんと真摯に向き合いたい。

石実と触れ合う過程で、お母さんみたいに自分の感覚を言語化して、克服したい。

 

要は私の為だ。なのに早速妬むだなんて、やる気あるのか私。

 

「良いじゃん。存分に妬み合おうよ」

「芦花?」

「私達、同い年の少年少女だよ?自分に無い物を持ってる人を羨むだなんて日常茶飯事だって」

 

寧ろそれでこそ対等だよ、と彼女は笑う、私の頭上で屈託なく。

それに釣られて思わず私も吹き出した。次いで、隣の真実も。

 

「酒寄彩葉あらため嫉妬(しっと)り彩葉だね〜」

「かぐやちゃん盗られたくないもんね〜」

「ぐぬぬ……2人とも覚えてろよ……」

 

おお怖い怖い。そうおどける親友達に絆されながら体を起こせば、次に目に入るのは半ベソかいて飛びついて来る悪魔の姿だ。どうやら石実とのレスバに完敗したらしい。

 

「いーろーはーっ!リアルが隣に越してきてくれないっ」

「ったりめえだろ、引越しだって楽じゃねぇんだぞ」

「リアルなら家具ぐらい担いで持ってこれるでしょ?」

「住民票移したりとかで手間暇かかんだ。ほら諦めた諦めた」

「ぅ〜〜!彩葉ぁ、論破してぇ!!」

「いや正論でしょ。悪いね、ウチのかぐやが」

「全くな。躾頼むぜ」

「肝に銘じとくわ」

 

そうだ、これぐらいが丁度いい。かぐやを挟んで軽口を叩き合う、それぐらいの距離感が。

もう同じ学校じゃないんだから張り合う必要は無い。受けてる支援さえ返してしまえば貸しも借りも無い。そうやって別々の世界で、隣り合って生きていく。

……親友達とかぐやのお陰で、その道を選べるようになった。

 

「ありがと、皆」

 

こればっかりは返し切れない恩になるだろうなと悔いながら。けれどその心地よさに、今だけは身を委ねよう。

 

 


 

 

さて問題だ。何が問題って、やっぱり男女比1:4の狂ったこの空間が大問題だ。

居場所が無い、居た堪れない、困った困った……どころではなく。

 

「うぉすっげ……」

「なんかあそこだけレベル高くない?顔面の」

「よく見ろ。顔以外も高い」

「オイお前声掛けろよ。前も引っ掛けてたろ」

「や……ちょっと……勇気を練り上げる時間をくr」

( 死 に て ェ か ? )

「「「「「ひぃっ!?!!?」」」」」

 

多過ぎんだ。真実達を見る奴らの不埒な視線が!

 

(状況としては想定してたが、いざその様相を目の当たりにした際の不快度は想定以上だ。全員の目に砂捩じ込みたくなる……!)

 

不幸中の幸いとして、そのレベルの隔絶具合から向こうが及び腰になってるからこっちも手を出さずに済んでる。変な視線を感知する度に、渾身の殺意を向けてビビらせる簡単なお仕事ってな。

 

だがまぁ、正直分かるぞ。気持ちだけは。

 

だって酒寄の水着だぞ?

綾紬の水着だぞ??

ただでさえ可愛い真実だけでもヤバいのに3人だぞ???

 

(目に毒過ぎるだろうがッ!!!)

 

なんだよ全員揃って絹肌かよ、特におかしいのは酒寄だよなんで寝不足なのにそのコンディションなんだよワケ分かんねぇよ、先に真実を好きになれてなかったら余裕で失明する眩しさだわ。そういう方向性における童貞の雑魚さを舐めんじゃねぇ。

 

かぐや?いや真実達3人に勝るとも劣らないハイレベルなルックスだとは思うが……かぐガキだからなぁ……。

 

とはいえ、暫く殺意を撒き散らしてたら輩共も退散するもので。そしたら余裕も生まれるもので。

 

「でさーでさー、次何しよっかなって思ってさ」

「ンだよゴボゴコボコラボ相手ならゴポポポゴ腐る程ボボボボいるだろゴポゴボボボッ」

「いーや、かぐや単推しのオタク達の為にも単独企画は絶やせないね……って溺れてない?ダイジョブ??」

ボココボオボボ(オタク言うな)

_ こ の 海、深 い ッ

「まず自分の心配しよっか」

 

そのかぐやを背中に乗せてどんぶらこ、浦島太郎の亀ごっこに興じてるのが現在だった。鼻まで沈んでるが呼吸は保つので無問題。

しっかしかぐや、ペース的に大丈夫なのか?優勝できるかちょっと不安だぞ、現状だと。

 

「そこなんだよ、取り敢えず中間発表だとトップ10には入れたんだけどさぁ。ここからどう伸ばすかな〜」

「2位がテテテ(テレリリ)、3位が湯雲だったよな。そいつらはギリなんとかなりそうとして、問題は1位を奪えるか否かだぜ」

「ぐぬぬ。帝アキラめぇー!」

 

あのいけ好かない顔を思い浮かべ、2人渋面。おう気が合うな、センス良いぞかぐガキ。

だが呪術全盛の平安ならともかく、現代で呪詛を念じたところで意味は無ぇ。独走する黒鬼に対抗するならもっと現実的な案が必要だった。

 

「まぁ競うなら自分の強みを活かさねぇと。かぐや、お前の一番の強みはなんだ?」

「彩葉の歌!」

「お前のっつってんだろ。いやまぁお前の歌とダンスが最強なのは間違いねぇから良いけど」

「えへへ、褒められた」

「今減点した」

「ひどいっ」

 

かぐやの歌は凄い。酒寄の曲は凄い。凄い×凄いの乗算は、そのジャンルにおいては間違いなく黒鬼を上回れるだけのポテンシャルがあった。攻めるならそこだ。

が、他にもう一押し──ツクヨミユーザーの心を直に揺さぶるようなもうワンポイントが欲しい。体感、それが無いとあのイキリちらし寿司×2+駒沢乃依とのタイマンにすら持ち込めない気がする。

俺の手札から切るとすれば……

 

「……ポチ(ねぇ)に頼ってみるかぁ?」

「ポチ?犬DOGEはもう動画に出てるけど」

「や、忠犬オタ公っているだろ?言い振らす事でもないから黙ってたんだが縁あってな、ツクヨミのマスコミである彼女にお前らを贔屓してもらえりゃ……」

「オタ公ちゃんなら初期からファンになってくれてるよ」

「そっかぁ」

 

どうやらこの手はもう使い切ってたらしい。まぁポチ姉は公正がモットーの真面目人間だしな、こんな話にゃ乗ってくれねぇか。そもそも中学卒業後から殆ど交流無ぇし。

 

が、となれば何が残ってっかなぁ。ヤチヨカップ優勝が遠い。うーんヤチヨヤチヨ、五劫の擦り切れ・海砂利水魚の……

 

 

……ヤチヨ?

 

「なぁかぐや。ヤチヨの曲歌ってみろ」

「へ?」

「良いから」

 

予感があった。

かぐやとヤチヨ。喧騒と静謐。2人が似通う訳も無いと、頭では分かっている。

だが、この無駄に秀でた第六感を信じるならば────

 

「●。●●●●、●●●●●●?●●●●●●●●●●」

「……!」

 

やっぱり。

 

かぐやの喉が震えた刹那、俺の目に映る世界が変わった。炎天下の波立つ水面が、満天の星降る海原へ。

何故か。どうしてか。WhyもHowも全てを無に帰す、理解不要の納得だけが此処に有る。

 

「●●……●●●●●●●、●●●●」

 

快活な笑顔が誰よりも似合うお前が、くしゃくしゃの涙まみれの微笑みを浮かべる様さえ絵になるなんて。酒寄には悪いが、きっと世界で最初に知ったのは俺だ。

 

「●●●、●●●●●────

 

だからこそ確信できた。

この歌は、かぐやが歌えば、間違いなくツクヨミを震わせると。

 

「────どうだった?」

 

見上げたかぐやは勝気に笑う。汗と海をその肌に滴らせ、燦燦と照り付ける太陽とその傍に侍る三日月を背にして。

その姿に……ああクソ。訂正してやんよ、かぐガキめ。

 

「最高だ」

 

お前もまた、皆を狂わせる絶世の美姫だってな。

 

 


 

 

さっすがだねぇ。私達の正体、もしやこの時点で既にバレちゃってたりして?

ゲンの勘の鋭さには驚かされるばかりですなぁ、あの子の進化にヤッチョはもう慄くばかりだよ。gkbr。

 

「いや、恐らく自覚はしてないな。本能が答えを嗅ぎ付けただけで、理性はまだ置いてきぼりってとこだろう。僕には分かる」

「まるで現博士だね」

「覚えてるさ……アイツを理解する為にな。ってさりげないナル●スやめろ」

「バレちった☆」

 

そんな風に応えるFUSHIと共に見上げたのは、(ヤチヨ)の歌を歌ってファンを獲得していく(かぐや)のホログラム映像。隣に紙吹雪を撒く彩葉を添えて。

ゲンの目論見通り、かぐやによるカバーはツクヨミを風靡した。元よりファン増加数加速度No.1だったのがここにきてブッチギリ、一挙に3位まで躍り出ている。そこへ更に彩葉の新曲まで加わるんだから、黒鬼以外敵無しと言っても過言じゃない──というかブラックオニキスはなんでまだ太刀打ち出来てるどころかギリ勝ってるの?まさか本当に既存ファンにマルチ商法させたりしてないよね??

 

「まー良いだろ、この調子ならかぐやと彩葉の方は上手くいく。問題は……」

「分かってる。ゲンの()()の方、だよね」

 

ここで挿し込まれたFUSHIの一言に、私もまた気を引き締めた。そうせざるを得ない事案だった。

 

……以前のゲン vs ブラックオニキス。あのサーバーぎりぎり・ぶっちぎりのヤバイKASSENで、ゲンは実力を──発揮して、()()()

 

「まさかあれ程の激情を見せてもなお隠し通すとはねぇ。一刻も早く解明しないと、卒業ライブで大変な事になりかねない」

「……ああ。アイツ自身にとってもどうなるか、ボクらは何一つ解っちゃいないんだ」

 

かつて垣間見た“(いかずち)の化身”。今も忘れられないその憤怒に、とうの昔に失った肌が泡立つような感覚さえ覚える。

ゲンが“アレ”になるのは出来る限り避けたかった。その程度の差異ならきっと因果も乱れないだろうと信じて、ベストを尽くし続けなければ。

 

──でもね。それは貴方が無理して良い理由にはならないんだよ?」

「えっ。なっ、ヤチヨ!?」

 

だけどもだっけーど、それとこれとは話が別。これ以上ないくらい険しい顔になってたFUSHIを管理者権限で強制スリープ、いつも私がやってもらってる事とは真逆の構図だった。

 

「あのKASSENでトラウマが刺激されたの……分かってるんだからね」

 

ゲンが雷の自爆に巻き込まれた瞬間。それを目にしたFUSHIの、心の悲鳴が直に伝わってきた。創造者だもの、分からなかったら沽券に関わる。

 

赤いスカーフが破片に裂かれて爆炎に掻き消される光景なんて……二度目だもんね。

 

「ただ休んで。起きたら手伝ってもらうからさ」

 

寝息を立てる相棒を掬い、懐のメンダコの中へしまう。どうせ私は貴方に頼りっきり、真の意味で安らぎを与える事など出来やしない。

それでも……今だけは、どうか。

 

「ごめん、FUSHI──ごめん楓ちゃん、慎也さん」

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