酒に狂った男   作:鶏肋

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酒寄彩葉、ブッ倒れる

それは、かぐやと酒寄(いろ)がソロライブにて大成功を修める前日の事。

 

「あ?かぐや求婚?」

「すんごいバズってるよ、いろP無双だって!」

 

バイトの注文が立て込んでタイミングが合わず、見逃した配信。どうやら酒寄が大立ち回りしたようで、真実に促されるまま開いたSNSではその大暴れっぷりについて賛否両の激論が交わされていた。

っつーか途中からポチ姉が実況してんじゃん。あの人ホントこう言うお祭り騒ぎに対して節操無ぇな。

 

「ハッ、さっすが酒寄。超人はゲームでも超人だったってか」

 

けれど酒寄の活躍は真実の言う通りに無双そのもので。妬けるねぇ、と零しつつも内心は高揚する。

そうだよ酒寄、お前は有象無象を蹴散らしてナンボだろうが。俺だって蹴散らされたクチなんだからな。

 

(しかし、こうも暴れてる姿を見せられると……)

 

画面内で68連撃により相手を挽肉にする妖狐の姿に惚れ惚れとしながら、だが同時に沸々と湧き上がる感覚。何だろうな、この……口惜しいって感じ?

 

何故か途中から挑戦者の方を応援している自分がいた。そこで何故攻めない。ホラ見ろ返された。判断が遅い。いや今のは反撃じゃなくて防御すべきだろ。バッカ、自棄っぱちでスキル連打すな。あーあ、ミンチより酷ぇや。

 

「相手になる奴いねぇのかよ」

「……ゲンちゃん?」

 

俺が言えた話じゃないが、全員情けねぇの一言に尽きる。誰一人として“苦戦”のくの字さえ酒寄にさせられなかったからだ。

アイツのフルスペックを引き出せる奴は皆無なのか。あの場にいるのが俺だったら、あの局面は俺だったら、あそこのチャンスで俺だったら──

 

「彩葉と、競いたい?」

 

──真実のその言葉で、我に返る。

 

それは……捨てたろ。石実現。

 

「まさか。やらねぇよ、二度と」

 

百歩譲ってやるにしたって、それは飽くまで酒寄の環境改善の為だ。自分の欲望の為にやる事はあり得ない。

帝アキラ(酒寄朝日)からはストレッサーとしての役割を期待されてもいるけれど、それにしたって今じゃないだろう。まだまだ、俺はお役御免のままだ。

 

「……ゲンちゃんがそれで良いと思ったなら、そうなんだろうね」

「ンだよ不満あるなら聞くぞ?俺の意見が100%正しい訳でもあるまいに」

「ううん、異論なーし。私だって誤った側だもん、弁えてるよ」

「大人ぶりやがって」

 

画面内で暴れる酒寄の映像を横目に真実を揶揄う。それはきっと、俺自身の欲望を誤魔化すための現実逃避に過ぎない。

 

だから見落とした。

 

《そういえば、“Re:ALといろP同一人物説”なんて噂もあったりするそうだねぇオタ公。2回のコラボ動画の両方でいろP出てないから》

《いやぁ無い無いw絶対無いですって、Re:ALはかぐやちゃんをあんな完全サポートできるタチじゃありませんもんww》

《へぇ?彼について何か知ってるようだねぇ、深掘りしても?》

《そこは表にゃ出せないオタ公シークレットネットワークですよ》

 

根も葉も無い噂に実況が言及し、俺の名前が出た瞬間。

酒寄(いろ)の肩が僅かに跳ねた事なんて。

 

言い訳になるが、本当に些細な事だった。見逃してなかったとて、多分すぐに忘れるていただろう。

だって翌日のかぐやのソロライブで、酒寄は見事なパフォーマンスを修めたから。かぐやと隣で、阿吽の呼吸を魅せつけてファンを圧倒したから。

その楽しそうな様子に俺も、真実も、綾紬も安堵したんだ。

 

 

その更に翌日。

 

酒寄が倒れるその時までは。

 

 


 

 

かぐやの所為だ!

かぐやが嫌がる彩葉を引っ張り回して、大変な思いをさせたからだ!!

 

「彩葉、身体アツアツだよ?!手も──手ぇ冷たっ!なんで!??」

 

うずくまる彩葉は答えるのも辛そうで、荒い息を吐くばっかりだ。ごめんね彩葉、疲れたよね。曲作って、ライブして、その所為なんだよね?

と、とりあえず水……ペットボトル!飲んで!飲めないの!?飲むのも辛いの!!?

 

(分かんない分かんない分かんない!彩葉が死んじゃう!!)

 

万策尽きた私は道の真ん中でパニックに陥り、縋るようにケータイを取り出した。

119番?違う、かぐやが頼るのはかぐやにとってのヒーロー。一人は彩葉で、もう一人は……

 

「リアル!助けて!彩葉が!!」

 

そう必死な思いで掛けた電話は。

一秒で切れた。

 

「え……?」

 

絶望。見捨てられた?なんで?リアルがそんな事。かぐや、リアルにも嫌われてた?

こんなに暑いのに、背筋に冷えた物が奔る。それでも彩葉を助けなきゃいけなくて、でもどうしたら良いのかさっぱり分からなくて。

 

途方に暮れたその時──影。

着地。

 

……リアル!

 

「りある、りあっ、るぅ!!」

「悪ぃ、遅くなった!酒寄が問題なんだな!?」

 

電話から10秒と経たずに、砂煙を立てて降り立ったかぐやのヒーロー。その手に携えられたグチャグチャの包装が、彼の日銭となる筈の糧が、電話がすぐ切れた理由を私に理解させてくれた。

バイト中だったのに、最優先でこっちに来てくれたんだって。

 

「オイ酒寄!酒寄彩葉、俺が分かるか!?」

「……しみ……かぐ……」

「ギリギリ意識あるか。呼吸は──ある。瞳孔は──反応する。脈拍は──ちと不安定だな、あと汗ほぼかけてねぇ」

「リアル、彩葉は?彩葉は大丈夫なの!?」

「落ち着け!多分脱水症状だ、とりあえず病院……いや、お前ん()で寝かせるぞッ」

「そうか、病院!──じゃないの!?」

「連れて行きてぇのは山々だがな!」

 

意図は分からずとも迅速な判断と処置。自分が持ってた冷凍ドリンクを彩葉の首と脇腹に当てつ、リアルは彼女をお姫様抱っこする。そのまま私から鍵を受け取って、

 

「アパートまで直行すんぞ。お前は俺達を追いつつ綾紬に連絡しといてくれ」

「真実にはっ?」

「あんまり人手あっても意味無ぇ、後で俺から説明しとく!」

 

そう言うやいなや、いつぞや私とそうしたようにリアルは彩葉を抱いて空を駆けていった。私はただただ、彼女の無事を彼に祈って走るだけ。

 

その後は流れのままだ。

アパート前に着くのと芦花と合流したのはほぼ同時。情報共有も程々に2人でドアを開けば、そこには彩葉を楽な姿勢にしてスポーツドリンクを飲ませるリアルの姿が。既にエアコンは全開、彩葉の身体の至る所に保冷剤まで巻いてある。

 

「ありがと石実。後は私がやるね」

「頼む。こっから先は俺にゃ無理だ」

 

で、その後のデリケートな……つまり男のリアルが触れにくい部分とかも含めた処置はそのまま芦花が請け負って、リアルは買い出しへ。彩葉が失った塩分?を補う物とか買ってくるらしい。

その間、芦花は献身的に彩葉に寄り添い続けてくれた。ずっと呼びかけて、寂しくないように、それだけで力になれるようにって。

 

「……っといて……じぶん、で……」

「大丈夫」

「じゃないと……かあさ……いったと……り……」

「そんな事ないよ。大丈夫」

「……ごめ……なさ、い……」

「だーかーら。大丈夫、だってば」

 

見た事ないくらい弱々しい彩葉のうわごとに律儀に応えて、その度にギュッと手を握って。服が汗びっしょりになる度にケアし続けてた。かぐやがただ見てる事しか出来ない間も、ずっと。

やがて彩葉が落ち着いて。飲み物とか食べ物とか買ってきたリアルも戻って来て、その時になってようやく、かぐやは二人に謝罪を言う事が出来た。

 

「……ごめん。リアル、芦花」

 

何にも出来なかった。私が原因なのに、何も。

その申し訳なさと謝意の虚しさを抱えて、それでもせめてもの誠意で頭を深く下げる。どんな返答が来るだろうか。呆れられちゃうかな。謙遜されちゃうのかな。怒られるかな。そのどれでも、私は──

 

──あいたっ。

 

「バーカ。そこは“リアりがとう”だろ」

「へ?」

「テメェが言い出したんだろが。こちとら自分で言ってて恥ずかしいんだぞかぐガキ」

 

意外、それはデコピン。けど何より慮外だったのは、2人とも笑みを浮かべていた事で。

 

「かぐやちゃんが連絡してくれなきゃ、そもそも私達は助けに動く事さえ出来なかったんだよ?感謝こそすれど、謝られる筋合いなんて無いってば」

「でも……かぐやが無理させたから……」

「彩葉がやるって決めた事なら、それは彩葉が選んだ彩葉の意志。かぐやは彩葉の自由意思までどうこう出来る存在になったつもり?」

「!……うぅん」

 

労わりと咎め、両方を含んだ問い掛けに身が引き締まる。芦花のこの鋭さの中に、彩葉の尊厳を慮る温もりがあったからこそ。

続いて、茶化すように口を開いたのはリアルだ。

 

「ったく、急にしょぼくれやがって。テメェはずっと無邪気に振る舞ってりゃ良いんだ。それが罪だと思うなら、一周回ってその爛漫っぷりで酒寄を魅了しやがれ」

「み、みみ魅了ってそんな」

「ヤチヨカップ優勝すんだろ?隣人の元気も促せねぇヤツがこの手のジャンルでトップに建てるワケ無ぇだろ」

「じゃあ……彩葉を倒れさせちゃったかぐやは、優勝できないじゃん」

「違うよ」

 

再び芦花。剣呑さと錯覚するほどに真剣な瞳で、私を見つめて。

 

「かぐやちゃんの元気は()()()()の。それが彩葉にもしっかり伝わってたのを、私は知ってる」

「……そうなの?」

「私を誰だと思ってるの。押しも押されぬ酒寄ソムリエとは私の事、でしょ?ねえ石実」

「言いやがる。ああ、酒寄について語らせたら綾紬の右に出る者はいねぇな」

 

そうかな。そうなのかな。私、彩葉の力になれてたのかな。

彩葉に元気をあげれてたのかな。

彩葉の傍にいて、良いのかな。

 

「「当たり前だろ(でしょ)」」

 

二人の重なった言葉に、思わず笑った。ただの嬉しさだけじゃない、私なりの覚悟を込めた笑みで。

分かったよ、リアル、芦花。ここにいないけど、真実も。

 

「──任せて。ハッピーエンドにするから」

 

最初の誓いを、けど私の為じゃない。ううん、私の為でもあるんだけど……それだけじゃなくなった。

私が大好きな彩葉の為に。

彩葉を想う皆の為に。

 

「ハッピーエンドに、彩葉も連れてくっ!」

 

再び掲げたピースサイン。それを見た二人は、深く、そして強く頷く事で応えてくれたのだった。

 

 

「遅れたーっ!現況どう!?彩葉は無事?!!」

「あ、真実」

「しっ。今やっと寝付いたの、静かにしてあげて」

「ごめん……でもなんで私に連絡してくれなかったの?」

「お前家族でレジャー行ってたろ今日。邪魔したくねぇしどう足掻いても間に合わねぇし……ああでも、かぐやに療食グルメ教えてやってくれや」

「りょかい!そういう事ならまみまみの面目躍如だよっ」

 

 


 

 

「……で。どうして病院に連れてかなかったの?」

「記録に残したくなくてな」

 

薄暮の空。発奮したかぐやに酒寄を任せ、俺達はそれぞれの帰途に就いていた。

その折に投げられた芦花からの問いに、俺は訳を明かす。

 

「推測だが、酒寄の母親は、娘が体調崩したらそれを口実になんか仕掛けて来そうな気配すんだよ。追跡可能な痕跡を残したら隙になる……最悪の場合、一人暮らし辞めさせられて実家に戻らされちまうかもな」

「「!!」」

「あ、真に受けんじゃねぇぞ?所詮は露悪丸出しの推論で、俺自身“それでもやっぱ病院連れてきゃ良かったな”って思い始めてんだから」

 

でも相手は弁護士だ、そういう資料の請求方法なんざ幾らでも知ってるだろう。酒寄がどんな条件で独り暮らしを許可されたかは知らんが……一目で分かるような()の痕跡を残さない判断は、間違ってなかった。と思う事にする。

かぐやにも病院行きを促すよう言っといたんだ。後は酒寄自身の判断に委ねよう。

 

と、ここで次に疑問を浮かべたのは真実だった。

 

「でも、なんで脱水症状なんかになっちゃったんだろ?彩葉が水分補給を忘れるかなぁ」

「足りなかったのは水か、塩分か、それとも心因性か過労か。これもう分かんねぇな」

「……助けになれてると、思ってたんだけどね」

 

“体調管理は絶対!躓くなんて以ての外だよ”とは他ならない酒寄の言だ。たかが水と塩を食むだけの事を疎かにする質ではない筈──いや睡眠を疎かにするタチと言われたら反論できんが──普段の酒寄からはちと考え難い。だが他に原因があるとすれば?

酒寄が水を飲む事さえ疎かになる程のストレス源と言えば?

 

(……俺か……?)

 

……いや待て待て、最後に関わったのは1週間前の海だぞ。そこから遅効性ストレスでこうなったと考えるのは流石に自意識過剰だろ現。ここは現実に目を向けようや。

 

「とりあえず、酒寄母への他言無用を前提として酒寄の兄には通達しておく。2人はかぐやからのヘルプに対応してくれ」

「分かった!──って待って彩葉のお兄ちゃん?初耳なんだけど」

「あ~真実には言ってなかったねそういえば」

「芦花は知ってんの?!ちょっとゲンちゃん、詳しく聞かせて欲しいかな~???」

「やっべ口滑らせた。どこまで明かそう」

「洗いざらい言っちゃったら?もう時間の問題でしょ」

「論外。嫌だ。ゼッタイ」

「それはもう論理じゃなくて石実の感情じゃん」

「隠し事禁止!浮気禁止~~~!!!」

「「そんなんじゃねぇ(ない)から!!」」

 

結局、ギリギリで帝アキラ関連を隠しながら酒寄朝日の存在について共有することには成功。だが隠し事は隠し事という事で、綾紬と共に正座で説教される運びとなってしまったのだった。解せぬ。




【石実現のヒミツ】
その気になれば、立川市内なら何処だろうと20秒以内に現着できる。なお踏み砕かれた壁や窓の被害は問わないものとする。今回は選んだ足場が硬い所だけだったので損傷は無し
稀によくこんな事をするので、立川市の巷では鴉天狗の実在が疑われている。Re:ALの視聴者は大体察している

一つ聞きたいんですけど、読者の皆さんから見た真実の目って

  • 垂れ目?
  • 一般的な目?
  • 吊り目?
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